ピースの足りないパズルでも

「ぎぃさん、流石です、いろいろ考えてますね」


 言ってナデナデすると、ぎぃさんは誇らしげに触角をニョキニョキ動かした。

 

「まぁ利益関係なく、『顔のない男』の企みは阻止するつもりですけど」

「ぎぃ(訳:流石は我が主、私の進言などなくとも、己の信じる正義を貫くおつもりでしたか)」

「ちーちー(訳:当たり前ちー。英雄はそういう男ちー。ちーの認めた男ちー)」

「そうと決まれば、さっそく動きましょう。ぎぃさん、何をすべきでしょう」

「ぎぃ(訳:ひとまずは力を蓄えましょう。カイリュウ港を陣地にしたので、次は水の都市ヴェヌイを我々の旗下に加えましょう。そしてエンダーオ炎竜皇国をひとまず手に入れます)」

「ん? あれ? そういう話だったっけ?」

「ちーちー(訳:騙されてはいけないちー。後輩は支配欲の塊ちー。どさくさに紛れて侵略ゲームを続行するつもりちー)」

「こら、ぎぃさん、だめでしょ」

「ぎ、ぎぃ……(訳:でも、我が主、支配権を拡大することで、ダンジョン財団が送り込んだ南極遠征隊の捜索もはかどりますし、奴らとの戦争のためにも)」


 ぎぃさんの取り繕うように触角を動かす。

 シマエナガさんからの制裁のついばみが加えられる。


「それらしい理由をとってつけてもダメです。ノーフェイス・アダムズを相手にするのなら、こっちの勢力を巻き込んでも仕方ないでしょう。突出した個には有象無象じゃ歯が立ちません」


 現に人間道というバグみたいな存在にずいぶん蹴散らされたらしい。

 破天のユタをはじめとした歴戦個体たちはボコされ、ダークナイトたちもボコされたらしいし。


「ぎぃさんは手合わせしたんでしょう? 手ごたえはどうでした」

「ぎぃ(訳:あれは怪物ですね。厄災よりもよほど厄災です)」

「そうですかぁ。うーん、餓鬼道さんにお願いするしかないかなぁ」


 信頼と実績の彼女なら、人間道さんがイキリ出してもどうにかしてくれる。


「ん、そうじゃった、指男」

「どうしたんです、ドクター、突然、思い出したように」


 ドクターは足元のムゲンハイールを開く。


「いやなに、昨晩、おぬしがわしのところに着たじゃろう」

「あぁアレですか」

「そうじゃ、アレじゃよ。まぁ流石に専門外じゃから無理だと思ったんじゃがの」


 言いながら彼はムゲンハイールから深紅の外套を取りだす。

 濃い色合いのそれはまるで乾いた血ようで、視線を奪われる力を宿していた。

 それが強力な異常性アブノーマリティを宿した異常物質アノマリーだとすぐに察知できるほど。


「おぬしが渡してきたボロ切れなぁ、アダムズの聖骸布といったかのう、ダンボールを良い感じにくしゃくしゃにしたら同じような感じになったから、良い感じにおぬしが好みそうなコートに仕立てておいたんじゃ」


 ────────────────────

 『アダムズの聖骸布』

 偉大なる赤い血のアダムズを包んだ聖布

 祝福の力を増大させる効果がある

 異神の世界で纏えば光も届きやすくなる

 ────────────────────


 あれ? おかしいですね。

 ピースが足りないパズルが完成してるんですけど。


 俺は深紅の外套を受け取り、しげしげと眺める。

 間違いない。本物だ。この服からは確かな力を感じる。

 

「流石はドクター。頼りになりますね」

「大したことはしとらん」


 俺はアダムズの聖骸布に袖を通し、バサッとはためかせて羽織った。

 途端、俺の頭のてっぺんから足先まで赤い雷が駆け抜けた。


「うびびびびびびッ!」

「ゆ、指男ぉぉお──!?」

「ちー!?」

「ぎ、ぎぃい!」

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