アルコンダンジョン突入

 文字数の都合上 昨日投稿した分の話を今日投稿した話の前半に持ってきてます。見覚えあると思ったら半分くらいまで飛ばしていいです。

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 ダンジョンキャンプ設置が完了し、封印解除作業がはじまった。

 ナスカの地上絵がごとく、上空から見ないと全体像を把握できないほど巨大な白い亀裂、その周辺の大地に突き刺してある封印柱を破壊する作業である。

 ダンジョンキャンプの周辺には大量のペンギンたちも集まって来ており、なにやら傍観者のように俺たちを見ていた。


「きゅええ、きゅええ(訳:赤木さん! 赤木さん! なんで無視をするんですか!)」」

「何言ってるかはわかりませんけど、またペンギン語になってますよ。修羅道さん」

「おっと失礼しました。さっきからずっとペンギン語で話しかけてしまいました!」


 なんだそのミス。かあいいのでヨシッ!


「ところでペンギンたちがぞくぞくと集まって来ていて少し怖いんですが」

「彼らペンギンにとってこの白い亀裂は長い間ひとつの崇拝対象だったんです。同様に黒い柱も祭儀的なものとして扱われて来ました。ザ・グレート・ペングイン・レジスタンスを説得したので問題はないですが、それでも長年親しんできたオブジェクトがなくなるのは寂しいですからね。みんな哀悼の意を示しに来てるんですよ」


 修羅道さんは近くで悲しそうにしているペンギンの肩をよしよしっと撫でる。


 封印柱を撤去しないと俺たちもアルコンダンジョンへ入れない。

 人間にとっては不要ないち装置にすぎないが、長い年月のあいだに、ペンギンにとって大事な物になっていたんだ。壊してしまうのは可哀想な気がして来た。

 封印柱を壊さない方法はないものか。


 腕を組んで考え、ふと俺は閃いた。


「全部しまっちゃうおじさんしたら壊さずに済んだりしませんか」

「なるほどしまっちゃうという手がありましたか! 流石は赤木さん! 普段は雑魚ですけど、ごくたまに頭冴えますね!」


 ざ、ざこ……鋭いご指摘だ。


「皆さん、撤去作業は中止です!」


 鶴の一声ならぬ修羅の一声によって急遽、封印柱の破壊は取りやめにされた。

 俺は『超捕獲家Lv4』を起動して封印柱を異次元ポケットに収納する。

 

 ペンギンくんたちの大事な柱、さあどんどんしまっちゃおうねえ~。

 30分ほどしてすべての柱を収納し終え、ダンジョンキャンプを離れて、ペンギンたちの都ペンギンシティへやってきた。キャンプからは片道1時間だ


 ペンギンシティ郊外の氷山に封印柱を突き刺す。

 これで運搬完了だ。

 

「きゅええ、きゅええ(訳:ありがとうペン。やさしい心を持っている人間ペン。この恩は忘れないペン。憩いの柱が守られてみんな喜んでいるペン!)」


 たくさんの抵抗ペンギンたちに取り囲まれ「きゅええ、きゅええ♪」された。

 鮮烈なるフンボルトも混ざってぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

 よく見ればほかの四傑衆もそろって各々が翼をパタパタさせている。


 何を言ってるかわからないが多分感謝されているのだろう。

 人でもペンギンでも、誰かを喜ばせるというのは気持ちの良いことだ。

 にしてもこいつらペンペンしてて可愛い……何匹か持って帰ろうかな。


「ちーちー(訳:やめておいたほうがいいちー)」


 鳥の専門家が言うなら素直に従おう。残念だな。ペンペン。

 

 ペンギンシティからダンジョンキャンプへは、たくさんのペンギンを引き連れながら戻った。


「ふぃ、フィンガーマンだ。あの柱を本当に移動させたのか? ひとりで?」

「なんでペンギン引き連れてるんだ……」

「まさかペンギン掌握術にも長けるというのか? 流石だな、フィンガーマン」


 なにが起こっても好意的に捉えられるな。

 黙っているだけなのに俺の説得力が高すぎる。


 ──しばらく後

 

「ちーちー(訳:時間ちー。眠りこけてないで起きるちー)」


 目覚ましエナガさんの声で瞼をもちあげる。

 首をもたげればギルドルームに皆が集まっていた。

 寝ぼけた頭を働かせて眠るまえのことを思い出す。


 ダンジョン解放されたあと、すぐに財団の調査隊がさまざまな機器を用いてダンジョンを外側から調べるフェイズに移行した。

 5時間ほど待機時間をもらえたのでひと眠りし、時間になったらシマエナガさんにモーニングコールをお願いしていたのだった。


「……。皆さん、そろっていらっしゃるようですね」


 ジウさんが部屋に入って来る。

 手に資料をもっており、それを皆へ配っていく。

 冷蔵庫から怪物エナジーをとりだし、席について紙面を見やる。


「……。魔導のアルコンダンジョンの調査結果をご報告します。クラス:アルコン、系統は魔導、フィールド型ダンジョンです。亀裂の向こう側の地形は1964年当時の調査結果とほとんど変わっていません。深い森の地形になっています」


 ダンジョンには二大形式がある。

 ラビリンス型とフィールド型だ。

 迷宮型・領域型ともいう。


 ラビリンス型はその名のとおり迷宮の形状をとる。

 通路はせまく、入り組んでいるのが特徴だ。

 日本に発生するダンジョンのほとんどはラビリンス型だったりする。

 

 フィールド型は多様な地形をとる。

 時には森、時には砂漠、時には古戦場など。

 おおくは自然系のフィールドだが、たまに人工物のフィールドもあると言う。


「……。フィールド型は広大とされていますが、アルコンダンジョンのものは探査装置では測量しきれないほどのスケールとお考え下さい」

「その探査装置の測量範囲は」

「……。最大出力で1階層が関東圏ほどのサイズまでのダンジョンならば測量可能です」


 つまり1階層が関東地方より広い……てコト!?

 半端ないデカさだ。下手したら南極大陸と同じサイズな可能性もあるのか。


「……。奇しくもここには千葉で銀色のアルコンダンジョンに足を踏み入れた経験のある探索者がそろっています。ご存じかもしれませんが、アルコンダンジョンのモンスターは深き怪物です。可愛らしい動物の姿をとっていません」


 ジウさんの説明を受け、俺はハッピーさんの肩をつつく。

 

「なに」

「いままで疑問だったんですけど、なんでダンジョンモンスターって可愛い動物の姿なんですか」

「正確なことはわかってないらしいんだけど、現代の有力な説としてはダンジョンモンスターは最初から可愛い動物の姿をしてたわけじゃないんだって」

「だんだん可愛くなったと?」

「そうじゃなくて、本当は私たち人間が遭遇してしまえばそれだけで正気度を削られて、啓蒙が高まる恐ろしい外見をしていたんだけど、地球の加護のおかげで発狂しないような姿になってるんだってさ。あるいは……──」

「そこで止めないでくださいよ」

「”可愛い動物に見えているだけ”……かもね」


 物凄く恐いこと聞いちゃった。

 忘れよう。すぐに忘れよう。


「ちなみに強力なダンジョンモンスターになると地球の加護を突破してくるから、本来の姿で私たちの目の前に現れるんだってさ」


 流石は物知りハッピーさん。

 知識量が違う。なんでも知っている。


「……。アルコンダンジョンは別の世界に繋がっているとされます。繋がっている状態はとても危険なもので、高速道路を爆走する車が横並びになって走っている状態です。車間距離を誤り、干渉しすぎると重大な事故を引き起こしかねません」


 ジウさんは多分フェデラーのために丁寧に説明してくれているのだろうが、俺のお勉強にもなっていい感じに助かっている。


「……。ダンジョンボスを探し出し必ず討伐してください。それですべては解決されます。以上です。ご質問はありますか」


 手をあげるフェデラー。

 スマホに表示したメモアプリを見下ろしながら話す。


「ええっと、別の世界っていうのがいまいちよくわかっていないんですけど」

「……。私も記録上のお話しかできませんが、1964年当時に行われた計6回の大規模探索隊がもちかえった情報では、状況の手の負えなさは銀色のアルコンダンジョンととてもよく似ています」

「すみません、僕、その銀色知らなくて」

「……。モンスター1体1体が桁違いに強く、3回壊滅させられ、3回は全滅させられたということです。それだけの犠牲をだしても当時のダンジョン財団では1体の深き怪物も倒すことができませんでした」


 絶望的な状況だな。

 封印して未来に処理を託すという最終手段にでるのもうなづける。

 

「……。なので別の世界というのはまさしくそのままの意味でして、向こう側にいる怪物は別の世界、別の次元の脅威を誇るのです。知性は確認されています。ですが決して人間とは分かり合えない怪物です。この怪物がこちが側へやってくることだけは阻止していただきたいのです。物質的な脅威としても、神秘学的な脅威としても大変に危険なのです」

「あ、ありがとうございます」


 フェデラーはスッと引き下がる。

 

「メタルモンスターとの出会いはいまでも忘れない。当時は指男が来てくれなければ私も死んでいただろう。あのクラスの怪物がうじゃうじゃいるとなると……どこまで通用するか」


 長谷川さんは拳を握り締める。

 彼にとってはトラウマだろう。

 いや、この場にいる多くの者にとってか。

 ブラッドリーも花粉さんも、ハッピーさんも表情が強張っている。

 みんな銀色のアルコンダンジョンで恐い思いをしている。


「……。30分後にいっせい突入です。突入後はすみやかに一定のエリアを制圧し、ダンジョン内拠点を設置、ダンジョンボスの捜索を開始します」


 作戦の仔細を伝えられ、俺たちは気を引き締めた。

 ミーティングが終わり俺たちは各々準備を整える。


 まあ俺はちょっと上着を着るだけだけどね。

 荷物という荷物はない。武器も必要ない。

 唯一の荷物はムゲンハイールくらいだ。


 ガチャガチャ準備が忙しいのはやはりハッピーさん。

 ドクターに専用のムゲンハイールを作ってもらったおかげで、ずいぶんたくさんの武器と弾薬を持ち歩けるようになったと喜んでいたので、詰め込みまくっている。


 フェデラーも暇そうだ。

 ブーツの紐を結び直してリュックを背負うくらいしかしてない。

 こいつも武器使いだったような気がするが。あ。そういえば……。

 

「フェデラー、お前に渡す物があったんだ」

「? なんです藪から棒に」

「いや、この前、俺さおまえの魔法剣折っただろ? あれお前のメインウェポンだったと思って、流石に悪いかなって」


 言ってムゲンハイールのなかから例の物をとりだす。

 剣の柄だけという一見して用途不明のアイテムだ。


「僕のヒートカタナじゃないですか! む、でも前よりデザインが洗練されてるような?」

「うちの技術者に残骸渡したら『わしは魔法剣は専門じゃないと言っておるじゃろうが』って愚痴りながら直してくれたんだ」


 フェデラーは新しいヒートカタナを持って嬉しそうに刃を生成する。

 

「アイテム名が『ヒートカタナLv3』になってるんですが……?」

「ドクターが強化しといてくれたんじゃね。知らんけど」

「異常物質を強化……? それは人類に許された科学なんですか?」

「たぶんな。知らんけど」

「フィンガーマンってたまにすげえ適当になりますよね……」


 ドクターのことは俺もよくわかんない聞かないで欲しい。

 あの人も修羅道さんに負けず劣らず意味不明なこと多いから。


 準備を完了し、白い亀裂までやってくる。

 多くのギルドはすでに亀裂の先に進んでいるようだったので、俺たちも覚悟を決めて歩みを進めることにした。


「いってらっしゃい、赤木さん。頑張ってくださいね!」

「きゅええ、きゅええ~♪(訳:頑張るペン、ペンギンの友だち~!)」

「はい、行ってきます」


 修羅道さんや財団職員ら、さらにはペンギンたちに見送られいざ挑む。

 魔導のアルコンダンジョンへ。


 亀裂から立ち上る光の壁に足を踏み入れた。

 視界いっぱいが白くなり、進み続けると景色が切り替わった。

 同時に一気に気温があがって温かさを感じた。

 否、急激な温度変化で火傷しそうなほど熱く感じた。


 日差しが強い。

 南極とは大違いだ。

 空気がおいしい。


 光のさきの景色は、切り開かれた森となっていた。

 向こう100mほどまで綺麗に伐採され整地された土地だ。

 若干の手持ち無沙汰を感じるほどに周囲には何もない。

 背後に振り返ると白い亀裂が、周囲を凍てつかせながら空間に走っている。


「豊かな森だな。しかし……」

「どうしたんです、花粉さん」

「ざわめているのだ。ここには花粉もないのに。妙である」


 すこし遅れて銃器で武装した財団特務部の兵士たちやジウさんが、武装したバギーで亀裂をまたいでやってくる。


「……。付近にモンスターの姿はないようですね。油断せず拠点設置を──」


 財団職員が手順にしたがって装置を起動していく。

 探索者や武装した財団兵士が周囲へ散開する。


 ──その時だった。


闇を拓くダークプロール──」


 声が聞こえた。俺には。ハッキリと。

 ソレは突然に襲って来た。

 巨大だ。途方もなく強大だ。決して抗えないうねりの引力だ。


 ふわっと身体が浮いた。

 一瞬の浮遊感ののち、その場にいた全員が黒い虚空のなかへ飲み込まれいく。

 視界がぐにゃんぐにゃんに引き伸ばされる。

 知ってる顔がだれひとり状況を理解していない様子のまま通り過ぎていく。


「ち、ちー!(訳:ま、まずいちー! とんでもない攻撃を受けてるちー! これはまさか……待ち伏せちー!? 英雄はやくなんとかしないと手遅れに──)」


 声も遮断され情報が圧縮されていき意味が失われていく。

 遠くなる森の景色。その向こう、太陽が輝く青空に人影を発見する。

 宙に浮んだまま、俺たちを遥か高い場所から見下ろしていた。

 そいつだけは平然としていた。あいつは攻撃を受けてない。

 なぜか。そりゃあ攻撃してる側だからだよな? 馬鹿でもわかる。


 アイツがなにかした。

 直観が囁いて来ていた。

 だから無我夢中で反撃を試みた。

 失われていく景色のなかで、闇に吸い込まれながら指を鳴らした。

 遠くの空が黄金に輝いたあと衝撃に弾かれ俺の視界はまっくらになった。

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