白き鳥の奇跡
どうも赤木英雄です。
美しい花火が京都の空を彩っています。
綺麗ですねぇ、金色に輝く京都タワーの残骸。
つい写真に収めたくなっちゃうほどの世紀末な絶景です。
どこの誰があの砕けた京都タワーの責任を取るのか。
俺は本当に勘弁してほしいので、というか、俺は悪くないのでとりあえず現場から逃走したいと思います。
「ぎぃ!(訳:親方、空から女の子が!)」
「え?」
「赤木さん、またやりましたねー!?」
早すぎるッ! もう勘付かれたというのか!?
はわわっとしてると、そのまま修羅道さんに着地台にされ制圧された。
たいーほされしばらくのち、俺は自白させられることになった。
今回も死刑囚撃退ということを考慮して責任は50%で済まされるとのこと。
とはいえ、広範囲に瓦礫が降り注いでいろいろ被害出してるので損害賠償は覚悟が必要だと言う。
「赤木さん! うちの家計が破産してしまいますよ!」
「わざとじゃないんですよ、いや、本当に」
「1日で北野天満宮に老舗旅館に京都タワーを破壊する人間はいません! 変なところでハットトリックしないでください!」
ムっとした修羅道さんにこってり絞られた。
ふと、ある事を思い出し、俺は修羅道さんを連れてさきほど3人のおっさんがいた場所へ。
そこにはまだ長谷川さんに、花粉ファイター、ブラッドリーそのほか、大量の操られた人間がいた。とはいえ、テレパシーで操られていた人々は解放されている。
痛ましいのは勝手に生命力をコストに使われた被害者らもたくさんいること。
「ちーちー(訳:まだみんな息があるちー)」
「ぎぃ(訳:どうやらミスター・ブレインの能力は命を奪うギリギリまで生命力を搾り尽くしたようです。死んではいませんが、いまからでは現代の人類が保有するあらゆる治療行為を行おうとも助かることはないでしょう)」
「きゅっきゅっ(訳:かわいそうっきゅ……どうするっきゅ、英雄殿)」
なんで俺に聞いてくるんだよ、とも思わなくもない。
俺はこの世のすべての命を救えないことを知っている。
シマエナガさんがいれば救える人間──もっとも死んだ人間を生き返らせるという意味で──はいままでにもいたが、もしシマエナガさんがいる状況で、そういう状況を目の当たりにした場合、俺は人を無闇に救わないことにしている。
俺は命を選ぶ権利を持たないのだから。
だから、
「…………シマエナガさん」
シマエナガさんを空へ放った。
臆病な俺は彼女に命を選んでもらうことにした。
もっとも今回のミスターブレインのだした被害者の数くらいなら、彼女の能力でみんな癒してあげられるのだけどね。
「赤木さんはやっぱり優しいです」
樹の幹のうえのほうで俺と修羅道さんは地上へ降りていく鳥を見下ろし、並んで丈夫な枝木に腰かけていた。そこで修羅道さんは言ったのだ。
「困っている人がいたら助けてあげる……それはとても難しいことです。流石は赤木さんです」
「買いかぶり過ぎですよ。助けているのはシマエナガさんですし。俺はそんないい人間じゃないですから」
「確かに。いい人間は文化財やタワーを爆破しませんもんね」
久しぶりに修羅道さんの毒が。
いや、毒と言うか事実と言うか……。
「ぎぃ(訳:しかし、我が主、先輩の能力はローマ条約に抵触する人類禁忌ですよ。それを所有していることがバレるのは立場を危うくします)」
ぎぃさんはとても慎重な性格だ。
時には大胆だけど、いつだって俺のことを案じてくれている。
「でも、ぎぃさん、それは助けが必要な人を見殺しにする理由にはならないと思います」
「ぎぃ……」
「まあ、面倒なことに巻き込まれるのは勘弁してほしいのは同感です。修羅道さん、このことはどうか内密に。さ、この場を離れましょう。あとはシマエナガさんがうまくやってくれます」
言って、俺たちはサッと現場から姿をくらました。
──地上では
たくさんの人々が死に瀕していた。
命のすべてをあの忌まわしき超能力の使い手に消耗させられた。
風前の灯となった寿命はあとわずか。渇いた身体は動かない。
「ふぇええ! 痛いよ、動かないよ……!」
子供は激しい痛みになきじゃくっていた。
右腕が枯れ枝のようになり、骨の内側から金づちで神経を叩かれているような痛みに襲われていたのだ。
『正義の議員』長谷川鶴雄はその子供に寄り添っていた。
自分が攻撃してしまったせいで、ミスター・ブレインのバリアを起動してしまい、結果として幼い子の腕の自由を奪ったのだ。
これほどの苦しみを与えてしまっているのだ。
できることなら変わってあげたいと思っていた。
その様を冷ややかな目で見るのはブラッドリーである。
彼は探索者でありながら、人の死に多く触れて来た。
その刃で多くの命を奪ってきた過去がある。
普通の探索者はあくまでモンスターとの戦いのなかで育つが、その一方で、彼のような人間同士の戦場から転向して来た者は人の残酷さ厳しさをよく知っているのだ。
だから、鶴雄に「軟弱だ」などと、声をかけることはしなかった。
ただそれを見て強くなれることを期待した。
花粉ファイターは骨と皮だけになり、いまにも死にそうになっている者たちの傍らにいた。いかなる医術も彼らを救うことはないと悟っていた。
「ぁあ、ぁぁ……お迎えが……」
干からびた男のひとりは地面に伏したままつぶやいた。
釣られてみながぼそぼそと続いた。
周囲の人間たちも騒がしくなりはじめた。
何事かと花粉ファイターもブラッドリーも鶴雄も天を見上げた。
そこに眩い光に包まれた神々しい鳥がいた。
ふわりと舞い降りて来て慈愛の眼差しで地上の者どもを見つめていた。
そのサイズは翼を広げれば横に40m以上のおおきさを誇っていた。
白くてふわふわの愛らしいフォルム──ではない。
その偉大なる鳥は決してシマエナガなどのような豆大福フォルムではなく、鋭い眼差しに、銀色の嘴、白亜の大翼をたずさえたフェニックスとでも形容すべき威容を誇っていた。見るだけで心奪われる。神聖なるオーラが全開である。
そのさまをブラッドリーも花粉ファイターも鶴雄も目撃し、口をおおきく空け、唖然としてしまっていた。
否、3人のおっさんだけではない。
その場にいたすべての人間がかたずをのんで、偉大なる者の降臨に刮目した。
偉大なる者はゆっくりと地上に降り立つ。
「私の名はシマエ……ゴッドエナガ……神鳥ゴッドエナガ……ちー」
「しゃ、しゃべった……!」
「お、おぉ! なんと神々しい……!」
ゴッドエナガは傷ついたものたちに視線を向ける。
「その者たちをこっちへ……ちー」
ブラッドリーたちはハっとして怪我人たちをゆっくりとゴッドエナガなる存在の前へ。
光が勢いを増し、ゴッドエナガもろとも傷ついた者たちを包み込んだ。
光が晴れる。
生命力を消耗し、死にかけていた人々はその活力をとりもどした
人々は立ちあがり、その友人たちは涙を流して抱き合う。
鶴雄の腕のなかでなきじゃくるばかりだった子どもも、痛みが癒され、腕が動くようになったことで、再び笑顔を取り戻した。
「神、だ、神が降臨なさった!」
「救世主だ……!」
「ゴッドエナガ!」
人々は凄まじき神の業に畏怖畏敬の念を抱くとともに神を称えた。
「「「「ゴッドエナガ! ゴッドエナガ! ゴッドエナガ!!」」」」
「さらばだ……人間よ……もういかねばならない……ちー」
言ってゴッドエナガは雲のうえへと帰っていったという。
この奇跡はすぐさま拡散されることになった。
『その白き神鳥 悲劇の地に降臨し、救済と再生をもたらす
傷ついた者を癒し 光とともに天へかえってゆく』
ゴッドエナガの伝説は京都での悲劇よりはじまることになる。
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