経験値中央銀行


 秘儀を解放したおかげで無事においしいご飯でお腹を膨らませることができた。

 シマエナガさんもハリネズミさんも和の心を感じる逸品に大変満足そうだ。


「それじゃあ、わたしはお仕事にもどりますね」

「頑張ってください、修羅道さん」

 

 修羅道さんをダンジョン対策本部に送りとどけて別れる。

  

「ちーちーちー(訳:やれやれちー。あのメインヒロイン気取りの修羅道は油断できないちー、いづれちーをヒロイン第一位の座から陥落させるのはやつかもしれないちー)」

「きゅっきゅっ(訳:我が思うにたぶん修羅道殿ほうがヒロイン適正が高いというか、鳥殿がヒロインを語るのは片腹痛いと思うっきゅ)」

「ちー! ちーちー!(訳:生意気な超後輩ちー! 野生にかえしてやるちー!)」

「きゅきゅー!?(訳:やめてほしいっきゅ! 助けてっきゅ、英雄殿~!)」


 左ポケットを襲うシマエナガさんをつまんで、胸ポケットに押し込めて戦いを終わらせる。そこで大人しくふっくらしていなさい。


 ダンジョン財団外郭のビアガーデンで怪物エナジーを注文してちびちび飲みつつ、ダンジョン再突入前に英気を養うとします。

 

「シマエナガさん、財団の特別収容施設はどうでした?」

「きゅっきゅっ(訳:我も気になるっきゅ。もし投獄されたらどんな生活が待っているのか知っておきたいっきゅ)」

「ちーちーちー(訳:言うほど悪い場所ではないちー。飼育員は優しいし、部屋に友達を呼んでたのしくやってもOKちー)」

「なんですその看守と囚人が金で繋がってるみたいな無法地帯のプリズンは」


 本当に反省してきたのかなぁ。


「ちーちーちー(訳:安心してほしいちー。英雄はちーが必ず守るちー。そのためにもう傍を離れる訳にはいかないちー。節度ある良い鳥になることをここに誓うちー)」


 言ってシマエナガさんは誇らしげに胸を張る。

 彼女のなかで心境の変化があったのは確かなようだ。


 綺麗なシマエナガさんをもう一度信じてあげることにした。

 良い鳥が見れるかもしれない。


「それじゃあ、改めておかえりです、シマエナガさん」

「きゅっきゅ(訳:またよろしくっきゅ、鳥殿)」

「ちーちーちー♪」


 シマエナガさん帰還の会はしめやかに閉幕し、再びダンジョンへ向かう。

 清水寺の屋根のうえにつくった扉をつかってターミナル転移駅へ。


「ちー!(訳:大変ちー! 全部の経験値設備がなくなっているちー!)」

「経験値工場は移転したんですよ」


 そういえばシマエナガさんは全部知らないんだったな。

 厄災島のことも教えてあげようか。


 というわけで、シマエナガさんが消えたあとのことを教えてあげた。


 ジウさんは秘書になってくれたこと。

 南極にある魔導のアルコンダンジョンという場所を目指していること。

 俺たちチーム指男はギルド(仮)をたちあげ、厄災島なる拠点を得たこと。

 『経験値のなる木』という神聖樹があって、厄災研究所なる要塞が出来たこと。

 ハッピーさんがギルドメンバー第一号になってくれたこと、などなど。

 

「ちーちーちー(訳:ちーの知らないところで動きすぎちー!)」

「あ、そうだ」


 良い事を思いついた。

 シマエナガさんを試させてもらおう。


「シマエナガさん、ちょっとこっちへ」

「ちー?」


 厄災島の中央厄災研究所の地下へやってきた。

 

「ちーちーちー(訳:ここはなにちー?)」

「現在開発が進んでいる地下基地です。労働力が余っているので、建築学を学んでもらった黒沼の怪物たちが作業をしているところですよ」


 厄災研究所は将来的にはギルド本部になる予定だ。

 見栄というわけじゃないが、地下空間とかあったら恰好着くかなとかいう思い付きで、黒沼の怪物たちには俺の趣味に付き合ってもらっている。彼らは勤勉で忠誠心が高い戦士ゆえ、放置して暇させておくよりも働かせた方がやりがいに繋がるらしい。

 俺としてはこんだけ数がいるのだから完全週休6日制くらいのシフトで回してもいいと思うのだが、それでは逆に必要とされていないという疑念を彼らの中に芽生えさせる結果になる。ゆえに召喚した以上は、訓練なり、労働なり、勉強なり、なにかをしてもらうことになっている。今後どうなるかわからないが、現状はそんな感じだ。


 数万人の労働者がいるおかげで、すでに帝愛グループも驚くだろう地下帝国の一端が出来始めている。

 黒沼の怪物たちがつくった地下室の一室のまえにやってくる。

 中の大きさは学校の教室ほどだ。


「ち、ちー……(訳;こ、ここはどこちー?)」

「最重要施設ですよ」


 扉を押し開き、部屋内側の光景を見せてあげる。その名も、


「経験値中央銀行です」

「ちーちーちー!?」


──────────────────────────────────────

【経験値中央銀行】

 『貯蓄ライターver2.0』×12コ

 (9,999億9,999万9,999)

 『黄金の経験値Lv2』×4,520枚

 (20万)

 『力の果実 600億』×5

 (600億)

【合計】

 12,300,903,999,988経験値

 (12兆3,009億399万9,988)

【プラチナ会員ボーナス】

 12,300,903,999,988経験値 × 10.0

    =123,009,039,999,880

 (123兆90億3,999万9,880)

【総経験値財産】

 123,009,039,999,880経験値

 (123兆90億3,999万9,880)

──────────────────────────────────────


 重厚な壁に覆われたセキュリティ万全の部屋。

 左右には金貨のごとき『黄金の経験値Lv2』が海賊の財宝のごとく山をつくる。

 その最奥、鎮座する厚さ120mmの防弾ガラスの向こう側にはジッポライターが高級感のある布地のうえに12コ置いてある。

 そのしたあたりには禍々しいほどのオーラを放つ禁断の果実。


「実は『貯蓄ライターver2.0』には振り込み機能がありまして、ダンジョンに放った黒い指先達が回収した経験値はその日の終わりにこの経験値中央銀行の『貯蓄ライターver2.0』に振り込まれるシステムになってるんです」

「ちー、ちーちー!(訳:帰還祝いに全部ちーにくれるちー!? 嬉しいちー!)」


 120mmの防弾ガラスをくちばしの一突きで粉砕し、シマエナガさんは飛びつこうとする。


「あれ? 良い鳥になるって……反省したって……あれ、おかしいですね……」

「ッ、ちー、ちー……っ!」


 『力の果実 600億』にかぶりつこうとした直前で、ぴくッと動きを止めるシマエナガさん。チラとこちらへふりかえる。つぶらな黒瞳がうるうるしている。だめ。そんな眼してもだめ。絶対だめ。全然許さない。


「ちーちーちー(訳:これは鳥ジョークちー。もう経験値の誘惑に負けるちーではないちー。騙されたちー? 英雄はわかりやすいちー)」

「っ、シマエナガさん、変わったんですね」


 心を入れ替えたというのは本当だったのか。

 シマエナガさんは俺の胸ポケットに戻ってくると、深くもぐって「ちーちーちー(訳:ちーが正気でいるうちに中央銀行から離れてほしいちー)」と言います。

 己と戦っているんですね、シマエナガさん。立派になりました。


 地上へ戻って来た。

 成長し再犯の可能性が低くなったシマエナガさんに、厄災研究所のいろいろな施設を案内してあげた。シマエナガさんは大興奮で飛びまわり「ちーちー(訳:凄い施設ちー)」と大変に満足している様子です。


「ちーちーちー(訳:でも、後輩の眷属ばかりで味気ないちー。もっとギルドメンバーを増やしたほうがいいちー。ちーはボッチで孤独で可哀想な英雄にたくさん友達をつくってほしいちー)」

「そうですよねぇ。一応、誘えそうな人は何人かいるんですけど、まだダンジョン攻略中なので声をかけようか迷ってて」

「ちーちーちー(訳:気遣いは大事ちー。ダンジョンが終わったら声をかければいいちー。それでギルド名はどうするちー?)」

「チーム指男でいいかなって」

「ちーちーちー(訳:ダサすぎるから却下ちー)」

「えぇ……結構気に入ってるんですけど」


 厄災研究所の屋上へやってきて太平洋を一望する。

 海の香りする潮風のなか、シマエナガさんは翼を抱いて深く考えているご様子。

 ふと、顔をあげてこちらを見つめて来る。


「ちーちーちー(訳:『チームシマエナガ』がカッコいいよくてよさげちー)」

「言うと思ってました。とりあえず却下で」

「ちーちーちー!(訳:抗議するちー! 絶対にチームシマエナガがいいちー!」


 未来のギルド結成に思いを馳せつつ、ダンジョンへと戻ることにします。

 ターミナル転移駅に戻ってくるとノルンが香箱座りして眠そうにしながらスタンバっていた。駅のみずをぺろぺろ飲んでる。この水飲めるのかな。

 こちらに気づくと嬉しそうに近づいてきた。


「にゃあ~」

「ちーちーちー(訳:猫なで声で甘えて来てるちー。あざといちー)」

「にゃあ~♪」


 ノルンさんシマエナガさんを見つけるなりパクっと口にくわえました。

 おもちゃと勘違いしちゃったかな。


「ちーッ! ちーちーちーッ!(訳:ちーちーちーッ!!!)」


 シマエナガさんを救出してあげる。

 足元の水で綺麗で水浴びしてノルンのよだれを落とし、ぷんすかして俺の肩にとまった。そこでプルプルと身体を震わせる。なお俺は水滴まみれ。


「ちーちーちー(訳:ふざけた超超後輩ちー! 許せないちー!!)」

「まあまあ、可愛いじゃないですか。ノルンはペット枠なんですからそう怒らずに)」

「ちー?(訳:特に技能をもってないちー? なら許してやるちー。武器も作れない防具も作れないで、ちょっと役割希薄になりつつあるちーと同類なら仲間ちー)」

「でもノルンは猫タクシーという重要な役割がありますけどね。なんなら一番働いてる感ありますよ」

「ちー!?」

「にゃあ~!」

「ち、ちー……(訳:メインヒロイン枠、マスコット枠、どんどん地位が脅かされている気がするちー……っ!)」

「きゅっきゅっ(訳:元気をだすっきゅ、鳥殿。我は鳥殿のことを忘れないっきゅ)」

「ちーちーちーッ!!」


 シマエナガさん再びご乱心。

 今度はバランスボールサイズになって怒りを踊りで表現しはじめました。

 それに大喜びのノルンさん。コロコロ転がしてとっても楽しそう。


 しかし、うちのペットたちが熾烈な覇権争いは加熱しそうですね。

 みんな可愛いじゃだめなのかな?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る