共犯者、冷たい笑みマーシー

 決して突破できないと思われていた守護を焼いたのは黄金の輝きだった。

 彼の指鳴らしが呼んだのだ。別の世界では都市伝説と恐れられる探索者━━指男がその破壊をつれてきたのだ。


 神秘の城を守る一切合切を打ち砕き、悠然と指男は主塔を目指す。

 隣を歩くのはふわふわのノルウェーの猫又フワリだ。


 指男は立ち止まる。フワリも止まる。

 前方に少女がいることに気が付いたのだ。

 彼女が世にも恐ろしい闇の魔術師の一派、進化学会の幹部、共犯者マーシーであろうことまでは知らない。

 

 普通にしていれば、見目麗しい少女にすぎない。

 最も普通にはしていないのだが……マーシーの目つきは鋭く、覇気を感じさせるものであり、表情には残酷性が滲み出てしまっている。


「まさかヒューデリーを破れる魔術師がいるなんて思わなかったよ」


 少女を中心に白い冷気が広がっていく。

 パキパキパキ。空気が悲鳴をあげる。

 フワリはへっちゃらという様子でグルーミングを始める。


「ヒューデリーを解除する魔術。建造されて久しい化石のような魔術なのに、どうやって調べ、そして修めたのか、あなたが何者なのか興味がある」

「黄金の指鳴らし、それとフィンガーマン。これを覚えておけばいい」

「フィンガーマン……ね」

「ところでお嬢ちゃん、君の目つきが恐いんだが、なにか嫌なことでもあったのかな」

「嫌なこと? まさか、私は幸福よ。あなたみたいな英雄級の魔術師を相手にできるんだもの」


 マーシーは結晶を握った手を前へ突きだした。


冷たき氷礫グリーシャ


 世にも珍しい氷のルーンの力が解放される。

 凍てつく波動が収束し、高速で飛翔、指男へ迫った。


「にゃん!」


 指男に氷礫があたり直前、猫パンチがそれを叩き落とす。


「っ、魔術を手で……あのふわふわ、ただのふわふわじゃない……!」

「フワリありがとう、でも大丈夫。喰らってみたい」

「テイムモンスターの質も使役能力も一流ってことね、それじゃあその獣ごと砕くだけよ━━冷たき氷塊グリシャリオス


 第二星の氷のルーン魔術が放たれる。

 先ほどより大きく収束する冷気も勢いが強い。

 それはすぐに放たれ、指男の上半身へ激しく着弾した。


 指男の体は直立姿勢のまま3mほどズザーっと後退した。

 魔術の命中した上半身には輝く氷がまとわりついている。

 

「冷たいな」


 感想をこぼすと、指男は体を捻りまとわりついた氷を割った。

 肩を軽くまわし、健全であることをアピールする。

 

(馬鹿な! 生身の体に命中したはず……! 魔術を使ってレジストしてくると思ったのに、そのまま受けて無傷だなんて……)

 

「氷遊びはおしまいかい」

「ふ、ふはは、トリックだ。たかだか、奇抜な手法で魔術を防いだだけで、得意になるな!」


 マーシーは馬鹿にされたことに苛立ち、水晶を掲げた。


(凍てつく結晶派最大の放射魔術!)


「砕けろ━━冷たき氷槍グレーシャンバルラ


 周囲に渦巻いていた白い冷気が一点に収束していく。

 マーシーは初めて対人で使う高威力魔術に興奮気味に、吹雪かれる前髪の隙間から指男へ視線を通し「受けてみろ!」と声高らかに吠えた。


 氷の硬き槍が高速で放たれた。

 石畳みを剥げさせるほどの冷気の渦を纏っている。

 当たれば人体など一瞬で凍りつき、砕け散るほか結末を持たない。

 とはいえ、対象が指男の場合は話が少し変わる。


 指男は素手で槍の先端を受け止めた。

 槍は膨大な魔力による推進力で、周囲の物体と空気を凍らせながら、なお突き進んでくる。やがて槍の推進力は失われた。


 指男はプルプルっと顔を横に振り、顔についた霜を払うと、槍をポイッと放り捨てた。

 マーシーは呆然とし、口を半開きにし、掠れるような声で「あり、ぇなぃ……」と呟き、思わず一歩後退していた。


 マーシーが一歩下がると、鼻先に指男がいた。

 

「氷遊びはおしまいかい」

「ひっ━━」

「そうか」


 引き攣った悲鳴をあげたのと同時に、指男の拳がマーシーの平らな胸にめりこむ。腰の入っていない雑な拳撃によって、少女の体は昇降口まで吹っ飛ばされ、玄関に飾られていた初代校長の像に背中から叩きつけられてしまった。











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こんにちは

ファンタスティックです


1年間お疲れさまでした。

2022年が終わり、2023年がはじまります。


1年の振り返りや新年の挨拶などは、2023年1月1日0時くらいに近況ノートで更新する予定です。興味あれば読んでみてください。


なので、ここでのご挨拶は簡潔に。

たくさん読んでくれて本当にありがとうございました。

引き続き作品を発表していきますので、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

ではでは、良いお年をお迎えください。






……というわけで挨拶完了です。

もうひとつ報告が重なっております。

デイリーミッション関連のサポーター限定短編小説を更新しました。

よかったらどうぞ。サポーター限定なのでファンタスティックに課金してないと読めないことに注意されたし!


過去の設定資料・短編小説も下にまとめておきました。


───短編小説


『シマエナガさんと四つ目の結末』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16816927861073643882


『絶滅の戦争とちいさな勇者』  ←NEW!!

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817330651294695033


───設定資料


『ダンジョン財団について その1』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16816927863203083521


『探索者』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139554640586146


『7つの指輪』『クトルニアの指輪』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139555399515817


『魔法剣』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139555884073697


『魔法銃』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139556406527142


『魔導の遺した世界 アズライラの地の地図 第一版』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139558740939693


『魔導の遺した世界 アズライラの地の地図 第二版』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139559147250204


『魔導の遺した世界 アズライラの地の地図 第三版』

https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817330649340114339

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