地獄道査察 後編
地獄道はダークナイトを見るなり険しい表情をつくる。
「また世界の安全保障を脅かすモンスターを呼び出して……指男、あなたは侵略でも始めるつもりなんですか……?」
「そんな眼で見られましても。俺悪くないもん」
「なにが”もん”ですか、それは悪の科学者の言い分ですよ……まあいいです、あの個体の性能についての資料はありますか、娜博士……」
「地獄道さんに博士って呼ばれた……っ」
「? 博士じゃないのですか?」
「あ、い、いえ、博士でいいわ! さ、ささ、こっちへ」
娜は厄災島の研究所へ案内した。
研究所といっても、最新の設備が置いてあるような近代的な研究所ではない。
暗く湿った不気味な要塞である。
「なんですかこの要塞は……3週間前はなかったような気がするのですが……」
「あとで説明します」
娜はとりあえず中へ入り、先ほどのダークナイトの資料を提出した。
ぎぃさんの眷属モンスター含め武装などの性能は安全保障上、すべからく地獄道さんへ資料を開示しなければならない。そのため、娜はここで彼らの性能についての調査と資料作りも行ってくれている。
「Dレベル33……ですか……これはまた凄まじいモンスターですね……」
「”あのまま”でも、ですよ。もう笑っちゃいますよね」
モンスター兵器の第一人者わろてます。
ところでDレベルって何ですかね。
指男、知らない単語出されるの苦手なんですが。
「Dレベルはダンジョンレベルのことですよ……探索者に使う場合はどの階層のモンスターを倒す能力があるかという意味になり……モンスターに使う場合は、どれほどの階層にであろうモンスターであるか、というものを指数で表してます……」
「それじゃあモンスター兵器指数と同じ意味ですか?」
「モンスター兵器指数はモンスター兵器に使うので、Dレベルのほうがより広い範囲で、”その存在が階層換算でどれほどの戦闘能力を有しているか”を意味する言葉になりますね……そうですね、例えば、指男、あなたのDレベルは私の見立てでは軽く60は越えていると思いますよ……」
「それって凄いですか?」
「……通常、Aランク探索者のDレベルは高くて30前後とされています。一部、頭のおかしな進化を遂げた方々もいますが……。Dレベルが5離れると戦闘能力的に勝ち目はなくなります……なので、指男、あなたのDレベルは超越的とでも形容するのが正しい領域です……もっとも”現在のあなた”がどうかは計りかねますが……あなたは成長が早いですから」
薄々感づいてたけど……俺、結構、来るとこまで来ちゃってるんだな……。
どうりで苦戦できないわけだ。戦いの高揚も……感じない。
「ところで、この黒くて湿った要塞は……なんなのですか?」
「ああ、これはですね。よいしょっと、ぎぃさんの仕業です」
ぎぃさんを袖からだして、地獄道さんの顔の前へ。
「ぎぃ(訳:私がスキルで建築しました)」
「スキルで建築……?」
「この3週間でぎぃさんのレベルがあがって新しいスキルを覚えたんですよ」
────────────────────
ぎぃさん
レベル110
HP 468,000/785,500
MP 36,030/1,241,200
スキル
『黒沼の呼び声 Lv3』
『黒沼の惨劇 Lv2』
『黒沼の武装 Lv5』
『黒沼の大惨劇』
『黒沼の要塞』
────────────────────
───────────────────
『黒沼の大惨劇』
黒沼の大怪物を召喚する。
日に1度使用可能。
消費MP1,000,000
───────────────────
ダークナイトは『黒沼の大惨劇』で召喚可能です。
リソースも桁違いなので計画的に召喚していきたいところ。
───────────────────
『黒沼の要塞』
黒沼の要塞を召喚する。
2時間に1度使用可能。
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
スキル『黒沼の要塞』は使用することで、永遠の湿地帯である黒沼より、無限につづく要塞の一部を召喚することができる。
壁が階段などのパーツ単位での召喚なため、規格が一定かつ、設営に多少の時間はかかるが、一から建物を建築するより遥かに素早く陣地を設置できる。
「ぎぃ(訳:アルコンダンジョンでの攻略で使うと思ったので取得しました)」
「なるほど……良い考えだと思いますよ……先日、南極へ行ってきましたが、やはり、別世界の座礁地帯と呼ばれる活性状態のアルコンダンジョン攻略は途方もない作業になると思いますから……」
「アルコンダンジョン、もう封印解除されてるんですか?」
「厳密にはまだ……ただ、こちら側からのぞけるだけです……最も、あちら側もまたこちらを見ているかもしれませんが……おや、先ほどのダークナイトが来ましたね」
「ぎぃ(訳:地獄道博士にお見せしたいものが)」
「なにを見せてくれるんですか……?」
ぎぃさんは娜を見やり、娜はうなづくと、指男のロゴマークが描かれたコンテナを開く。ロゴマークというのは、俺が考えたわけじゃない。
ミーム型SCCL異常物質によって俺の顔を目撃した人間が、俺の顔を紙に描こうとし、正体を拡散しようとした際に、無意識のうちに描いてしまう防衛幕、そこに描かれる不可思議な指を鳴らす手のマークのことだ。
チーム指男も、ギルドを持ち、島という拠点を持った。
なので、なんらかの組織シンボルが欲しいと思っていたところ、ちょうどよい物があったので少しだけ編集してそのまま使っているのである。
コンテナのなかには黒い槍が3本入っている。
二本の黒槍がねじれ曲がり、絡み合い、一対の槍となったものだ。
それはぎぃさんが『黒沼の武装 Lv2』にてMP100,000を使って呼び出すことができる『黒ねじれの槍』と同じ形状である。
「以前……修羅道が私のところへもってきた異常物質ですね……驚異的な性能を誇っていたので、構造から、素材、構成物質と神秘的機能など分析中ですが……量産可能というのは本当だったようですね……」
言って、地獄道さんは断ってから、槍を一本手に取った。
────────────────────
『黒ねじれの槍 Lv2』
黒沼の武装のひとつ
真なる戦士だけが持つことを許された
ATK20,000,000(2,000万)
黒い矛先はあらゆる防御力を貫通する
投擲するとATK9,000万相当の破壊力を持つ
────────────────────
「なんか……Lv2って書いてありますけど……」
「それはドクターのムゲンハイールで強化を施した槍なの。元々G4だった槍はG5に進化してさらに強力になったのよ」
娜は『黒ねじれの槍 Lv2』を一本手に取り、先ほどやってきたダークナイトへ持たせる。
ほかにもいろいろごちゃごちゃ持たせる。
持たせるごとに、ダークナイトの身体はすこし変形し、大きくなり、より凶悪になっていく。
いつの間にか隣にいたドクターと娜は実に満足そうな表情だ。
悪の科学者たちが非人道兵器をつくりあげた時の顔だ。
──────────────────────
黒槍機銃の竜騎士セイント・ダークナイト
恵みレベル9
ダークナイト
HP4,200,000/4,200,000
ATK1~20,000,000(2,000万)
DEF20,000
装備
『救世のマシンガン Lv2』
『黒ねじれの槍 Lv2』
『魔法剣 フォトンエディション Lv8』
『龍仙の薙刀 Lv3』
『セイントの鱗鎧 Lv3』
『セイントの疾翼 Lv2』
『セイントの棘尾 Lv2』
『セイントの竜盾 Lv2』
──────────────────────
4つの腕すべてにさまざまな場所で回収して来た武器が持たされている。
そのどれもがG5クラスの異常物質である。
一部ダンジョン装備も含まれているが、そちらもG5クラスに進化済みである。
「現状のチーム指男最強の眷属モンスター個体よ。推定Dレベルは57。実際に57階層のダンジョンがあるかは不明だけど、理論値の話」
「バニラのダークナイトで33……最大の武装で57ですか……24もDレベルが伸びるものですかね……」
「それには理由があって。島の中央にあった巨大樹『経験値のなる木』はリンクした者に恵みをもたらすのだけど、あれはダンジョン因子を持つ人類にとっては1レベルの恩恵だけど、眷属モンスターたちにとっては、おおよそDレベル1分のパワーアップになっているみたいなの」
「バニラの33に恵みレベル9で、それだけでDレベル42相当というわけですか……階層9つ分の強化をリンクした者すべてにもたらすとは……人類の進化を嘲笑うかのごとき、神の所業……あの樹は人類のソレとはまったく違うスケールで機能しているように思えますね……」
経験値のなる木だけ、意味不明な性能してるけど、本当になんなのでしょうね。
その後も地獄道さんは「ここの査察は疲れますね……」と、くたびれながら要塞内を案内されたり、ハリネズミさんの防具工房を見せられたりした。
案内する娜はとても楽しそうだ。
「きゅきゅ!(訳:ここは我の作り出した防具の整備工房っきゅ!)」
「ぎぃ(訳:スキルで着させて、脱がして、保管しているだけです。次に行きましょう)」
「きゅきゅ!!?(訳:もっと我のために尺をつかって欲しいっきゅ!!)」
────────────────────
ハリネズミさん
レベル108
HP 120,250/120,250
MP 400/1,541,000
スキル
『救世の雷鳴』
『救世の暴風』
『救世の鱗鎧 Lv3』
『救世の疾翼 Lv2』
『救世の棘尾 Lv2』
『救世の竜盾 Lv2』
────────────────────
↓ハリネズミさんの新しいスキル一覧
───────────────────
『救世の鱗鎧 Lv3』
嵐に宿る古い神話のひとつ
古い風の力を纏った竜鱗を着る
消費MP100,000
───────────────────
───────────────────
『救世の疾翼 Lv2』
嵐に宿る古い神話のひとつ
古い風を纏った竜翼を着る
消費MP10,000
───────────────────
───────────────────
『救世の棘尾 Lv2』
嵐に宿る古い神話のひとつ
古い風を纏った竜尾を着る
消費MP10,000
───────────────────
───────────────────
『救世の竜盾 Lv2』
嵐に宿る古い神話のひとつ
古い風を纏った竜盾を持つ
消費MP10,000
───────────────────
↓ハリネズミさんスキルで召喚できる防具一覧
────────────────────
『セイントの鱗鎧 Lv3』
不浄を正し律する救世の法
大古竜セイントの鎧
DEF 100,000付与
SPD 50%上昇
パッシブスキル
『継続再生』
『根性』
『浄化』
────────────────────
────────────────────
『セイントの疾翼 Lv2』
不浄を正し律する救世の法
大古竜セイントの翼
SPD 70%上昇
パッシブスキル
『継続再生』
『威圧』
────────────────────
────────────────────
『セイントの棘尾 Lv2』
不浄を正し律する救世の法
大古竜セイントの尾
ATK 50%上昇
パッシブスキル
『継続再生』
『威圧』
────────────────────
────────────────────
『セイントの竜盾 Lv2』
不浄を正し律する救世の法
大古竜セイントの盾
物理ダメージ 100%カット
神秘ダメージ 100%カット
パッシブスキル
『継続再生』
『威圧』
スキル
『セイントの返報』
────────────────────
この3週間でハリネズミさんもめっちゃ進化して、いよいよぎぃさんに追いついたので、装備の質も格段に向上しました。
「最後に兵舎のほうの紹介ね!」
「わしたちの夢と希望をつめた部隊があるからぜひ連れて行って欲しいのじゃ」
兵舎に到着すると、広々とした訓練場で黒沼の怪物たちが待機していた。
「以前は勝手にだしたら怒られそうじゃったから”通常部隊”で遠慮したが、今度は大丈夫じゃと信じておるぞ」
「京都クラス5ダンジョン……そこへ彼らを送り込むと……?」
───────────────
『黒い指先達 第一ギルド』
───────────────
ブラックタンク×5
(恵みレベル9)(Dレベル42)
(鱗鎧Lv3、疾翼、棘尾、竜盾Lv2、竜盾Lv2)
ブレイクダンサーズ×3
(恵みレベル9)(Dレベル37)
(黒槍Lv2、鱗鎧Lv2、疾翼Lv2、棘尾Lv2、竜盾Lv2)
ブレイクダンサーズ×12
(恵みレベル9)(Dレベル37)
(黒槍Lv2、鱗鎧Lv3、疾翼Lv2、棘尾Lv2、竜盾Lv2)
ダークナイト
(恵みレベル9)(Dレベル57)
(黒槍Lv2、鱗鎧Lv3、疾翼Lv2、棘尾Lv2、竜盾Lv2)
(魔法剣Lv8、龍仙薙刀Lv3、救世機銃Lv2)
ノルウェーの猫又
(恵みレベル9)(Dレベル51)
───────────────
光と闇があわさって最強に見える現象が飽和状態になってます。
装備の充実により、部隊内の21個体すべてが、これまでの指先の隊長を上回る戦力を手に入れ、さらにふわふわもふもふのノルウェーの猫又さんがいることで邪悪さが軽減されて雰囲気がよくなっています。
「にゃん♪」
「現在7,500部隊が厄災島に駐留してるなか、最大の戦力である『黒い指先達 第一ギルド』よ。装備は最新のものかつ、一点物の異常物質も持たせているわ。若干生産が追い付いてないから、古い装備を備えた個体もいるけどね」
「将来的には20万匹の黒沼の怪物すべてを第一ギルド並みに強化する予定じゃ。ムゲンハイールで進化した最高の装備でかためた最高のモンスター部隊。夢が広がるのう~」
「だめだ……この人たち……はやくなんとかしないと……」
地獄道さん頭が痛いのかな。
こめかみを抑えて難しい顔しております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます