学校封鎖
湖沿岸の街にたどり着いた。
街の入り口には『ヴォールゲート城門街。湖の街』と書かれている。
ここが目的地で間違いなさそうだ。
「師匠、早速お仲間を探しましょう!」
言われ、俺は例の新聞を取りだす。
ヴォールゲート魔導魔術学校の校内新聞。
内容は校内で目撃されたという謎の巨大豆大福に関するものだ。
一体どこの何エナガさんなのか検討もつかないが、多分丸くて白い鳥のことを言っているような気がする。
「ヴォールゲート魔導魔術学校ってどこにあるんですかね」
「村で領主さまに聞いたことがあります。かの学舎は広大な湖の、その真ん中にの石柱に築かれたのだと」
「石柱ですか」
俺たちの視線が湖の方角へ集中する。
湖の真ん中、見上げるほど巨大な建築物がある。
城だ。大きな城だ。ミズカドレカにあるベルモットの城より遥かに大きい。
天然の鍾乳石━━こちらはさらに途方もなく大きい━━を削り出したのだろうか。人工物と自然物が溶けて歪に融合したような不思議な様相のその城は、幾何学的な模様をもつ光の壁に覆われている。どんな愚か者が目にしようともそれが、なんらかの神秘の作用を持っていることは疑いようがないだろう。
「多分あれですよね」
「あれだと思います」
「神秘使いたちの学校か。私にはまるで縁のない場所だ」
「でっかい……ワクワクする……」
「それじゃあここらへんで解散としますか」
セイだけは俺の従者というカタチなのでついて来たが、俺たちにはそれぞれの目的がある。言わずもがな俺は謎の豆大福を見つけることが目的だ。
エリーとクゥラにも目的がある。
なんとなくついて来たわけではない。
彼女たちは仕事できたのだ。冒険者組合の依頼という仕事だ。
冒険者デビューしたふたりは、プロフェッサー・ノウから「ちょうどいい。ひとつ頼まれてくれないか」と、指名の仕事を依頼されているのだ。
内容はプロフェッサーが作った魔術工芸品を知人へ届けることだ。
ブロンズ級相当の運搬クエストである。とはいえ、距離があるので報酬額は大きく、また難易度もブロンズ級内では最大と見積もられているが。
そのため、今回の旅について来てもらったのは、別に俺が彼女たちにお願いしたわけでもないのだ。彼女たちの自立を助けるための練習みたいなものだ。何せクゥラもエリーも世間知らずが過ぎる。元戦士の彼女たちだけで遠地ヴォールゲートまで運搬クエストをこなすのは、少しハードルが高い。
これから彼女たちは自分達の生活をはじめる。
剣闘士としてではなく、普通の人間として自分達の人生を取り戻す。
培った戦う力を生活に役立てるには、冒険者組合は最も手っ取り早く、また最適な働き口だ。奴隷のルーンをプロフェッサー・ノウに頼んで書き換えてもらったため、魔術的な関係上は俺が彼女たちの主人であるわけだし、困ったことがあればその責任を背負うつもりでいたが、本人たちがそれを望まなかった。
「クエストの報告をしてくる。用が済んだら件の……錬金術商会とやらに来てくれ。そこにいなければ……そうだ、この街の入り口で待ち合わせ場所にしよう」
クゥラは紙切れを片手に伝えてくる。
紙切れにはこの街でのやることリストが書いてる。
セイから習った文字で一生懸命書いたメモだ。
「うむ。これでいいはずだ。どうだ、私は上手くやれているか、フィンガー」
「問題ないんじゃないですか。待ち合わせ場所の予備を用意したのは知力99って感じがして俺は好きです」
クゥラは世の中に疎いだけで頭は賢い。俺のように。
「ではまたとでな」
「じゃあね、セイラム。また後で」
クゥラとエリーは不安な足取りで街のなかに消えていく。
「さて学校へ向かいますか」
「師匠も組合からクエストを依頼されていませんでしたか?」
「え? クエスト?」
そういえば地底河の悲鳴のくたびれた鎧を届けるんだったっけ。
「……あえて遅らせることで、クゥラとエリーのクエスト報告経験を積んでもらうんです。これも学び。社会経験。自立促進というわけです」
「流石は師匠、ひとつの行動に複数の意味を持たせているんですね」
本当は運搬クエストのこと忘れていただけだけど、うまい具合に師匠の尊厳を保つことに成功したのでヨシ。
俺とセイは城門街を城の見える方角へまっすぐ進み、大きな橋を発見した。
ここを渡ればあの幾何学の光壁に覆われた城へたどり着けそうだ。
「ちょっと待った」
橋の近くにいた男に慌てた様子で声をかけられる。
「こらこら、君たち何しているんだ!」
「見てわかりませんか。謎の巨大豆大福を探しに行くんです」
「そんな目的が見てわかるわけないだろう! 橋に近づいてはいけないぞ!」
「なるほど。完全に理解しました」
「む、物分かりの良いやつだな」
「渡りたければあなたを倒していけとかそういう話ですよね」
俺は袖をまくり、拳をコキコキと鳴らす。
「馬鹿野郎っ! そうじゃねえ! お前なにも知らないのか!?」
「師匠、下がっていてください。ここはこの一番弟子のセイラムがやります。この無礼な橋を塞ぐ者を倒してみせます」
「どんだけパワータイプなんだこいつら……!」
男は慌てた様子で道を開ける。
行く手を阻むことが目的ではないのか。
「何がしたいんだあんたは」
「さっきから全部こっちのセリフだ! 今、学校に近づいてただで済むはずないのに、無防備に橋を渡ろうとするから止めてやっているのに!」
「タダで済まない? 穏やかじゃないですね。何かあったんですか」
「……本当に何も知らないのか?」
「さっき街に着いたばかりでして。あの学校に用事があって遥々ミズカドレカから旅をして来たんですよ」
「そうだったのか。ならば事情を知らないのも無理はない」
橋前の男は神妙な面持ちで必死に俺たちを止めた訳を話しはじめた。
男によれば今、ヴォールゲート魔導魔術学校は平時とは状況が異なるらしい。
学校はいま恐るべき闇の魔術師によって占拠されているのだとか。
校門は固く閉ざされ、光の結界を張られ、誰もなかへ入ることはできないらしい。それどころか、橋を渡ろうとすれば橋上に配置された恐ろしいモンスターたちが通行人を八つ裂きにしてしまうんだとか。
「だから橋を渡るだけで危険なんだ」
「その危ないモンスターは陸地に来ないんですか」
「よく躾のされたテイムモンスターみたいでな。魔術師の命令が働いているんだろう。橋を守るだけで、街へはまだ被害を出していない」
ふむ。困った。
なんだか面倒なことになっているじゃあないか。
勝手に引き篭もりやがって。さっさと門を開けろよ。
「その闇の魔術師とやらの名前はわかっているんですか?」
「禁忌のヴァン・リコルウィルさ。冒涜的探求者、魔術史に恐ろしい数々の事件を刻んだ大罪人だよ」
ヴァン・リコルウィル……? んー、どっかで聞いたような。
頭をひねる。だが、うっすらと聞き覚えがある程度でピンとこない。
「だから君たち、しばらくは学校に近づくことは諦めたほうがいい。聡い者は皆、この街から逃げている。あの恐ろしい大罪人がいつテイムモンスターたちをけしかけてくるかわかったものじゃないのだから」
「ご忠告どうも」
俺とセイラムは引き返すことにした。
一体なんの目的で学校が封鎖されているかは不明だ。
スクールジャック……ということになるのだろう。
ヴァン・リコルウィルは誰かに対し、何かを要求し、そして交渉の成立を待っている……?
俺の手元の情報は限りなく少ない。
大事件っぽいことはわかるが……善悪の判断はまだつかない。
ここはマーロリ原典魔導神国、つまりはセイラムの故郷であるパール村を襲った震える瞳の教導師団、その指導者たちの国である。
ヴァン・リコルウィルはもしかしたら何か正義をなすために、怪しげな国の指導者たちへ要求をし、脅しの材料に学校をジャックしているのかもしれない。
そのために余計な被害者を出さんと橋を封鎖しているのやも。
何も知らないので、なんでも想像はできる。
「師匠、どうするんですか」
「学校へ干渉したいですが、そうすると手荒な手段を使うことになるかもしれないです」
事態が急激に動いてからでは、色々と用事を忘れてしまいそうだ。
「やること済ませてから考えます。セイ、少し自由にしていていいですよ。クゥラたちの元に行っているのもいいでしょう。市場を見て回っても面白いかも」
「え? いきなりですか?」
「俺には少しやらないといけないことがあるので」
「わかりました。師匠がそう言うのでしたら」
師の命令は絶対。
セイはやや納得いっていない風だったが、無事に向こうへ行ってくれた。
さてと。ようやくひとりになれたか。
「始めるかにゃん」
赤木英雄、23歳。
猫になリます。
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こんにちは
ファンタスティックです
近況ノートを更新しました!
今回はなんと『俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活』のカラーイラストを公開です!
ふつくしい修羅道さんが見れますよ!
https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817330650464424665#commentSection
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