クズエナガ vs 指男 2



 その厄災の鳥は海面から100mの高さまでふっくらしていた。

 ふわっふわっもふっもふっの身体をきゅんっと一気に小さくし、バランスボールサイズになると、物凄い速さで海面スレスレを飛行。

 その余波で海が二つに割れるほどの勢いだ。


 他方、指男はどうせスキルを封印されると踏んで黄金の聖剣を開帳。


「エクスかしばー!」


 ちょっと噛みながら剣をふった。

 クズエナガ・ゴッドバードアタックを刃で受け止める。


「チー、チ、チチチーっ!(焦)」


 巨大な力の衝突で厄災島の木々が天空へ舞い上がり、ビーチが地形がかわって、厄災研究所の壁面はえぐれるように破壊された。


 クズエナガ・ゴッドバードアタックが防ぎきられた。

 べぎんっと黒いふっくらボディが弾かれる。


「チ、チー!」

「ふん」


 そこからは指男の攻撃がはじまった。

 優れた剣術を修めた彼の連撃は目にもとまらぬ速さであった。

 それを動きにくそうなふっくらボディでいなしていくクズエナガ。

 以前とおなじく『冒涜の反撃』で自動反撃装甲をまといつつ、『冒涜の剣舞』で攻撃力バフをかけ、『冒涜の閃光Lv2』で神速のつばささばきを披露した。


 指男はクズエナガの戦闘力に刮目した。

 なるほど強い。っと。


 クズエナガは指男の戦闘力に必死にくらいついた。

 つ、強いチー! 前より上手くなってるチー!


 両者の戦いはやはり長期戦となり、お互いに防御力やら、回復手段をもってるため、泥沼化し、戦いは夜までつづいた。

 恐ろしいスケールで戦いが繰り広げられるものだから厄災島の半分が壊滅した。

 度重なる戦いの舞台は、たびたび太平洋上へ進出し、海のうえで指男のぶっぱ攻撃が炸裂、そのせいで蒸発した水により、千葉国沿岸部では天気予報は裏切られ、毎時間90mmもの激しい雨が降り注ぐことになってしまった。


 ドクターと娜は全壊した厄災研究所の地上部、その廃墟みたいになった場所でかろうじて残された屋根の下、嵐の中心となり、いまだ激突する経験値クズと経験値ジャンキーを見上げながら、バーベキューをしていた。

 もちろん、ぎぃさんもハリネズミさんも参加している。みんなでBBQだ。


「いつまでやってるんだろ」

「そろそろ飽きて来るんじゃないかのう。あ、誰じゃわしが育てた肉が無くなっとるんじゃが?」

「きゅっきゅ(訳:もぐもぐ)」

「ぎぃ(訳:先輩が定期的に闇墜ちするとなると厄介な話です。どうにか邪悪な心を抑えないと毎回島がめちゃくちゃに、いえ、日本がめちゃくちゃに)」


 豪雨のなか複数の人影が廃墟のなかへ走りこんでくる。


「おや、バーベキューか。いいじゃないか」

「こんな雨のなか訳の分からない島に招待しやがって」

「びしょぬれである。どれ、その炎ですこし温まらせて欲しいのだよ」


「おぬしは長谷川鶴雄! それに殺し屋ブラッドリーに、花粉ファイターまで! どうしておぬしらがこんなところに?」

「……。私がお招きしました。彼らはフィンガーズ・ギルドの設立メンバーになる予定なので」


 長谷川鶴雄とブラッドリー、花粉ファイターの3人はジウの案内のもとターミナル転移駅を使い、今夜、厄災島に招待されていたのだ。

 バーベキューセットはそのためにジウが用意したものであり、親睦会という名目と、これからの拠点となる島の案内などを兼ねてやるつもりだったのだ。

 結果としてバーベキューセットはドクターと娜らによって、鳥vs人間の試合観戦用に使われてしまっているのだが。


 ジウは「……。まったく仕方のない博士たちです」と嘆息しつつ、騒がしい上空を見上げる。

 ドクターらはいま来た4人に状況を説明してあげた。


「指男も大変だな。だが暴力で殴りつけて黙らせることも時には重要だ。無闇に増税を発案する議員とかな」

「ふん、自分のペットをしつけれらないとはな。あいつも甘いところがあるようだ」

「しかし指男とああも渡り合うほとの戦闘力とは……あの眷属はいったい何者なのであろうか。鼻孔に侵入した花粉のごとくとても気になるところであるな」


 バーベキュー会場が騒がしくなって来たあたりで、ふと、戦闘音がやんだ。

 見やれば指男がぐてーんと伸びた黒いふっくらを手にトコトコ歩いてくる。

 特に息が切れている様子はないが、すこし疲れがあるようだ。


「皆さん、来てたんですか」


「先にはじめてる。悪いな」

「お邪魔しているのである。指男くんもはやく食べるといい。焼きあがっているぞ」

「どれ、取ってやろう。暴力祝いだ」


「ありがとうございます」

 

 言って指男は力尽きたクズエナガをそこら辺において小皿を受け取った。

 その時だった。

 クズエナガはバビュンっと動き3人のおっさんを誘拐、すぐ近くにあった『大ムゲンハイールver7.0』に3人のおっさんを放り込んでしまった。


 焦るドクター。


「い、いかん、ハッピーちゃんの時は奇跡的に助かったが、あんな偶然二回も起こらんのじゃぞ!」

「チーチッチ……(訳:そのために入れてるチー! ど、どうせやられるなら英雄クンの仲間も道連れチー! ざまぁみろチー、英雄クン!)」


 そう言ってクズエナガさんはムゲンハイールの扉を閉めてしまった、


 












 




 ──赤木英雄の視点


 どうも赤木英雄です。

 クズエナガさんをしばいたらバーベキューが始まってたので、いざ参加しようと思ったら、3人のおっさんがさらわれてしまいました。

 やばいです。まずいです。

 でも、なんだろう、こんな事が前にもあったような……?


「うわ、なんか研究所壊れてるし」


 おや、びしょ濡れハッピーさんが遅れて登場。

 彼女もバーベキューに招待してるんだった。

 あいにくの大雨ですが、わざわざ来てくれて嬉しいなぁ。

 

「クズエナガ復活してるし、なにこれどういう状況……」

「カクカクシカジカンっということで、復活したクズエナガさんと、命の危機に瀕してる3人のおっさんの図ですね」

「そんな冷静にしてる場合……?!」


「チーチー(訳:どうやらムゲンハイールが止まったチー。さて、どうなったか楽しみチー。きっとでろでろになって恐ろしい死に方をしているに違いないチー。楽しみチー)」


 ぼろぼろで風吹けば死にそうなのに最後まであがきよるからに。

 俺はクズエナガさんにとどめをさすべく剣を抜いた。


 その時だった。

 ムゲンハイールがゆっくり開いていく。

 白い煙とともに3つの人影が出て来る。


 オーバーオールを着込んだ土管職人のごとき逞しいよく焼けた浅黒い筋肉と、よく締まった切れ長の眼差しを持つ中性的な殺し屋に挟まれるのは、上質な背広をピチピチに張りつめさせるオールバックの男である。


 言わずと知れた三名であるが、ムゲンハイールに入ったせいか、どうにも雰囲気が変わった。もしやまた……なのだろうか? いや、知ってたけど。でしょうねの極みだけど。


 花粉ファイターは自身の手を茫然と見つめている。

 ブラッドリーは自分の顔をそっと押さえ、瞳を震えさせる。

 長谷川さんは拳を握り締め、なにかを悟ったように、速攻でクズエナガをぶんなぐった。


 黒腕がめりこみ、ばびゅんっとクズエナガさんを吹っ飛ばした。


「国会議員を舐めんじゃねえ!」

「チぃぃー!(訳こ、こんなはずじゃあ……ッ!)」


 なんか前回とまったく同じやられ方してないかな。気のせいでしょうか。


 クズエナガさんは黒い霧となって消滅した。

 霧のなかから白くてふっくらしたシマエナガさんが出て来たのでキャッチする。


「それで、どうですか、気分は」


 3人のおっさんがこちらへ向き直ってくる。

 

「いまならお前に勝てるかもな、指男」

「新しいチカラを試してみたくなったのである」

「私の暴力はいま完成したのかもしれない。殴らせて欲しいのだが」


 あーあ、もうみんなイキリはじめちゃったよ。

 おっさんのメスガキ状態ってどこに需要あるんだよ。

 

「ハッピーさん、責任とってください」

「な、なんで、私悪くないし」

「ハッピーさんがイキりムーヴするからみんな後に続いちゃうんですよ」

「それじゃあ、あたしも加えて全員と戦って納得させればいいんじゃないの?」


 なんでさらっとハッピーさんまで混ざるんですかねえ。


「流石にそれは意味わからないです……いまわりと疲れてますし」


 普通にクズエナガさん強かった。


「ふん、まあいいよ(指男にはどれだけ束になっても勝てないのはわかってる。私は冗談で言ってるだけだもん。でも、こいつらはわかってない。私の指男との距離がまるで理解できてない)」


 ハッピーさん、3人のおっさんに向き直ります。


「指男と手合わせ? なに言ってんの。私が指男に次ぐギルドのナンバー2なんだよ。私を差し置いて挑戦するとか笑っちゃう」


 ハッピーさん、かなり挑戦的な態度!

 これにはすかさずブラッドリー反応ピキっ。煽り耐性ゼロです。


「クソガキが。表に出ろ」

「ふん」


 あーあ、喧嘩はじまっちゃったよ。

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