レヴィアタンは儚い
「今、お父さんと言ったのか」
「お父さん」
俺を指さしてくりかえされる言葉。
お父さん? お父さん、お父さん、あ、お父さんだ。
「お父さんということは、つまりお父さんってこと?」
「お父さん」
「俺がお父さんと呼ばれているということは、俺がお父さんと呼ばれていると言うこと?」
「お父さん」
「ちーちー(訳:想像を絶する知能指数の低い会話ちー。というか、なにを勝手に娘ポジにおさまろうとしているちー! ちーは許していないちー!)」
「うちの子に文句でもあるんですか、シマエナガさん」
「ちー!?(訳:もう懐柔されてるちー!?)」
「俺は全力でお父さんを遂行する。レヴィ、さあ、寒いから服を着ようか」
「きゅっ(訳:父の役目を理解し、責任をもって遂行する姿まさしく英雄の器にふさわしい振る舞いっきゅ!)」
「ちー(訳:そういう解釈には普通ならないちー……超後輩は本当にイエスマン極まってるちー……)」
長年付き添って来たトレンチコートをレヴィの肩に掛ける。
我が外套『アドルフェンの聖骸布Lv6』はあらゆる物理ダメージを60%カットする修羅道さんお墨付きの超つよつよん装備なのでうちの子の役に立つはずだ。
代わりに俺はシャツ一枚でブリザードを受けることになったけど、うちの子の美貌が馬の骨のいやらしい視線に晒されないためと思えばそよ風のようなものだ。
レヴィは聖骸布をにぎにぎ。
あたりをキョロキョロしまた見上げて来る。
「お父さん、命令がほしい」
「命令?」
「私は人類を海の藻屑にしなければいけない」
「っ」
なんということだ。
うちの子がここまで直接的に人類を敵視してたなんて。
「ちーちーちー(訳:本性を露わにしたちー。やっぱり悪属性ちー。そうだと思ったちー。出会ってそうそう美少女化など許されるはずもないちー。さあ、いま始末してやるちー。ちーは人類の味方ちー)」
「ハリネズミさん、このシマエナガさんを静かにさせておいて」
ハリネズミさんがシマエナガさんを羽交い絞めにして大人しくさせた。
俺はレヴィに向き直る。
「どうして人類を滅ぼすんだい」
「お母さんに言われたから」
「お母さん? お母さんってどんな人?」
「……わからない。でもお母さんはおおきくて偉大な存在。世界を海に沈める。それが私が産まれた目的」
「お母さんがどれだけ偉大な人かはわからないけど、でも、産まれた目的は自分で決めればいいんじゃないかな」
「自分で決める。わからない。それでは私の意味がなくなってしまう。滅ぼさないと」
「生きてる者誰しもが自分の意味を知ってはいないよ。俺も知らない。みんな意味を探してるのかもしれない」
「難しい」
お父さんも難しい。
なにを言ってるのかわからなくなってきたよ。
頭を使わずに心に従って喋った結果、意味不明になるいつものパターンじゃ。
「でも、考える。だから考えるよ。お父さんが言ったから」
「人類は嫌いかい?」
「わからない。嫌いがなにかわからない」
いろいろと教えてあげる必要がありそうだ。
彼女はうちの子にすることは確定として、連れていくにはいろいろと知っておく必要がある。まずはステータスを見てみよう。
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レヴィアタン・ワン
レベル1
HP 1/1
MP 30/30
スキル
『魔海の降臨』
装備
『アドルフェンの聖骸布Lv6』
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ふむ。なになに。
持っているスキルは『魔海の降臨』。
装備はいまあげた『アドルフェンの聖骸布Lv6』。
HPは1か……え、1だって!?
「儚い……うちのレヴィは儚すぎる……」
「ちーちーちー(訳:見たところインファイトタイプのモンスターではないちー。おそらく遠隔能力、あるいは特殊系ちー。MPが高いのもわかりやすいちー)」
「きゅっきゅっ(訳:それでもHP1の儚さはすごいっきゅ。これではちょっとしたことで即死してしまうっきゅ)」
その時、強風が吹いた。
レヴィ風に煽られる。
コテンっと倒れてしまった。
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レヴィアタン・ワン
レベル1
HP 0/1
MP 30/30
スキル
『魔海の降臨』
装備
『アドルフェンの聖骸布Lv6』
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「うちの子が死んだぁ!?」
「ちーちーちー(訳:は、儚いちー……!)」
「きゅっ!(訳:紙装甲にも限度があるっきゅ……!)」
俺は『最後まで共に』でレヴィを復活させる。
「レヴィ、これを読むんだ」
「お父さんこれは」
「レベルアップできる魔法の本だよ。パワーアップして儚さを克服しよう」
「わかった。お父さんが言うなら」
レヴィはその場に腰かけ、今日のデイリー報酬『先人の知恵S+』を読み始める。
俺は岬をシマエナガさんとハリネズミさんに任せて、メタルトラップルームで岬に『扉』を生成し、厄災島とつないで、フィンガーズギルド本部に帰還する。
『我が主、おかえりなさいませ。南極とのルート開通に成功したようで何よりです』
「戻りました。変わりないですか」
『直近の事件は子猫が迷子になったので兵力5万を導入して捜索したことです』
「平和そうで何より」
ジオフロントまで降りて来て最奥へ移設された経験値の集積場へたどりつく。
黒沼の兵士たちに守られた黒壁のまえで立ち止まる。
「ぎぃさん経験値中央銀行のロックを解除してください」
『了解致しました』
地面・天井・壁から黒い触手が伸びてきて、黒壁のくぼみにジュサっと挿入され、壁がズズズっと横に動いていく。ノルンが子連れでやってきて「にゃあ」なのでモフらせてもらっていると、壁が完全に開ききり、宝物庫への入室が可能になった。
入り口付近のタブレット端末を手に取り、倉庫内の状況をチャックする。
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【経験値中央銀行】
『貯蓄ライターver2.0』×13コ
(9,999億9,999万9,999)
『黄金の経験値Lv2』×6,400枚
(20万)
『黄金の経験値Lv3』×2,200枚
(40万)
『力の果実 600億』×20コ
(600億)
『力の果実 1,000億』×15コ
(1,000億)
『先人の知恵S』×62冊
(1億)
『先人の知恵S+』×34冊
(10億)
【合計】
15,742,359,999,987経験値
(15兆7,423億5,999万9,987)
【ブラック会員ボーナス】
1,574,235,999,998,700
(1,574兆2,359億9,999万8,700円)
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タブレットに『力の果実 1,000億』10コと入力する。
しばし待つと、ブレイクダンサーズが黒いアルミケースを持ってきた。
宝物庫内で経験値資源の整理をおこなっている者だ。
俺の注文通りに詰めて運んで来てくれた。
「ありがとう、助かる」
本部を後にし、ふと振り返る。
黒沼の怪物たちやノルウェーの猫又ことノルンにコロン、その子猫たちが見送りに来てくれていた。
海上を見やればスマートなシャチことミス・ブラックもヒレをパタパタ振って「いってらっしゃい」と言っている。
ちょっと帰って来ただけなのに大袈裟すぎる。
転移ターミナル駅を通って南極へ戻る。
『いってらっしゃいませ、我が主』
「心配性ですね、ぎぃさんは」
岬に戻ってくると、シマエナガさんが大きな翼でレヴィを抱きしめていた。
「ちーちーちー(訳:まったく、本当にまったく仕方ないやつちー。そんな簡単に逝かれるなんて儚いなんて見てられないちー)」
「鳥。いい鳥。これはいい鳥」
「きゅっきゅっ(訳:鳥殿のことを気にいっているみたいっきゅね。鳥殿はやっぱりやさしいっきゅ)」
「ちーちーちー(訳:そ、そんなんじゃないちー。勘違いはやめるちー!)」
みんな仲良くやっているようでなにより。
「シマエナガさん」
力の果実をひとつ放り投げると、白い残像がバビュンっと動いた。
「ちーちーちー(訳:これはちーのモnoちーッ! 誰にも渡saないちiーー! 近づいたらぶち転がしゃちー! ぢーちーti──)」
大興奮エナガさんである。
平等にハリネズミさんにもひとつあげておく。
「きゅっ(訳:やはり経験値っきゅ……仕事、老後、年金、税金、上司、手取り、住宅ローン……経験値は現実のすべての苦しみを忘れさせてくれるっきゅ……!)」
ハリネズミさんも突然目つきが変わって恐くなってしまう。
やはり経験値の欲望には逆らえないのか。
「お父さん、それはなに」
「経験値の果実だよ。さっき読んだ本と同じ役割をもってるパワーアップのアイテムだよ」
レヴィに果実をパクパク食べてもらう。
「これが経験値……っ」
無表情ながら食べる手がはやまっていることを思えば、気に入ってくれたらしいとわかる。
さてすこし失礼してステータスを確認しよう。
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レヴィアタン・ワン
レベル140
HP 1/1
MP 30/32,200,000
スキル
『魔海の降臨』
『魔海の拘束』
『魔海の無気力』
『魔海の綻び』
『魔海の大祝福Lv6』
『魔海の守護』
『魔海の突撃Lv3』
装備
『アドルフェンの聖骸布Lv6』
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そんな馬鹿な、ありえん!
140レベルなのにまだ儚いだと!?
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