黄金の指鳴らし
「ヴィルトル大通りをまっすぐ行けば冒険者組合に着きます。行ってみますか?」
「すぐに行きましょう」
セイの導きに従い進む足取りは軽い。
リトル赤木もオンラインしてる。
「ここが冒険者組合ですよ」
デかい建物だ。粗野な印象のつよいちょっとぼろい感じだ。西部劇に出て来たら100%の確率で撃ち合いがはじまって、主人公はカウンターに飛び込んで、敵とドンパチおっぱじめる感じの建物だ。
テラス席には酒瓶を片手に道行く者たちを見分する男たちで満席だ。皆がこちらを見て来る。目合わせんとこ。こわ。
中に足を踏み入れる。
外観と内装のイメージは1mmもズレていなかった。
うん。この雰囲気。店主がショットガンをカウンターの下から取りだすためだけにあるような空気感だ。
「冒険者組合では仕事ができるのですよ。クエストと呼ばれる依頼を受注して、達成して報告することで依頼料を受け取ることができます」
「ここで仕事をしてセイは成り上がろうと」
「成り上がるかまでは考えてませんでしたけど、少なくともその日の食い扶持を稼ぐことはできたかなとは思ってます」
セイは腰に差した剣をおさえる。
彼女は剣の心得があると言っていた。
大胆で、かつ強かな子だ。
冒険者組合についてセイに詳しくたずねた。
冒険者は英雄的な側面をたぶんに含んでいるという。
危険なモンスターと戦う職業だからだ。
この辺は財団の探索者と変わりないかもしれない。
冒険者には等級があり、上の等級にたどり着くと著名になり、名声を得られるという。複数の都市で名が売れ、頂点にたどり着けば国境を越えて噂されるとも。
俺の睨んだとおりだ。
あーにゃはただ闇雲にワクワクしていたわけじゃない。
そこに本来の目的を達成する糸口を見出していたのだ。
達成するべき目的はふたつ。
①南極遠征隊を襲った敵に見つからないこと
敵の強さは未知数だ。遠征隊をまるごと攻撃してくる大胆不敵をもっている。
俺一人で戦うのは危険性が高い。
②味方との合流
なにはともあれこれが優先される。
南極遠征隊の組織としてのチカラを取り戻さなければ、よその世界で勝機はない。
俺の完璧なプランはいま完成した。
冒険者として名を広めることで健全にかつ安全に、散り散りになった南極遠征隊の注意を引く。『敵にはバレず』、『味方にはアピールする』。『両方』やらなくっちゃあならないのがSランク探索者のつらいところだな。
「冒険者よ、困難を乗り越えよ! ──ようこそ、ミズカドレカ冒険者組合へ」
カウンターへ赴くと受付嬢らしき女性が元気に挨拶してくれた。
金色の髪をした豊かな胸のお姉さんだ。かあいい。
「セイ、登録を手伝ってもらえますか」
「おまかせあれ」
登録代と紙代として3ミニクリスタを支払った。
受付嬢にあれやこれや手伝ってもらいながらセイは書類を一枚書く。
「こちらで代筆いたしますが? その場合は追加でもう1ミニクリスタ支払っていただきますが」
「いえ、結構です。こちらで書けますのでご心配なく」
セイは言って羽ペンを手に取った。
彼女は字も書けるらしい。筆使いも達者で字も流麗だ。
「字を書ける人間ってどれくらいいますか?」
「え?」
セイにたずねると彼女は考えた風に顎に手を添える。
「村で書けたのは私と領主さま、屋敷仕えの騎士さまたちだけでした。仕事も多少手伝っていたので、字には慣れ親しんでいるんです」
この世界の識字率がいくらなのか知らないけど、彼女は意外と博学なのかもしれない。普通の村人は字を書けないとな。彼女は特別というわけだ。
竜皇の娘だからバチカルロが気を使って教えていたのかな。十分にありえる。
「ヒデオさま、名前はアカギ・ヒデオでいいですか?」
「フィンガーマンでお願いします」
「本名じゃなくてもいいのですか」
「名前はいくつもあるんですよ」
アカギ・ヒデオにしなかったのは知名度が低いからだ。
フィンガーマンのほうがならフィンガーズギルド以外の探索者が聞いても「指男がいる!」ってわかるだろうしね。
「パーティ名はどのように」
「それは必要なんですか?」
「冒険者はパーティ単位で認識されることが多いので、付けて置いたほうが知名度向上には役立つかと」
受付嬢にニコニコされながら知名度向上と言われては、付けない訳にはいかない。
「セイは案ありますか」
「『黄金の指鳴らし』とかはどうですか」
「じゃあそれで」
パーティ名は『黄金の指鳴らし』になった。
なお気が付けば俺とセイはパーティを組むことになっていたが、しばらくの付き合いになると思うので深くは言及しなかった。
「登録は完了です。こちらは冒険者タグになります」
カウンターにおかれた2つの銅色の板。
ドッグタグに似ている。この前、要注意団体『ジョン・ドウ』が厄災島を襲って来た時、こんな感じのをみんな付けていた。
「冒険者タグは身分の証明にも使えます。他所の冒険者組合へ赴いた際にスムーズに手続きを行うために必要なものになります」
冒険者等級についても教えてもらった。
等級はブロンズ級からはじまり、シルバー級、ゴールド級、プラチナ級、オリハルコン級、リオブザル級とつづく。リオブザルは古い英雄の名らしい。
目指すのは最高等級のリオブザル級冒険者だ。
そこに達すればあとは寝てるだけで南極遠征隊のメンバーが勝手にこの街に集まって来る。まじ俺、天才すぎでは。
「リオブザル級になりたいのですが、どうやったらなれますか?」
俺は受付嬢にたずねてみる。
それまで流暢に手続きをしてくれた彼女の表情がピクっと固まった。
「ははははっ! 今日、組合に来たばかりのルーキーがリオブザル級だってえ? こいつは傑作じゃあねえか!」
昼間から酒を飲む男がどっと笑い声をあげた。
茶色い髪の粗野な男だ。
「小便くさい餓鬼はよ、身の程もわきまえず大仰に青くせえ夢を語りやがる」
粗野な男のまわりには数人の仲間がおり、皆で丸いテーブルを囲んでいる。
男はテーブルに突き立てられていた短剣をズギっと抜き手に近づいてきた。
「俺は指無しのフランチェス。冒険者になって長い。世の厳しさって知ってる。どうだ、教えてやろうかルーキー」
抜き身の短剣を俺の顔のまえでチラつかせる。
たしかに右手の小指と薬指がない。
「女なんか連れて、綺麗な顔しやがって……」
「フランチェスさん、トラブルはどうか」
受付嬢はサっと声を挟む。
指無しのフランチェスは肩をすくめ「まあいい」と言って短剣をしまう。
「あんまり跳ね返るなよ。平穏に生きたきゃな」
背を向けてテーブルへ戻ろうとする。
「腹立たしい野郎だ」
ボソっと言うとフランチェスは足を止め、こちらへゆっくりと振り返った。
「てめえ今なんつった」
テーブルのやつらも一斉に立ちあがる。
ロビーの空気が一変した。
「おもしれえ野郎だな。嬢が止めてくれたってのに。身の程をわきまえねえよそ者には教育が必要だな」
短剣を抜き、詰めて来る。
俺は軽く拳をかため扉をノックするように力を抜いた緩いジャブをフランチェスの顔面へ打った。
弾きだされた礫のように、フランチェスは組合のロビーを横切って吹っ飛ぶ。
扉を突き破りヴィルトル大通りまで叩きだされ、白目を向いて動かなくなった。
ロビーが沈黙と緊張に支配される。
ジャブの衝撃波で舞い上がった塵埃がふわりふわりと舞い落ちる。
「跳ね返るな。平穏に生きたいならば」
言って俺は拳をおろしてポケットに入れる。
「どうした。なんで立ってるんだ」
「い、いや、俺たちはその……」
フランチェスの仲間たちは言葉を詰まらせ、決まり悪そうに急いで腰を下ろした。
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