謎満ちる大物ルーキー

 デイリーミッション『ハントレス』では12体を斧投げてキルすることが目標だ。

 斧は複数本あるので適当に投げてればミッション自体は達成できるだろう。

 

 ただ、すぐに投げるのはもったいない。

 ニールス商会の戦い方に興味がある。

 シルバー級冒険者がどれくらい動いて、戦えるのかを見ておきたい。

 この世界は俺にとって未知の領域なのだから。



 ──ビリー・ニールスの視点



 眠れるスケルトンたちが目を醒ましたことにすぐ気が付けたことは、ビリーたちにとって驚愕と幸運であった。


 通常、スケルトンという最下級アンデットはこうした陰湿な場所にひっそりといるもので、闇のなかで静かに来訪者を待つことで知られる。

 彼らがそっと起き上がる所作に気が付ける者は多くはない。

 たいていは骨のかすれる音と接近の足音、あるいは装備の擦れる物音で気が付くのが常である。


 しかし、フィンガーマンはスケルトンたちの起動事態を察知した。

 昨日今日デビューしたばかりのブロンズ級冒険者にできることではない。


 ビリーは薄々、彼が並みの戦士ではないことに気が付いてはいた。

 振る舞いのすべてにオーラがあったからだ。

 具体的になにがどうすごいのかを言語化するのは難しかったが、とにかく只者ではない抑え込まれた覇気を纏っていると感じていた。


「スケルトンの数は10体、12体、15体……20体はいるな。まずい。群れだ」

「ビリー様、あれを」


 バルドウは指さす。ヒカリグサの青白い光のなか、スケルトンの群れを侍らせるようにしてデカい屍がゆっくりと起き上がる。

 分厚い太骨をもち、大柄な男の骨格を持っている。

 手には鉈を握っており、空虚にくぼんだ眼底には赤い光が宿る。


「まさかハイスケルトンか? 戦等級100のモンスターがなんでこんなところに……装備を新調しておいて正解だったよ」


 スケルトン系のモンスターには打撃属性の攻撃が有効だ。

 ミズカドレカ地底河にアンデットが出現することは事前にわかっていたため、ビリーらには備えがあった。

 

 ビリーは剣の鞘と柄とを紐で固く締める。

 鞘の外側は金具で補強されており、刃を抜かず、柄を握ってふりまわすことで簡易的な打撃属性の武器の代わりになるのだ。


「キンバル、数を減らしてくれ!」

「え? あ、うん……」


 ビリーはキンバルらのほう一行の後方を見やる。

 フィンガーマンが見間違うほどの巨大な戦斧を担いでいるのが目に入る。

 思わず目を丸くして「……ぇ?」と、戦闘直前にも関わらずマヌケな声を漏らしてしまった。


 深紅のおおきな大きな斧である。

 長さは本人の身の丈を上回り、分厚い刃はとても人類が扱えるようなサイズ感ではない。斧の柄はフィンガーマンの片手で握られている。いったいどんな握力があれば、斧のすべての重さを支えることができるのか。否、斧を乗せている肩は大丈夫なのか。膝からバギっと崩れ落ちはしないのか。


 常識外れの光景に口をパクパクさせる。

 フィンガーマンをすぐ隣で見ていたキンバルと無言で視線を交差させ、感情を共有する。なんなのこの人、と──。


「どうぞ。俺に構わず」


 フィンガーマンは言ってスケルトンのほうを見やる。

 ビリーはハッとして、自分たちがアンデットの群れに襲われようとしている現実を思い出した。


「バルドウ! キンバル!」


 ビリーの声に反応し、キンバルは杖を構えた。

 ステッキサイズの杖の先端には赤い石が埋め込まれている。


「燃える結晶よ……火線ライオレイ

 

 キンバルは杖をぐわんっと力強く振った。

 紅い光が起こり、それは炎となってバチヂッ! と激しく火花を放って空中に燃え尽きる線を描きだした。

 火の尾をひいて赤い光がスケルトンの1体に命中。

 ちいさく爆発を起こして、スケルトンは砕け散った。


 バルドウは大きな木盾を前面に押し出してスケルトンを吹っ飛ばす。

 1体が転倒したが、2体がスクラムを組むかのようにバルドウの大盾をがしっと掴んで対抗してくる。


「押さえてろ」

「はい!」


 ビリーは金具で補強された鞘付き剣でスケルトンの1体をぶっ叩く。

 頭蓋骨に命中し、べぎっとヒビが走った。

 ビリーは大きく息を吸い、もう一度腕を振り上げて、同じスケルトンを上段から力任せに叩いた。二度の殴打を受けて頭蓋骨は割れた。スケルトンの体が崩れ落ちる。その様は糸の切れた人形のごとし。


 ハイスケルトンが走って来る。

 仲間が倒されたことで怒り状態へ移行したのだ。


「あいつからやるしかない!」


 ビリーの声を受けて、バルドウは瞬時に周囲の状況を確認する。拮抗する力が1体だけとなったことで、大盾を一気に押し込んだ。スケルトンが吹っ飛ぶ。


 手が空いたことで、ハイスケルトンの攻撃に備える余地が産まれた。

 バルドウは戦術ルーンの輝きを思いだす。彼の脳裏に刻まれたソレは熟成された技の定型文である。


「『突撃盾チャアジ』」


 バルドウは深く踏みこみ、大盾をぐわんっと伸びるように前へ突きだした。

 ハイスケルトンは大きく振りかぶってビリーを鉈で両断する勢いだったが、歩幅をズらされ、強力なタックルを受けたことで体勢を崩させた。

 バルドウの戦術ルーンにまで磨き上げられた突進は、大人の男ですら吹っ飛ばす威力を誇る。いかに頑強なモンスターだろうと通用するのだ。


 ビリーはバルドウの背後から流れるように飛びだし、金具付きの鞘でハイスケルトンの膝裏を思いきり叩いた。

 ビヂっとダメージが入った音がした。骨と、鞘に。


 ビリーはまさか三撃目で鞘に強度的限界が来るとは思わず、びっくりしてしまった。その間にハイスケルトンは姿勢を立て直し、周囲のスケルトンはビリーへ攻撃を加えようとする。


 スケルトンの握る錆びついた朽ちた直剣を叩いて弾き、頭蓋骨を思い切り2回殴ることで不浄な命をまたひとつ消し去った。


 だが、スケルトンに時間を使わされたせいで、今度は最大の問題であるハイスケルトンが再びビリーを頭のてっぺんから潰さんと鉈をふりおろしてくる。


 間に身体と盾を挟み込むバルドウ。

 鉈が大盾を割る。

 そう思われた瞬間、キンバルは魔力を練り終え、2発目の火線ライオレイを放った。

 

 空中を焦がして光の線を残し、ハイスケルトンの肩に焦げ跡と亀裂を走らせた。

 腕がグシャンっと崩れて、隻腕になった。脅威はおおきく減った。


 しかし、時間をかけすぎた。

 皆がハイスケルトンに気を取られすぎたせいで、周囲のスケルトンがぞくぞくとにじりよって来てしまっていたのだ。


 バルドウは大盾の底──金具で補強されている──でスケルトン突き飛ばしてちかづけさせない。

 ビリーも同様に対処しようとしたが、ハイスケルトンの攻撃を飛び退いてかわすことで手一杯であった。


(クソッ、思ったよりずっと硬いし、速いし、強い……!)


 スケルトンだからと打撃属性さえあればなんとでもなるとタカをくくった結果であった。倒れたビリーへハイスケルトンの鉈が振り下ろされる。あわやそれまでか、と思われた時、ちいさな影がたいまつを放り捨てて駆け込んできた。


「やぁぁあああ!」


 後方から走り込んできたセイラムだ。

 彼女は鞘付きの剣でスケルトンを下段から力いっぱいに叩き上げた。

 鞘と鉈がぶつかりあう。

 セイラムはチカラ負けして吹っ飛ばされる。

 剣も明後日の方向へ弾き飛ばされてしまう。


「今のうちに逃げてっ!」

「すまない、たすかった!」


 ビリーへの致命の一撃は回避され、隙をついて下がった。

 じり貧の状況に追い込まれたことは変わらない。

 

(ハイスケルトンがこんなに強いなんて。……ん、あれは!)


 ビリーたち一行は驚愕の事実に気が付いてしまった。

 片腕を失ったハイスケルトン、その後方でヒカリグサの青い光に照らされて映し出される太骨のスケルトンの軍団を認識したのだ。

 

 数は10体はくだらない。

 ハイスケルトンの群れであった。


「嘘だろ……こんなの聞いてない……ああ、最悪だ、ツイてない」


 ビリーは目まぐるしく頭を回転させる。

 だが、状況を切り抜けることは経験上むずかしいと思われた。

 撤退の決断をくだそうとする。リーダーの務めだ。


 暗闇をおおきな影がブォンっと回転しながら横切った。

 空気を押しつぶすような低音を響かせたのち、ハイスケルトンがガラス細工のように砕けて、弾け飛んだ。

 ビリーは「へ?」と物影の飛んで来たほうを見やった。


 ダンディな鼻歌がどこからともなく聞こえ始めた。

 視線をやればフィンガーマンがゆったりとした足取りで群れへと向かっていく。

 袖をまくりながらパチンっと指を鳴らす。

 中空より白い手が無数に出現し、新しい深紅の斧を彼に手渡すではないか。


 フィンガーマンは斧を手に取ると、奥のほう──20mほど先──のハイスケルトンへ投擲した。狙いは正確無比、ハイスケルトンは鉈で受け止めようとするが、鉈ごと破壊し、頑強な骨は砕けた。衝撃波で周囲のスケルトンたちも吹っ飛ばされている。


 ビリーもバルドウも「すげえ……」と声を漏らすことしかできない。

 次々と斧が投擲され、やがて砕けた骨の山ができあがるまで、一同は圧巻の戦闘を息も忘れて見ていることしかできなかった。


「なんという怪力だ。あんな得物を投げて使うなんて……しかも鼻歌を歌っている……まさか昼下がりの散歩と変わらないとでも? どういう精神状態なんだ。誰か教えてくれ……彼はブロンズの冒険者ではないのか?! 一体何者なのだ……!」


 プロフェッサー・ノウは驚きに困惑し、周囲にたずねた。

 誰一人として、魔術師の理解不能に答えをくれる者はいなかった。

 















 


 


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 こんにちは

 ファンタスティックです


 一身上の都合で更新頻度を一時的に2日に1回にペースダウンさせていただきます。


 一身上の都合と言うのは執筆筋ライティングマッスルの機嫌のことでございます。

 ファンタスティックはもうずいぶん小説投稿を行っているので、創作の造詣があったりなかったりします。私の経験上、モチベーションは一定ではなく書きたくなる時期とそうでもない時期が周期的に訪れます。

 NASAでは執筆筋周期サイクル・オブ・ライティングマッスルと呼ばれていることは有名な話ですね。長く続けるためには時には歩くことも大事といいます。これは第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンが残した言葉ではありません。

 

 毎日更新に戻す予定ですが、私のほうの状況次第といった具合でございます。

 言えるのは更新が途絶える訳じゃないので安心してほしいと言うことです。


 手札から永続罠『二日1回更新』を発動し『三日1回更新』を伏せます。

 これで私はターンエンド。

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