経験値交渉
──トランプマンがエージェントGと会うすこし前
いやー暑いなかトランプマンは本当によく付き合ってくれてます。
建物内は発電機設置してエアコンでも電子機器でも使えるようにはなってるんですけどね。いかんせん島巡りはちょっと汗かきますよ。
とまあ、そんなこんなでトランプマンを連れて厄災島のさまざま案内した。
経験値のなる木、経験値生産棟、黒い指先達の訓練場、地下耐久実験場などなど。
流石は大富豪にして最高位探索者というのかな、どれもこれもさして驚いた風ではなく「ふ、ふぅん、これはなかなか……だ」と感心してくれていた。
金持ちの余裕と言うのかな。俺も見習いたいところね。
その後の交渉はうまく行ったと思います。
ジウさんにぎぃさんに丸投げしようとも思ったけど、ここはあくまで代表と言う事で最初はちょっと頑張ろうとした。「途中からバトンタッチしようかなぁ」と思っていたら、あれよあれよと言う間にトランプマンのほうから好条件を出してくれた。
いやーやっぱり、いい人なんだろうなぁ。
これからも末永く仲良くやれるといいなぁ。
トランプマンの話によれば、経験値の相場はその時々で変わるので一概には言えないが、『黄金の経験値Lv2』で2,000万円前後の売り上げが見込めるとのこと。
さっきは50万円とか言ってたような気がするけど……まあ細かい事はええか。
数を出して相対的な価値がさがり落ち着いたあとで2,000万円という規模感。
ちょっと数学は苦手だが、これが大きな金になるのは俺にもたやすくわかった。
「しかして、経験値を一気に放出しすぎるのは危険だろうね」
「どうしてですか?」
「経験値は人を惑わす。ダンジョン因子をもっていなくとも、経験値を摂取すれば生物は進化し、強力な力を獲得できる。金のある者は興味本位で欲しがるし、富をたくわえた老獪なら、生物学的な強さを求め自分の寿命を延ばすために経験値を欲するだろう。世界中の国家もほしがる。ダンジョン財団が厳しく規制してきた武器が手に入るとなれば、血相を変えて群がって来るぞ。経験値でレベルアップした軍隊が地球上に誕生すれば、核兵器に次ぐ脅威だ。各国は自国の軍隊をレベルアップさせ、超人による軍隊を用意する必要があるだろう。そうなれば、世界がフィンガーマン──君の経験値工場を欲しがる。それは大きな悲劇を生むことになろう(最もどこかの愚か者がこの島を攻撃することによって、フィンガーマンが報復を行い、人類滅亡することが一番恐ろしいシナリオなんだがね……)」
「経験値が人を狂わせる……なるほど」
「ちー(訳:どうしてこっちを見てるちー。明らかに英雄が一番の模範例ちー)」
「ぎぃ(訳:先輩……一度捕まってるのは先輩だけです……)」
「きゅっきゅっ(訳:みんな経験値が大好きっきゅね)」
トランプマンの忠告をもとに両陣営で協議した結果、順次輸出を拡大する方向でまずは月に1,000枚『黄金の経験値Lv2』を出す契約で合意した。
経験値市場の革命が起きることで世界がどう変わるのか、すべての主導権を握る俺たちは慎重にならなければいけない。
「マージンの話だが……スターズ・カンパニーは売り上げの1%を手数料としていただくとしよう」
「え? そんな少なくていいんですか?」
「金額にしたら決して少なくはないが、まあ、右から左に流すだけさ、さしたる手間じゃない。事務作業分の報酬にお小遣いがついてくると思えば十分さ(なによりフィンガーマンの敵ではないということを全力でアピールしなければならない……)」
ピザデブは心までピザデブだった。
こんな器のおおきい人間だったなんて。
トランプマンの株が俺の中で急上昇中。
1%をトランプマンの会社スターズ・カンパニー・グループに抜かれるとしたら……2,000万円の商品が1,000個で……──
1,000枚×2,000万円×0.99(99%)
=19,800,000,000(198億円)
概算でおおよそ198億円が毎月入って来るってことですか?
なにが起こっているんだ……?(歓喜)
というわけで、とりあえず最初の交渉はこんな感じで幕を閉じた。
実際に輸出を開始するのは1カ月後くらいからだそう。
どれだけトランプマンのフットワークが軽くてもダンジョン財団の方とも話をつけないといけない。
アポイントメントを取って、協議を繰り返し、その報告を俺の方へ戻して──とまあ、こんな作業がどうしても必要なので多少の時間はかかる。
ほかにもいろいろとお金になりそうなものはうちの島にはあるが、トランプマンにそのすべてを見せてはいない。
特に経験値銀行そのものやクリスタル保管庫は見せてはいない。
流石にあそこは最高機密なのでね。まあ気分良くなってわりといろいろ自慢げに紹介しちゃってるので今更感はあるけど。
『黄金の経験値Lv2』のほかにも経験値商品はあるが、それらもまだ紹介はしていない。
もともとは紹介するつもりだったのだが、トランプマンの話を聞いてジウさんが助言をくれたのだ。
「……。指男さん、『貯蓄ライターver2.0』は出すのはすこし待たれた方がいいですよ(聡明な指男さんなら、言うまでもなくわかっているとは思いますが、ここで助言しておかないと、私が無能だと思われてしまいますからね。それはなんというか……ちょっと嫌ですから)」
なんで出さないほうがいいのかわからず「ふぅん、やはりそうですか……」と伝家の宝刀でしったかしていると、ぎぃさんがこそっと教えてくれた。
「ぎぃ(訳:約1兆経験値は摂取するだけでSランク探索者に比類する超人をつくりだせます。なのでその存在が知れれば人類は新しいチカラのまえに再び惨劇をくりかえすでしょう)」
「なにが始まるんです?」
「ぎぃ(訳:第三次大戦です)」
とのこと。
なるほど。経験値は人と狂わせる。
その規模が大きくなれば、混沌も必然おおきくなると。
というわけで俺たちのなかで経験値自粛がしかれることになった。
いつの日か人類が経験値をちゃんと扱えるくらい熟成した種族になる日まで、ライターやら力の果実やらは大事に封印しておこう。というか俺たちだけで使おう。
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