Side : John Doe 新型と活路
「タコ野郎の親戚か?」
「撃ちまくれ。撃ってりゃいつかは生き物は死ぬんだ」
小隊は広く散開し、一斉に射撃を浴びせる。
重厚から火炎放射のように溢れる燃焼ガスにより、強力な鋼弾が放たれ、屈強な上半身を誇る新型個体に突き刺さる。
しかし新型はとてつもない耐久力を持っていた。
一向に倒れる気配はない。
それどころか、のっそりのっそりと進んできているではないか。
新型の背後で黒い指先は、のんきに銃をリロードし終える。
タイミングを見計らってサッと銃を構えた。今度は、身を完全に乗り出すことなく、新型を盾に身を傾けてすこしだけ体をだしての発砲であった。
ジョン・ドウ兵士の一名が肩に被弾し、一名が足に被弾させられる。
弾丸の威力が凄まじく、肩から先、太ももから先が吹っ飛ばされてしまっている。
マイケルは叫ぶ。
「魔法弾!?」
「ッ、あれ俺たちの銃かッ?! 喰らったらひとたまりもないぞッ!」
皆、慌てて壁に隠れる。
ジョン・ドウの使っている銃弾は、人造人間にさえダメージを通す弾とされている。絶大な威力を誇っているのだ。それゆえに逆に対人間で使われると、たとえ経験値で強化された超人だろうと、胴体に命中ならほぼ即死、手足に喰らっても、紙粘土のように千切れ飛ぶほどの大きな致命傷必須の弾なのでる。
「あのデカブツをやらねえとダメだ、ダンジョン・マグナム弾を使うぞ」
ベネット隊長の声に、皆は虎の子を所持していることを思い出し、慌ててマガジンを交換し、通常魔法弾より強力なダンジョン・マグナム魔法弾をリロード、弾幕が止んだ隙を狙って一斉に身を乗りだし撃ち始めようとし──
その瞬間、兵士の一名が脳天を撃ち抜かれ、頭部が爆発した。
黒き怪物は速攻で撃ち返してきたのだ。
動揺しているとさらにもう一名、マイケルのとなりの隊員の胴体に穴が空く。
(あいつ弾切れしたふりを? っ、まさか──)
マイケルは恐ろしいことに気が付き、硬直してしまった。
ほかの隊員たちが撃っていたおかげで、ダンジョン・マグナム弾はその威力を発揮することができた。
新型に対してダンジョン・マグナム弾は効果的に作用した、
ものの7発ほどで、ぐつぐつと崩れ、その場に倒れた。
必然、その背後にいた黒い指先にもマグナム弾は届き、雨のような弾幕にさらされる。黒い指先は避けながら後退し、腕を一本失いながら、角の向こう隠れた。
だが、弾幕がやんでいないのにすぐさま曲がり角の向こうから身を乗り出し、片腕で狙いをつけて撃ち返してきた。さらに兵士が一名、頭部に喰らって息絶える。
同時にベネット隊長の放ったマグナム弾が黒い指先に届いた。
指先は胸に風穴を穿たれ、その場に倒れ込んだ。
マイケルは目を大きく見開き凝視する。
(恐くないのか……腕が千切れたばかりなのに、すぐに撃ち返してきやがった、どんな気力だ、それは人間の行動じゃない……今の状況で人間は撃ち返せない……いや、そんなことより……)
マイケルはいまの戦いをふりかえる。
(黒い指先ははじめ通路に棒立ちで射撃して来た、弾もすべて撃ち切り、精度も低い……だが、次の弾倉では物陰に隠れ、露出面積を減らして、こっちの隊員の2名、肩と足に命中させた……弾幕も20発使い切らずに温存、それどころかこっちが弾切れだと思って飛び出したところを撃って来た、命中精度もあがってる、頭と胴体に当ててるんだから……)
マイケルは気が付いた恐ろしい事実。
黒い指先はマネしているのだ。
人類の兵士たちを見て学んでいるのだ。
銃を一発撃つごとに射撃位置を修正し、高度な学習をし、たった3マガジンのうちに10mの距離で撃ち合いの中でヘッドショットするようになった。
最も脅威なのは、”ゼロから成長した”ことだ。
最初、通路に棒立ちの状態で黒い指先は待っていた。
すこしでも銃戦闘での基本がわかっていれば、そういう待ち伏せにはならない。
「クソ、こいつらはもうだめだ」
ベネット隊長は肩と足を撃たれた隊員のもとにしゃがみこみ無念そうに言った。
傷口がおおきく、手当する前にショック死していた。
ベネット隊長は怪訝そうな顔で「装備を整えろ。使える物は漁れ」と命令。
「まさか、まだ、進むつもりですか……? 無理です、見なかったんですか、こいつらは俺たちを敵として認識してないんですよ?」
マイケルはヒステリックに叫ぶ。
「それにあの新型を見ましたか? あの耐久力! 7.62mmじゃ倒せないっ! そう何発もマグナムを撃つMPなんてないです! あんなのが出てこられたら3体目には対抗することすらできなくなるッ!」
「落ち着け、マイケル。冷静になれ」
「冷静になるのはあんただよ!」
マイケルは血眼になってその場で祈りはじめた。
「申し訳ありません、間違いでした、俺たちはおおきな愚かな間違いをしました……! おぉ、フィンガーマン、お許しください、あぁ、フィンガーマン!」
ベネット隊長は足でマイケルを蹴り飛ばす。
ぐへっと地面に転がる。
「冷静になれと言ってるだろう」
「な、なにをするんですか……」
「いまの眷属モンスターの硬さを見たか。あれは恐らく上位個体だ」
「そんなの見ればわかりますよ」
「しかし、1体しか出て来なかった。この意味がわかるか?」
「?」
「これはフィンガーマンが仕掛けた罠だと言っただろう。部隊を分断させ、孤立させ、各個撃破するのが狙いなんだ。それを前提にいままでの流れを読むんだ。はじめ、俺たちは10km沖からヘリで島に上陸した。艦隊が島の10km沖に近づいてるんだぞ? 通信基地や、発電施設、それに研究所の入り口にあった監視カメラそのほか電子戦の心得のあるやつが、艦隊があんな近くまで来ているのに気が付かないわけがない、違うか?」
「何が言いたいんですか、私にはさっぱりわかりません、ベネット隊長」
「俺たちは強すぎたんだ。フィンガーマンは俺たちを迎え撃つために策を張り巡らした。最初の策は非戦闘タイプのモンスターと戦闘特化のモンスターを混ぜておいて、侵入者を油断させ、奇襲をかけるという作戦だ。なるほど、少ない戦力を利用するには理にかなっている」
「奇襲……」
マイケルは白衣の個体との邂逅を思いだす。
(たしかにあれはいきなり過ぎた……あの場面でいっせいにほかの部隊も初めて反撃されたんだ。ネメラウス部長の無線の感じからなんとなく把握できる)
「あの奇襲が物語っているのは、非戦闘個体をいくら失ってもいいから、戦闘ができる個体を最大限活用して、こちらへ最大の打撃を与えること。そうまでしないと俺たちを倒せないと試算していた。だから10km沖に接近した段階で、大きな犠牲覚悟で策を張った。なかなかに思い切りのよいやつだよ、フィンガーマンは」
ベネット隊長は迫真の顔で言う。
マイケルは不思議と説得力を感じ、彼の言っていることがあたかも真実であるかのような気がしてきていた。
「おそらくはいまの上位個体と武装を使った待ち伏せは、最大にして最後の奇襲作戦だ。最初の奇襲では思うようなダメージを我々に与えられなかった。だから、今度は分断作戦まで決行し、数少ない戦力を捻出し、各個撃破を狙うも、我々はそれを切り抜けてしまった。フィンガーマンの戦力はすでに枯渇している。もっと戦力が余っているなら、こんなチマチマやらずに包囲攻撃なりなんなりすればよいのだからな」
(たしかに、隊長の言うとおりだ。フィンガーマンはもう戦力を使い切ってるんだ。そうだ、きっとそうに違いない……こんなバケモノが何匹もいるわけがない)
マイケルは隊長の言を反復し、虚ろな眼差しで、仲間の死体から予備のマガジンを回収した。
(大丈夫、大丈夫、俺たちはジョン・ドウだ、負けるわけがない)
暗示のように繰りかえす。
ただ、皆、恐怖から逃れることに必死になりすぎていた。
衝撃のあまりひとつのことを忘れていた。
事前情報にあった武装した個体がまだ姿を見せていないことを。
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