圧がすごい男

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 ★デイリーミッション★

 毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『しかのこミュージカル300』


  300名を動員する 300/300


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『悪魔の経験値』×7


 継続日数:314日目 

 コツコツランク:ブラック 倍率100.0倍

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「みんなで素晴らしいミュージカルを作り上げることができて本当に貴重な経験になりました! また機会があればご協力お願いします!」

 

 俺は皆に手を振って解散させた。

 シカ癖がついてしまったミュージカル参加者の多くは、しばらく日常生活に支障をきたすだろうが、まぁじきに治るだろう。


「さてと、シマエナガさんにバレないようにブツは隠しておくとして」

「ちーちーちー!(訳:『悪魔の経験値』は共有財産ちー!)」

「げっ、目覚めてたんですか。仕方ないですね」

「ちーちーちー(訳:油断も隙もない経験値ジャンキーちー。ちー? 誰かこっちを見ているちー?)」

「気づきましたか、シマエナガさん。さっきから可愛い女の子たちが僕のことを見てるんです」

「ちー(訳:英雄のファンに違いないちー。英雄はこの街を救った英雄ちー)」

「つってもメテオノームとの戦いで出した被害が上回ってるんですけど。あと誰にも俺の活躍というか、破壊というか、とにかく認知されてないですよ」

「ちーちー(訳:言われてみればあのクールなバトルは、身内しか観戦してなかったちー。でも、じゃあ、なんでファンがいるちー?)

「答えは明白です。ファンじゃないんでしょう」


 俺はチラッと視線を向ける。

 こちらを伺っていた女の子たちはサッと物陰に隠れた。

 

「やっぱり、勘違いではないっぽいです」

「ちーちー(訳:どうするちー? 話を聞いてみるちー?)」

「うーん……まぁそうしますかぁ」


 逃げられると厄介だ。

 距離35m。建物の裏路地。

 シマエナガさんをギュッと握りこむ。「ちー?」


 ひとつ隣の通りに移動してから、裏路地に入って、彼女たちの後ろに移動した。

 

 俺を監視していた2名。


 一人はなんかえっちな格好している。

 体の輪郭がくっきりわかるような上質な白布。でっか。

 修道服……なのだろう。変なところにスリット入ってるけど。

 この格好、イグニスっぽさを感じる。


 もう一人は赤いローブを着込んだ美人さん。

 紫色の髪。大人っぽさがある。でっか。


 そこまでの情報を認識したあと──風が突き抜けた。

 彼女たちが見ている先、さっきまで俺が立ってた場所。

 そこが弾け飛び、隣の通りまでソニックブームが発生。

 

 世界が俺の挙動に追い付いた。

 結果、2つの通りに渡って石畳みがハゲ散らかした。


 2名の女性は、背後から襲ってきた風圧に耐えるように物に捕まり、すべてがおさまったあと「え? なに?」みたいな恐る恐るといった様子でこちらを見てきた。

 

 2人は跳ねあがった。

 悲鳴をあげ、身構える。


「ちーちーちー!!(訳:なにをドタバタしてるちー!?)」

「いきなり目の前にあらわれたら恐いでしょう? なので驚かせないように後ろから声をかけようかなって」

「ちーちー!(訳:絶対に不必要な気づかいだったちー! 死ぬほど驚いてるちー! 普通に話しかければいいちー!)」


 気を利かせたつもりだったのだけどな。

 俺は2人に向き直る。

 黙って見つめる。


 向こうはかなり警戒している様子だ。

 腰の剣に手が伸びそうになるほど。


 なにかに怯えている。

 

「なにをそんなに怯えることがあるんですか。リラックスしてください。さて、話を聞かせていただけますか。どうして僕のことをつけていたんです?」


 昔なら綺麗な女の子との会話は苦手だった。

 でも、俺も成長した。今なら気さくな笑顔と所作で対応できるのさ。



 ──火剣のリナの視点



 突然、背後に現れた黄金の英雄。

 背の高い男だ。整った顔立ちをしている。

 見慣れない装飾──サングラスのせいで、目線はわからない。


 空気が彼を中心に果てしない重さを得ていく。

 圧倒的な存在感。湧き出る畏怖の情動。


 リナは腰が抜けてしまった。隣のテレジーも尻もちをつき、滝のような汗をかき、短い呼吸を何度も繰り返していた。


 ここはいわば神の御前。

 彼女たちは審判の言葉を待つ罪人だ。

 

 リナもテレジーには非がある。

 彼を尾行・監視した罪だ。

 

 距離を離していればバレないだろう。

 行為そのものが”ナメた行い”だ。


 それは上位者への侮辱にほかならない。


「なにをそんなに怯えることがあるんですか。リラックスしてください。さて、話を聞かせていただけますか。どうして僕のことをつけていたんです」


 リラックスできるわけがない状況。

 それに対する皮肉を言ってくるほど不機嫌なのだろう。


「はぁ、あぁ! はぁ、はぁ、も、申し訳、ございません、でした……決して、け、決して、あなた様を、侮っていただわけでは、おえ……!」


 リナは路地裏に吐しゃ物をまき散らしてしまった。

 緊張しすぎて胃がひっくり返ったせいだ。


 涙があふれてきた。

 不敬につぐ不敬。

 やらかしにつぐやらかし。


 脳裏に浮かぶのは死のイメージ。

 

 リナは最後の時、死の前に、すがるように懐の文書を取り出した。

 それはヂーニ・ニーヂスタンのしたためた公文書だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ」


 涙と鼻水、それと股を濡らす温かい蒸気。

 命からがら少女が差し出した文書を、黄金の英雄は「えぇ……」とちょっと引き気味で受け取った。


 リナもテレジーも這いずりながら、路地裏からのそのそ逃げだす。

 情けない撤退だ。けれどそれ以上どうしようもない。


 彼を恐れれば最後、平常を保って眼前に立つことは叶わない。

 矮小な生物は、異界より降り注ぐ熟成された恐怖に抗うすべをもたないのだから。



 ──赤木英雄の視点



 なんか俺から離れたくて仕方がないらしい。

 めっちゃ泣きながら手紙渡されたし。

 追いかけるのも可哀想になってきた。

 

「俺なんかしました? あんな避けなくても……」

「ちー(訳:いやらしい目をしていたちー)」

「してないですよッ! 全然してないですから!」

「ちーちー(訳:必死すぎて草ちー。なにをもらったちー?)」


 セイに教えてもらった異世界語でどうにか解読を試みた。

 ふむ、オリーヴァ・ノトス大聖堂からお話をするために誰か来るっぽい。

 黄金の英雄殿って書かれてたり、するからたぶん俺のことを言ってるっぽいけど……待てよ、そういうことか?


「やばいです。たぶんこれ大聖堂をぶっ壊した件がバレたんじゃ……」

「ち、ちー!(訳:損害賠償のお話ちー!?)」


 2日後、俺たちはウサギの動く家にて襟を正して大聖堂からの使節団を迎えた。

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