リジェネマンへの道

 南極の海水はつめたい。

 身をもって実感した。

 フィンガースナップによって生み出された極寒の高波は、フェリー船団を容赦なく飲み込んだ。ホワイトユニコーン号も例外ではなかった。

  

 もしフェリーに温かいシャワーが無ければ凍える者が出ただろう。

 幸いにして船には最新鋭のボイラーが搭載されていた。

 逃げるように自室へ駆けこみ、被害者たちは温かいシャワーを浴びた。

 

 ホワイトユニコーン号が波に飲まれそうになった時、フィンガースナップでこれを破壊したわけだが、結果は逆効果、フェリーはひっくりかえり海の藻屑となりかけた。フェリーが丈夫で本当によかった。

 

「ふう、生き返る」


 シャワーを終えて部屋に戻る。

 ベッドのうえへ視線を向けると、シマエナガさんがふわふわに戻っていた。

 さっきまでびしょ濡れでスリムになっていたが、すっかりかあいくなっている。


「ちーちーちー(訳:ひどい目に遭ったちー。凍え死ぬかと思ったっちー)」

「きゅっ(訳:豪快な英雄殿、かっこよかったっきゅ)」

「2兆はやりすぎだったかもしれないです」

「ちーちー(訳:かもじゃなくてやりすぎちー。被害が甚大すぎちー)」


 被害というのはフェリー船団への被害だ。

 フェリー転覆が12隻中7隻。

 高波に押しやられて数十キロにわたり後退させられたのが12隻12隻。

 言い訳の余地なく大惨事である。地上でフィンガースナップをブッパなすのがこれほどに危険だとは。認識が甘かったかもしれない。


「幸い、天から撃ちおろす形で攻撃を加えたので、どこの誰がやったのかは判明してない……はずです」

「ちーちー(訳:犯人がバレてたら今頃、この部屋にジウが飛びこんで来てるはずちー)」


 俺が悪い事ばかりしていると思われるかもしれない。

 ただそうでもない。

 死人は報告されてないし、フェリーが沈んだという報告もない。

 波に押されたり、ひっくりかえる程度なら財団の船はへっちゃらなのだ。


 それよりも得た者に目線を向けようじゃないか。

 そのほうが生産的だろう。

 違うかい。


 先の海の魔物との戦いは一旦の終結が宣言された。

 想定よりはやい海の魔物たちの攻撃に、ネームドの超ド級モンスター”海の悪魔”レヴィアタン・ワンの出現、どれも脅威だったが、今ではしっかりと消し炭になった。

 

 結果オーライだ。

 みんなハッピー。

 だから誰かを責めるのはやめにしようじゃないか。ね。


 ちなみにレヴィアタンくんのおかげでレベルアップもした。


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 赤木英雄

 レベル357

 HP 4,710,463/87,25,000

 MP 1,174,000/1,384,000


 スキル

 『フィンガースナップ Lv9』

 『恐怖症候群 Lv11』

 『一撃 Lv11』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv6』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』

 『活人剣 Lv7』

 『召喚術──深淵の石像Lv7』

 『二連斬り Lv7』

 『突き Lv7』

 『ガード Lv6』

 『斬撃 Lv6』

 『受け流し Lv6』

 『次元斬』

 『病名:経験値』

 『海王』

 『海の悪魔を殺す者』

 『デイリー魚』


 装備品

 『クトルニアの指輪』G6

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 レベルは12上昇し、HPは約210万上昇、MPは約15万上昇した。

 レヴィアタン・ワンはとんでもない経験値を置いていった。

 海の悪魔……ふむ、実に興味深い経験値である。

 

 ちなみに『一撃Lv10』も進化して『一撃Lv11』になった。

 やっぱりスキルレベルにはLv10の先の世界があるらしい。


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 『一撃 Lv11』

 強敵をほふることは容易なことではない。

 ただ一度の攻撃によるものなら尚更だ。

 最終的に算出されたダメージを7.0倍にする。168時間に1度使用可能。

 解放条件 ボスを2,000,000,000,000(2兆)以上のダメージを出して一撃でキルする

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 新しいスキルも3つ手に入れた。

 レヴィアタン・ワンを倒したことで解放されたのだと思われる。


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 『海王』

 海の覇者を打倒し、その権能を継承した

 水に触れるとHPが自動回復する

 100HP/毎秒

 解放条件 強力な海獣を倒す

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 『海の悪魔を殺す者』

 海の悪魔を滅ぼした者よ

 もはや海を恐れる必要はなくなった

 水属性攻撃に対する完全耐性を獲得する

 水に触れるとHPが自動回復する

 200HP/毎秒

 解放条件 海の悪魔を倒す

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 ───────────────────

 『デイリー魚』

 海を御する者への忖度

 魚を召喚できる

 1日1回使用可能

 解放条件 デイリー狂い状態で海を怯えさせる

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 『海王』と『海の悪魔を殺す者』が嬉しい効果を持っている。

 2つともリジェネ系のスキルだ。

 『蒼い胎動Lv6』は10HP/毎秒で回復する効果。

 新しく増えた『海王』と『海の悪魔を殺す者』は、『蒼い胎動Lv6』に無条件という利便性でこそ劣るが、水に触れている限りふたつあわせて300HP/毎秒はつおい。

 もっとリジェネ系のスキル増やして、絶対死なないマンを目指そうじゃないか。


 『デイリー魚』はどうやら好きな魚を一匹召喚できる能力のようだ。

 ただし召喚する魚を強烈にイメージしないといけないらしく、生半可な知識ではスキルは発動しない。無理に召喚しようとすると魚のグレードがさがる。

 さっき俺の大好きなマグロを召喚しようとしたら、ちいさなメダカが出て来た。悔しい。バカにされている気がする。デイリー魚は練習が必要だ。


「さてとスキルの確認も終えたし、甲板に戻らないとな」


 大波のせいでフェリー船団は散り散りになったり、南極の凍える海水をぶっかけられたりしたため、甲板で戦っていた探索者やら財団職員らはみんな着替えたり、シャワーを浴びたりして凍死から逃れる行動を一様にとった。


 俺も例に漏れず、ぐっしょり濡れたので、危機が去ったことがわかるなり、急いで自室へ戻ってシャワーを浴びた。

 そんなものだから、実はいまの船の状況がわからない。

 なのでとりあえずは甲板へ戻ろうと思う。


「……ん?」

「きゅっきゅっ(訳:いま船が揺れたっきゅ。争いの気配がするっきゅ)」


 確かに揺れた。

 まだ海の魔物が近くにいたのだろうか。

 

 耳を澄ます。

 確かに聞こえる。

 爆発音だ。誰かが何かと戦っているのは間違いなさそうだ。

 でも、そのわりには艦内放送がない。

 さっき海の魔物に接敵した時は、けたたましい警報が鳴っていたのだが。


「ん」


 通路の曲がり角からふらっと人が現れた。

 暗い肌色の石油王のような風貌の男性だ。

 昨日の夜に会った気がする。

 ギリシャの探索者だったか。


 知らない人に話しかけるのはやや抵抗あるが、緊急事態だったら困る。

 

「こんにちは、さっきは大変でしたね。お疲れさまです。探索者の招集とかって掛かってますか? 集まってる場所を知ってたら教えて欲しいんですけど」

「ちーちー!(訳:待つちー、なにか様子がおかしいちー!)」


 近づこうと手を伸ばすと、バシッと手首を掴まれた。

 

「た、助けて、くれぇ!」

「どうしたんですか」

「ぅ、ぅううう!!」


 ミスター石油王の背中が膨れあがる。

 骨格が変質し、質量が増大し、みるみるうちに肉の怪物にかわっていく。

 

「まじかよ」

「ウォォォオッッ!」


 手首を握りつぶさん握力でひっぱられ、思い切りぶんなげられた。

 壁が陥没するほどにめり込んで止まる。


「う、ぅゥウ! アガア!」


 ミスター石油王だった者は発達した上半身を持つ冒涜的肉の怪異となり果てた。

 悲鳴のような声をあげながら突っ込んでくる。

 俺は素早く魔法銃をぬいて発砲。7発命中させるがまるで止まる気配はない。


「ぅゴオォ!」


 怪物が大きく腕を振ったのを上半身をそらして回避。

 慣れ親しんだ前蹴りことヤクザキックをお見舞いする。


 怪物は激しく打ち飛ばされ、廊下の壁を貫通して、誰かの部屋につっこみ横切って、バルコニーから海へ投げだされそうになる。

 だが、見事に踏ん張り、気力十分にまた向かって来た。

 

 スキルを物質化させ『絶剣エクスカリバーLv9』を抜剣、怪物の首を斬り飛ばした。怪物の胴体はごろごろと廊下に転がって、ピクリと痙攣するだけとなった。

 

「きゅっ!(訳:お見事っきゅ! 流石は英雄殿っ!)」


 冒涜の怪物、人体を変態させる忌まわしき技。

 あいつだ。あいつの悪意をひしひしと感じる。


 いったい何が起こっていると言うんだ。

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