世界の経験値工場


 


 おはようございます、赤木英雄です。

 幻の16万連打から数日が経ち、いよいよダンジョン攻略も佳境に差し掛かってきました。いまはハッピーさんと2人で40階層でダンジョンボスの部屋を探しているところです。


 なお、40階層フレンチブルドッグはHP900万の超耐久力を持ってました。

 まあでも次元斬なんですけどね。

 え? ああ、使ってますよ、一応。練習として。


「次元斬・零式……ッ、いや、零式・次元斬! ……次元斬・極! ……次元斬、次元斬…………次元斬・無限! エクスカリバー・ザ・インフィニティ!」


 この数日ずっと必殺技の名前を考えているんですけど、あんまりしっくり来てないんです。零式とかカッコいいだけで意味不明だし、極も『活人剣Lv6』程度で語るのはおこがましい気がするしね。無限はシンプルに嘘だし。


「ちーちーちー(訳:次元斬・鳥! がいいと思うちー)」

「きゅっ! きゅっ!(訳:必殺技はシンプルに限るっきゅ! 竜! とかがわびさびで趣深いっきゅ!)」


 個人的にはやはり『次元斬』の部分は残して、なにか一単語入れて締めたい。


「ハッピーさん、なんかカッコいい漢字ないですかね」

「次元斬・絶」

「……。採用」

「ちーちーちー!(訳:おかしいちーっ! どうしてハッピーの意見は聞くちー! ペット差別ちー!)」

「きゅきゅっ(訳:次元斬・絶。カッコイイとおもうっきゅ! ハッピー殿はセンスがいいっきゅね~!)」


 豆大福は講義し、ハリネズミさんは賞賛する。

 性格がよく表れていると思います。はい。

 

 そんなこんなで攻略を進めましたが、朝までにダンジョンボスの部屋を見つけることはできませんでした。明日こそはファイナルアタックを仕掛けたい。

 一夜明けました。朝になったのでダンジョンから戻ることにします。

 ターミナル転移駅を通じて清水寺に戻ってくると、空が紫色になっていました。

 早朝の涼しさに気持ちよくなりながら伸びをする。


 旅館に戻り、お風呂入ったり、着替えたり済ませ、ターミナル転移駅で再びハッピーさんと待ち合わせする。

 

「お待たせ」


 駅にやってくるハッピーさんは制服姿で背中にはリュックを背負っていた。

 ハッピーさんと一緒に『ハッピーさん高校』と書かれたネームプレートの打ってある”扉”を開けた。

 

「それじゃあね。あと頑張って、指男」


 ハッピーさんは花の女子高生。

 彼女はこの春で三年生になったらしいです。この春から新学期がはじまっているということです。なので授業に出るためにちょくちょくリタイアしております。

 ちなみにこの危険なロシア人、聞くところによると学年1位の成績を一年生の頃から取り続けている優等生なんだとか。ハッピーさんお勉強できたのって感じですよね。完全に俺とおんなじタイプの馬鹿だと思ってました。

 ちなみに俺もこの春に大学卒業して晴れて専業探索者になりました。どうもありがとうございます。進路相談室には「フリーターね」とちょっとズレた味方されましたけど、まあ、よしとします。

 

「ちーちーちー(訳:容姿端麗、頭脳明晰、おまけにちょっと強くて、ハッピーは完璧美少女ちー。おまけに人間だから英雄に贔屓されるちー)」

「きゅっきゅっ(訳:なにをいいますか鳥殿、我らの英雄殿も透き通る慧眼と、物事の100手先を見通す賢者の智慧の持ち主っきゅ)」

「ちーちーちー(訳:英雄に頭脳労働を期待するのは過酷なことちー)」


 なるべくハリネズミさんの期待には応えたいが、人には向き不向きと言うものがある。俺は自分の長所を伸ばす方針なので賢者の智慧はぎぃさんあたりに任せます。


「ちーちーちー(訳:そういえば、さっき厄災島に戻ったら後輩が帰って来てたちー)」

「そうなんですか?」


 パイプオルガンをどうにかするとかで、この1週間くらい姿が見えなかったぎぃさん、帰ってきていたのか。

 

 厄災島に戻り、厄災研究所の経験値生産棟へとやってきた。

 腹の底に響いてくる雄大な音階が遠くからずっと聞こえている。

 工場みたいな広々とした空間に『経験値パイプオルガン』が鎮座していた。

 それは上部を切断された形状ではなくて、匠の業で完全に修復された状態である。

 

 『経験値パイプオルガン』を弾くのはブレイクダンサーズのひとり。

 オルガン奏者の技能を修めた稀少人材だ。

 そのブレイクダンサーズの肩にちょこんっと黒いナメクジが乗っている。

 ride on ぎぃさんだ。


「おかえりなさい、ぎぃさん。パイプオルガン直ったんですね」

「ぎぃ(訳:戻りました、我が主。この通り、素晴らしい音色を響かせています)」

「昨日の朝まで壊れていたと思うんですけど……なにか変な手段をもちいたんじゃ」

「ぎぃ(訳:まさか。至極健全に取り組み見ました、信じてください、我が主)」

「ふーん、まあいいですけど。で、どうやったんです?」

「ぎぃ(訳:ブレイクダンサーズを引き連れてドイツに行ってパイプオルガン職人を15人ほど拉致し洗脳し、その技能を習得して来ました)」


 あーあ、厄災だー。


「やってますよ、それ、完全にやっちゃってます」

「ぎぃ(訳:職人は全員生かして記憶処理をほどこして開放しています。問題はありません、我が主、ご心配なさらずに。ついでにオルガン奏者も拉致して洗脳してその演奏技術を奪って来ました)」


 もうやりたい放題だぁ。

 ぎぃさんのやりたい放題チャンネルはじまっちゃったぁ。

 

「ぎぃさん、ほどほどにしてくださいね」


 やっぱりこの子も本気出すと人類が太刀打ちできない感が強い。

 しっかり手綱さんを握っておかないと。

 

「おお指男よ、戻ったか。すごいぞこのパイプオルガン、経験値を湯水のようにつくりだすのじゃ」

「ほう。確か1回の打鍵で100経験値でしたっけ?」

「そうじゃ。じゃがメロディーを刻むことで生産経験値量が増えるらしいのじゃ。さらに言えば演奏が上手いほど生産経験値量が増え、下手だとまるで生産できん」


 ただ鍵盤をたたくだけじゃダメってことか。

 演奏者の腕に応じて得られる経験値が変わる。

 なかなかユニークな経験値設備だ。


「あとそうじゃった、アレでの生産体制が整ったぞ」

「ほう、ついにですか」


 パイプオルガンの荘厳な音色に隠れ、経験値生産棟の隅っこのほうで「カチカチカチカチカチ」と奇妙な音が連続して聞こえている。

 近くにやってくると音の正体が判明した。

 1列に並べられた長い机に10個の真っ赤なボタンが並べられ、それを黒い怪人たちが一心不乱に押しまくっているのだ。

 

「ついにはじまった……経験値クリッカーが……」

「ブレイクダンサーズの連打速度は秒間100回程度は平均して達成しておるようじゃ。つまり1秒間で10経験値×100の1,000経験値生産。1分間で60,000経験値生産。1時間で3,600,000経験値生産。1日で86,400,000経験値の生産じゃ!」


 なんということだ。

 恐ろしい、俺は自分の理性を保てるかがわからない。

 シマエナガさんも見てください。こんなにふっくらしちゃってます。想像しただけで胸ポケットからはみ出しちゃったのかな。もふもふ。

 

「つまり『経験値ボタンLv5』ひとつで1日8,640万経験値の生産ですと?」


 それが10コ。悪魔的だ。

 

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現在の生産

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『メタルトラップルーム Lv4』

 4,000万/24h

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値のなる木』

 600億/24h

『経験値増幅魔法陣』

 3,000万/24h

『経験値強化設備 Lv2』

 700万/24h

『経験値パイプオルガン』

 50億/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h

『経験値ボタンLv5』

 8,640万/24h


────────────────────

合計:659億9,700万経験値

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プラチナ会員ボーナス

 659億9,700万 ×10.0 =6,599億7,000万

────────────────────

総生産:6,599億7,000万経験値

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「ライターの充足が早くなりそうでです。『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』も1台増えてるんですね」

「『黄金の経験値Lv2』の生産速度もあがっておる。貯蓄できる経験値が増しておるんじゃ。そうそうに経験値中央銀行を広くすることも考えたほうがいいかもしれんぞ」

「そうですね。ふむふむ。となると、そろそろ財団との経験値貿易をはじめる頃合いでしょうかね……」

「ゆ、指男、おぬしなにをたくらんでおるのじゃ……」

「ちーちーちー(訳:英雄がなにか悪だくみをしているちー! 英雄は経験値が絡むと頭がよくなるちー!)」

「ぎぃ(訳:流石は我が主。やる時にはしっかり利益を得る姿勢。経験値たまにインテリクズと呼ばれる日も近いかもしれないですよ)」

「きゅっきゅっ(訳:経験値で輸出してなにになるっきゅ? そんなに価値があるっきゅ?)」

「ドクター、説明を」

「経験値の生産は現人類にはできない偉業のひとつじゃ……湯水のように経験値が湧いているのが本来はおかしんじゃ。おそらくは指男の命の星座は経験値座なのじゃろう。だから経験値の方から指男に寄って来る」

「ぎぃ(訳:あんまり適当なことを言うと、後輩は信じてしまいますよ)」

「きゅっ!(訳:流石は我が認めし盟友っきゅ! たくさん経験値でお金稼ぎするっきゅね!)」


 経験値も貯めてお金もガッポガッポです。

 あー今年も経験値の貯蓄が楽しい時期になって参りましたね。


























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