ヴォールゲート魔導魔術学校へカチコミたい

 まさかメタルくんにこんなところで会えるなんてね(ニチャア

 僕、寂しかったよ、全然会いに来てくれないんだもん。

 

「何者だ、お前……っ」


 顔に傷のある男はあとずさりながら問いかけてくる。

 壁に咲いた死体の花に気にしているようだ。

 

「俺はフィンガーマン」


 俺はメタルスライムたちを抱っこしながら、悪党どもを睥睨する。

 いきなり商会に乗り込んできて、死者をだす暴虐っぷり。

 話を聞いていれば、ヴァン・リコルウィルの仲間だという。

 つまりただいま絶賛スクールジャック中のやつの手先というわけだ。

 俺の感情の天秤は動いている。もはや状況不明だからと、部外者だからと、事態を静観できない。目の前でひどいことが行われているのに、それを見過ごせるほど俺は冷徹ではない。そしてメタルを見過ごすほど聖人ではない。


 この世のメタルはすべて経験値にしなければならないのだ。


「メタ助、メタ吉、メタ次郎!」


 腕のなかのメタルスライムたちがスルっと抜ける。

 ニッケの言うことを聞いている? 彼女のペットだったのか。

 

「キメラどもよ、喰らえ」


 黒衣の男たちは俺から距離をとりながら、獣をたちを差し向けてくる。

 複数の動物の身体的特徴を合わせもつ奇妙なモンスターたちは、狼が狩りをするかのように俺を囲むと、おもむろにその中の1匹が飛びかかってきた。


 俺はモンスターの首根っこを掴んで止める。

 尻尾の蛇がグワっと牙を向いて噛みついてくる。

 なるほど、そっちも独立して動けるのか。脳みそが二つあるのかな。


 蛇が噛みついてくる前にモンスターを投げる。

 包囲を形成していた1匹に激突し、2匹が帰らぬ命となった。


「フワリ」

「にゃーん♪」


 どこから共なく巨大猫が登場した。

 圧倒的な毛量で皆の視線を集める。

 モンスターたちは標的を俺からフワリへ変えて、連携して襲い掛かる。

 しかし、ノルウェーの猫又はやわじゃない。

 フワリは「にゃんにゃん♪」と可愛らしく鳴きながら、モンスターを踏んづけたり、猫パンチをてしてし放って、大量の血痕をつくりだした。


「こいつも使役者か……! なんて強力なテイムモンスターなんだ!」

「驚いてる場合か、殺せ、殺せ、殺せぇ!」


 黒布の男たちは杖をむけてくる。俺は男の手首を掴む。

 びっくりしたのか、その拍子に男の口からパイプがこぼれた。

 落ちる前に拾ってやる。

 

「まあ吸えよ。最後の一服だ」


 男の表情に恐怖の色が満ちていく。

 頭は冷静なのか、涙目になりながら差し出したパイプを咥えた。


「お、お前は、一体……何者なんだ……」

「悪党は何度も同じことを聞いてくる。言ったろ。━━俺はフィンガーマンだ」

「フィンガーマン……」

「一服済んだな」


 俺は顔に傷のある男の手首の関節を外した。

 続けてジャブを1発お見舞いすると、男は数メートル吹っ飛んで、商会の表へ転がり出て、白目を剥いて動かなくなった。


「う、うああああああ!」

「なんなんだこいつはぁぁぁ!」


 残りの男たちの杖も優しく折ってやり、無抵抗いなったところを拳で黙らせていった。


「にゃあ〜」

「よしよし、えらいぞ。いい仕事っぷりだ」


 フワリが「撫でろ、人間っ!」とばかりに頭を擦りつけてきたので、もふもふの毛並みをわしわしっと手で撫で乱しておく。


「ニッケさん、片付きましたよ」

「にゃあ〜♪」

「え……、あ、ああ、そ、そうだな……」


 ニッケは呆気に取られた表情で俺たちを見てくる。

 

「フワリがお気に召しましたか。ええ、そうでしょう。余裕のもふ味だ。毛量が違いますよ」

「い、いや、その猫ちゃんもそうなんだが……ああ、どこから言えばいいのか……とんでもない冒険者だな、君は」


 ニッケはたははっと乾いた笑い声を響かせた。


 俺は蒼い血を用いて、怪我人たちを癒すことにした。

 案の定、皆は副作用に苦しむ様子も見せなかった。


「なんて効力のマジックアイテムだ。使用制限なくあらゆる傷を癒してしまうなんて、神の技ではないか。少なく見積もっても4等級以上の宝物だぞ……っ」


 ニッケは俺の治療の様子を関心を持ってみていた。

 『等級』なる聞きなれない言葉を使っていたので、話の流れでたずねてみたところ、なんでもマジックアイテムにはレア度のようなものがそれぞれあるとか。古くから使用されているもので、全部で6段階あるらしい。

 異常物質にもグレードなる等級が割り振られていたので、おそらく似たようなものだろう。


「フィンガーマン、うちの商会は売買には誇りを持ってる。お前の持っているマジックアイテムを売る気はないか?」

「まさか。これは値打ちはつけられませんよ」


 探索者は異常物質との出会いを大切にする。

 いつしか修羅道さんが言っていた通り、俺の装備は皆、大事なものだ。


「通報を受けてきたのだが、これはまたひどい有様だな。にゃんにゃん男は一旦あとまわしだ」


 憲兵たちが到着し、黒衣の者どもを縛り上げて拘束する。

 ニッケは責任者として何があったのかを憲兵たちへ報告した。


「むむ? その顔、どこかで見たような気がするな」


 あ。まずい。

 この憲兵たちにゃんにゃんしてた俺を追いかけてた奴らじゃないか。


「つい最近、そう、本当にさっきまで見ていたような既視感がある……」

「俺もだ。なんだかすごく見覚えがある顔だ。なんでだ」

「お前、どこかで会ったことがあるな?」


 じーっと見つめてくる憲兵たちの視線。

 努めて平静を装い続けるが……これはダメだな、バレるのも時間の問題か。


「いや、しかし、違うな。あのにゃんにゃん男とは決定的に違う」

「それは一体なんですか、隊長」

「見ろお前たち、この青年はあのおかしな黒眼鏡をしていないではないか!」

「ああ、本当だ!」

「流石は隊長、そこに気づかれるとは!」


 人の顔を認識する能力がバグってるのかな。

 この街の治安がすごく心配になってきました。


「師匠……」


 セイは荒れた商会を見つめて、心配そうな顔を向けてきた。


「私、許せないです。もし師匠がいなかったら、きっと惨劇になっていました。ヴァン・リコルウィル……ちょっと文句を言ってきます!」


 こら。待ちなさい、セイちゃん。

 文句を言って「はい、態度改めます」っていう連中じゃないでしょ。

 でも、いつまでも学校封鎖されてちゃ困るのも事実。よし、決めた。


「俺がちょっと行って交渉してきます」

「師匠、私も行きます!」

「フィンガーひとりに働かせるわけにはいくまい」

「私も、悪い奴、許せない……です」


 セイもクゥラもエリーもやる気みたいだ。

 いいだろう。もうみんなついて参れ。


「にゃあ〜」


 フワリもやる気満々か。

 いいだろう。おぬしもついて参れ。


「ニッケさんは学校の関係者なんですよね」

「そうだが……どうしたんだ、お前たちやけに張り切って」

「学校を解放します、なので進入経路とか教えてくれませんか」

「待て待て! お前たちだけでやるつもりか!? 無茶だ! 相手はあのヴァン・リコルウィルの一派なんだぞ! 相手が誰だかわかってるのか?」

「ええ、つまりヴァン・リコルウィルってことですよね」

「何もわかってないことはわかった!」


 ニッケは頭をがしっと掴んで熱烈に説得してくる。


「”禁忌”ヴァン・リコルウィルはかの有名な『強さ議論』で世界最強の英雄のひとりに数えられている男なんだぞ。7つの英雄、その第7位にして数多の闇の魔術師を従えていると言われてる。実際に学校をひとつ制圧してるんだから、その勢力の大きさが分かろう? フィンガーマン、お前が強いものはわかる。とんでもない実力者だ。差しでの決闘ならまだしもヴァン・リコルウィルの門下が結集しているだろう城に乗り込むのは無謀すぎる」

「なるほど。完全に理解しました。それで学校に入る道を教えてくれますか」

「あ、なんも聞いてない……っ!」


 大丈夫さ、響いてるよ。

 思い出したんだ。ヴァン・リコルウィル。

 どこかで聞いた名前だと思ったが、そうだよそうだよ、ミズカドレカでベルモットの口から聞いたんだよ。


 7つの英雄の第7位”禁忌”ヴァン・リコルウィル。

 倒せば俺が第7位になれる。

 学校へ乗り込む理由が増えて俄然やる気が出てきた。


 ニッケは諦めたようにボソボソと学校について話はじめた。


「学校は古い要塞だ……かつてはエンダーオ炎竜皇国との戦争のために築かれたとされる。湖の上に浮かぶ孤城、その性質上、城へ至る道は南北から伸びる2本の橋だけだ。城門街からは南正門へ至れるが、いまは強力な星のルーンの力で扉は閉ざされている」

「ぶっ壊せばいいんじゃないですか」

「できる訳ないだろう。ヒューデリー要塞守護壁の破壊は不可能だ。絶対に。最高の魔術師たちが要塞防衛のために描いた最大の防御魔術なんだ。たとえこの地底空間が崩落したとしても、学校だけは生き残るかもしれない」

「それは凄い。それじゃあ何か抜け道とかはないんですか」

「もしかしなくても秘密の道はいくつも用意されているだろうが、なにせ何世代も昔に築かれた城だ。その全容を知る者は誰も生き残ってない。もちろん私も知らない」


 ダメじゃん。

 入る方法なにもないよ。


「言っただろう。あの学校は要塞だ。軍隊を用意するならまだしも、個人の思いつきでどうにかなるような代物じゃないんだ」

「軍隊じゃなきゃどうにもならない? 私は大砲よ」

「なんか言ったか、フィンガーマン」

「とりあえず行ってみる、って言ったんですよ」

 

 俺たちは商会をあとにし、橋までやってきた。

 

「お、おお、やけに大所帯になって戻ってきたな」

「城を攻略します。そこを退いてくれますか」


 橋塞ぎおっさんはそそくさと退いて「無茶はするなよ!」とエールを送ってくれた。大丈夫、無茶なんかしないさ。


「師匠、モンスターたちが!」


 行く手を塞ぐのはヴァン・リコルウィルのキメラたちだ。

 橋の中腹あたりでたむろしていた。

 数が多い。まとめて一掃するか。


「道を開けろ。必滅のエクスカリバー」

「にゃーん♪」

「あ、こら━━」


 指を鳴らそうとした瞬間、もふもふ様にじゃれついてきた。

 そのせいで繊細な威力調整を誤ったのだろう。

 極大の爆発がおさまった後、立派な大橋は向こう100mほど崩落し、湖の膨大な湖の水が蒸発したせいで当たり一体は真っ白な水蒸気に包まれてしまっていた。


「はわわ……っ、し、師匠何も見えません……それにあちちっ!」

「セイ、何事も平常心が大事です」


 まだ慌てるような時間じゃない。

 水蒸気のおかげでバレてないからな。

 

「はえええ!? は、は、橋がぁぁぁあ!」


 バレた。

 さて慌てようか。

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