クゥラ vs ヴァン・リコルウィル
━━クゥラの視点
クゥラとヴォルルは迅速な足運びで一気に間合いを詰める。
迎え撃つ黒い星。
クゥラはヴァン・リコルウィルが放った魔術をかわし、草臥れた鋼剣で首もとを捉える。
わずかに上体を背後へ動かし避けるヴァン。
鼻先をかすめるクゥラの剣。
(この男……強い!)
「ゔぉる!」
噛み付く獣の牙。
ヴァンは足蹴にして、いなしつつ杖をクゥラへ。「
クゥラは半身で躱し、追撃をかける。
(私の背後への移動に対し、女は前へ進んでくる。追撃をいなし続けるのは難しい。間合いは3歩。狼は今蹴飛ばした。戻ってくるのに4秒か5秒の猶予)
ヴァンは目まぐるしく状況を整理し、魔力を節約していては、ジリ貧になること判断した。
「我が魔導のルーンよ、熱を帯びよ━━
黒い魔力を収束させ、紐状に編み込み、光輝の長鞭と成す。
ヴァンの杖の先端から伸びる高密度の魔力武装が、ぶおんっと振られた。
クゥラは「当たるのは危険すぎる」と本能で察し、全力しゃがみ、一振り目を回避。
反撃に接近しようとするが、輝鞭がすぐに戻ってきた。
「馬鹿な、鞭でそんな早く返せるはずが……」
魔力で編まれた鞭を放つ、高等魔術『
超一流の魔術師ヴァン・リコルウィルならば、ひとつの生物のように唸らせ、対象を襲わせることが可能だ。
クゥラは回避だけで精一杯だ。否、それすらまともにできやしない。
ついぞ5振り目の返す鞭がクゥラの肩口に上方から命中。
高密度の魔力は焼き溶かし、鍛えられた彼女の左腕をいとたやすく切断してしまった。
耐え難い痛み。脂汗が噴き出る。
(この男、強すぎる)
巨人のルーンを発動させる。クゥラは今日の時点ですでに一度使用していた。おそらく二度目の使用は寿命を著しく削る。だが、やらねばならなかった。
傷口を押さえながらクゥラは転がり、一つ息を吐く。全身の血管が隆起し、筋肉が熱を帯びた。高まる体温。白い蒸気をうっすらとまとう。
踏み込む巨人の一歩。
急な挙動の変化。
ヴァン・リコルウィルは目を見張る。
突き出す剣の鋒。魔術師の心臓を突き刺す━━はずだった。
がぎんっ、火花が散り、刃が折れる。
ヴァンの心臓を硬い鱗が覆っている。
折れた剣ですぐさま首を斬り落とさんとふりおろす。
またしてもがぎんっ、火花が散った。首筋に鱗が出現していた。さっきまでなかったのに。
ヴァンはクゥラの腕を掴み、腰を落とし、腰を切って掌底を打ち込んだ。
クゥラの身体がふっとばされる。
「がはっ!」
痛みにうめき、同時に巨人のルーンの反動も襲ってきた。
(もう、か!)
通路をゴロゴロと転がり、クゥラは身を蝕む焼きつくす苦痛に心臓をかきむしる。ヴォルルが心配そうに駆け寄り、彼女を守らんとヴァンを睨みつけた。
「先日、ドラゴンをベースに融合して置いてよかった。リジェクタイルのおかげだな」
ヴァンは言いながら身体の一部の竜化を解除させ、軽く首をまわす。
足首をぐるぐるとまわす。
(踏ん張る足に効いている、足首の骨にヒビが入ったか。恐ろしいパワーだ……一体何者なのか、どんな術を使ったのか興味があるな)
「お前のその身体は私の興味の対象だ」
「ゔぉるるーッ!」
「お前も珍しいモンスターだ。殺しには惜しい。いただいておくとしよう」
ヴァンの近くからキメラたちが湧いてくる。
その数、3匹。
ヴォルルはクゥラの服を噛んで、引きずりながら下がろうとする。
だが、怪我人を見捨てずに逃げれるほどキメラたちの追撃力は甘くはない。
「諦めろ……ん?」
下方から激しい振動がした。
ズシンと腹の底に響く衝撃だ。
思わず壁に手をつく。
「今のはかなり近かった……むっ!」
またしても下方から凄まじい音がした。
ヴァン・リコルウィルの足元にビキビキッ! と亀裂が広がった。
(崩れるだと)
逃れようとするが範囲が広かった。咄嗟に回避できない。崩壊が始まり、崩れいく足元とともにヴァン・リコルウィルとキメラたちは落下していった。
クゥラは巨人のルーンを解除し、なんとか意識を保ったまま、突然空いた大穴を、うっかり落ちてしまわないように慎重に見下ろした。
一方、崩落に巻き込まれたヴァンは瓦礫の山から這い出る。
舞う粉塵を魔力を放射し、空気を押し退けることで一気に吹き飛ばした。
晴れた視界。瓦礫からズボっと出てくるキメラたち。冒涜的怪物たちは皆、あるひとつの方向を見つめ、耳をすぼめ牙を剥き「グルルッ」と威嚇する。
ヴァン・リコルウィルはキメラたちの視線の先にふたつの影を見つける。
巨大なふわふわの柔らかいシルエット、それと人間の影だ。
男だ。黒い髪に赤みがかった瞳の男。気怠げ白いシャツの着こなし。片手はポケットに、もう片方の手には見慣れない銀色のバッグを下げている。
ひと目見て、ヴァン・リコルウィルの背筋に電撃が走った。
(ああ、お前が……)
「私はヴァン・リコルウィル、思ったより速かったな。名前を聞いておこう」
「フィンガーマンだ。やはり上にいたか。俺たちの推理は的中していたらしい」
「にゃあ〜♪」
禁忌と指男はついに邂逅を果たした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます