京都ダンジョンおしまい
天が見当たらない。
指パッチンのせいで何階層分かの階層間岩盤を蒸発させてしまったか。
あるいは何十階層分かはわからないが。
周囲は巨大なクレーターとなっている。
俺はそのそこにいる。全力で威力が拡散しないように抑えたのだが、案の定、このざまだ。やっぱりダンジョンの中くらいじゃないと本気を出せないと実感する。
「こ、これは……!?」
「ハッピーさん大丈夫ですか? 一応、焼かれないように気をつけましたけど」
「大丈夫……だと、思う……」
ハッピーさん周囲を見渡し、天を見上げ「天井が見えない……」と唖然としておられます。
やりすぎた感はあるけど、まあ、ボスは倒せたのでヨシ。
経験値を回収し、クリスタルとボスドロップを回収する。
「1,000億と4,120万経験値。エクセレント」
素晴らしき経験値。
40階層のボスとなると、かつてのメタル経験値祭りを大きく上回ってくる。
クリスタルもとっても立派です。てかデカいすぎる。
もしかして初めての億行くんじゃないか? いや、これは行く。確信がある。
して気になるボスドロップはなんでしょうかねぇ。
溶岩のなかに黒いトランクが横たわっているのを発見。きっとボスドロップだろうと思い、拾い上げて開いてみる。
トランクのなかには大きなシリンダーが入っている。円柱状のそれは濁った硝子のような素材でできていて、針金で外側から補強されている。
シリンダー内は濁った溶液で満たされており、肩口から切断されたような人間の腕がホルマリン漬けのように浮かんでいる。
シリンダーの傍ちいさく表示されているアイテム名は『神絵師の右腕』だ。
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『神絵師の右腕』
世界を滅ぼした絵描き、その右腕
途方もない想像力により彼方の超越的思索を得た
表現者は現実を一蹴し新しい世界を描いた
のちに罪を恐れ、そして腕を斬り落とした
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これまでの傾向から思うに、これも厄災の品なのだろう。
また修羅道さんや地獄道さんに怒られそうだ。
「すこし趣が異なりますね」
「ぎぃ(訳:生物型異常物質ではないようです)」
「きゅっきゅっ(訳:不気味な腕っきゅ、怖いっきゅ)」
「ちーちーちー(訳:これ以上後輩が増えたらどうしようかと思ってたちー)」
「……薄々気づてるんだけどさ、それも厄災?」
「おそらくは」
「指男ってなんで厄災集めてるの?」
「集めてるわけじゃないですけどね。……さ、帰りましょう、ここちょっと熱いです」
俺たちはボス部屋まで戻り、一応なにもないかだけ確認し、地上へ戻ることにした。
『神絵師の右腕』を厄災研究所へ運び入れる。
研究開発棟のドクターは興味深そうに受け取った。
「これはまた珍妙な物を手に入れたのう、指男よ。なにに使うつもりなんじゃ?」
「特には決めてませんよ。いまさっき偶然手に入れただけですから。使い道がなかったら財団に売ろうと思ってます。そうしたほうが本来は良い物なのでしょうし」
「そうか。だとしたらおぬし、これをわしに預けてはくれんか」
「いいですけど。なにに使うつもりですか」
「わしが使うと言うより、娜に任せたら新しいインスピレーションを得られるんじゃないかと思ってのう。有機的異常物質に関してはあっちのほうが専門じゃろうし」
ドクターと娜に任せておけば悪い事にはならない。
最も軍拡は勝手にやるし、基地は建設するし、ひきこもりしてどんどん自分たちの色に染めていくし、自由奔放すぎるきらいはあるけどね。
「そう言えば、クリスタル保管庫がすごいことになっておったが、そろそろ納税したほうがいいんじゃないかのう?」
「この前納税したばっかですよ?」
言われて厄災研究所・経験値生産棟のとなりにあるクリスタル保管庫へやってくる。
「指男、来たんだ」
「娜、こんなとこに……ってなんだ、これ!?」
教室ほどの室内を埋め尽くすクリスタルの山。
数が多すぎてザラメみたいになってる。目がチカチカする。
以前まではこんな量なかったはずなのい。
まさか!
「クリスタルが子どもを産んだ……?」
「そんなわけないでしょ。バカなこと言ってないで、はいこれ」
娜にタブレットを渡される。
彼女は【経験値中央銀行】が【クリスタル保管庫】などのデータを統括するプログラムを組んでくれている。それらは膨大な数の経験値資産やクリスタル資産そのほかを管理するのにとても役立っている。
ドクターと娜という2人の科学者によって厄災研究所は日々近代化していっているのだ。なお俺はそんな二人が「欲しい!」と言ったものを買ってあげるパドロンである。この前はグラフィックボードを欲しいと娜が駄々をこねたので60台ほど買ってあげました。え? 都合のいい財布みたいなポジション? まさかね。オーナーと言って欲しいな!
タブレットに視線を落とすと我が目を疑った。
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【クリスタル保管庫】
ちいさなクリスタル × 74,855
クリスタル × 15,830
おおきなクリスタル × 7,520
ちいさな宝箱 × 1,741
宝箱 × 520
おおきな宝箱 × 45
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「なんかやっぱり数がおかしいですよね」
「黒い指先達が一昨日くらいにまとめてここに納品していったのよ」
「あいつらが回収したクリスタルってことじゃないの」
ハッピーさんに言われハッとする。
黒い指先達はダンジョンを探索し【経験値中央銀行】に経験値を振込している。それと同様に彼らは膨大なクリスタルもまた回収しているのだった。
ダンジョンが終わりそうだからと、京都クラス5ダンジョンでこの一ヵ月中に回収した分のクリスタルを納品していったということか。
「ねえ、ちびっこ」
「私には李娜という名前があるんだけど」
ハッピーさんは娜のことをおちょくってよく遊びます。
娜は子ども扱いされるのが嫌いなので抗議をしてますが、いまのところハッピーさんが変わる様子はないです。
「そのクリスタルは何に使うつもりなの」
「これ? ふふん、実はいまモンスター兵器開発で天啓が降りてきているのよ」
言って、娜は手にした『ムゲンハイールver7.5』をもちあげる。俺のと同型です。チーム指男ではだれでも便利なバッグとして利用できます。もちろんハッピーさんも持ってるし、なんなら地獄道さんにもひとつプレゼントしてます。
「クリスタルを使った新しいモンスター兵器。近いうちにその威力を見せてあげる。ふふん、もしかしたらトリガーハッピーなんてお払い箱になっちゃうかもね~」
「このちびっこ、ムカつく。メスガキじゃん」
どの口が言ってるんですかね。
ニヤニヤ笑って去っていく娜を見送って、俺もまた自分のムゲンハイールにクリスタルを詰めていく。これだけあれば経験値生産設備をブーストするのには困らないし、大ムゲンハイールでの進化やら合成やらをするのにも十分だ。
「にゃあ~」
大量のクリスタルをムゲンハイールに詰め、ノルンの背中に巨大ボスクリスタルを乗せてキャンプに帰還すると、探索者たちから感嘆の声があちこちであがった。
大きな地震があったとかで、テントが崩れていたり、屋台が倒れていたりと、まあ酷い有様でした。でも謝りません。謝ったら負けです。だって最大火力出したかったんだもん。トトロいたもん。
「なんてデカさだ……っ」
「だれだあの探索者は……?」
「ルビーのブローチ付けてはいるけど……知らない顔だな」
「もしかして噂の指男なんじゃ」
「おかえりなさい、赤木さん! とっても立派なクリスタルですね!」
「40階層ダンジョンボスクリスタルですから(キリッ)」
「ジウちゃんから報告は受けていましたよ。流石は赤木さん、お仕事がはやいです。それで、ダンジョンボスのドロップはどちらへ? 持っていないようですけど。どうせまた厄災シリーズを入手したんですからちゃんと報告しないとだめですよ!」
バレてーら。
修羅道さんには隠し事できないです。
あとでちゃんと報告しないと。
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【今日の査定】
小さなクリスタル × 72,102
平均価格 2,274円
クリスタル × 12,840
平均価格 5,710円
大きなクリスタル × 6,369
平均価格 14,954円
ちいさな宝箱 × 1,741
価格 20,000円
宝箱 × 520
価格 100,000円
おおきな宝箱 × 45
価格 4,000,000円
銀色のアーティファクト
価格 41,004,521円
特別におおきな深淵のクリスタル
価格742,709,913円
【合計】
1,383,052,808円 (13億8,305万2,808円)
【ダンジョン銀行口座残高】
9,324,404円 (932万4,404円)
【修羅道運用】
1,841,520,741円 (18億4,152万741円)
【総資産】
1,850,845,145円 (18億5,084万5,145円)
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ボスクリスタルの価格が7億4千万円とは。
クラス5ダンジョンのボスともなると、スケールが違うようだ。
そして総資産ついに18億5千万円ですか。はじめてこんな大金持った。
イメージ湧かないけど、サラリーマンの生涯年収が2億円だか、3億円だかそれくらいだったような話だったから、これはすごいことなのだろう。
ところでアーティファクトなるものが査定に含まれてるんですけど、これは……。
「銀色のアーティファクトは以前赤木さんが千葉で手に入れて財団に提供してくれたアーティファクトの買取価格ですね」
思い出してみると、たしかにそんなことがあったような。
「アーティファクトは異文明を理解するために重要な情報が記されている研究対象です。この1カ月で調査が進み、アーティファクトをもたらした赤木さんへの報奨金が決められたようですね」
「へえ、あんな石が4千万円も……もっと取って来ればよかったです」
「あとの祭り、というやつですね。でも、十分に収穫してくれたので銀色に関する研究はおおいに進む事でしょう」
まあ、役に立ったというならそれでいいか。
「これだけお金が増えれば、厄災島の近代化も進めることができそうですね」
「厄災島の近代化?」
「はい。実はダンジョン財団首脳部は厄災ちゃんたちを赤木さんが保有していることを周知しているのですが、彼らが要求している収容施設をつくるのにはお金がかかるのですよ。わたしとしては人工衛星を飛ばして島の防衛力も高めたいですし、厄災島に通信基地も立てないといけませんからね」
ドクターや娜も厄災島じゃ機器が使えないと嘆いていたしたしかに通信基地は必要か。修羅道さんはいろいろ考えているようだ。流石は受付嬢にして賢者ポジションも押さえているだけのことある。思考量の差を見せつけられます。
「それじゃあ、またあとで。今夜は攻略完了お祝いパーティをしましょうね!」
ニコニコ楽しそうな修羅道さんとお別れする。
あとでお祝いパーティですか。すっごく楽しみですねえ。
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こんにちは
ファンタスティックです
絵を描きました。
『スーパーエージェント・餓鬼道さん』
https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139556089134347
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