ギルドメンバースカウト
旅館が死んでおった。
「大丈夫ですかー! ぺちゃんこになってませんかー!」
変な呼びかけをしながら瓦礫を慎重にもちあげる。
ぎぃさん、シマエナガさん、ハリネズミさん、みんなにバランスボールくらいに膨らんでもらい人命救助を遂行する。
しかし、見たところまったく遺体が見当たらない。
「ん?」
胸元がほんのり温かい。
黒く艶のあるブローチ『選ばれし者の証Lv6』が主張している。
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『選ばれし者の証 Lv6』
幸運値 4,020/10,000
【イイコトメニュー】
10 ちょっと良い事
50 すごくイイコト
100 死の回避
1,000 ラッキースケベ
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幸運値が減っている気がする。
そうか、わかったぞ。
ブチが旅館にいた人を幸運にも助けてくれたに違いない。
相変わらず無言で完璧な仕事をする。
職人気質なところもかっこいいやつだ。
よーしよしよし。
「む、でも、どうしてこんな壊れてるんだ」
「それは僕がお答えしますよ、指男くん」
「あ、さっきの」
大きなアタッシュケースをたずさえた男がやってくる。
「僕の名前は羽生です。ブラックオーダーの羽生です」
「羽生さんですか。ブラックオーダーって……それじゃあ姫華さんみたいに俺のことを護衛してくれていたんですか」
「おや、ずいぶん物知りなことで。全部知っているなら話がはやいです。いまあなたが消し炭に変えたのが脱獄死刑囚のひとりです」
「ただのバケモノでしたけどね」
「タケノコの策略で姿を変えられていたようですよ。もしかしたらブラックオーダーの殲滅が目的だったのかも。あるいはただの遊びかな……どの道おっかない話です」
羽生は見た目も普通なら、話した感じも癖が無く非常に接しやすい人物である。
てっきりダンジョン財団には変な人しかいないものとばかり思っていたが、意外とまともな人もいるのだな、と妙な安心感を得た。
「旅館は僕が戦闘エリアになることがわかってたので、さりげなく人払いしておきました。指男くんは旅館になにか用で?」
「ちょっと人に用があって」
「でしたら、街へ出て見たらよいでしょう。きっと会えるはずです」
「それじゃあ、そうします。……ところで、この旅館、俺が壊したこととかになりませんよね?」
「はは、その心配は無用ですよ。どちらかと言うと僕が怒られるほうです。責任なすりつけするつもりはないので安心してください」
羽生さん、とても誠実な人だ。
「それと行く前にひとつ。まだ脱獄死刑囚が近くをうろついてます。どうかお気をつけて。僕たちも目を光らせていますが、やつらなかなかに潜伏するのがお上手ですから」
「ありがとうございます。みんな、行きますよ」
「ちーちー!」「ぎぃ」「きゅっ!」
羽生さんへお別れをして俺は言われた通りに町の方面へ。
現在、京都の町はダンジョンブレイク被害からの復興の真っただ中にある。
町には自衛隊のテントが立ち並び、被災した者たちはそうした急ごしらえの住宅で日々を乗り越えている。瓦礫の撤去作業、被災して亡くなった遺体の回収作業などなど、憂鬱な気持ちになる厳しい仕事が行われているのである。
そんななかで被害の少ない地域もあった。
この1カ月の間で被災地京都では、ひとつの新しい潮流ができ、被災していない地区での積極的な消費が起こっており、そこではある種以前より活気が良い。
ダンジョンは多くの人間を集める。
戦争が特需を生むように、ダンジョンは大量の物資を運び入れさせ、消費させる。
探索者を呼びこみ、それにつられて探索者につられて旅行客が舞い込む。
それらは探索者のファンかもしれないし、史上稀にみるクラス5ダンジョンをひと目見るため集まった野次馬かもしれない。
とにかく人も物も集まれば、それだけ経済の勢いが増す。
そのため、京都の町は被災したのと同時に探索者、財団職員、旅行客、自衛隊、警察そのほかの特需的消費によって、想定よりずっとはやい速度で活気を取り戻しつつあった。
街中を普段の京都ではあんまり見ない感じのイカツ目の者たちが徘徊するなか、俺は目撃情報を頼りに『ブラッドリー』を発見することに成功する。
「なんだ、指男か」
「俺ですみませんね」
「ダンジョン攻略……見事だったぞ。流石だな」
そういえば昨晩の攻略完了パーティじゃ、こいつ見なかったな。
「どこ行ってたんです、パーティいませんでしたけど」
「昨日は33階層付近まで潜ってたからな。今朝戻ってきたところだ。ダンジョンの代謝は終わり、ダンジョンが死んだのはわかったから、どうせお前がボスをさっさと殺してしまったのだろうと思ったら案の定だった」
「もうすこし長引かせて、資源回収に時間まわしたい感じもありましたけどね」
「難しいところだな。あのダンジョンはデカすぎた。半年以上かけて大量の探索者を動員し、舐め回すように資源を回収すれば莫大な利益を得られただろう。だが、ダンジョンブレイクを既に起こしていた。かなり不安定だったのも事実だ。時間が経てば劣化し、ゲート以外の部分、つまり別の地表に入り口を開けて、そこから気が付かないうちにモンスターが溢れだす懸念があった」
「そんなことが?」
「ある。というかあった。だから財団は不安定になったダンジョンはどうなるかわからないために、1秒でもはやく息の根を止めて欲しかったのだろう。お前はその点。完璧な攻略劇だったといえる」
「なんだか今日はやけに褒めてきますね」
「勘違するな。お前の実力を冷静に採点してるだけだ。お前を喜ばせようなんてまるで考えてない」
相変わらずのブラッドリーですね。
では、そろそろ本題に。
「ブラッドリーさんってどうせぼっちでしょ。ギルド入れてあげますよ」
っと言ったところ、まあ、ごちゃごちゃ言い訳して「俺は一人が好きなんだ」「俺の実力について来れる奴は少ない」「ギルドなど何の意味もない」とか述べてましたけど、15分後くらいにはアプリで加入申請してくれました。
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『フィンガーズギルド』 Eランクギルド
【探索者】
・『指男』
JPN Aランク第10位
・『トリガーハッピー』
JPN Aランク第8位
・『ブラッドリー』
JPN Aランク第6位
【事務員】
・ドクター
ダンジョン財団研究者
・李娜
ダンジョン財団研究者
・イ・ジウ
指男付き秘書
・修羅道
ダンジョン財団受付嬢
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これで7人っと。
「花粉ファイターなら向こうで復興支援してる。樹を生やしてシェルターを補強してるとかいう話を聞いたが」
ブラッドリーから花粉ファイターの手がかりをゲット。
シェルターを補強ですか。前から思ってたけど万能な能力だ。
スキルにはさまざまな強さがあるのだと花粉ファイターを見ると思い出させてくれる。まあ、俺は脳筋至上主義者なので力こそパワーの教義を遂行するまでだけれど。
ブラッドリーの情報を頼りに、被災地域へやってくる。
「ダンジョンフレンチブルドッグどもめ、派手に暴れてくれやがった」
「どうやってこんなデカい岩を撤去するんだよ。重機ここ入らねえだろ」
自衛隊でも人智を越えた怪物が荒らしたあとの片づけは苦労しているようだ。
「岩は捨てておきますよ」
「む、君は探索者か?」
「ええ」
「この岩は流石に探索者でも重たいと思うが……」
「大丈夫。すこし離れててください」
『超捕獲家Lv4』で高さ7mほどの瓦礫を収納して除去する。
白い手が地面の隙間からあふれ出し、異空間に岩を引き込めば、あとにはなにもなかったかのような静けさが戻ってくる。
「やっぱりすごいなスキルって……」
「助かったよ、ありがとう」
そんなこんなでちょこっと自衛隊に協力しつつ歩いてると花粉ファイターを発見。
龍に乗った少女が暴れたせいで地下シェルターが半壊し、いつ地上の町が崩落してもおかしくないところ、巨大樹を生やすことで崩落を防いでいたらしい。
地下シェルター跡地に降りてきた時には太い樹が20本近く天井たる地面を支えるようにそびえたっていた。いまの京都が無事なのはこの人のおかげだろう。
「ギルドメンバーか。私は構わないがね」
「ありがとうございます。アプリで申請をお願いできますか?」
「それはよいのだが、しかし、なんのギルドなのだね。君ほどの実力者だ。人類に杉の樹が不要なように、君に花粉ファイターは不要だろうに」
「アルコンですよ」
「ほう」
「アルコンダンジョンは恐ろしい地とのことなので。花粉ファイターさんの力が欲しいんです。きっと一筋縄じゃいかないってジウさんも地獄道さんも言ってました」
「ははは、”あの”指男に求められては断れまい。ぜひ協力させておくれよ」
「ありがとうございます」
ということでこれで8人。
順調である。
あと京都にいる人は……あの人かな。
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