ドリーム通信 2
細かいことは置いておこう。
修羅道さんはニコーっと笑みを浮かべ、咳払いをし、改まった表情を作る。
「魔導のアルコンダンジョンの入り口が使用可能になるのは時間がかかります」
「2、3日ですか」
「ダンジョンウェーブのようにはいきません。もっと長い時間がかかります」
「それじゃあ、ダンジョン財団は探索者を送れないじゃないですか。もう攻略作戦は破綻してませんか」
「いいえ、ダンジョン財団はあらゆる状況に対処する術を持っています。このドリーム通信もそのひとつです。これからはドリーム通信を使って遠隔から取り残された探索者さんたちをバックアップしたいと思います」
追加の人員を送ることはできないから、取り残された者たちだけでなんとかしろと言うことか。なかなか無茶なことをお願いされる。
「して、取り残されたのって俺以外にもいるんですか? フィンガーズギルドのメンバーとか、厄災がいたら優先的に教えて欲しいんですけど」
うちのメンバーには心配なのが多すぎる。
シマエナガさんは「ダンジョンにいるってことはモンスターちー! 女子供構わずみんな経験値にしてやるちー!」って大虐殺初めてる可能性が低くない確率で存在する。もちろん、そんな根は悪い子ではないのでしてないと信じたいが。
レヴィも心配だ。どこかで儚死してそう。というか多分している。してない訳が無い。ああ、かわいそうなレヴィ。すぐに迎えに言ってあげないと。
「お願いです、修羅道さん、残留してる人たちを教えてください。ついでに場所も」
「場所に関しては分かりかねます。そちらの世界の地理すら正確には把握できていませんので。でも、安心を、希望は信じる限り絶えません!」
あんまり励ましになってないけどね。
「こちらのダンジョンキャンプに帰還していない人たちを名簿にしてあるので読み上げます。祝福を強く受けた人は残留しやすかったのかもしれません。まだ十分な戦力がいますよ。まずは……あっ! 見つかってしまいましたっ!」
ドリーム修羅道さんは首を横に向け、ひどく慌てた様子になる。
途端、姿が砂嵐のように乱れ「ちょ、こらー! やめなさい、そんな大きな体でドリームしたら通信量が! あっこらこら!」と何者かと争っている物音が聞こえる。一体何事なんだ!
「修羅道さん? 応答してください、修羅道さん?」
「━━ドリーム、ザザ━━ザザ━━修羅━━ザザ」
多分だけど「ドリーム修羅道です、修羅道ではありません!」的なこと言ってる気がする。こんな時にも設定を忘れない。流石は修羅道さんだ。
砂嵐が収まった。そこにはドリーム修羅道さんではなく、ふっくらしたトゲボールが鎮座していた。見上げるほどに膨らんでおり、短い手足をピンっと伸ばしている。うーん、キュート。どこのハリネズミさんでしょうかね。
「きゅっきゅっ!(訳:英雄殿、心配したっきゅ! よくぞご無事で我は嬉しいっきゅ〜!)」
「ハリネズミさんも無事なようで何より。そっちに追い返されちゃったんですね」
「きゅっきゅっ(訳:無念っきゅ、ようやく蟲殿が現場引退して、残るはもちもちした鳥殿を蹴落とすだけだったっきゅが……英雄殿と武功を積み上げるチャンスがこんな形で失われるとは、悔しいっきゅ、こんなの理不尽っきゅ!)」
「ハリネズミさん……」
彼女の気持ちは嬉しい。俺もできればハリネズミさんにはこっちにいて欲しかった。何が起こるかわからない敵陣のフィールドにおいて厄災の力は頼りになるだろうから。
「指男、お前は残ったようだな」
「長谷川さん! あなたも弾き出されてしまったんですか?」
「そのようだ。ムゲンハイールで覚醒した力、アルコンの世界にぶつけたかったが今回は大人しくするほかないようだ」
長谷川さんはでかい体を縮めて首を力なく横に振った。
「そちらの世界は大変に厄介なことに巻き込まれるかもしれん。指男、忘れるな。暴力はあらゆる問題を解決できる。困ったらお前の力を存分に使うんだ」
「言われずとも、すでに何人かネゴシエートしましたよ」
「流石はフィンガーズギルドの長だ」
長谷川さんは照れ臭そうに笑み、俺も薄く微笑んで拳をぶつけ合わせる。
「きゅっきゅっ(訳:男の熱い友情っきゅね、涙を堪えきれないっきゅ)」
長谷川さんがチラッと横を見て、すいっとスライド移動する。
代わりにオーバーオールを筋肉で内側から圧迫した木こりが出てくる。マッチョが続くと思い出す。思えばうちのメンバーも質量多めだった。
「花粉さんまでそっち組ですか」
「指男くん、誠に申し訳ないのである。私も覚醒した新しい花粉絶滅法をアルコンダンジョンで試してみたかったのであるが、どうにも今回は出番がなさそうなのである」
みんな血の気多いな。ペンギンたちにやる気満々で向かっていってたの、さては新しい力をブッパしたかったからじゃないだろうな。
「しかし、フィンガーズギルド含め最高位の実力者はまだ多く残っているのである」
さっき聞いたな。
「きゅっきゅっ(訳:今から発表するっきゅ!)」
「あー! 待ってくださいー! それはわたしが言いたかった原稿ですよー! コラー! そこのもちもちハリネズミちゃん、おやめなさーい!」
ハリネズミさんは構わず読みあげた。
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残留メンバー by修羅道調べ
・『メロンソーダ』浅倉
・『フライドポテト』田中
・『赤き竜』アーサー・エヴァンス
・『アストラル』セドリック・ディケーゴ
・『カターニアの砂塵』シロッコ
・『ブラッドリー』
・ハッピーちゃん
・『フェニックス』フェデラー・ビルディ
・ジウちゃん
・レヴィアタンちゃん
・白玉
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「きゅっきゅっ!(訳:以上っきゅ!)」
「あーもう、わたしが言いたかったのにー!」
わちゃわちゃと騒がしい。
俺の夢うるさすぎて、身体がすごいうなされている気がする。
「あっ、ドリーム通信がもう切れそうです! みんなが勝手に通信に割り込んでくるからですよ! あーもう限界です、通信制限がっ!」
ドリーム通信って通信制限掛かるのか。
「とにかく赤木さん、探索者たちと合流して、共にダンジョンボスをしばいてください! 住所を持っておくのはいい作戦だとは思いますが、能動的に情報収集して動いたほうが、捜索効率は上がると思います! 足を使うんです、足を!」
「足を、ですか」
「追加の支援は期待できませんが、わたしたちはドリーム通信で応援してます! 大丈夫です、赤木さんなら必ずできます!」
「きゅっきゅっ!(訳:応援しているっきゅ! 頑張るっきゅ、英雄殿!)」
「指男くんなら必ずできるのである。健闘を祈るのである」
「目についたものを片っ端から破壊すれば、いつかはダンジョンボスも死ぬ。困ったら試すといい。頑張れよ、指男」
「コラー! 皆さん、好き勝手言って大切な通信量を浪費しないでくださいー!」
うーん、そろそろ俺起きそう。
「あっ」
修羅道さんはハッとして、マッチョやハリネズミの柔らかいお腹に揉みくちゃにされながら思い出したように早口で語る。
「言い忘れてたことがありました!」
「大事なことみたいですね」
「はい、とって重要なことでして、実は魔導のアルコンダンジョンの入り口には細工が施された痕跡が見つかってまして」
ダンジョンの入り口に細工だと。
南極のあの白い大きな亀裂のことだよな。
確か黒い巨大な封印柱によって密封されていたという話だったっけ。
「有体に言えばわたしたち遠征隊の前に、地球からそっちに入った存在がいて、とりあえずタケノコの手先がそっちの世界に紛れ込んでて━━」
ビュン。
修羅道さんの声が途切れた。
視界が真っ暗になった。
急に胸の苦しさが襲ってきた。
俺はもがき、足掻き━━そして、ガバッと飛び起きた。
「うわあ!」
俺は荒く呼吸を繰りかえす。
横を見やれば、蒼い髪の少女が驚いた顔でこちらを見つめてきていた。
ああ、セイか。戻ってきたのか。
「師匠、大丈夫ですか? すごいうなされてましたけど……」
「ああ、大丈夫です……ちょっとみんなに、夢を荒らされただけです……」
睡眠の質はマイナスである、寝た気がしない。頭痛いし。
今度からドリーム通信はひとりずつにしてもらおう。
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こんにちは
ファンタスティックです
伏せていたトラップカード『三日1回更新』を発動。
私の決断を許せ、ファンタスティック読者たち。
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