経験値ビジネス始動
俺はお風呂を上がってさっぱりしたあと、修羅道さんを連れて厄災島へ赴いた。姫華さんもついてきた。悪い人じゃない気がするしええやろ。
「トラップルームによる疑似ワープ? まさかこんな強力な異常物質を……」
「ふっふっふ、赤木さんはダンジョンに愛されているので10個目と11個目のトラップルームを見つけたんですよ」
「優れた探索者ですね」
「でしょう? 赤木さん、行きましょう!」
修羅道さんに強引に腕をひっぱられ、厄災研究所へおもむく。
浜辺を10分ほど歩けば、黒い要塞とそのまえの渚で砂浜奪取している黒い軍隊たちが見えて来る。
「まあ、海軍基地でもやってきたような空気、あれはいったい……?」
「赤木さんの軍隊です! あっ、みんな恐がるので他の人には誰にも言っちゃだめですよ!」
修羅道さんが一番情報漏らしそうだけど。
「ですが、あまりにも戦力が大きすぎやしませんでしょうか……私でもどうにもならなそうなのがチラホラいます……特にあそこの黒い大きな個体ともふもふの可愛いノルウェージャンフォレストキャット」
ふむ。
ブラックオーダーは世間一般の水準からしたら高い戦闘力をもっているのはわかっているが、それでもダークナイトやノルウェーの猫又ことノルンにコロンには敵わないのか。もしかしなくてもやはり軍拡しすぎな気がしてならない今日この頃。
「着きました。ここです」
「そうでした! 赤木さんにはこれがありましたね!」
「まあ、すごく綺麗な金貨ですね」
「これは経験値です」
「経験値……?」
姫華さんは金貨ひとつを手に取り『黄金の経験値 Lv2』という表示を見て目を丸くした。驚愕したのか「嘘……」っと言葉を失っている。
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【経験値中央銀行】
『貯蓄ライターver2.0』×12コ
(9,999億9,999万9,999)
『黄金の経験値Lv2』×4,640枚
(20万)
『力の果実 600億』×5コ
(600億)
【合計】
12,300,927,999,988経験値
(12兆3,009億2,799万9,988)
【プラチナ会員ボーナス】
12,300,927,999,988経験値 × 10.0
=123,009,279,999,880
(123兆92億7,999万9,880)
【総経験値財産】
12,300,927,999,988経験値
(123兆92億7,999万9,880)
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「当行にはいま12兆経験値の蓄えがあります。ダンジョン財団はまだ経験値の生産技術を確立してないんでしたよね?」
「そうですね。人工ダンジョンのなかに宝箱を設置してそこでダンジョン内の大気をクリスタル化させることで一応は生産してますが、赤木さんの経験値生産インフラの威力には遠く及ばないでしょう」
ブレイクダンサーズを呼び『黄金の経験値 Lv2』をジュラルミンケースに詰めて運ばせる。なおいらぬ不信感を交渉相手に持たれないようにムゲンハイールは使わない。
「修羅道さん、経験値を財団に売りたいんですが、窓口ありますかね。経験値買取窓口」
「そういったことにはわたしも流石に明るくないですね。でも……」
言って修羅道さんは得意な顔してスカートのなかに手を滑り込ませた。
健康的な白い太ももが珍しくも露わになり、胸の鼓動がはやくなる。
修羅道さんは勢いよく「とう!」と言って無線のようなものをとりだす。
どうやら衛星電話のようだ。
「赤木さんならばすでに十分な相手と繋がっているのでは?」
ふむ。
経験値取引を行える相手。
そんな人いただろうか。
──数時間後
「君かわいいね~俺たちと遊んでよ~」
「きゃっ、やめてください!」
絵に描いたような悪漢に絡まれる少女を京都市街で発見。
悪漢は3人で少女に言いよっているが、どうにも少女は酷く怯えている。
金髪の可愛らしい西欧人だ。旅行者だろうか。
せっかくの日本の旅なのに可哀想に。
「ちょっと失礼、うちの彼女になにかようですかっと」
言って俺は少女の肩を抱き寄せる。
「なんだてめえ、彼氏?」
「恰好つけてんじゃあねえよ」
「綺麗な顔しやがって、人生イージーモードにやってきたに違いねえ。うぜえからやっちままおうぜ」
「非行少年たちよ、やめておけ。俺は大人だぞ。つまり強い」
「意味わからねえことのたまってんじゃねえ!」
「ふざけた野郎だ、ぶん殴って奥歯がたがた言わせてやらあ」
説得に失敗してしまったか。
仕方がない。実力行使だ。
殴りかかって来る拳を掴み、握力で拳骨を粉砕。
「うぎゃああ!? お、俺の手が……っ!?」
「て、てめえなにしやがった!」
「ちょっと力入れ過ぎたか」
人間ってこんな脆かったっけと思いながら、もうひとりが鉄パイプで殴りかかって来るので好きにさせる。
鉄パイプが俺の後頭部を打つ。
だが、俺は『銀の盾Lv9』を”あらゆる衝撃に対して
どちらかと言うとメタル装甲を殴ったほうにダメージはあるだろう。
「て、手が……鉄骨でも思い切りぶん殴ったみてえだ……!」
手がしびれて、真っ赤になり使い物にならないようだ。
最後のひとりは柔道でもやっているのか、胸倉をつかんで投げ飛ばそうとしてきた。ぎゃくに襟を突かんで5mほど浮かせて投げ飛ばす。
地面に背中から落下し、少年は悲鳴をあげて、激痛にのたうちまわった。
手が痺れて無力化された非行少年Bは恐怖に顔色を蒼白に染めた。
「お、お前、ただの人間じぇねえな……! も、もも、もしかして、た、探索者……か……!」
「俺は指男。お前たちの顔は覚えた。次はないぞ」
「……ゆ、指男……神出鬼没の怪人……っ! は、はああ、す、すみません、もう悪い事しません、ひええええああああ!!」
男は腰を抜かしながら、悲鳴をあげ、我先に逃げ出した。
それにつづいてほかの者たちも涙を滂沱と流し這いずりながら逃げていった。
「大丈夫ですか。勝手に彼氏面してすみません」
我ながら大胆な助け方をしてしまったかな。
西欧風の少女は俺の手を握ってくる。
「あい、がとう、ごじゃいます……私、恐くて……これが妖怪の國、京都なんだなって……」
「もう大丈夫でしょう。この町にもずいぶん指男は出没しましたから」
指男の都市伝説には神出鬼没性が結構つきものだ。
そして最近では指男は畏怖の対象であると同時に畏敬の念を向けられてもおり、怒らせるとヤバいけど、普段は弱者を救済したりする”ちょっとイイ奴”扱いをされていたりする。
これも俺の善行がすこしずつ噂に反映されている効果なのかはわからない。
そうでもなくも、困っているやつを面倒くさそうな悪党から助けるのはわりと日常のひとつではあるが。
ダンジョンキャンプのまわりはお祭り騒ぎになるので、人が集まれば、それだけトラブルも増えるわけだ。そう言ったトラブルを実力行使で片手間に助けるのも使命かなと思っている。
「それじゃあ気を付けて。いつだって指男が助けてくれるわけじゃない」
「は、はい! 本当にありがとうございました!」
少女はぺこりと頭をさげてくる。
彼女の心を救えたようでよかった。
少女の背中を見送り、俺は「デイリーミッション」とつぶやく。
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『突然! 人助け』
人助け 10/10
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 『先人の知恵S』×20
継続日数:174日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
おや、見たことないやつだ。
デイリーウィンドウからポンっと古びた本が20冊紐でくくられて出て来る。
────────────────────
『先人の知恵S』
1億経験値を獲得する
────────────────────
ついに先人の知恵シリーズも1億経験値突破したか。
でも、もはや1億がはした経験値に思えてしまう。
これが経験値至上主義のいきつく先か。
「ん?」
空がなにやら騒がしい。
あれは……戦闘機だ。遠い空から戦闘機が飛んでくる。
そのまま俺の頭上まで来て、あっ、空中で静止しただと?
垂直にそのまま降下してきて、公道に着陸した。
あまりにもハチャメチャなことをする。
見たこともない動きをする最新戦闘機のコックピットが開き、ヘルメットをかぶった恰幅の良い男が降りて来る。あの太り方はアメリカのデブの太り方だ。
後部席のほうからは同じくヘルメットをかぶった美人秘書が。スラっと手足が長く、身長は俺と同じくらい。アメリカのデブよりも背が高い。
「hahaha、CEOを手軽に呼びつけてくれたものだ、いったいどんなオファーなのかね、フィンガーマン」
「どうもトランプマンさん」
固く握手をかわす。
この恰幅の良い男の名はトランプマン。
Sランク探索者にして実業家という自由な肩書きを持つ大富豪だ。
先ほど衛星電話で呼んだのは彼である。以前、一度顔を合わせたことがあり、その時に彼から『黄金の経験値』をドヤ顔で渡された際に名刺を受け取っていたのだ。
「さっきはすぐ行くって言ってましたけど、まさか数時間で来るなんて」
「haha、親友の頼みなら株主総会だってエスケープしてきてやるさ」
「CEO、40分後にリモート会議の予定が……」
赤と青と白のアメリカンなスーツの美人秘書はすこし困った顔をする。
だろうな。そりゃ困るだろう。
なんだかジウさんを困らせているような錯覚を覚えるので手短に話そう。
「とりあえずキャフェテリアにでも座ってゆっくり話そうじゃないか!」
俺たちが向かったのは近くのスタバ。
もちろんビジネス交渉には向かないたくさんの若者でにぎわう場所だ。
「この店はいまから
「こ、困りますお客様! 他のお客様の迷惑ですので!」
「hahaha、店をoutしてくれるものにはワン・ミリオン・イェンをgiftしようじゃないか!」
トランプマンが指をパチンっと鳴らすと、美人秘書がどこからともなくアタッシュケースをとりだし、100万円の束がぎっしり詰められた中身を見せた。
現金なもので店内にいた若者たちはみんなひとりずつ100万円を受け取って店を笑顔ででていった。
「フィンガーマン、覚えておきたまへ、これがマニーのハウ・トゥというやつだ」
めちゃくちゃしよる。でも、カッコいいな。
お金はみんなを幸せにすると言う事か。
「お、俺もお金受け取ってバイトやめようかな……」
「わ、私も……」
「くっ、お前たち負けるんじゃない!」
金の魔力に負けそうになるスタバの店員たちをバイトリーダーが押しとどめている。すごく気持ちがわかる。100万受け取ってバイトやめたいよな。
というわけで、予想より10倍速く交渉は始まった。
当然、俺だけではアレなのですぐにラインでジウさんを召喚した。
もちろんぎぃさんも机の端に添えて置く。なにかあったらお願いするつもりだ。
俺とジウさんでトランプマン陣営との交渉がはじまる。
「トランプマンさん、交渉ってほどのことじゃないんですが」
「no、no、ただトランプと呼んでくれたまえよ、フィンガーマン。私はその”さん”というのに、どうにも慣れていないのさ」
「では、トランプ、あなたにお願いしたいことがあります。それは経験値を財団へ流す際の仲介者になってほしんです」
「haha、経験値を財団へ? まるで以前見せた『黄金の経験値』を絶えず、継続的に供給できるからそのための販路をくれと、sayしているように聞こえるのだがね!」
「ジウさん」
「……。はい」
ジウさんに持ってきてもらった巨大なジュラルミンケースを開いてもらう。
ムゲンハイールじゃない一般のジュラルミンケースだ。
「……。そのとおりです、ミスター・トランプ。フィンガーズ・ギルドは経験値を生産することができます。これはその主要製品『黄金の経験値 Lv2』です」
ジュラルミンケースから黄金の輝きがあふれだす。
トランプマンは身を乗り出し「oh……what a crazy……!!」と目を見開いた。
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