フロアボス:深淵の作曲家



 21階層へ降りてきました。

 さてノルンに乗るんして攻略の続きをやっていきましょう。がはは。

 え? 地上に帰らないのかって?

 なにも食べずに辛くないのかって?

 ジウさんにおむすびとお味噌汁のお弁当セットを返却したり、新しくつくってもらったりしてるので、全然ラクしまくってます。


 お気になさらず。なんなら一番サボってるまである。

 ほかの探索者さんには申し訳ないので秘密ですけどね。ええ。




 





 ──ダンジョン侵入より120時間経過

 

 

 ハッピーさんは女の子なので1日1回は経験値工場を経由して京都の旅館にもどって体のメンテナンスしに帰っております。俺的には別に風呂なんて5日くらい入らなくてもええやろって思ってるんですけどね。でもこの持論展開したら、


「それはちょっと引くわ」


 と真顔で言われたので、その日から毎日風呂に帰るようになりました。

 いや、別に気にしてるとかじゃないよ。全然違う。真の探索者たるもの風呂のためにいちいちダンジョン出るなんて女々しいからね。でもね、いや、まじ気にしてるとかじゃないけど、簡単にダンジョン出る手段があるなら活用しようかなって。まじそれだけ。













 ──ダンジョン侵入より150時間経過

 


 27階層に到達。

 モンスターの強さはとくに問題はないです。

 だいたい最弱カリバーATK10,000:HP1を4回鳴らせば倒せます。


「エクスカリバー、エクスカリバー」


 だいぶん手動エクスカリバーも命中率もあがったんじゃなかろうか。

 ほとんど理想的なダメージを出せている。


「ねえ、そのエクスカリバーって何?」

「詠唱です。これを言うと威力があがります(嘘)」

「カッコいい……私もやってみようかな?」

「悪い事は言いません。やめておいたほうがいいです」

 

 これからも練習はするとして、俺にはもうひとつ練度をあげたいことがある。

 というのも、ここのところスキルを封じられることが多々ある。

 なのでスキルを封じられた時の対抗策を考えべきだと思うのです。


 そのためにおあつらえ向きのスキルを既に持っております。

 そう『活人剣』です。

 ジウさんいわく剣術スキルの一種とのこと。

 珍しいスキルなので使用者はあまりいませんが、効果自体はさほど珍しいものではなく、剣の技能を与えてくれるパッシブスキルとのこと。


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 『活人剣』

 人を生かす剣の道

 剣を達人のように扱うことができる

 熟練度 453/10,000

 ───────────────────

 

 熟練度が10,000になればきっと何かが起こる。

 たぶんスキルLvアップ。

 使える戦術は多いほうがいいでしょう。誘発投げられたらハリラドンするのと一緒です。なのでスキル成長のためフレンチブルドッグを刻んでいこうと思います。


 さあ、刻んじゃおうねぇ~どんどん刻んじゃおうねぇ~(ニチャア


 











 

 ──ダンジョン侵入より180時間


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

   『日刊剣術』


 剣でキル 1,000/1,000


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 スキル『二連斬り』


 継続日数:150日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 剣で1,000匹のダンジョン・フレンチブルドッグを倒してゲームセット。

 報酬はスキルみたいです。珍しいです。

 しかして150日になってもプラチナ会員のままですか。

 やはり次の会員ランクは200日と考えたほうがよさそうかな。

 厳しい試練だぜ。


(新しいスキルが解放されました)


 ───────────────────

 『二連斬り』

 流れるように放たれる二連攻撃

 瞬間的により大きなダメージを与える

 消費MP4 ×2

 ───────────────────


 うーん。

 なんだろう、今更すっげ弱そうなスキル渡すのやめてもらっていいですか?

 消費MP4て。二回斬るにしても消費MP8て。

 こんなの使う機会あるのかなぁ。

 いや、剣を練習しだした矢先に手に入るのは嬉しいけどさ。


 ─────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『備えあれば憂いなし』


 いいからやれ


 継続日数:150日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────

 

 鬼コーチです。

 備えあれば憂いなし。俺の成長させるためと信じて頑張るか。

 付け焼き刃ではなく、本格的な剣術系のスキルを身に着けさせるとね。

 これ剣士に転向しても通用するくらいに鍛えるつもりなんじゃ……俺、非常時にちょっと使えるくらいの剣術でよかったんだけど。

 でもデイリー君がやる気だしちゃったし俺もやるしかないかな。

 

 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル292

 HP 1,403,741/1,434,400

 MP 256,,140/261,000


 スキル

 『フィンガースナップ Lv7』

 『恐怖症候群 Lv10』

 『一撃 Lv10』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv4』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』

 『活人剣 Lv2』

 『召喚術──深淵の石像』

 『二連斬り』


 装備品

 『クトルニアの指輪』G6

 『ムゲンハイール ver7.5』G5

 『アドルフェンの聖骸布 Lv6』G5

 『蒼い血 Lv8』G5

 『選ばれし者の証 Lv6』G5

 『メタルトラップルーム Lv4』G5

 『迷宮の攻略家』G4

 『血塗れの同志』G4


────────────────────


「きゅきゅ(訳:我は英雄殿が剣術を修めるのは賛成っきゅ! 竜の友にはやっぱりカッコいい剣の使い手がふさわしいっきゅ!)」

「ぎぃ(訳:デイリーミッションの狙いは不明ですが、スキルが増えるのは良い事ですよ)」


 まあ、せっかくもらったし練習するか。

 あっ、そういえば『活人剣』が『活人剣 Lv2』に進化しました。

 

 ───────────────────

 『活人剣 Lv2』

 人を生かす剣の道

 剣を達人のように扱うことができる

 熟練度 1,520/20,000

 ───────────────────


 熟練度が10,000でLvアップ説は正しかったです。

 剣の重心を体のどの位置に置いておくべきなのか、どう振れば力が乗るのか、どう体幹が崩さずに剣を振るのか、どう合理的に対象を切断するのか、斬りこみ角度をどう保つのか……等々。

 なにからなにまで、剣術の理合の多くが俺のなかに染み入ってくる。

 

 剣術を学ぶこと。

 それは剣を振る時だけに適用されるのではない。

 術理を学ぶことは、身体の動かし方を学ぶことにほかならない。

 同時にそれは精神を鍛える。


 かつてない以上に人として成長した気がする。











 ──ダンジョン侵入より216時間(9日)


 ─────────────────

  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

   『日刊剣術 3』


 剣でキル 1,800/1,800


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 スキル『突き』


 継続日数:152日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

 ──────────────────


 相変わらず俺の剣術日間はつづいてます。

 連日100時間近く剣を振っているともうすっかり慣れました。


 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル292

 HP 1,433,120/1,434,400

 MP 255,,120/261,000


 スキル

 『フィンガースナップ Lv7』

 『恐怖症候群 Lv10』

 『一撃 Lv10』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv4』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』

 『活人剣 Lv4』

 『召喚術──深淵の石像』

 『二連斬り Lv3』

 『斬り返し Lv2』

 『突き』 


 装備品

 『クトルニアの指輪』G6

 『ムゲンハイール ver7.5』G5

 『アドルフェンの聖骸布 Lv6』G5

 『蒼い血 Lv8』G5

 『選ばれし者の証 Lv6』G5

 『メタルトラップルーム Lv4』G5

 『迷宮の攻略家』G4

 『血塗れの同志』G4


────────────────────

 

 『活人剣』はLv4に。

 『二連斬り』はLv3に。

 『斬り返し』はLv2に。

 それで『突き』をいま手に入れました。


 結構そろったんじゃないかな、と思ったあたりで、俺を乗せたノルン猫タクシーは目的地に到着。なお今はハッピーさんはご帰宅中です。


「ハッピーさん、ハッピーさん、ボス部屋につきましたよっと」


 経験値工場を経由して、ハッピーさんが泊っている老舗旅館へ足を運び、畳のうえですやすやと眠るハッピーさんを揺り起こす。

 むにゃむにゃしているハッピーさんは「今、行く」と、いい俺は経験値工場で待機、2時間してハッピーさんがやってきて、女の子って準備に時間かかるんだなって改めて思いました。

 ダンジョンへ戻って来る。

 

 ハッピーさんはすっかりキリっとして戦闘準備万端です。


「一緒に倒そうよ」

「ハッピーさんひとりでもいいですよ」

「いや……どうだろう、言うても30階層のフロアボスでしょ? ……うん、一緒がいい」

「わかりました。じゃあ、俺が一撃加えるんで生きてたらあとはお願いします」

 

 黒い指先達がかしづき作るロードを抜けて、重厚な鉄扉のまえへ。

 鉄扉にかかる白い霧には『フロアボス:深淵の作曲家』と文字が浮いている。

 俺は指で白い文字をなぞる。文字はゆっくり黒く染まっていった。


「ん」


 鉄扉の向こう側から旋律が聞こえてくる。

 たしかなメロディーが稀有な腕前の持ち主によって紡がれている。


 白い霧を抜け、扉を開けて、ボス部屋のなかへ。

 深淵のドームには苦しい重低音が響いていた。

 空気を震えさせ支配的な威容を持つ巨大な楽器。

 パイプオルガンと言う楽器だったか。教会やコンサートホールに設置されていることがある世界でもっとも大きいと言われる楽器である。


 伸びきったぼさぼさの髪の白肌の幽鬼が躍動しながら弾いている。

 人間のようだが、よく見ればサイズがおかしい。

 身長は3mほどはあるだろうか。細長い手足も尋常じゃない。


 俺は指をパチンっと鳴らした。

 ピタリと演奏は止む。


 こちらを見る演奏者もとい、深淵の作曲家。


「いい演奏ですね。でも、このままだと消し炭になってしまいますよ」


 クトルニア指輪に輝金の炎を灯す。

 手のなかに魂のつるぎが現れる。

 剣術を理解するうちに形状を最適化した。

 いまは剣身100cmほどの大きめの直剣である。

 強く、しっかり握り締めた。

 













 ──バァァアアンッッッ!!!


 鍵盤が両手で雑に叩かれる。

 ドでかい重低音が悲鳴が産み落とされた。

 濁声のようなオルガンの絶叫は、見えない引力を生み出し、指男の身体を強力にひっぱった。

 ぐわんっと一気に吊り上げられていく。

 指男は物凄い速さでドームの天井に叩きつけられた。

 有無を言わせぬ超常的、超越的、不可避の速攻である。


「指男!? あいつ!」


 トリガーハッピーは想像を上回るボスの奇術に面食らう。

 素早くシルバーコード&フライクーゲルでパイプオルガンの演奏者を撃ちまくる。

 だが、銃弾は届かない。演奏者の数メートル手前でピタリと止まってしまっている。


「っ」


 ──バァァアアンッッッ!!!


 再び鍵盤が怒号を発露がごとき乱暴さで力いっぱい叩かれる。

 瞬間、見えざる引力が働き、トリガーハッピーは物凄い速さでふっとばされ、ドーム空間の壁に叩きつけられた。


「こいつ……ッ、強い……!」


 ハッピーは想像を上回る脅威に血をぺっと吐いて、本気でかかるべく全身に蒼雷をまとう。

 

 一方、黒い指先達も動き出していた。

 それぞれ散会し、槍を構えて、演奏者を広域の包囲網で取り囲む。


 演奏者は頭を振り乱し狂ったように狂想曲を第一楽章をはじめた。

 無数の敵がいると言うのに、腰をあげず、ひたすらにパイプオルガンを操る。


 音がこだまするたびに、見えざる何かが作用する。

 重装備の竜騎士ブレイクダンサーズは見えない攻撃をたくみに躱そうと影を残さぬ高速の移動で逃げる。


 ある1匹のブレイクダンサーズの動きがピタッと止まった。

 見えざる者に捕まったらしい。身体が宙に浮いていく。

 強力に握られ、ミシミシと音を立てて今にも潰れそうになっていた。


 その時、黒い指先達の猛将ダークナイトは黒ねじれの槍をかまえると中空へ放った。パイプオルガンのうえあたりへ飛んでいき、それは見えざる何かに突き刺さり、蒼い鮮血を噴出させた。


 掴まっていたブレイクダンサーズはもがき、もがき、もがき──間一髪のところで抜け出すと、黒い指先達の後方へ逃げて帰った。


 黒い指先達が敵の所在に気づき、ダークナイトに続いて攻撃をしようとする。

 しかし、ダークナイトはそれを腕をバっとあげて静止させた。

 指先達はピタッと攻撃の手を止める。


 ダークナイトは主人の意志を示したのだ。

 主人は助力など望んでいないと悟ったのだ。


 ハッピーはハッとして天井を見上げる。

 天高いドームの天井、深く陥没した穴から指男が這い出て来た。

 シュタっと地上へ着地。


「……うーん」


 あんまり腑に落ちていない様子で首の骨を鳴らし、サングラスの位置を直す。

 片手に持っていたジュラルミンケースを放り投げ、わずかに腰を落とし、次の瞬間には姿を消した。


 暗き深淵のドームに眩い光が生まれた。


 黄金の軌跡である。

 それは英雄的破壊攻撃の残滓──。

 数十メートルにまで延長された刃の痕が、パイプオルガン、演奏者、そのうえの見えざる者のすべてを網羅して等しく両断していた。


 『絶剣エクスカリバーLv7』ATK10,000:HP1

 そこに雑に1,000,000HPを注ぎ、10,000,000,000(100億)の威力を捻出。

 滅びの攻撃はおおいなる遺物の黄金の焔の補正で威力は跳ね上がる。


 彼が剣を振った瞬間を目撃できた者が何人いたのだろう。

 刹那の攻撃、ただ一太刀でもってすべてを斬った。


 時間が動き出す。斬撃跡から黄金の炎があふれだす。

 黄金は星の終わりを幻視させる爆発となった。


 深淵のドーム空間にバギバギバギバギッ──っと、強烈に亀裂がひろがっていく。

 ボス部屋は極度の高温にさらされ、煮えたぎる燎原となった。

 かろうじて崩落せずに済んだのは、指男が過去の経験から学んでいる証だ。

 拡散を防ぎ、対象の存在を世界から焼却するためだけにエネルギーをぶつける。


「これくらいならボス部屋は耐える、か」


 言って指男はライターをチャキンっと開き、経験値を回収した。


「400億と7,452万。いい経験値だ」


 指男は剣を斬り払い、光の粒子として消滅させるとふりかえる。

 黄金の焼野原を背にたつ指男。トリガーハッピーはわずかばかりにでも指男の身を案じたことを後悔した。この男が負けるわけがないのだ。


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