フィンガーズ・ギルド、軍拡進む

 迷子の餓鬼道さんを無事に島の外まで送り届けてあげた。

 どこかすっきりした表情をしていた。

 うまいこと誤解が解けていればよいのだが。

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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『スーパーエージェントを拾う』


 スーパーエージェントを拾う 1/1


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『スマートなシャチ』


 継続日数:201日目 

 コツコツランク:ブラック 倍率100.0倍

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 今日のデイリー報酬はアイテム贈呈か。

 アイテム名『スマートなシャチ』。

 どこか含みのある名称なのは気のせいじゃないだろう。


 なんとなくノルウェーの猫又の時と同じ香りがするので、陸地で報酬受け取りするのはよろしくないと判断し、海辺に行って報酬を受け取る。

 デイリーウィンドウからポンッと黒と白の巨体が飛び出した。


「キューキュー♪」


 案の定、シャチが出て来た。


「ちーちー(訳:また獣が増えたちー)」

「きゅっきゅっ(訳:はじめての海の仲間っきゅ! これからよろしくっきゅ!)」


 ハリネズミさんは短い手足を伸ばして、シャチの鼻頭にハイタッチ。

 シャチは大きく口を開けてパクっと丸飲みする。

 楽しそうに戯れているな。


「きゅっきゅきゅーっ!?(訳:食べられるっきゅー?! 魚殿~! 手心を加えて欲しいっきゅぅ~!)」

「キューキュー♪」


 うん、やはり楽しそうだ。


「ステータスを拝見しますよっと」


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 スマートなシャチ

 HP2,500,000/2,500,000

 ATK1~41,000,000(4,100万)

 

 スキル『捕食者』

 スキル『スマート』

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 これは海のギャング。

 スキル持ちの眷属モンスターは強いって言われてる。

 厄災島の海上保安庁長官に任命しておこうか。


「キューキュー♡」


 シャチは嬉しそうに口にくわえたハリネズミさんを献上してくる。

 よしよし、ありがとうな。でも可哀想だから離してあげてね。


「君の名前はミスター・ブラックだ。よろしくな」

「キュー……」

「ん、不満?」

「キュー!!」

「ちーちー(訳:たぶん女の子ちー)」

「なるほど。それじゃあミス・ブラックで」

「キューっ!」


 喜んでくれているのかな?

 

「フィンガーズ・ギルドの所属モンスターはみんな経験値のなる木に登録することが義務付けられます。ミス・ブラック一緒に来てくれますか?」

「キューキュー!」


 ミス・ブラックがビーチに乗り上げて来たので、俺は両手を胴体にまわして、担ぎ上げる。服がビショビショなるが仕方がない。

 そのまま我らが世界樹のもとまで運んで、尾ひれで幹にタッチしてもらう。


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 スマートなシャチ

 恵みレベル10

 HP15,000,000/15,000,000

 ATK1~65,000,000(6,500万)

 

 スキル『捕食者』

 スキル『スマート』

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 ちゃんと登録が済んだね。

 ミス・ブラックを海に返してあげる。

 デイリー君、海への防衛力を意識し始めたみたいだ。

 これからは海の仲間が増えるのかな。楽しみだ。










 

 2週間後。

 厄災島のビーチに港が建設されはじめた。

 これまでは必要のなかった施設だが、艦隊を手に入れたために必要になった。


 厄災島では物事が尋常じゃない速さで動く。

 ゆえにいろいろなことが短い期間で起こる。


 2週間前にジョン・ドウに襲撃されたのが嘘のように、島の傷は修復され、死体は1週間前を最後にいっさいが片付けられた。


 10km沖に沈んでいたグロテスクな怪物に関しては、ずいぶん前に回収作業があり、あれはいま我らの李娜博士の興味の対象になっている。

 あの引きこもりが連日北側のビーチで姿を目撃されていることを思えば、その熱心ぶりがわかろうと言うものだ。


 ぎぃさんはいよいよオド・アクラスにこもるのが普通になった。もう最近では彼女の温もりが肩に乗っていないのにも慣れてきた。

 ぎぃさんと言えば、襲撃事件を受けて、軍備増強にさらに力を込めるようになった。軍拡は進み、常駐戦力は20万体から30万体へ引き上げられた。いっきに1.5倍の増強である。来年あたり地球は終わることを本当に覚悟したほうがいい。

 以前までは厄災島のサイズ的なキャパシティ的にあんまり調子に乗って増やせなかったが、いまではジオフロントがかなり整備されてきているので、収容数的な余裕はおおきく進歩しつつある。なのでその気になればまだ増強可能だ。


 常駐戦力は増えたということは、それだけ経験値のなる木の登録者も増えたと言うことだ。


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 『経験値のなる木』

 経験値の奔流よりいずる神なる樹

 樹の戦士たちへ恵みをもたらす


 生産量 1,000億/1d

 

 恵みレベル:11

 次の恵みレベルまで199,981人

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 我らの世界樹はさらに威容を増し、いまでは地上100mの高さにまでてっぺんを到達させつつある。


 ぎぃさんの軍拡に伴い、厄災島では武装見直しが行われるようになった。

 

『魔法銃。なるほど。これまでは軟弱な武装とばかり軽視していましたが、なかなかに興味深いです』


 ぎぃさんは人類を見下しているところがあった。

 黒沼の怪物たちの強靭なパワーさえあればどうとでもなる。

 従来の思想はこんな脳筋スタイルではあったが、心境の変化があったらしい。

 

『人類の兵器の威力を思い知りました。吹けば飛ぶ塵のごとき雑兵であろうとも、魔法銃で武装することであれほどに強力になるのです。勉強になりました』


 筋肉モリモリマッチョマンの変態と、細くてがりがりの銃を持った人間なら後者が勝つことに疑いはない。どれほど地力に差があろうとも、当てれば十分な威力をだせる武器・兵器が弱いわけがない。


 いまではジョン・ドウ兵士から奪われた銃と弾薬をもとに、分解・理解し、同型の武装をコピーして自分たちで生産ラインを確立できるよう試行錯誤している段階だ。

 流石に近代武装を造り出すには科学力とノウハウを蓄積する必要があり、また素材やら加工するための工場も必要なため、トランプマンに相談・交渉しているところだ。


 しばらくは銃器は生産するというより、買う方向での供給に落ち着きそうだ。

 俺も自分の島に勝手に武器製造工場つくるのは、まわりから不信感を抱かれまくると思うので、ゆっくりやることに落ち着いた。なのでぎぃさんにはこの2週間何度かNoと返事をかえすことがあった。俺の為にやってくれることでも、社会とまわりはそれに納得してくれない。そもそも今以上の戦力が必要なのかもわからないし。


 また、この2週間での大きな変化のひとつとして、トランプマンに依頼していたフィンガーズ・ギルドの制服が届いたことがあげられる。

 以前から、黒い指先達が人間なら全裸同然の姿で過ごしていることが、気にはなっていたのだ。なので個体を選んで服を着てもらったりの試みはすでに行っていた。

 どうしても大量にとなると、供給が追い付かなかった。

 なので、トランプマンのスターズ・カンパニー──炭酸水から宇宙開発まで手掛けるヤバい場所──の協力を仰いで、安く大量に用意してもらったのだ。注文が1カ月前だったことを思えば、迅速な仕事である。ありがたい。

 

 今では黒い指先達はみんなが標準装備として制服を着込んでいる。

 とはいえ、これは身分:戦士たちの話だ。

 高技能個体や、特別技能個体はそれぞれの能力をあらわした服装──理系学者は白衣、料理人はコックコート。なお強制ではない──の場合が多く、そのほか身分:学生らはわりと一般市民じみた布地の服が用意されるようになった。

 

 服装の努力のおかげで、いままでは全体的に黒くて何をしてくるかわかったものじゃない、おどろおどろしい軍団だったのが、文明的かつ知的、友好的な雰囲気、有体に言えば”話が通じそうな雰囲気”を持たせることができた。


 これらの成果は主に普段から日本中のダンジョンへ派遣されている黒き指先の騎士団たちの活動において現れており、世論は黒い指先達を受け入れる方向へかたむきつつあり、人々の彼らを見る眼差しは好意的なものに変わりつつある。


 かくして物事は順調に進んでいた。

 もちろん、デイリーミッションだってコンスタントにこなしている。

 本日のデイリーもすでに朝のうちに終えており、継続日数は215日となった。

 デイリー消化はマストだ。


 本日も勤勉で平和な一日が過ぎていく。

 毎日のように適当な日本国内ダンジョンへ足を運んで、1日1回フィンガースナップをお見舞いしてダンジョンをしばけば、あとは自由時間となる。

 以前はアマプラでアニメ・映画の視聴やらゲームやら、ダンジョンチューブでゲーム実況を見ること精を出していたが、最近ではもっぱら自分磨きと厄災島の手入れに力をそそぐようになった。

 

 これも年齢の変化ゆえだろうか。

 大人は家庭をもつと家の庭を手入れしはじめたり、美容に気をつかったり、ジムに通ったり、健康を意識するようになるらしい。

 俺もそういう時期になったのかな。


 まあ、俺にとっての自分磨きというのは主に修行なのだがね。

 大半の探索者と同じように、俺は日々、戦闘能力を鍛えている。

 特にスマートな戦闘能力の確保がいまの課題だ。


 本日もスマートなシャチと海上で優雅なお昼を食べた俺は、島に帰り、厄災研究所のビーチ近くに建設された射撃場へと赴く。

 1週間前よりはじまった射撃訓練を行い、そののちハッピーさんとの早撃ち対決に臨むためである。


 夏の強い日差しが肌を焼く。

 射撃場へやってきた。

 銃声が響いている。耳の奥までつきさす撃鉄の音。

 火薬の匂いがする銃口をさげ、銀髪の美少女はこちらを向く。

 ノースリーブの涼しげな格好に、豊かな双丘を張り、日差し避けのためかサングラスを掛けている。マイトレンドなのか最近は特に着用していることが多い気がする。

 

「待ってたよ、チャレンジャー」


 ハッピーさんは言ってフっと笑み浮かべた。

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