南極に隠されし秘密
部屋に戻って支度をする。
新品のシャツに袖をとおし、ベルトを締めコートを羽織る。
想いでの詰まったブローチたちをつけ、俺はムゲンハイールを手の取った。
上陸部隊を乗せた揚陸船はドッグよりダイレクトで海へ滑るように放たれ、母船であるフェリーより南極大陸への上陸を目指すことになる。
フェリーらは陸地から攻撃される危険性があるため、俺たち揚陸部隊が海岸線を制圧するまで沖で待機することになっている。
──という作戦説明を受けてはいるのだが、いまいちよくわかってないので、とりあえずノリと雰囲気でみんなについて行こうと思う。
「ちーちー(訳:ついに上陸ちー。いったいどんな経験値に会えるか楽しみちー)」
「きゅっきゅっ(訳:新しい誉を見つけにいくっきゅ!)」
ペットたちをぎゅっとコートのなかに押し込める。
「赤木、その恰好寒くないの? いつもと同じだけど」
「結局これが動きやすいかなって。寒さも我慢すれば別にって感じなので」
「嘘でしょ……」
ハッピーさんを筆頭に揚陸船に乗っている全ギルドメンバーに目を丸くされる。
俺なんか変なこと言ったか。
「……。流石は指男さんです」
「指男は生物レベルが違うというわけか。フッ、フィンガーズギルドのリーダーならそれくらいしてもらわないと困るが」
ジウさんはどこか誇らしげにし、ブラッドリーは澄まして自分の防寒着を前を締める。
「ちーちーちー(訳:我慢して-70℃の世界をどうにかできる人間は少ないちー)」
ああ、そういう。
まあ俺はレベル高いからね。
揚陸船がドッグより海へ放たれた。
いよいよだなぁっという気分になってくる。
修学旅行の朝、東京駅で新幹線が発進した時の気持ち、わかってくれるかな。
揚陸船がぶわーっと南極大陸へ直進しはじめた。
暗黒の空のしたに広がる巨大な島が近づいて来る。
近づくほどに距離感がバグる。思ったよりデカいな。
「南極デカすぎません?」
「面積は14,000,000km2を超えてるからね」
ハピペディアさん起動。
14,000,000km2? 東京ドーム何個分だろう。
「ふぅん(困惑)」
「す、すびばぜん、いまいち大きさの感覚がわからないんですけど」
いいぞ、フェデラー。
よくぞ訊いた。
「……。ヨーロッパ全部あわせるより大きいってことですね」
ジウペディアさんが起動。
なるほど、わかりやすい。
理解理解……ん? ヨーロッパ? え? デカすぎん?
南極やば。え。やば。もっと島ってイメージだったんだけど。
「……。南極”大陸”なので」
「1964年に『魔導のアルコンダンジョン』が出現して以来、異常気象が半世紀以上ずっと続てるんだってさ。平均気温は夏のこの時期でも-70℃前後。本土はブリザードが吹き荒れてるせいだね。南極の周囲の海には海底ダンジョンが複数発生していると考えられてて、そのせいで強力な海の魔物が育ってるんだって」
「も、もも、もうアルコンダンジョン放置でよくないですか! こ、ここ、こんな地獄でこれから活動しなくちゃいけないんですか!?」
フェデラーはガタガタと震えながら防寒着の前を寄せる。
「こ、こんな海をこんなちいさな船で移動したら、いつ沈められるかわかったものじゃないですよ……!」
「……。それに関してはご安心を。ソナーで周囲の海の安全は確保されています」
「海の魔物ごときにビビッてどうするの。南極本土は”敵”もいるのに。ざこざこナードなんですぐにわからされちゃうかもねー♪」
「うぅ、死にたくない……寒いし、恐いし、危険だし、なんで僕こんなところにいるんですかねぇ! 訳わからなくなってきたぁ!」
やたらめったらフェデラーを恐がらせるのは可哀想だと思う。
「嘆いていても仕方ないぞ、少年。アルコンダンジョンは絶対に切除されなければいけないのだからな。なあに気に入らないことは大抵ぶん殴ればうまくいくさ。ガタガタくだらない議論をもちだす活動家といっしょさ。自信を持て、君はつよい」
日本が誇る暴力議員は言ってフェデラーの肩をやさしく叩いた。
危険を排除し、資源を獲得する。
そのためにダンジョン探索をし、ダンジョンボスを殺す。
これがなされなかった結果が現在の海だ。
人類が海底ダンジョンに適応できないせいで、大量の海中モンスターが野放しにされ、人類はおおくの海域を失ってしまった。地上まで失う訳にはいかない。
しかしこう考えると、やっぱりちょっと南極というのは特殊な気がする。
「南極って隔離されてますよね。こっちがちょっかい掛けなければ平和なんじゃ……(小声)」
「赤木、まだそこだったの?(小声)」
ハッピーさんに可哀想な子を見る目をされる。
嘘だろ。すっごいバカにされてる気がする。
「アルコンダンジョンは向こうから来るんだよ」
「すみません、もうちょっと易しく」
「普通のダンジョンじゃないからね。アルコンダンジョンって別世界の座礁地帯って呼ばれてるでしょ? あれって言葉のまんまの意味なんだよ」
言葉のまんま?
別世界が広がっているくらい大きいダンジョンという意味ではなかったのか?
「アルコンダンジョンの攻略をかつての財団は諦めた。未来の財団ならなんとかできると信じて封印した。最近になって封印がいっせいに綻び始めた。向こう側からこっち側にいつでも勝手に入って来れるようになっちゃうってこと」
「向こう側……」
「アルコンダンジョンがあると言うことは世界がふたつ重なっている状態なんだよ。凄く危ない状態、だから絶対に出ていってもらわないといけない。ましてやこっちに来られたりなんかしたら、法則が乱れて現実が圧壊するかも」
俺の理解力では難しすぎる話だ。
ハッピーさんこう見るとちゃんと理解してるんだな。
やっぱり賢い子なんだな。
待てよ。長谷川さんも花粉さんもわかってる風だぞ。
もしかして理解してないの俺だけ?
「ブラッドリーさん、馬鹿っぽいからアルコンダンジョンについてに説明とかいりますか? ハッピーさんがしてくれますよ」
「舐めすぎだぞ、指男。そんなもの遠征隊に参加した時点でみなわかっているに決まってるだろう。メタビートでわからせられたいのか」
ブラッドリーもわかってるのかよ。うせやろ。
「フェデラーはどう。今なら無料だけど」
「お、お願いします、僕アルコンダンジョンとか正直よくわかってなくて……っ」
よし。お前はやっぱりこっち側だ。
「……。皆さん、おしゃべりはもう終わりにしたほうがいいかもしれません。──岸から攻撃がはじまったようです」
船の先を見やれば、たくさんの水しぶきが絶え間なく海面を荒らしていた。
陸から氷塊が飛んできているのだ。揚陸船を沈めようとしているらしい。
俺たちの揚陸船のそばにも着水する。デカい氷塊だ。ひとつひとつが実家くらいある。
攻撃は陸に近づくほど激しさを増していく。
陸の方を見やるが、波が荒れすぎて何がなんだかわからない状況だ。
「な、なんしゅかコレぇえ!?」
需要の無い叫び声をあげるフェデラー。
直後、揚陸船に真上に氷塊が降ってきた。
船が吹っ飛び、皆が極寒の海へ投げだされる。
「ちーちー!(訳:任せるちー!)」
シマエナガさんはボンっとふっくら変身完了。
俺は右手で白い背中に掴り、左手で落ちそうなフェデラーを掴む。
ハッピーさんとジウさんも各々で太い鳥足に掴まることで着水を免れた。
「血祭りにあげてやる駄鳥どもめ」
「特別国会だ。ディベートをしよう、拳で」
「さて伐採をはじめるのである」
三人のおっさんは着水の瞬間、身体が沈むよりもはやく両足で海面を交互に踏むことで極寒の海に沈むことを免れ、それどころか、やる気満々に自分の足で水を蹴って走りだし、岸へ超スピードで向かいはじめた。
「きゅっきゅっ!(訳:上半身をまるで動かさず腕組をして氷塊を避けながら海を走ってるっきゅ! あれが日本の忙しいサラリーマンが移動中も仕事できるように生み出されたと言われる走法 十傑集走りっきゅね!)」
「え、ぇぇ、もうなんなんですかフィンガーズギルド……」
ドン引きのフェデラー。
「引いてる場合か。お前飛べるだろ」
「え?」
「甘えてないで戦ってこい」
「ちょ、まっ! あああああ!!?」
ぽいっと離すと海に落下。
沈んでから数秒後、炎の塊が飛び出してきた。
「フィンガーマン! 殺す気か!?」
「元気そうだな。よし行こうか」
「なんて野郎だ」
シマエナガさんで空をびゅーんっと飛んで陸に近づく。
上空からだと岸の様子がはっきりと確認できた。
海岸線には、投石機が無数に設置されており、それらが氷塊を撃ちだして揚陸船を攻撃していたようだ。いったい誰があんなものを南極に。
「ん?」
目を凝らせば投石機をせっせと準備している者たちがいるのが見えた。
無数にいる。黒と白のモノクロカラーが愛らしい二足歩行の生物だ。
地上をペタペタと一生懸命に歩い、みんなで協力して氷を投石機に装填している。
あ、あれはまさか伝説の……あれなのか?
「まさか皇帝ペンギン……!?」
「……。指男さんでも流石にご存じありませんか」
「ぇ?」
「……。あれらは一般人には皇帝ペンギンとして知られていますが、真実は違います。あれらは地球に住む人類をのぞく21の知的生命体のひとつ。南極に近づくと人類に攻撃することから抵抗ペンギンと呼ばれています」
「て、抵抗ペンギン……?」
「……。はい。皇帝ペンギンという名も、愛らしい姿も、すべては抵抗ペンギンの真の姿と恐怖心の拡散を防ぐための財団のフェイクです。あれこそが人類が南極に近づけない最大の理由。南極とは抵抗ペンギンと人類との地球の覇権争いをかけた最前線だったのです。学校では教えてくれない世界の裏側なのです」
ジウさんはキリっとした顔で言った。
「……。南極にはペンギン以外の生物が存在せず、結果的にペンギンには天敵がいない環境になっているというのは有名な話です。しかし理由を知る者はおおくはありません。答えはとてもシンプルです。そう、ペンギンたちがすでに自分達の敵を絶滅させたからにほかなりません」
なんということだ。
俺たちは”奴ら”について何も知らなかったんだ。
最前線、人類への抵抗、陰謀のペンギン文明……世界はいまだ秘密で溢れている。
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こんにちは
ファンタスティックです
昨日あとがきを長く書きすぎたので今日は短く。
★を入れてくれてありがとうございます。すごく嬉しいです。
ランキング圏外から2日で総合週間13位までのぼるの狂ってて笑います。
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