ドリーム通信 1

 修羅道さんだ! まさか修羅道さんに会えるとは!

 まるで想像していなかった人物の登場に脳が一拍遅れて反応する。

 一拍遅れて「いや、でも修羅道さんだもんな」と不思議な納得感を得た。

 なぜだろう、この人なら普通にどこからでも湧いてきそうな感じはある。


「修羅道さんが俺を見つけてくれるなんて、まったく予想してませんでしたよ。それにしても修羅道さんも魔導のアルコンダンジョンに入っていたんですね。手を振って見送ってくれたからてっきり外にいるのかと」


 修羅道さんに会えて本当に嬉しい気持ちだ。

 久しぶりに会ったせいか、いつもの3割ましでかあいい。

 

「赤木さん」

「はい、なんです?」


 修羅道さんは改まった様子になり、真顔でじーっとこちらを見てくる。

 服装におかしなところがあっただろうか。

 気がつかないうちに全裸になっていた微粒子レベルの可能性を潰すため、俺は自分の身だしなみを軽く見直す。大丈夫だ、履いてる。


「ん?」


 異変に気がついたはその時だ。

 自分の足元を見つめ、床のフローリングに気がつき、周囲へ意識を向ける。

 右手前には小学生時代に父母に買ってもらった勉強机があり、左手前には中学生時代に使っていたボロボロのエナメルバッグと習字道具と裁縫道具が適当に積み重なって置いてある。なお裁縫道具はドラゴンの柄のかっこいいやつだ。


 しかし、おかしな話だ。

 どこからどう見ても埼玉県某所赤木家のあの部屋だ。

 つまり、この風景は間違いなく実家の俺の部屋のものである。

 

「これは一体……」

「ここは赤木さんの深層意識のなかとでも形容すべき精神世界です」

「深層意識……? 精神世界……?」

「有体にいえば夢の中とでも言いましょうか。赤木さんは今、ぐっすりすやすや眠っていて、肉体は休息をとっている頃でしょう。わたしは特殊な手段で南極のダンジョンキャンプから赤木さんの夢と通信をしているのです」

「そんな馬鹿なことがあるわけ━━」

「鳥がヒロイン面して喋る世界ですよ」

「そんな馬鹿なことがありましたね」


 うん、ある。

 夢の世界くらい普通にある。


「なのでわたしは修羅道ではないのです」


 修羅道さんは澄ました顔で瞼を閉じる。かあいい。


「修羅道さんじゃない? それじゃ一体何者だというんです……?」

「━━ドリーム修羅道。そう、ドリーム修羅道と名乗るのが正しいでしょう」

「修羅道さんですよね?」

「いいえ、違います。わたしはドリーム修羅道です」

「修羅道さん、ふざけてる場合ですか? 割と南極遠征隊のピンチですよ?」

「ドリーム修羅道……」

「ああ、もういいですよ、ドリーム修羅道さん!」

「はい、ドリーム修羅道です」


 修羅道さん、否、ドリーム修羅道さんは瞼を開いて、紅色の瞳をキランっと輝かせ、慈悲深い微笑みを送ってくる。


「まずは赤木さんが無事なようで安心しました。あんまり心配はしていませんでしたが」

「あんまり心配してなかったんですね」

「はい、あんまり心配してませんでしたね。赤木さんを信じてましたから。なにより赤木さんはダンジョンに愛されていますからね」

「ダンジョンに愛される……」

「アダムズの寵愛を受けているとも言えますが」

「アダムズ?」


 はてどこか引っ掛かる。

 最近、聞いたか、見たかしたような……ああ、そうだ、あれだ。

 俺は指を鳴らして数日前のデイリーミッション『ハントレス』の報酬で入手した『アダムズの聖骸布 1/24』を取り出した。見た目は赤い布の切れ端だ。


 ────────────────────

 『アダムズの聖骸布 1/24』

 偉大なる赤い血のアダムズを包んだ聖布

 その切れ端 

 祝福の力を増大させる効果がある

 異神の世界で纏えば光も届きやすくなる

 ────────────────────


「こんなものを手に入れたんですけど」

「これはまた凄いものを手に入れましたね。流石は赤木さん、愛されていますね」

「それはどうも。修羅道さんの言っているアダムズさんと同じアダムズさんですか?」

「おそらく同一存在だと思います。赤い血のアダムズ。彼あるいは彼女はわたしたちに祝福をもたらしている地球の神様とでも思ってください。スキルもステータスもこの親切な方がわけてくれているんですよ」


 初めて知った。アダムズさん、良い人だなぁ。


「その赤い布はアダムズさんの骸を包んだ布ですね。異世界を探索するうえで役に立つかもしれません。頑張って集めてください!」

「でも、アドルフェンの聖骸布より雑魚くないですか? 効果が弱そう」

「赤木さんは字が読めないのですか? 頭よわよわさんですか?」


 修羅道さんはプクッと頬を膨らませ、腰に手を当ててたしなめてくる。


「その聖骸布を完成させれば、祝福を受領する量が単純増加するでしょう。赤木さんのすべてのステータスが増大するという意味ですよ」


 うーん、ちゅよい。


「同時に異世界にいてもアダムズの祝福を強く受けれるということです」

「異世界にいても?」

「気づきませんでしたか? アダムズから受ける祝福が大幅に弱まっていることに」


 俺は心当たりがないか思案する。

 

「どうですかね。『銀の盾』が使えなくなったり、『蒼い胎動』でHPが自動回復しなくなったり『恐怖症候群』の効果が変わったり、そもそもHPもMPも自動回復しなくなったりしましたけど、あんまり心当たりは……」

「頭破られたいんですか? 心当たりありまくりじゃないですか!」


 修羅道さん、否、ドリーム修羅道さんいわく、アダムズさんの祝福はダンジョンに足を踏み入れた段階で減退が始まっているという。つまりステータスも理論上の最大状態はダンジョンの外にいる時と言うことらしい。

 とはいえ、普通のダンジョンではステータスの減退を体感することはない。深さが大したことはないので、十分にアダムズの祝福を受けれるためらしい。


 しかし、アルコンダンジョンは違う。

 特に活性状態のアルコンダンジョンでは祝福の減退が顕著になるという。

 なぜならアルコンダンジョン、ひいては異世界はアダムスさんとは違う神様の権威が生きていることが原因だといわれているらしい。


 そのため、活性状態のアルコンダンジョンに足を踏み入れた段階で、アダムズの祝福は大幅にカットされ、探索者は本来の力を発揮することはできない。

 今回の南極遠征隊にAランク以上の探索者しか参加が許されていないのは、ある程度まで祝福を減退させられても戦力として通用する者でないと、探索に参加するのは危険であると判断されたためなんだとか。


「太陽から離れるほどに惑星の表面温度が下がるように━━」

「ふぅん(訳:ちょっと頭に入ってこないかも)」

「仲間内では騒がしい陰キャが、人前だと口にセメントを詰められたみたいに黙るように、わたしたち地球育ちの子はよその世界では100%を発揮できないのです」


 なるほど、実にわかりやすい。


「でも、安心を。アダムズの光は確実に赤木さんの元にも届いているようなので。どんな宇宙の深淵でも恒星の輝きが見えるように」

 

 ドリーム修羅道さんはパチンっとウィンクして笑みを作る。かあいい。


「ところで、修羅道さんは何しに俺の精神世界まで足を運んでくれたんですか」

「あ! それを忘れるところでした! 赤木さんが鍋拭きにしか使えなそうなボロ布を取り出したせいで話が逸れてしまいました!」


 鍋拭き、ボロ布。

 アダムズさんへの敬いが足りてますか? 大丈夫ですか?


「いいですか、赤木さん、今、魔道のアルコンダンジョン攻略は大きなプラン変更を余儀なくされている状況です。私は赤木さんが困っているだろうなっと思い、導きを与えるためにドリームしてるのです」

「ふふ、修羅道さん、俺のことをみくびりすぎではないですか?」

「ドリーム修羅道です」

「はい、間違えました、ドリーム修羅道さんでしたね。俺だって考えて行動をしているんですよ」


 我が頭脳がたどり着いたプランをドリーム修羅道さんへ説明した。


「悪くない作戦だと思います、やりますね、赤木さん」


 褒められた。嬉しい。


「ここで追加の情報と行きましょう。実は魔導の遺した世界に残留できている南極遠征隊員は多くありません。多くの探索者さんと財団職員は魔導サイドからの反撃を受け、魔導のアルコンダンジョンを通じて弾き出されてしまったのです!」

「え? それじゃあみんなそっちに帰ってるんですか? よかった、ならもう一度、部隊を組み直してリスタートしましょうよ」

「それができないのです」

「一体どうして……?」

「魔導サイドの攻撃によって入り口が壊れてしまったからです。空間系の強力な神秘が行使された影響でしょう。これも向こう側の狙い通りだったのかはわかりませんが、結果として南極遠征隊は追い出され、大部隊を送り込めなくなってしまいました」

「待ってください。入り口が壊れたってことは俺取り残されてませんか」

「赤木さん」

「はい」

「細かいことはひとまず置いておきましょう!」

「いやいやいや、これ俺、絶対に取り残されて━━」

「赤木さん」

「……はい」

「細かいことはいいんです!」


 細かいことはいい、か。

 そうだな、ひとまずそのことは置いておこう。

 修羅道さん、かあいいし。











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 こんにちは

 ファンタスティックです


 この度、書籍化作業を進めていた本作の発売日が発表されました!

 

『 今となっては懐かしい世界最後の原始世界、治外法権無秩序帝国グンマーで繰り広げられる血と狂気に染まった赤木英雄の物語の序章━━━━

 誰が敵で、誰が味方なのか、全米が泣いた、今年最高の感動を。

 アカデミー賞最有力候補、あなたは必ず騙される、怒涛のラスト15秒。

 一大スペクタクル小説『俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活』、2022/12/20 ファンタジア文庫より刊行開始━━━━ 』

 

 はい、と言うわけでカドカワの公式サイトやアマゾン、楽天などで検索かけると、本作の書籍に関する情報を見られるようになったという報告でした!

 ちなみに書籍版では著者名をファンタスティック小説家からムサシノ・F・エナガに変えてお送りします!

 裏世界ではファンタスティック小説家、表世界ではムサシノ・F・エナガとしてこれから活動していきたいと思います。よろしくお願いします!

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