李娜の挑戦、地下耐久実験場にて

 厄災研究所地下耐久実験場。

 そこは我がフィンガーズギルドの二大マッドサイエンティストにしてなんか知らないけどいろいろ活動している謎の小学生、李娜リィナーの住まう場所だ。


 行き方は道案内にそって進めばたどりつく。

 厄災研究所の地表部から階段をくだって地下部。

 そこに設置されたエレベーターをつかってジオフロントへ。


 ああ、そうそう、厄災島にはジオフロントがある。

 ジオフロントというのは、有体に言えば地下都市だ。

 都市と言っても、厳密には人が住んでるわけじゃないし、そこで経済活動が行われているわけでもない。


 地下へやって来た。

 ジオフロント空間は非常に広くつくられており、それはもう地上からは相当に深い位置に建築されている。途方もない労力で時間をかけて手堀された巨大空間に、高さ100mほどの黒い塔が屹立と無数にならでいる。

 その光景は、別世界に迷い込んだようで、どこか不気味で、黒い指先達の圧倒的な数と労働力のすさまじさを視覚的につたえてくれる。

 そう、これ全部、ブレイクダンサーズやブラックタンクらがつくってくれたのです。

 彼らはハリネズミさんの『セイントの疾翼 Lv2』を装備しているので、高所の作業もおてのもの。


 いまのところ使う予定はないですが、20万の労働力を遊ばせておくのはもったいないと宰相ぎぃさんに言われ、また黒い指先達も俺の役に立とうとそわそわしているらしいので、持て余した彼らを仕事を与えるためジオフロントを作ることになった。


 つまるところ俺の完全ある趣味です。

 SFもののアニメではわりと出て来るので思いついた。

 そんなジオフロントに地下耐久実験場はある。正確には第何号目かの実験場だが、いまは一番そこが新しいのだろう。


 立ち並ぶ黒いビル群、黒い怪物しかいない街を抜ける。

 新国立競技場みたいなデカい建物があらわれた。

 

「よくもまあ、こんなの作ったな。前よりおおきくなってるじゃん」


 言いながら入場。


 地下耐久実験場へ足を踏み入れ、だだっぴろいコートへやってきた。

 外見どおり恐ろしくデカいスタジアムである。

 収容人数は新国立競技場を意識して勝ろうとしたのか、9万人くらいとか言ってたか。5階席まであり、ここに出て来ると空間の広さのようなものを思い知らされ、人間という一個人のちっぽけさのようなものを認識させられる。


「よくきたわ、指男!(クソデカボイス)」

「声っ」


 超巨大スタジアムに超巨大スピーカーで音声がかけめぐった。

 もちろん例のちみっこの声である。


「あんなスピーカーいつ設置したんだ……」

「ぎぃ(訳:先日の物品購入申請書に記載がありましたね)」

「ちーちー(訳:流し作業で全部に適当にGOサインだしてるからちー)」

「きゅっ(訳:あれも英雄殿のポケットマネーから出たお金で買ったっきゅね! 英雄殿は世界一のお金もちっきゅ!)」


 ええええええ、あれ、俺が買ったの!?(※初知り)


「今日、呼んだのは最強のモンスター兵器の威力を見せるためよ!(クソデカボイス)」

「なんか言ってるな……」

「ぎぃ(訳:彼女はダンジョン生物学の天才。神絵師の右腕を手に入れてから一ヵ月、天啓を得たのか、ほぼ寝ずになにか熱心に作業をしていましたね)」


 娜は厄災島の広域にわたる仕事をしているほかに、本人の研究をこの島でつづけている。発電所ができてからの島全体の消費電力の内70%近くが娜のもとで怪しげな開発のため使われている。


 その目的は新しいモンスター兵器の開発だ。

 すでに数百体のクソ雑魚モンスターが、おっと失礼、フィンガーズ・ギルド製モンスター兵器が厄災島には配備されており、さまざまな場所でセキュリティ任務についている。最もDレベルは4とか5なので、経験値のなる木とリンクしても、せいぜい14、15……素のブレイクダンサーズと勝負できるかどうかという程度の性能だが。


 この先、黒い指先達を越えるモンスターをつくれるとは想像しにくいが、可能性を追いかけることにこそ研究の意味がある。新しい発見があれば、いつの日か人類の科学力は厄災の力に追いつくかもしれない。

 俺も一応、人類側なので、そういった意味で人の叡智がどこまで辿り着けるのか見てみたいとは思っている。なので娜だけに限らず、研究者におふたりにはわりと自由にやってもらっている。もっとも俺が難しい話をわからないだけなのだがね。

 

「ん、なんか来たな」


 スタジアムの床がバガっと開いた。

 ウィーンっと地面の下からなにかがあがってくる。

 上昇するエレベーターであらわれたのは巨大なカニだった。

 

「龍双武蟹ハンシェン六型! これでブレイクダンサーズを破る!(クソデカボイス)」

「って言ってますよ、ぎぃさん」

「ぎぃ(訳:ふっ)」


 ぎぃさん、鼻で笑ってブレイクダンサーズ1体を新しく召喚。

 

「ハンシェは強靭な甲殻を持つカニのモンスター、あらゆる攻撃を防ぎ、強靭なはさみで素早く獲物をとらえて切り裂くわ!」


 カニはスーっと90度回転して横を向く。

 姿勢が定まったのか横歩きでびゅーんっとブレイクダンサーズへ向かい、大きなはさみを叩き下ろした。

 ブレイクダンサーズははさみを受け止めている。

 カニは腕をもちあげ、今度は横からガシンっとブレイクダンサーズをはさもうとした。

 はさんでくるツメを両腕でガードし、切断されないように耐えている。


 今度はブレイクダンサーズの攻撃だ。

 挟み込んいるツメを押し返し拘束からぬけると、ぴょんっと飛んでカニのうえに着地、拳を固めて思いきり甲羅を殴りつけた。

 カニの甲羅がぺきぺきっとひび割れる。

 たやすく粉砕され、カニ味噌が飛び出して沈黙した。


「ああああァぁアー!!!???(クソデカボイス)(音割れ)」


 悲鳴がスタジアムのスピーカーから聞こえてくる。

 ガタっという音を最後に静かになると、スタジアム端、ずっと向こうの方から娜が全力ダッシュでやってきた。30秒くらいかけてスタジアムのコートを半横断して近くまでやってくる。

 

「ふぇええんっ! 私のハンシェン……っ!」


 カニに抱き着き、大号泣しはじめてしまった。


「ぎぃ(訳:ふっ、人間風情が)」


 ぎぃさんあんまりじゃないですかねぇ……。

 

 人類のモンスター兵器がナメクジ軍の最下級兵士を負かすにはまだしばらく時間がかかりそうです。


 すこし待って、娜が泣き止んでくれたのでいろいろと話を聞く。

 顔が真っ赤でなんとも申し訳ない気持ちになる。

 

「それで娜、あの子はどうだった」

「もうダメみたい」

「そっか……」

「でも、大丈夫。ハンシェンは次なる進化の手がかりを残した」

「そうか……」

「指男、これで勝ったと思わないで!」


 娜はそう言って、最後にぎぃさんを睨みつけると、足早にいってしまった。

 相変わらずぎぃさんは鼻でわろてました。

 

「ぎぃ(訳:しかし、驚きましたね。指標で言うならDレベル8程度にまで進化していました。この短期間で驚異的な進化を見せています)」

「Dレベル8……以前は最初はDレべル3が現代モンスター兵器の限界みたいに言ってましたっけ」

「ぎぃ(訳:まだクソの役にも立ちませんが、将来的にはもしかしたらフィンガーズ・ギルドのさらなる戦力増強に役立つかもしれません)」


 なるほどなぁ。

 ところで、どうしてうちのチームのひとたちはみんな軍拡しまくるんでしょうかねぇ。何と戦うつもりなんです。いや、本当に。


 娜の挑戦を乗り越えて、暇になったのでたまっているアニメでも見ていると小腹が空いたので、カフェテリアへ足を運ぶことにした。


 カフェテリアはギルドメンバーが自由に食事をとれる場所だ。

 俺の有り余る資金の使い道として用意したもので、ここではなんと無料で料理を提供している。もちろんフィンガーズ・エクスペリエンスの経費でだが。


 料理してくれるのは5つ星シェフの技能を学んだ高技能ブレイクダンサーズ『ブレイクダンサーズ・シェフ』である。シェフは古今東西あらゆる料理を人類最高峰の腕前で披露してくれる。また本人の学習意欲がすごいので、日々、料理研究をかさね、その腕を磨き、料理人として常に進化し続けている。

 これが黒沼の軍勢のおそろしい点であり、優れた点だ。

 彼らは軍事力以外の面でも最強がすぎる。


 俺はそんな彼らの能力を最大限に活用して、さまざまな施設をデザインした。

 ギルドの長として無能であるがゆえに、こういった金を使えそうな場所で、福利厚生的面の貢献をしていこうと思っているのだ。


「赤木さんもご飯ですか?」


 修羅道さんがカフェテリアにいた。

 彼女はここの常連である。


「ちょっと小腹が空きまして。美味しそうですね」

「今夜の気まぐれ定食はカニ鍋です! どうやら新鮮なカニが手に入ったみたいで!」

「あぁ……なるほど」


 いろいろ察するところがあります。


「あっ、そうだ、ちょうどいいタイミングです。……ふっふっふ、ついに赤木さんにもこの時が来てしまいましたね」


 修羅道さんはポケットから黒い箱をとりだすのであった。

 結婚指輪でも入っていそうなその箱にどこか懐かしい既視感があった。

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