JPNアノマリーコントロール 無限城
こんにちは。
女子小学生を泣かせて来ました赤木英雄です。
カフェテリアで修羅道さんに遭遇し、なにやら黒い箱を渡されました。
いったい中身はなんじゃろうなと。
開てみると箱のなかみは空であった。
裸の王様方式で賢い者にしか見えないとかだったらどうしましょう。
「修羅道さん、これ空っぽに見えるんですけど」
「赤木さん、大正解です! その箱は空っぽです!」
なんだなんだ、新しいいたずらか?
「いたずらではありませんよ。その箱、見覚えありませんか?」
「これは……探索者ランクが上がる時、ブローチが入ってる箱?」
「そのとおりです! その箱には本当は迷宮の宝石ダンジョライトのブローチが入ってる予定でした」
「ダンジョライト?」
聞いたことのない宝石だ。
「ダンジョライトは極めて稀少な宝石資源です。特別な力を秘めているとされていて、Sランク探索者のブローチにあしらわれていることで知られています」
「へえ、Sランク探索者のブローチにですか。それはさぞ豪華な宝石なんでしょうね」
ん? ということはつまり……?
「もしかして俺、Sランク探索者になったんですか?」
意気揚々と俺はたずねた。
前々からジウさんや修羅道さんが匂わせて来ていたので、もしかしたらとは思っていたのだ。ついに来たか!
「残念、なってませんっ!」
なってないんかい。
「厳密にはまだなっていないといいますか、その資格を保有していますが、認められていないといった段階です」
「どういうことですか?」
「Sランク探索者は特別な探索者さんなので、複数のダンジョン財団本部が認めないとなれないんですよ。Aランク探索者まではそれぞれの本部が管理しますが、Sランク探索者は強すぎる個人なため、各々財団本部総帥らで構成されたダンジョン財団最高意思決定機関『D8』の意思決定のもと選出されます。国際的な戦力として運用されるべきという考えのもとです」
「ふぅん、なるほど」
「というわけで、赤木さん、出かけますよ!」
修羅道さんはぱくぱくっとカニ鍋定食を平らげると「ごちそうさまでしたっ!」と元気よく言って、俺の手を掴んで走りだした。
「待ってください、俺もごはん食べたい……!」
「だめです、だめです! 時は金なり善は急げ!」
強引に連行され、厄災島から転移ターミナル駅を通って、俺の実家の部屋へ。
そのまま家前へ飛び出るなり「さあ、行きますよ!」と、黒塗りの高級車に乗り込んだ。修羅道さんは助手席に。俺は後部座席に。
「無限城まで!」
「了解」
運転席のサングラスをかけた量産型黒スーツに言うと、車は静かに発進する。
ふと横を見ると、俺以外にも後部座席に人が乗っていた。
赤いスーツに白いネクタイをしたビジネスマン風の男だ。
目が痛くなるような配色であるが、この男は派手な柄でありながら、身に着けている服もネクタイも時計もバッグも、そのどれもが上品で優美であった。
一つ解せないのは、おかしな目隠しをしていること。
それも真っ赤な布地に、白い十字が刻まれた目隠しだ。
まるでスイスの国旗みたい。
って、誰だろう、この人。
見るからに不審者なんですが……。
「こんにちは、はじめまして、指男。昨今のあなたの活躍は聞いています。お会いできて光栄です」
「ありがとうございます。ところで、あなたは一体……?」
「私はあなたと同じラッキースケベの天命を受けた探索者です」
「ラッキースケベ?」
「はい。私は視界内に美少女をとらえるともみくちゃになっておパンツを破壊してしまう体質なのです。白くやわらかなぷりんっとしたお尻に82万飛んで82回ほど顔面を押し付けてきました。すべては不可抗力です」
「修羅道さん、超ド級の変態が乗ってます。このまま署までお願いします」
「私は変態ではありません。落ち着いてください」
「言い訳の余地ないのでは?」
助手席から修羅道さんがひょこっと顔をだす。
「彼はそういう人なんです。もうどうしようもないので放っておいてあげてください」
修羅道さん笑顔で呆れちゃってますね。
「えっとそれで結局、何者なのか1mmも情報が入ってきていないんですけど」
「彼は『銀行員』と呼ばれています。世界最大規模の金融コングロマリット、クレイジー・スイス銀行にお勤めなんです。ダンジョン財団JPN本部Aランク”第1位”探索者です。それに3年連続JPN最優秀探索者賞を受賞もしてる真の実力者です。おそらく世界でも五本の指に入る探索者だと思います──Sランクを含めても、ね」
「しがない銀行員、正確には元・銀行員ですが。よろしくお願いします、指男」
握手を求められたので握り返しておく。
とてつもない人物という事だけはわかった。
「銀行員さんには赤木さんのSランク探索者への推薦人になってもらおうと思って今回来ていただいたんです。Sランクへ昇級するには現役のAランク第1位から認められなくてはいけませんので」
「もしかしてバトルするとかですか?」
銀行員の横顔を見やる。
赤い帯が目隠しとして巻かれてるせいで表情はまるでうかがえない。
「その必要はありません」
銀行員は言った。
「私はすでに指男さんを認めています。あなたは修羅道さんの着替えをラッキースケベするという偉業を成し遂げた。私はそのことに敬意を払っています」
どこからその情報漏れたんですかねえ。
まあ認めてもらえているならそれでいいけどさ。
そんなこんなおかしな同乗者と共に車は走り続ける。
「いまから向かうのはダンジョン財団本部です」
修羅道さんは言ってパンフレットを渡してくる。
代表挨拶だの建物案内図などが記載されているものだ。
「機密情報の宝庫なので探索者さんでもほとんど入ることはないです」
「そんな場所にどうして俺を?」
「JPNの総帥に顔をあわせておきましょう。Sランク探索者になるためには彼ら総帥と呼ばれる地位の財団職員との繋がりが不可欠ですからね」
「総帥、ですか。それって一番えらいひとってことですか?」
「そう思っていただいて結構です」
「ちょっと含みがありそうなんですが」
「ふっふっふ、ダンジョン財団で一番えらい人が誰かという議論は、すこし難しい話ですからね。預言者の存在もありますし。私たちはどうあがいてもチェス盤のうえの駒にすぎません。プレイヤーの意志を確実に実行すること。それがダンジョン財団の目的であるとも言えますから、その意味ではダンジョン財団の意志を真に決定しているのは総帥ではないとも言えます」
「ふぅん、なるほど」
まったくわかりあーせん(思考停止)
「おぱんつ」
「詰みエナガ」
「ガガーリンの黄金亀」
「メール」
「ルール無用おぱんつ」
「釣りエナガ」
「ガウェイン卿の太陽剣」
「ンゴロンゴロ」
「ログインボーナスおぱんつ」
「月エナガ」
修羅道さんと銀行員と運転手の4人でしりとりフリースタイル(国際ルール準拠)をしているとやがて車は止まった。
目的地に着いたらしい。
降りればそこは東京っぽさを感じさせる都市の真ん中であった。
目の前には途方もなく巨大な建物がある。ビルだ。
それも窓のないビルだ。高さはどれほどか。うえのほうは雲に隠れて見えない。
夜の闇のなかに重苦しくたたずむ摩天楼が、航空障害灯の赤いひかりで怪しげにその巨大な輪郭を浮かび上がらせている。
これがダンジョン財団本部?
ネットでもまるで見たことが無い外見です。
というか、窓のない真っ黒いな塔って感じで異質感がすごい。
こんなおかしなオーラ醸し出してるのに、周囲の人は慣れているのかまるで気にした風もなくビルの前を通りすぎていく。
「はじめて見ました……」
「ここはアノマリーコントロールですから当然です。見たことがあったら逆に驚きですよ」
「アノマリーコントロール?」
答えてくれるのは銀行員だ。
「地球上ではダンジョン財団が管理する8つの本部があります。いくつかの異常物質をかけあわせて超常的セーフゾーンをつくりだし、そこを拠点として財団は数々の異常現象、事件、もちろんダンジョンも──数多の超常を相手にしているとされています。偶然に一般人が見つけることはなく、尋常の方法では本部を見つけることはできません」
東京のまんなかにあるのに?
不思議の塊みたいな建物だ。
「アノマリーコントロール、通称:無限城へようこそ」
修羅道さんが笑顔で窓無き武骨な要塞じみたビルへ俺たちをいざなう。
銀行員は気にした風もなく、片手をポケットに突っ込んで悠々と入っていく。
「ぎぃ(訳:我が主、お気を付けください。ここは途方もなく危険な場所です)」
ぎぃさんのこそっとした警告を聞きながら、俺は慎重にビル内へ足を踏み入れた。
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