追放されたっぽい英雄
スケルトン軍団を全滅させた。
洞窟は破砕した骨だらけになっている。
倒した数は数えてないが確実にデイリーミッションも完了しただろう。
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『ハントレス』
鼻歌唄いながら投げ斧でキル 12/12
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 『アダムズの聖骸布 1/24』
継続日数:227日目
コツコツランク:ブラック 倍率100.0倍
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無事に完了している。
報酬は『アダムズの聖骸布』とな。
む。1/24となっている。24分の1フィギアという意味ではないだろう。
見た目はハンカチ程度の布地である。
ボロボロで深い赤色をしている。
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『アダムズの聖骸布 1/24』
偉大なる赤い血のアダムズを包んだ聖布
その切れ端
祝福の力を増大させる効果がある
異神の世界で纏えば光も届きやすくなる
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赤い血のアダムズ君のお洋服という解釈でよろしいでしょうか。
以前、俺が着ていたアドルフェンの聖骸布と似た雰囲気を感じる。
祝福を増大させると言うが、具体的になにを示す言葉なのかは現状不明だ。
わかってるのはこの赤い布の切れ端を24枚集めないといけないってことくらい。
アダムズ君さぁビリビリに破きすぎじゃない。メンへラなのかな。
深紅の大斧をひろいあげて超捕獲家でムゲンハイールへ回収する。
ふりかえる。背後では皆が唖然として俺のほうを見つめて来ていた。
むむ。よく見ればセイとビリーが怪我している。
「動かないで」
ドクター赤木の気まぐれ治療を完了し「脅威は去りましたよ。行きましょう」と一行の行軍をうながす。
「フィンガーマン、殿。あなたは一体何者なのですか?」
ビリーはひどく動揺した顔で、今しがた注射をおこなった首を押さえて訊いて来る。
「その質問はどういう意味ですか」
ことと次第によってはここら辺でポコポコにして彼らの前から姿を消さなくてはいけない。俺がダンジョン財団の手先だとバレるのは危険をはらんでいる。
「どういう意味もなにも、そのままですとも。一体どうして正体を隠すのです。あれほどの戦いを繰り広げられるブロンズ級などいません!」
「武器も大変に立派でありました。とても普通の鍛冶屋で鍛えられた物には見えない」
「一体どこの国の英雄さまなのですか?」
これはアレだな。
お前のようなババァがいるか状態か。
力をセーブしたつもりなんだが少しやりすぎたかもしれない。
指パッチンを使ってはパール村の時みたいに周囲を驚かせすぎてしまい、結果として疑いの眼差しを向けられるから、今回は用心したのだが。
斧投げなら常識の範囲内の攻撃方法だろうから疑われないだろうと。
斧投げでも彼らには突飛に映りすぎたらしい。
みんな俺の正体を疑っている。
いや、これは疑っているというか『ブロンズ級なのにこの戦闘能力はありえない』という疑い方だろうか?
だとすればみんな俺が財団の手先ということを疑っているよりかは、シンプルにどこでこんな実力を身に着けたのかという力の所在が気になっているのかも……?
そうに違いない。思えば普通の異世界人はダンジョン財団の存在すら知らないのだ。彼らはニュートラルな状態で「どこに財団の尖兵が紛れてるんだぁ?」という視点を持っているわけではない。
「フィンガーマン殿……不躾な問いでした、お許しください」
「ん?」
腕を組んで沈黙して考えていたら勝手に会話が進んだ。
ビリーは周囲の皆と目配せして「先を急ぎましょう」とプロフェッサーへ進言する。
「そうしようか。かの英雄殿についてはまたあとででよい」
ニールス商会のメンバーは砕けたスケルトンの山のほうへと向かう。
そこで腰を折ってなにかをし始めた。
遠目に見ているとセイが首を押さえて隣に来る。
「治癒をありがとうございました。やっぱり足手まといになってしまいました……申し訳ございません」
「気にすることはないですよ。セイにはたくさんお世話になってますから。お互いに自分の得意なことに専念しましょう。そのほうがクールです」
「剣も得意なはずだったのですが……ハイスケルトン。まさかあれほどに強力なモンスターだったなんて。私もまだまだ未熟者です」
ハイスケルトンくん。
お前、強力なモンスターという位置づけだったのか。
「どうしてみんなしたり顔で俺への追及をやめたか、わかりますか?」
「皆さん、ヒデオさまのことをワケありな方と思っているのかと」
「ワケあり、ですか」
「正体を隠し、異国から離れた地にやってきた英雄。追放か、流罪の者か、あるいはお尋ね者か……なんらかの理由があって身分を明かせないと考えているのだと思います」
セイは賢い子だな。
全然わからんかったよ。
なるほど。
周囲からはそう見えているのか。
追放されたっぽい英雄。言われてみれば納得だ。
「ヒデオさまの正体を私は詮索いたしません」
セイもまたしたり顔で見上げて来る。
「パール村で私たちを救ってくれた。あの姿こそがヒデオさまだと確信しています。過去に何があろうと」
新しいストーリーが追加されてしまった。
やや勘違いされているが、まあよしとしよう。
セイの羨望の眼差しを濁らせたくはない。
子供にカッコいい姿を見せるのも大人の仕事だ。
「ところでニールス商会はなにしてるんですかね」
「それは私にもいまいちわかりません……」
ビリーのもとへ赴いてみる。
どうやら錆びた武器を集めているらしいとわかった。
「どうして武器を?」
「どうしてって……そりゃあお金になりますからね。錆びていても鉄器の類は高値が付きます」
言ってビリーは嬉しそうにハイスケルトンが振り回していた鉈を両手で重たそうに持ちあげる。
「これは一か所に集めて隠して置くんです。入り口からほど近いので帰りに回収します。隠すのはほかの冒険者があとから来て拾われないようにするためです」
超捕獲家でムゲンハイールにしまってあげてもいいが……あまり力を多用するのもよくないだろうか。現状、俺が地球でのダンジョン生活で身に着けたスキルや異常物質はこの世界では破格の効果を発揮している。
おそらく無限の収納能力を誇るムゲンハイールもまた破格の異常物質、否、マジックアイテム扱いされるかもしれない。だとすればひけらかすのはよくない。厄災たちがいたら「それは悪手だろ」とツッコまれること請け合い。
セイにはムゲンハイールの能力をばらしてしまっていた。
あとで口止めしておこう。
武器を岩陰に集め終え、ニールス商会が戻ってくる。
面々は予期せぬ大収穫にとても嬉しそうだった。
帰る時にはボーナスが確約されたも同然なのだから。
ちなみに武器の8割は俺とセイに譲ってくれるとのこと。
どれくらいの金になるのか楽しみだ。
洞窟をくだり、いよいよ水の流れるおとが音が聞こえる。
進めば湿った空気は強くなり、ヒカリグサも量も増えて来た。
広いスペースに出た。
天井まで何十メートルもある広大な空間だ。
天然の石柱が天と地とを支えている。
厄災島のジオフロントを思いだす光景だ。
大地には幅の広い河が激しい勢いで流れており、白い飛沫をあげていた。
地底河か。もっとチョロチョロ流れてると思ったが、想像の100倍激しいな。
「いつ見ても神秘的ですね」
ビリーたちは見慣れているのか俺ほどのリアクションは示さなかった。
「この流域だ。捜索を開始しよう。周囲を固めておいてくれたまへ」
プロフェッサーと学生たちはたいまつで周囲を照らしながらキョロキョロと探し物をしはじめた。件の秘文字とやらを探しているのだろう。
魔術師一行が仕事する他方、俺たちは周囲を警戒する。
しかし、ニールス商会は本日の仕事は終わりとでも言いたげな気楽ムードだ。
「どうしてそんなに余裕そうなんですか。さっき死にかけたのに」
「あ、すみません、気に喰わなかったですか……!?」
ビリーは動揺して組んでいた腕を解いた。
なんだよ。訊いただけなのに。俺、そんなに恐いか。
「尋ねただけですよ。非難するつもりなんてありません。手を抜くときに抜いて、力を入れる時に入れるのは大事なことでしょう」
「そうですよね。ふぅ……(怒らせてはいけない……斧投げられる……っ)」
胸をなでおろすビリーの代わりにキンバルが答えてくれた。
「広大な空間なので敵が近づいて来ていればすぐにわかりますからねぇ。それにさっきのスケルトン軍団がいたでしょう? あれは尋常な数じゃなかったです」
「そうなんですか」
「たはは、流石はフィンガーマン殿……歯牙にも掛けないとは……こほん、とにかくアレほどのモンスターの一団は周辺のスケルトンたちが集まったとしか考えれませんからぁ、もうこの流域には主要な出現モンスターのスケルトンはいませんよ」
ベテランの者たちが言うならそうに違いないのだろう。
「でも、あのスケルトンの軍団は異常だったな」
「まあ確かにねぇ」
「ありえない数です。それにこの浅い流域にハイスケルトンほどのモンスターが出現するという話も聞いたことがない」
「地底河で異変が起きているとかじゃないか?」
「そんなのボクたちにわかることじゃなくない?」
ニールス商会は顔を突き合わせて、いつもと違う地底河に難色を示す。
「もしかしたら地底河の別の流域でなにかあったのかも……モンスターの生息域が変化するとか」
ビリーは腕を組み、顎に手を添え、難しい顔をする。
「君たち、こっちに来てくれたまへ」
プロフェッサーの声が掛かった。
向かうと岩場向こうに人工物の残骸が目についた。
古い遺跡の一部のような岩だ。風化して全体的に丸くなっている。
「絶滅の戦争により近しい時代の遺跡の破片だ。すごいことだぞ。まさかまだ遺っていたなんてな。とっくにマーロリのやつらに回収され尽くしたと思っていたが」
プロフェッサーは鼻息を荒くして遺跡の破片を調べはじめた。
ニールス商会も「絶滅の戦争時代の遺跡だって」と浮ついた雰囲気になっている。
俺はみなの気楽な雰囲気のなかに不気味で陰湿な視線を感じ取った。
視線を向ければ黒い影が激しい地底河を歩いて渡ってきていた。
黒く錆びた鎧をまとい、ボロボロのマントを激流になびかせている。
黒鉄の大剣をひきずりながら生気なく進む姿は亡者のようだ。
「なんかいますけど」
言うと皆が「え、またですか?」と言いたげに慌てて周囲を警戒しはじめた。
俺の視線の先を負い、ビリーたちは「ぁ……」と黒い亡者に気づく。
「まさかそんな……あれはヌシ……!?」
「地底河の悲鳴……」
ビリーとキンバルは顔を蒼白にさせて言葉を溢した
どうやら有名人のようだ。
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