黒纏いのブラッドリー

「もちつけ、まずは話をだな」

「問答無用っ!」


 玄関前に設置されていた大砲が発射される。

 砲弾は狂いなくブラッドリーをとらえ門ごと爆破する。

 轟雷が響きわたり、ミズカドレカの空に重低音がうなり声をあげた。

 どうやら普通の砲弾ではない。魔力の産物らしい。威力は抜群だ。


 黒煙が晴れる。

 ブラッドリーは傷ひとつなく、その場にたっていた。


「一筋縄ではいかないというわけですか」


 最初に最接近したのは、蒼い髪の少女とノルウェーの猫又だ。

 少女は剣に蒼炎を纏わせると、猫又といっしょに飛び込んでくる。黒いウサミミと白いウサミミはその後ろから続く。


「師匠の手はわずらわせません」

「にゃーっ!」


 蒼い軌跡を残してふられる斬痕。

 ブラッドリーは難なくかわし、少女の首裏をトンッと手刀でたたく。


 少女は自分が攻撃されたことすら認識せず、意識を失った。

 続くノルウェーの猫又の攻撃も、ブラッドリーはかるくいなし、ハイキック一撃で白目を剥かせる。


「にゃ、にゃ……ぁ……!」


 芝生のうえにぐてーんっと転がって、ふわふわボディは動かなくなった。


(セイラム様! フワリ様!)

(恐ろしく速い手刀──っ、ラビットアイじゃないと見逃しちゃってましたね)


 半呼吸遅れてブラッドリーに殴りかかる黒いウサミミメイド。

 燃え盛る衣をまとい、空気を焼き焦がしながらせまる。

 

絶火の裂爪ライオジャック!」


 指をギンッと鋭くたてた。鷹が地上の獲物を無慈悲に掌握し、大空へ戻っていくかのように、攻撃は一瞬のうちに行われ、黒いウサミミメイドはそのまま通り過ぎて、門のまえへ。


(防がれた!)


 黒いウサミミメイドは認識していた。

 自身の持つ最大の近接攻撃が、たやすく手の甲でたたかれ、受け止められたのを。


 一撃のやりとりでブラッドリーという男の実力を骨身にまで理解させられる。


 だが、幸いにも2名のウサミミはブラッドリーを挟んで前後の位置にいる。

 奇しくも挟み撃ちの形となった。

 

 その陣形になった一瞬の隙を見逃すウサミミたちではない。

 

 黒いウサミミは炎の噴射と燃える翼で推進力を得てとびかかり、白いウサミミは大地を陥没させ踏み切って、どこから取り出したのかわからない金属バットをふりかぶった。

 

 先に絶火の裂爪ライオジャックがブラッドリーの背後から襲いかかった。

 ブラッドリーは燃える爪ではなく、手首をつかんで受け止めた。


 ブラッドリーが燃える爪に対応した瞬間、殺意の金属バットが襲い掛かる。


(とらえましたよ、狼藉者!)


 ふりぬかれる金属バット。

 かき消えるブラッドリー姿。

 打ちぬかれる黒いウサミミメイド。


「ぷぎゃあ……!?」

「あっ、イグニス、ごめんなさい」


 黒いウサミミメイドは途方もない打撃によって、敷地の壁をふっとぶ。

 だが、空中に見えない壁があるようで、空間にべちーんっと衝突してとまった。


「よくもイグニスを! もう生かしておけません!」

「どう考えても俺のせいじゃないだろうが、指男みたいな責任転嫁しやがって」


 殺意の金属バットは嵐のごとく乱舞され、ブラッドリーをミンチにしようとする。

 ブラッドリーは身軽に攻撃をかわし──刹那の間に、闇のなかに溶けてきえた。


「なっ!」


 突然と沸いた黒い霧とともに、姿が消えた。

 そうとしか形容できない異常現象。

 白いウサミミメイドは想定外の挙動に動きが一瞬固まった。


「お前はこの世界の戦士にしては強すぎるな」


 白いウサミミメイドの背後、黒い影とともにブラッドリーは姿を現した。


(そんな、このラビの背後を──!)


 ブラッドリーは手刀を一閃、白いウサミミメイドの首裏を打った。

 ズドンッ! っと音が響き、衝撃波が敷地の外でまでかけぬけた。


「む、ねん……」


 白いウサミミメイドは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


(ごしゅ、じんさま、もうしわけ、ございません……)


 彼女は瞳に涙をにじませ、不甲斐ない自分へ苛立ちと、主人の謝意を抱くのだった。


「やれやれ、ようやくおとなしくなったか。はぁ……いきなり襲われるとはな。それも異常なほどに強いじゃないか。この世界で出会った存在のなかで、もっとも危険だった気さえするんだが」


 ブラッドリーは久々の強者との戦いに、嫌な脂汗をかいていた。

 たとえ熊を殺す手段をもっていたとしても「ここに熊はでませんよ~」と言われてる自然公園のなかで、突然と熊に遭遇すれば、誰だって内心肝を冷やすものなのだ。


「これで全員か。縛っておこう。目が覚めたら指男のことを聞き出してやる」


 そう思い、ブラッドリーは白いウサミミメイドから縄で簀巻きにしていく。

 

「ッ」


 その時だった。

 後方に気配を感じた。

 それもこれまでに感じたことない強大な覇気を。

 

(斜め左後ろ7m、強いッ!)


 それが敵意だとわかるなり、ブラッドリーは迷わず闇と剣を抜き放つ。

 右手首の袖に、左手を伸ばし、抜刀するような所作をする。

 するとあふれ出た闇のなかから、青龍刀が召喚され、ブラッドリーの手にしっかりと握られる。


 せまってくる敵意に反射的に攻撃をかえした。

 だが、攻撃は受け止められた。

 青龍刀は勢いよく斜め上段から、ブラッドリーのふりかえる動作にあわせてふりおろされた。複数のスキルで強化された一撃だった──しかし、その鋭利な刃は手のひらでとめられてしまっていた。刃が相手に与えた傷は、わずかに皮膚を裂き、血を滲ませることだけだった。


(バカな、この世界に俺の攻撃をこうも受けれるやつがいるというのか)


 そんな動揺を抱いた直後、ブラッドリーは顔面に穴が空くんじゃないかと思われるほどの拳をぶっ刺され、ド派手に屋敷の壁にたたきけられた。


「ぐう、はぁ、ぁ」


 殴り飛ばされたが青龍刀は手放していない。

 すぐに両足で大地をふみ、構え、体勢を整え、追撃に備える。

 乱れ垂れた前髪の隙間から、正面を見据える。恐るべき敵を。


 その男は異世界現地人でも、特に貴族っぽい高貴な格好をしていた。

 だが、顔立ちはまったく現地っぽくない。どちらかというとブラッドリーに似ている。地球のなかでもアジア地域の顔。そしてその顔には見覚えがあった。


 ブラッドリーは気が付いた。

 

「ゆ、指男……!」


 まさしく感動の再会だ。

 異世界で長旅のすえにようやく出会えた。


「むう」

「ど、どうしたんだ、なんでそんな険しい顔をしている」


 ブラッドリーは困惑する。

 なぜなら指男が眉間にしわをよせて難しい顔をしているからだ。


「なんで俺の名前を知ってるんだ、この不法侵入者、だれだよこのロン毛野郎」

「いや、お前も俺のこと忘れてるのかよ……」

































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こんにちは

ファンタスティックです


崩壊スターレイルに時間を侵食され、魔陰の身に落ちていたので更新がとどこっておりました。お許しください。


ちょっと宣伝を。

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