厄災島平和維持協定ディプカ
HPが1のMPが3,200万。
あまりにも儚い。うちの子は儚い。
「なんと残酷な運命なんだ……あっ、強風が、シマエナガさーん!」
「ちーちー(訳:任せるちー!)」
ふっくらシマエナガさんがおおきな白い翼で包み込んで風からレヴィを守る。
「ふう。これでひと安心……ん? あれ、レヴィ?」
コテンっと瞼を閉じて安らかな表情をしている。
「ちー(訳:ちょっと強く抱きしめたせいで、びっくりしてショック死ちー……)」
「きゅっきゅっ!(訳:儚すぎるっきゅ……! こんな儚くてどうやって人類を倒すつもりっきゅ……!)」
再び復活させ、繊細なレヴィの周囲をシマエナガさんのおおきなふっくらボディで守ってもらいながらステータスを吟味する。
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レヴィアタン・ワン
レベル140
HP 1/1
MP 30/32,200,000
スキル
『魔海の降臨』
『魔海の拘束』
『魔海の無気力』
『魔海の綻び』
『魔海の大祝福Lv6』
『魔海の守護』
『魔海の突撃Lv3』
装備
『アドルフェンの聖骸布Lv6』
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彼女の持つスキルは7つ。
生物型厄災のこれまでの傾向通り、最初にひとつ所持しており、その後10レベルにひとつスキルが増えるorスキルレベルをあげるという法則に従っている。
『魔海の降臨』『魔海の拘束』『魔海の無気力』『魔海の綻び』『魔海の守護』が未強化スキルで5枠、『魔海の突撃Lv3』で3枠、『魔海の大祝福Lv6』で6枠だ。
140レベルなので合計14枠すべてをすでに振り分け終えている。
スキルの詳細を確認する。
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『魔海の降臨』
呪われた海にも祝福はある
海を召喚する
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の拘束』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者のSPDを100%低下させる
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の無気力』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者のATKを100%低下させる
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の綻び』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者のDEFを100%低下させる
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の大祝福Lv6』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者に継続回復2,000HP/毎秒付与
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の守護』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者に攻撃を1回防ぐ守護を付与する
【転換レート】MP100:1秒
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『魔海の突撃Lv3』
呪われた海にも祝福はある
海にいる対象者をイルカが激しく襲う
【転換レート】MP100:1秒
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探索者のスキル構成と違って厄災たちのソレは成長の方向性・得意分野が明確なので、慣れて来ると何がしたいのかがスキルを見るだけでわかる。
レヴィの場合『海』というフィールド限定で強力なデバフ系スキルを重ねることが得意なように思える。海限定というは制約としておおきそうに思える。陸地じゃ機能しないだろうし。
ただ、制約を克服できそうなスキルはあるが……この『魔海の降臨』で海を召喚するという効果がどういうものかいまいち想像できない。
「『魔海の降臨』を使ってみせてくれる?」
レヴィは腕を掲げる。
彼女の足元から物凄い爆発的な水流が発生した。
だが、すぐにおさまって岬をびしゃびしゃにするだけに終わる。
「MP切れた」
レヴィのステータスを見やると『MP0/32,200,000』となっていた。
ひとつ明らかになった。
『魔海の降臨』で海を召喚するという言葉。
これはそのままの意味らしい。
おそらくだが『魔海の降臨』が1秒以上発動すれば、その場は海になるのだろう。
そして彼女のすべてのスキルの発動条件が整う……とな。
正直、現状ではどれだけの戦闘能力が彼女にあるのかわからない。
能力もステータスも特殊だから想像がしにくい。
参考までに厄災という枠組みを考えてみよう。
経験上、生物型厄災はすべからく強力だ。
だれひとりとして弱い子はいない。
厄災のもっとも恐るべきは成長速度だ。
厄災は俺以上にレベルアップでの伸び幅が狂っている。
うちの子たちはレベルを止めてもらい俺以上に強くならないように制御しているので、制圧できないことはないが、本気で暴れられたら鎮圧は簡単ではない。
レヴィを判断するうえでのひとつの基準は彼女が俺の手に負えるかどうか、だ。
こんなこと考えたくもないが、考えないわけにはいかない。
厄災の保護者としての責任だ。
「レヴィ、こことここにサインをして欲しいんだ」
「これはなに」
「俺やシマエナガさん、ハリネズミさんが加盟しているルールだよ」
もし彼女が俺より強力だったとしても問題はなかったりする。
話は経験値界に移る。クズエナガ戦役以降は経験値社会は進歩して一定のルールのもとで経験値が配給される仕組みができあがり、かつ経験値法も発展した。
我々の誇る経験値法こそ『
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・厄災島平和維持協定
経験値犯罪を防ぐために生物型厄災と指男のあいだで交わされた協議の総称。
現在の加盟者は赤木英雄、厄災の禽獣、厄災の軟体動物、厄災の大古竜である。
協定に違反した場合バスターコールが発令され、違反者はほかの加盟者によってボコボコにされる。
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我々の時代は経験値三権分立にたどり着いた。
お互いに不正を監視しあうのだ。
すべては公平性を期するため。
俺でさえもそのルールを意図して破ることは許されない。
ルールを破ればほかの者に示しがつかなくなり不信感と不平感を招くことになる。
レヴィにはこの
もっと言えばレヴィは儚すぎて脅威ではないように見える。
レヴィの威力検証はまた後日ということにして、今のところはレベルは据え置き、安全で可愛い実娘としてあつかってよい。それだけの判断材料は揃っている。
レヴィにディプカに参加してもらったので、書類はあとでジウさんか修羅道さんに共有しておこう。
岬から遠征隊探索拠点へと戻ってきた。
宇宙服みたいな防護服に身をつつんで、いかめしい装備に身をつつんでいる連中がたくさんいた。バギーに乗り込んで、次々にどこかへ旅立っていく。
「あ、赤木、どこいってたの……ってなにその恰好!? 死ぬよ!?」
もこもこの防寒着に身をつつんだライフルを腰に下げたハッピーさんが「はわわ、大変!」と慌ただしくなっている。
「心配しないでください。寒いですけど、これくらいなら平気です。ところであの宇宙飛行士たちはいったい?」
「赤木の薄着が気になりすぎるんだけど……。あれは南極観測チームだよ。財団特務部の護衛で観測任務に向かうって。ここ-70℃のブリザード吹いてるじゃん?」
「なるほど。探索者じゃないからあんな重装備をしてるんですね」
「ちーちーちー(訳:英雄が普段と変わらない恰好しすぎて感覚バグってるちー。ここは常人が専用の装備なしで活動できるほどやさしい土地じゃないちー)」
「せめて上着だけでも着たほうがいいて。というか聖骸布どこやったの」
「娘にあげました」
「そっか娘にあげたなら仕方ないっか…………ん? 娘?」
「自慢のうちの子です」
鼻高々に胸を張って手で示すと、ハッピーさんは俺の背後へ慌てて視線をやった。
ふっくら身長2mくらいになったもこもこ鳥にブリザードから守ってもらっているうちの子レヴィがじーっとしてこちらを見つめてきていた。
「む、娘……だと……」
ハッピーさんは表情に戦慄をはりつけてボソっとつぶやいた。
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