第4話
残り数日で大学が始まる。その前にやらなければ、ならないことがある。
伯父は仕事部屋にいるようだ。彩葉は、リビングで伯父の淹れたコーヒーを飲みながら、コンビニで買ってきた菓子パンを
実家の母には行儀が悪いと怒られそうだが、菓子パンを食べながら、スマホを操作し、区役所の場所、警察署の場所を調べた。
(後で牛乳と砂糖、買って来よう・・・)
車の名義変更の手続きも調べるが、聞いたことのない話ばかりで、頭に入ってこない。いくつかのサイトを調べて、実印が必要なのは分かったが、今度は実印の登録手続、そもそも実印って何・・・。
彩葉がうんざりしていると伯父が空になったカップを片手にやってきた。
「彩葉、おはよう」
「おはよう。実印・・・どこで作ればいい?」
「あ〜そうか。彩葉は、実印なんてないよね・・・。実印はネットでもできるよ。一〇〇均の印鑑でも登録できるし。ただカッコ悪いけど・・・。とりあえず、持ってるハンコを実印登録して、後で変更するのがイチバン早いよ」
彩葉はネットで実印作成について調べた。早くても、約一週間かかるらしい。伯父の言う通り、持っている印鑑を実印登録した方が車の名義変更が出来そうだ。
自動車保険は、親の保険に入れてもらうことにした。父親は心配していたけど、一人娘の彩葉には甘い。
ロードスターを手に入れる準備は整った。今日は区役所へ転入届を出して、印鑑登録、そして、印鑑証明を貰ってくる。そして、警察署で住所変更。車の名義変更は明日、陸運局で行う。
一通り、やらなければならないことをスマホにメモし、出かける準備を始めた。
部屋着のスエットから、お気に入りのAPCのジーンズに履き替え、ユニクロで買った黄色のネルシャツに袖を通す。古着屋で買ったPコートを羽織り、マフラーを巻く。
電車とバスで行くか、迷ったがロードスターで出かけることにした。
ロードスターの幌を開け、運転席に乗り込む。
キーを刺し、シートベルトを締める。深呼吸をしてキーを回す。彩葉はハンドルを握り、ハンドルに頭をつけ、しばらくその体制をキープする。ロードスターのエンジン音が変わったような気がした。
「よし、行こうか」
彩葉は独り言なのか、伯父のようにロードスターに話しかけているのか、自分でも理解ができなく、恥ずかしく感じた。恥ずかしさを誤魔化しながら落ち着いて、クラッチを踏み、ギアを入れる。サイドブレーキを下ろし、ゆっくりと発進する。
午前中のうちに区役所と警察署での用事は済んだ。彩葉はランチに牛丼を食べながら、午後の予定を考える。スマホで現在位置を表示し、近くに何があるかを調べて見るが、特に行きたい場所も見つからない。だけど、帰るには早い。帰ってもやることがないのだ。
彩葉は、ロードスターに乗り込み、国道246号を流れに合わせて走る。春の風が気持ちいい。昨日も訪れたショッピングモールの駐車場に入り、ゆっくりと駐車スペースを探す。
「ママ〜、赤いクルマ。見て〜」
「本当だ。カッコいいね」
母子に視線を送ると二人とも笑顔で手を振ってくれた。彩葉はゆっくりと止まり、恥ずかしがりながらも手を振り返した。平凡な生活を送ってきた彩葉は、他人から称賛されることなど今までなかった。初めて
ひとりで満悦し、発進をしようと思い、クラッチを繋ぐ。
ガクン・・・。
エンストをしてしまった。幸いにも先ほどの母子にも見られていない。なのに、独りで顔を真っ赤にして焦っている。急いでギアをニュートラルにしてキーを回す。ギアをローに入れ、半クラッチ、右足でアクセルを踏む。
ブォオン!!
今度は、アクセルを踏み過ぎ、マフラーから爆音が響く。焦ってアクセルから足を離してしまった。再びエンスト。
(落ち着けっ!)
彩葉は、ハンドルに頭をつけ、大きく息を吐く。伯父の言葉を思い出す。
(大丈夫、この子は彩葉の思い通りに走る・・・)
落ち着いて、
彩葉は、平日で空いているショッピングモール内をブラブラと歩き、気になった店に入ってみるが、特に欲しいモノや必要なモノはなかった。
スマホで来週から通う大学までのルートを検索してみる。ここから一時間ちょっとで行けるらしい。入試の時に訪れた大学だけど、あの時は電車だった。
(行ってみるか・・・)
ロードスターに乗り込み、エンジンをかける。幌を開けショッピングモールの駐車場を出て
ロードスター ひらめ @hirame18
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