ぎぃさんのやりたい放題チャンネル、加速する

 どうも赤木英雄です。

 ぎぃさんが黒髪長髪の幼げな美少女になってしまいました。

 本当にけしからんと思います。 

 シマエナガさんは「ちーちーちー!!(訳:おかしいちー! 許されないちー! 暴挙ちー!!)」と、めちゃくちゃうるさかったのでハリネズミさんに付き添いを頼んで、いったん退出してもらっています。


 ベイオハザードでしかみない円柱状の水槽に近寄る。

 ぎぃさんの美少女化が本当にちゃんとうまくいっているのかこの眼で舐め回す様に確認しなければ。……っと思ったけど、ハッピーさんにゴミを見るような眼を向けられる気がしたので自嘲しよっかな。


「……。これでコンプライアンスは守られましたね。ひと安心です」


 仕事の早いジウさん、水槽に丁寧に布を巻いてしまいました。

 残念だけど、仕方ない。仕方ない。


「おっほほ、たまらんのう、もしやぎぃさんや、どんな人間にも変身できるのかのう? 例えばビッグボインでシルバーエイジ好きのギャルになったり──」


 ズドンっと撃ち殺され黙らされるドクター。

 ハッピーさんは何ともない表情で銃口から登る硝煙を「ふーっ」と口で吹く。殺人がありました。大変です。でも被害者ドクターだから無視でいっか。


「すごいわぎぃさん、こんなこともできたの? 質量も形状も、ましてや生体組織まで変貌させるなんて、一体どんな体をしているの? 調べさせてくれない?」

『フッ』

「鼻で笑った?! ぐぬぬ、どうして私ばっかぎぃさんい相手にされないのよっ」

『まだ人類には早すぎます。最低10世紀くらい歴史を重ねて出直してきてください』

「なんてナメクジ……」


 ぎぃさんの無機質な表情がこちらを向く。


『我が主、お遊びはここまでにしましょう。ジョン・ドウの部隊の対処のプランについて説明させていただきます。よろしいでしょうか』

「いいですよ。して思念とやらはどうですか」

『御覧の通り』


 ぎぃさんはモニターのほうへわずかに首を向ける。

 ジウさんは黙したままいい感じに、カメラ映像をまわす。

 モニターの中では、それまで一方的にやられていた黒い指先達による反撃がはじまっていた。すでに相当な数のジョン・ドウの兵隊を返り討ちにしたらしい。


『思念増幅のおかげで島にいるすべての眷属のセーフティを一時的に解除できました。いまの眷属たちは攻撃されれば、自分の頭で考えて反撃できる程度に自由に動きます。また解除しただけにとどまらず、こちらから命令を送れます』


 さすぎぃ。


「……。島の地表部、30%がすでにジョン・ドウの制圧下にあります。地上にある各々施設も抑えられているようです。ビーチ、経験値のなる木、通信基地、発電施設。厄災研究所内も地上部の40%を制圧され、なお、敵の攻撃は続いてます」

「ぎぃさん、はやく全員蹴散らさないといけないわ。経験値生産設備そのほか教室棟も音楽棟も全部荒らされちゃうわ!」


 娜の言うとおりだ。

 もはや彼らを生きて帰すつもりはないが、これ以上、施設への攻撃を加えられるのはできれば避けたい。再建にもお金がかかるのだ。

 最近は建物の修理費しか払ってない気がするから自分のところの修理費まで払いたくない。ジョン・ドウに請求もできないんだし。


『すでに道を組み替えたので、それら重要施設への通路は封鎖してあります。我が主、ご安心を』

「道を組み替える、ですか」

『はい。厄災研究所は私のスキルで召喚した建材で建築してあります。なので、通路を構成する床も壁も天井も、階段も扉も、自由に移動させることができるのです。普段は現場に赴かないと建物の編集作業はできませんが、思念増幅装置の力でジオフロント最下層から地上部の施設すべてに干渉できるようになりました』


 なんか物凄いこと言ってません?


『侵入者の進路をコントロールしつつ、身分:学生らの退避をおこないます。同時に身分:戦士を動員し、武装勢力を現場に向かわせます。命令伝達完了です』


 2秒で業務連絡を終えました。


『それと我が主、今回の戦いはおそらく勝てるので、即時殲滅ではなく、いくつか検証とデータ収集を行ってもよいですか』

「説明を」

『はい。黒沼の怪物たちに経験を積ませたいのです。彼らは人類の現代兵装との戦いを知りません。今回は対人類の武器を学ぶ良い機会だと思うのです』


 今後、人類との全面戦争することとか考えてませんか。大丈夫ですか。

 

『本部を襲われた際の練習もしたいです。より高度な部隊が襲って来た場合に備えて、部隊を分断する術もいくつか試してもみたいです。アイディアがありますので。それとフィンガーズギルドの各種兵力が現代兵装相手にした場合の検証もしたいです。彼らの武器も奪いたいですね。できれば、沖にある船も欲しいです。装甲車もありましたが、あれも無傷で奪取しましょう。生物学的興味から100人ほど生け捕りにして教材にもしたいです』


 めっちゃ早口思念になっていく。

 えげつない願望もサラッと混ざってるけど別にええか。

 悪党なら何してもいいって学校で教わったし。


「でもね、ぎぃさん、それでこっちの被害が増えたら元も子もないのですよ。勝率はどれくらいですか」

『ファーストコンタクトの戦力から考えるに、92%の確率で島からひとりも逃がさずに全員を捕縛・殺害できるかと』

「敵は全滅、学生は保護。それだけ守れば、あとはぎぃさんの好きにやっていいですよ」

『御意です。必ず期待以上の成果を出してみせます』


 ぎぃさんが張りきってるので、多分まともな結末にはならない。

 でもね、ジョン・ドウ、これは君たちがはじめた戦いだ。

 受け入れるしかないよ。


























 ──厄災の軟体動物の視点


 さて我が主には許可をいただきました。

 はっきり言って、この戦いは楽勝。

 ジョン・ドウの特殊部隊がこの程度の戦力だとはやや拍子抜けですが。

 

 肌を揺らす産毛の一本一本から死んでいく眷属たちの意識が伝わってきます。

 きっと母のもとへ帰るのでしょう。いってらっしゃい。長い旅になりますね。


 さて部隊をどう調理しますか。

 ダークナイト1体で恐らくチェックメイトですが、それではただ迎撃するだけ。


 まず地表部での戦線は適当に蹴散らしておきましょう。

 武器と兵器を確保する方向で。ヘリは操縦者だけ殺して、無傷で欲しいところ……流石に難易度が高いしょうか。努力目標に設定しておきましょう。

 10km沖にある船の奪取もしたいです。空を飛んでは気が付かれてしまいますか。

 ならば海底を歩いていくよう命令を出しておいてと──。

 

 北へ向かった部隊はダークナイト率いる第一ギルドを後始末部隊に配備して、李娜博士のモンスター兵器の威力を確かめましょうか。あそこにはジオフロント繋がる物資輸送用のエレベーターがありますから、あそこから送り込めばいいでしょう。


 ふむふむ、戦場をいくらでもコントロールできるというのは楽しいですね。

 

「ちーちー(訳:後輩ばかり活躍するのはおかしいと思うちー。最近やっぱりちーの活躍が少ない気がするちー)」

「きゅっ!(訳:戦っきゅ、戦こそ我の出番っきゅ!)」


 やれやれ、やかましいですね。

 先輩と後輩をどこに振り分けるか、考える必要があります。

 どこかいいでしょう。

 ジオフロントに降りて来た敵を討つ花形という名目で配置しておきますか。

 

『先輩、聞こえますか、カクカクシカジカというわけでジオフロント北第三エレベーターあたりを守っておいてもらえますか』

「ちーちーちー(訳:絶対にそんなところまで敵こないちー)」


 先輩はこう見えて意外と賢い……気づかれてしまいましたか。


「きゅっきゅっ!(訳:花形っきゅ! 大いなる戦いに出陣っきゅー!)」


 後輩は猛スピードで向かってくれましたね。よしよし。


「ちーちーちー(訳:ちーは英雄のそばにいるから別にいいちー。これ以上、後輩にヒロイン面されたらたまらないちー)」

『お好きにどうぞ。ただし先輩が出陣する時は、私が防衛に失敗した時だけです。もちろん、そんなこと那由他にひとつもありえませんが』

「ちーちー(訳:別に構わないちー。失敗をカバーするのが上司の役目ちー。強情にならず失敗していいちー)」 

『失敗しませんってば。私は主の期待に応えるのです』


 やれやれ、みんな我が主の前で活躍することしか考えていなくて困ります。

 本当にやれやれです。やれやれ。あーやれやれ。

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