洞窟踏破
鋭利な切断面をさらして崩れる玉座と骸骨。
絶剣エクスカリバーは気をつかって繊細な斬撃を心がければ誘爆するこもない。
問題なのはその気をつかうというプロセスを俺が苦手としていること。
まあ今回はある目的のためにうまくいったのでよしとする。
塵埃が舞い、それが落ち着けば、あとには静けさと揺れる炎の音しか残らない。
京都タワーの時とはちがい、今回は爆発はさせないよう注意したので、周囲は必要以上に散らかっていない。これもエボンの賜物だな。
わずかな経験値の獲得を感じた。
でもまじでわずかだ。大した事ない。
先ほど投げたムゲンハイールを回収する。
結構な速さで放ったが丈夫に作ってあるので軽く傷がついた程度で済んだ。
「こいつはなんだったのか」
骸骨の遺骸をまえに膝をおって軽く検分してみるが何かわかるわけもない。
だれか科捜研を呼んではくれないか。くれないか。
「財宝、広いスペース、雰囲気……ボスですね」
俺の探索者としてのキャリアからくるプロファイリングにさせてもらえるなら、まず間違いなくダンジョンボスのようなボス格にあたる存在だ。
なにより可愛い動物の姿をしていない。
アルコンダンジョンに突入する直前のミーティングを思い出せ。
ハッピーさんは教えてくれたはずだ。モンスターが可愛く見えるのは探索者たちが発狂しないようにフィルターが掛けられているからなんだ。
フィルターを突破してくるのは強いモンスターと相場が決まっている。
骸骨は明らかに可愛い動物ではない。
世に骨に発情するやつがいるかもしれないがそういう変態は考慮しない。
必然、こいつは普通のダンジョンモンスターじゃないことになる。
俺、頭良いな。完璧な推理だ。
ただ今回は難事件だ。
今の推理は隙のない名推理に違いはないが、ある前提が必須になる。
それはここがダンジョン内だと言う前提だ。
この前提は迷宮の攻略家に3Dマップが表示されないという強力な反証のせいで崩れ去っている。俺がいる場所はダンジョン内ではないと考えなくてはいけない。
なので推理は根底からひっくり返され、さっきのやつはダンジョンボスじゃない可能性まで出て来た。いやそもそも迷宮の攻略家が故障したとかはないのか?
「ああ、もう訳がわからねえ」
可能性を考え出したらキリがない。
確固たる事実が欲しい。
推測とか推論とか推理だとかそういう推が付くものはやめだ。
腰をあげて周囲を見てまわる。
財宝、財宝、財宝、財宝、財宝──。
どこを見ても財宝だらけだ。
先へ進む道は見つけられなかった。
ここで行き止まりだ。
「引き返すしかないのか? ますますボス部屋っぽいんだけどなぁ……まあいいかとりあえず貰えるものもらわねえと」
ここ財宝が山のようにあるのだ。
フィンガースナップを躊躇った理由である。
俺の好きなものは経験値の次に金があげられる。
経験値未払い分はここの財宝で勘弁してやろうじゃないか。へっへっへ。
「高そうな物は……いや、選ぶ必要もないか。どうせ無限に入るんだしもう全部もってけ」
片っ端から光ってる物をしまおうと手を伸ばす。
まずは金貨の山だ。これを持ち帰ればきっとよい額になるに違いない。
金貨の山に手をつっこむ。
触れた瞬間、金貨は泥になってしまった。
俺は「よせよせ」言いながら金貨をなんとか掴もうとする。
ふと気が付けば卑しい盗人みたいになっていると気づき、しれっと諦めた。
どうにも骸骨野郎が自慢げに収集していた財宝は全部偽物だったようだ。
広々とした空間を埋め尽くす財宝なんて現実にあるわけないよなぁ。
ちいさくため息をつきながら、ドミノ倒しのように連鎖反応でどんどん泥になっていく財宝たちを遠目に見つめる。
全部が泥に変わったあたりで、唯一輝きを放つものを発見。
古びた金色の王冠だ。触れると『幻想の王冠』というアイテム名が表示された。
──────────────────
『幻想の王冠』
魔導神の恩寵がかけられた王冠
秘文字『霧』が刻まれている
物質に幻を付与することができる
──────────────────
ひっくりかえして冠の内側を見やる。
怪しく紫色にひかる奇怪な文字が刻まれていた。
「魔導神、か」
魔導という単語がでてきた。
俺たちが目指していたダンジョンの名だ。
やっぱりここはアルコンダンジョン内なのかな。
冠の能力で泥を財宝に変化させていたんだろう。
虚しいやつだ。幻で友達100人つくったほうがよっぽど有意義だろうに。
王冠はムゲンハイールへ突っ込んでおく。
暗くて広い洞窟に泥と骸骨の残骸だけを放置してひきかえすことにした。
来た道をまっすぐに戻っていく。
緩やかな坂道になっていることに淡い希望をいだく。
と、その時。
「グオォ!」
なにかおおきな者が岩陰から現れた。
まっくらで視界が効かないが、眼をこらせば見えないことはない。
強靭な肉体をもつ野蛮人だ。身体が赤く染まっており、頭にはねじれた角がこめかみあたりから飛び出しており、手には分厚い刃の大斧をもっている。
モンスター。
これほどまでにモンスター。
なんならチワワとかよりずっとモンスター感があるのでは。
野蛮人は大斧を短くもち、コンパクトに振って、俺を粉砕しようとしてくる。
ひと振りを身をのけぞらせてかわし、前蹴りで距離をとって、指を鳴らし、黄金の炎でATK10憶を圧縮して熱線のように放ち、ごくちいさい範囲を破壊した。
なお威力設定に深い意味はない。可愛い動物じゃない以上、発狂フィルターを突破してくる強いモンスターなのは確定なので「これくらいあれば十分死ぬやろ」という威力を叩きこんでいるだけだ。
いましがた焼き払った場所を見下ろす。
極度の高温にされされたせいで肉体は朽ち果てて灰になっていた。
俺の背丈もある灰の盛山に大きな斧が突き刺さっている。
野蛮人が振っていた得物だ。
触れるとアイテム名が表示された。
異常物質だ。アイテム名は『クリムゾンオーガの大斧』か。
──────────────────
『クリムゾンオーガの大斧』
クリムゾンオーガの深紅の大斧
火のルーンの力が刻まれている
振りまわすには常識外れの筋力が必要
──────────────────
火のルーン?
火の力、程度の意味合いだろうか。
さっきの秘文字といい、ちょいちょい気になる単語が出てきている。
アイテムをドロップするってことはやっぱりモンスターなんだよな。
さっきの骸骨もドロップアイテム『幻想の王冠』を落としてたし。
ここはダンジョン内じゃないとおかしい。
モンスターが出るのは通常はダンジョン内だけなはずだ。
なんらかの要因でこの洞窟に迷い込んだわけだが、やはりまだアルコンダンジョン内だとするのが良いだろう。
アルコンダンジョンはフィールド型ダンジョン。
てっきり『森』という地形だけかと思ったが、考えて見ればさまざまな地形が存在するという話だったし、一部が洞窟のようになっていても違和感はない。
アルコンダンジョン内にほかの探索者たちがいるはずだ。
当然うちのペットたちと娘もいるはずだ。
早々に合流を果たしたい。
方針が定まり、クリムゾンオーガの大斧をしまっちゃうおじさんする。
『超捕獲家Lv4』と『ムゲンハイールver7.5』は同期してあるので、しまっちゃうおじさんすれば、しまっちゃうおじさんした物はしまっちゃうおじさんからムゲンハイールのほうへしまっちゃうおじさんされるので、ジュラルミンケースに入らない物も収納できるのだ。これもスキルコントールの賜物……いや、エボンの──
「また出て来たな」
道の勾配がやや高めになってきて何となく出口に近づいているような気配を感じていると、再びクリムゾンオーガとエンカウントしたので指を鳴らして処しておいた。
さっきと同様に『クリムゾンオーガの大斧』をドロップしたので回収する。
大斧は確定ドロップだろうか。倒せば必ず手に入った。
そんなこんな、度々遭遇するクリムゾンオーガを狩りながら進んでいくと、空気の湿り気具合がどんどん薄まっていき、心なしか洞窟内も明るくなってきた。
予感は的中し、分厚い石のおおきな扉を発見する。
扉の隙間からは明るいひかりが漏れて来ている。
おそらくは向こう側が外なのだろうと期待感を抱かせてくれる。
「長い散歩だったな」
肩で押して扉を開こうとする。
硬い。この扉とても建付け悪い。
さらに力を込める。
なお開かない。
「動け、このポンコツが。動けってんだよ」
無意識のうちに2歩さがり指を鳴らした。
パチン。黄金の破裂とともに扉が砕け散る。
「この手に限る」
さて探索者を探そうか。
塵埃を肩で切り、明るい外へやっと出る。
硬すぎる扉の向こうにはみっつの人影があった。
ひとりは地に伏し、涙ぐんでいる蒼い髪の少女。
あとのふたつは鋼鉄の鎧に身をつつんだ騎士のような風貌の者たち。
騎士は血の付いた剣を片手に、今まさに少女へ凶刃を振り下ろそうとしていた。
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