フィンガーズ・ギルド設立


 トランプマンとの交渉が終わった。

 これからいろいろと難しい話をし、いくつかの書類を作らなければならないとのこと。


「……。任せてください。こんな時のために私がいるのです」

「ぎぃ(訳:我が主、適材適所という言葉があります。お願いですからなにもしないでくださいね?)」


 というわけで、ジウさんとぎぃさんが作成するのを眺めて待つ。

 すると話題がギルド名に移っていった。


「……。指男さん、正式に仕事はじめるとなると組織名を固める必要があります」

「フィンガーズ・ギルドで決定です」


 即答していた。

 というのも、以前、シマエナガさんとギルド名の話をした時に思いつき、なんとなく仮の組織名として使って来ていたからだ。さっきもトランプマンには俺たちのことをフィンガーズ・ギルドと名乗っていたしね。

 特に変える理由もないのでこのまま行こうと思う。


「……。では、あとで修羅道さんにギルド設立申請書を提出しておきますね」

「あっ、それくらいなら俺でやりますよ」


 基本丸投げ任せっきりなのだが、トランプマンが目の前で見ているせいか少し見栄を張ってしまった。流石に全部任せているのもいかがなものかと。


 トランプマンとの交渉をひと通り終え固い握手をかわす。

 彼の手は分厚く、力強かった。


「よい時間だったよ、素晴らしいビジネスが出来そうだ」

「これからよろしくお願いします。今後ともうまくやっていきたいものですね」

「……っ、haha、そ、そうだな(穏やかな中にも明確な脅しが含まれている……『今後うまくやれるかはお前の態度次第だぞ』と……言っているわけか……侍の本懐を教えられるような事態にならないよう気を付けなければな)」


 なんだかトランプマンの表情が険しい。

 もしかしてトイレ我慢してたのかな……はやく帰してあげなきゃ!


 そんなこんなでターミナル転移駅を通ってトランプマンを自家用車という名の戦闘機まで送り届け、飛び立つところまで見送った。


 戦闘機でトイレに行くほど我慢してたようです。

 悪いことしちゃったな。

 ひとつ反省だ。


「……。嵐のような方でしたね。あれが実業家系探索者ですか」

「俺も実業家系探索者目指そうかな……」


 お金とか巻いてみたいし。


「それじゃあ、俺はちょっとギルド申請書つくってきますね」

「……。いっしょに行きましょうか?」

「いや、大丈夫ですよ」

「……。そうですか……(修羅道さんとふたりきり……邪魔してはいけませんね)」


 ジウさんはすこし声のトーンを落として言った。

 心配されているのかな。俺だけじゃ不安だとか。

 ならば尚更、俺一人でも大丈夫だと言うことを示さないとだな。


 修羅道さんに連絡するとまだダンジョンキャンプにいるとのことだったので、さっそくその近くへ。キャンプにはもう入れないので、近くのスタバで待ち合わせする。


 スタバの前に到着すると、空から降って来た修羅道さんと合流。


「まったくこんな好き勝手呼び出していいと思ってるんですか、赤木さん」

「たはは、すみません」


 いや、本当におっしゃる通り。


「まったく、まったくです。仕方のない赤木さんです」


 ぷりぷり怒る修羅道さんに6月の蒸し暑さによく効くアイスコーヒーをご馳走し、店内で俺はギルド設立申請書を作成した。

 修羅道さんが書類一式を持ってきてくれているので不備はない。


「こことここに名前です。あとこっちには設立メンバーを。もちろんあとから追加できるので現行のメンバーで記入をお願いします」


 銀行の優しい受付のお姉さんみたいに手取り足取り記入箇所を教えてもらいながら、ボールペンで記入していく。


「あ、間違えた……」

 

 書類あるある。

 ボールペンで書いてるときにゲシュタルト崩壊を起こして変な漢字書く。


「ふっふっふ、絶対にやると思っていましたよ、赤木さん」

「修羅道さん、またスカートの中から……」

「こんなこともあろうかとワンカートン分の書類を持ってきました。何度でも間違えていいですよ!」


 言って修羅道さんはダンボールをどーんっと置いた。

 流石にそんな間違えないです。

 そんなこんなで合計4枚ほどの紙を無駄にしながら書類を作成。


「これで資料は完成ですね!」


 修羅道さんは満足げにいう。

 ふと、書類の右上を見やると「アプリで簡単申請!」という文字が。


「ギルド設立でって財団アプリで出来たんですか?」

「あっ……」


 修羅道さんにラインしたら『じゃあ、赤木さんのために書類持っていきますね!』と言ってくれたものだから、てっきり紙の書類じゃないといけないと思っていた。


 む、もしや、これは……俺に会いたかったとかだろうか……。

 でもこんなこと口で聞くの死ぬほど恥ずかしいな。


「気が付いてしまいましたか、わたしがわざわざ書類を持ってきた理由に」

「っ! それじゃあ、もしかして本当に……」

「この冷たいアイスコーヒーをお金持ちの赤木さんに奢ってもらうためと言う事を……(流石に会いたいなんて面と向かって言うのは恥ずかしい……っ!)」


 修羅道さんはわずかに頬を染めてボトルを持ち上げる。

 紙製ストローが刺さったボトルのなか、氷がカランっと崩れて音がなる。


 流石に己惚れすぎたか。てかなんだよ、俺に会いたかったって。

 最高にキモいなぁ。これだから童貞はよ。自分の愚かさで死にそう。

 でも、がめつさがバレて少し恥ずかしげな修羅道さん。かあいい。俺のキモさと打ち消し合ってプラスマイナスゼロでは? ややキモさが勝つって? やかましいわ。


「ここで改めてギルドの説明だけさせてください」

「はい、お願いします」

「ギルドは探索者組合を示すことばであり、その名の通り複数の探索者が一定の理念のもとお互いの利益や損失を補填しあったり、探索で協力するための組織です。その実績に応じてギルドランクがあがっていきます。設立時はEランクからはじまり、Dランク、Cランク、Bランク、Aランクとあがっていく仕組みです」

「探索者ランクと同じですね」

「たくさんの人と信頼関係を築いて、協力してギルドを大きくしましょう。ギルド成長の秘訣を最後にお教えします──メンバーと仲良くしましょう! 以上です」


 うーん、遠足のしおり並みの秘訣だったなぁ。

 でも真理かもなぁ。


「なにか質問はありますか、赤木さん」

「えーっと、以前、聞いた時は10名いないとダメだって話だったんですけど」

「そうですね。申請が受理される際には10名いて欲しいです。いなくてもわたしがねじこんでおきますが」


 やはり受付嬢とは思えない職権乱用ぶりだ。

 あんまり無理なお願いばかりするのも申し訳ないので、ちゃんとメンバーを集めようか。

 本当ならメンバーを集めてギルド設立という流れなのだが、トランプマンとの一件で先に組織の形だけでも必要になったのでこういうカタチになった。良くも悪くもトランプマンのフットワークが軽すぎ。まあ速いに越したことはないので良いのだが。


「ところで、トランプマンさんとの交渉ではどうでしたか?」

「上手く行きましたよ。まだわからないですけど、毎月198億円くらいは収入ができるかもです」

「お金持ちなんてレベルじゃないですね。それだけであればマイホーム……いえ、あの島もいろいろ改築できそうです」


 修羅道さんはとっても喜んでくれた。

 やっぱりお金は人を幸せにするんやね。


「メンバーはどうするつもりですか?」


 現状のメンバーはこんな感じ。


 ────────────────────────

 『フィンガーズギルド』 Eランクギルド

 【探索者】

 ・『指男』

  リーダー JPN Aランク第10位

 ・『トリガーハッピー』

  JPN Aランク第8位

 【事務員】

 ・ドクター

  ダンジョン財団研究者

 ・李娜

  ダンジョン財団研究者

 ・イ・ジウ

  指男付き秘書

 ────────────────────────

 

 以上。

 

「いまは5人。あと5人集めいないか」


 候補者はいる。

 いっしょにゲームしてて世界一おもんない男『ブラッドリー』

 シンプルにゲーム強いルイージこと『花粉ファイター』

 なんだかんだ京都ダンジョンでも顔合わせてた『正義の議員』

 

 ここら辺かな。

 

「こほん。赤木さん、誰かを忘れていませんかね」

「え? ほかにいましたっけ」

「こほんこほん。わたしは一応どこのギルドにも所属はしていません!」


 修羅道さんが燃えるような赤い眼差しを送ってくる。

 表情は得意げで自身に満ち溢れている。

 

「もしかして、修羅道さんってギルド入れるんですか?」

「ふっふっふ、もちろん、その権利はありますよ」

「えっとそれじゃあ……その、入ります?」

「はい!」


 修羅道さんが仲間になった。


 ────────────────────────

 『フィンガーズギルド』 Eランクギルド

 【探索者】

 ・『指男』

  リーダー JPN Aランク第10位

 ・『トリガーハッピー』

  JPN Aランク第8位

 【事務員】

 ・ドクター

  ダンジョン財団研究者

 ・李娜

  ダンジョン財団研究者

 ・イ・ジウ

  指男付き秘書

 ・修羅道

  ダンジョン財団受付嬢

 ────────────────────────

 

 これで6人。

 あと4人だ。


 俺はメンバーを集めるべく探索者たちが宿泊している旅館へ向かった。

 ダンジョン攻略から一夜しか開けていないのだ。

 まだみんな残っているだろう。


 そう思って旅館へ戻って来たのだ。

 だれが予想できるだろう。

 今朝まで温泉に浸かったりゆっくり過ごしていた旅館が、跡形もなく消えているなんて。

 

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