フロアボス:深淵の小説家



 ノルウェーの猫又の一匹は俺の猫タクシーとして。

 一匹は黒き指先達の将軍ダークナイトの相棒として。

 それぞれチーム指男に仕えてもらっている。


 俺の猫タクシーはノルンと名付けた。

 ダークナイトのほうはコロンと名付けた。

 

 ノルンに乗ってダンジョン攻略しようにもまずやることは変わらない。

 我が黒眼鏡『迷宮の攻略家』により、今日の狩場を更新する。

 SNSはこまめな更新が大事なのだ。


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 拡散:215 いいね!:2,201


 レッドツリーkotoha:

  指男さま、京都にいるんですね!


 エージェントG:

  まさか……

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 速攻で反応がつくのは楽しい。

 相変わらずこの2人は音速でリプライをしてくれる。

 最近ふと思ったのだが、このレッドツリー琴葉ってもしかして……。


 ピロリン


 妹からラインが飛んできた。


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 琴葉:京都いるんでしょ?

    指男さまの写真撮って来て


             やだ:赤木英雄

     指男さんに迷惑でしょ

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 確信しました。うちの妹です。これ。

 あの子かなりの指男厄介ファンだったね、そういえば。

 よくよく考えたらレッドツリーkotohaとか安直すぎてわろてまいます。


「まったくうちの愚妹は」

「にゃ~ん」

「ぎぃ」

「きゅきゅっ」


 スマホをしまい、いざ攻略を開始します。

 全40階層、1階層のサイズはこれまでとは比べ物にならず、それぞれの階層が県ひとつ分の大きさに相当すると考えられているらしいです。


 まあ、とりあえず、やってみましょう。


「わんわん」


 さっそくダンジョン・フレンチブルドックを発見。

 『超捕獲家 Lv4』でしまっちゃうおじさんして今日も大量捕獲祭り……と、思ったのだが、まだまだ千葉ダンジョンで捕獲したダンジョン・ダックスフンドが数千匹単位で余っているので、今回は経験値というより、別の目的で消し炭をつくろうと思います。


 というのも、かねてより、俺にはスキルのオートエイムに頼りすぎているという自覚があった。なので手動で狙いをつける。回避系スキルや、こちらの命中率を低下させてくるスキルを使われた時、明確に差が現れるのを、シロッコとの戦いで学んだ。


 この指男、同じ轍は踏まない。










 ──ダンジョン侵入より32時間後


 4階層まで降りて来た。


 ムゲンハイールにはすでに小粒のクリスタルがぎっしぎしに入っている。


 手動でのエイム練習ははかどっている。

 なんならすでに30時間前の俺よりもオートエイムなしでの精度はあがったんじゃなかろうか。


「にゃ~」

「ぎぃ(訳:我が主は日々の過酷なデイリーミッションによりさまざまな能力を滋養していますから、ブレイクダンサーズ以上に物事を習得することができるようです)」

「きゅきゅ!(訳:流石は我の認めた英雄殿っきゅ! すごいっきゅ、カッコいいっきゅ!)」


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『ガバエイム矯正日間』


 手動で狙いをつけてワンスナップ・ワンキル達成

      400/400


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『破天のつるぎ』


 継続日数:143日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 今日のデイリーミッションはついに俺により添い生きることを選んでくれたデイリー君により、楽なミッションであった。

 この調子で平和に毎日デイリーミッションを消化していきたい。


 報酬は『破天のつるぎ』

 武器です。緑と黒のいかめしい両刃の直剣。

 俺は使わないので、黒い指先達に供給します。


「流石に広いですね。かなりハイスピードで攻略してるつもりなんですけどね」


 俺は階段に座りこみ、ジウさんが握ってくれたおむすびを食べる。

 「……。秘書としての務めです」と、お味噌汁も魔法瓶に入れてくれたので、温かいうちにいただく。なお、魔法瓶とはマジの魔法瓶である。

 

 おいしい。

 これでまた頑張る気力が湧いてくる。

 正直言うと10日くらいなら何も食べなくても、さして問題ない感じに最近なりつつあるんだけど……まあ、人間として食事は大事よね。


 スマホをとりだし『迷宮の攻略家』の3Dマップとを同期させておく。

 3Dマップでは立体的に階層の地形や、宝箱の位置、なんらかの奇妙なオブジェクトの位置を把握できるが、次の階層へ行く階段の位置まではわからない。

 なので階層間階段の位置を見つけるのはいつだって自力だ。

 まだまだ先は長そうだ。


 深淵系のダンジョンの特徴として1階層が縦に分厚いことがあげられる。

 ダンジョンには階層と階層をつなぐ長大な階段のほかに、階層のなかにもたびたび階段が設置されており、高低差があったりするが、深淵ダンジョンだとこの階層内での高低差が激しくおおそよ60m前後はあると言われる。通常の迷宮型ダンジョンはせいぜい10m前後で、ほとんど上下の厚みはない。


 ゆえに探索に時間がかかる。

 あと単純に広いのもあるが。


 とはいえ、今回の攻略では106匹からなる黒い指先達の軍団を投入しているので彼らのチカラに頼れば、クラス5のポテンシャルだろうと切り崩すことができるはずだ。

 

 






 

 ──ダンジョン侵入より45時間経過


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『ガバエイム矯正日間 2』


 手動で狙いをつけてワンスナップ・ワンキル達成

      600/600


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『破天のヘルム』


 継続日数:144日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 デイリーミッションが最近やさしい。

 中の人変わったのかな? だとしたら最高に嬉しい。

 

 破天シリーズを揃えさせようとしている気がする。

 『破天のヘルム』。緑と黒のまがまがしい魔王軍幹部がつけてそうな頭防具。

 俺の趣味にはあわないので、黒い指先達に支給しますね。


 ちなみに今は7階層。

 まだまだ先は長いです。


 

 

 





 

 ──ダンジョン侵入より60時間


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

  『ガバエイム矯正日間 3』


 手動で狙いをつけてワンスナップ・ワンキル達成

      800/800


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『破天のガントレット』


 継続日数:145日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 破天シリーズの腕防具獲得です。

 黒と緑のまがまがしいオーラが出てます。

 これも黒い指先達へ支給、もとい要らないのであげます。


 そういえば、どんな装備なんだろう。

 ムゲンハイールに雑にしまう前に見ておきますかね。


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『破天のガントレット』

 かつて天へ挑んだ英雄たちの防具

 神話の戦いが遺した息吹が染みついている

 装備者に神威のチカラを与える

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 なんかつよそう(小並感)

 

 ダークナイトに装備したらバケモノが生まれそうだと俺の勘がつげております。


 







 ──ダンジョン侵入より72時間


 10階層をひと通り探索し終えると、立体的な迷宮の奥地で白い霧を発見した。


「ビンゴ」

「にゅ~」

「ぎぃ」

「きゅきゅ!」


 迷宮で白い霧と言えば、そう、ボス部屋だ。

 黒く錆びた重厚な扉、その向こうにボスがいる。


 これまで俺は最前線でダンジョン攻略をしたことがなかった。

 ゆえに一度も通ったことがないが、ダンジョンには10階層ごとにフロアボスと呼ばれる強力なモンスターがいるらしいのだ。

 唯一10階層ごとの区切りだけは、階層間階段がひとつしかないのもそれが理由である。


 おそらく今目の前にある扉と白い霧がそのフロアボスのボス部屋だろう。

 

 フロアボスの部屋前にはたくさんの黒い指先達が待っていた。

 その数はぴったり106匹。

 みんな俺よりもはやくボス部屋前にたどり着いてしまっていたらしい。

 俺はちょくちょく経験値工場へ戻ってご飯食べたり、昼寝したりしてたので、まあ、ぶっ通して潜って、効率よく探索してる彼らが先にいるのは必然である。


「待たせたな(イケボ)」


 我が父と母が授けてくれた低音ボイスで遅刻を誤魔化しながら、ボス霧前へ。

 黒い指先達はひざまづき、うやうやしく俺のために道をつくってくれている。

 俺は魔王かなにかでしょうか。


 霧には白い文字で『フロアボス:深淵の小説家』と書かれている。

 白い文字をなぞる。墨汁をたらした水面のように、色が黒色に染まっていき、やがて霧は晴れ、門を押し開くことができるようになった。


 なかに入ると案の定、ドーム空間が広がっていた。

 深淵が満ちる広々としたスペースの中央、スポットライトが当たっている。

 唯一の明かりの中で、痩せた頬のこけた女が机に向かっている。

 タイプライターに絶え間なく文字を打ち込む。


 カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。

 カタカタカタカタカタカタ──チンッ。


「いい作品は書けましたか」


 言いながら近づく。

 女はタイピングの手を止め、のそっとこちらへ向き直った。

 

 カタカタ、カタカタカタタタ、カタカタカタカタ。。

 カタカタカカタカタ、カタカタ。

 カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。


 狂ったように弾かれる鍵。

 女の近くに黒いもやが生まれ、それはだんだんと形を持っていく。

 最初はあいまいで想像するしかなかった形状が、言葉を尽くすほどに、輪郭を鮮明にし、色を持ち、匂いと発する環境音すら獲得していくように──。


 黒いもやはやがて悪魔的なねじれ角の怪物となった。


「素晴らしい表現力ですね。消し炭ですけど」


 言って俺は指を鳴らした。


 ──パチン


 軽やかな音が鳴る。

 星間宇宙にビー玉を落とし凛と静けさが染みわたる。

 綺麗なのは最初だけだ。お淑やかで行儀がよいのも最初だけ。


 一瞬ののち、虚空の隙から破壊が溢れだしてすべてを焼き尽くした。

 

 深淵の小説家、撃破。

 

「引き続きよろしく」


 黒い指先達はボス部屋の奥へと進み、探索を再開させていく。


 俺は消し炭になったボスの灰のなかから大きなクリスタルを回収し、灰のなかに埋まった異常物質も回収する。

 ボスが使っていたタイプライターだ。

 アイテム名は『セーブポイント』か。


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『セーブポイント』

 世界の記録を書き記すことで楔を打ち込む

 楔があるかぎり何度でもその地点からやり直せる

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 よくわからない異常物質だ。

 

「ぎぃ(訳:その時点での世界を構築する情報すべてを記すことで、意図的にタイムリープを引き起こせるアイテムのようですね)」


 さすぎぃ。理解力がだんちだぜ。


「ぎぃ(訳:人の身では到底扱える代物ではないので特に危険はないでしょう。さっさと合成して能力だけいただきましょう)」

「きゅきゅ(訳:不思議なアイテムがあるっきゅね~)」


 では、11階層へ進みましょう。

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