地獄道査察 前編



 どうも赤木英雄です。

 京都での一件以来、ダンジョンキャンプが設置されるまで、しばらく老舗の旅館に泊まらせていただくことになりました。いまは財団は深刻な人手不足らしいです。なんでも近年、ダンジョン発生件数が増えてきていて、さらに全体的な難易度も急上昇しているらしく、探索者がどこも不足してるみたいなんです。

 

 なので、京都クラス5ダンジョンは俺とブラッドリー、花粉ファイターの3人がたまたま現場に居合わせたこともあって、警戒と非常時の対応含めて俺たちに役目がまわってきたというわけです。


 そんなこんなで2日ほど、財団が用意してくれた高級旅館で過ごして、何度も顔をあわせる機会がありました。ほぼ1日中いっしょに時間を潰してました。

 警戒態勢なのであんまり出歩かずに、いつでも出動できるようにとのことだったので、必然と旅館から出ずにいると、行動をともにしていたのです。


「ダウトしませんか、ブラッドリーさん」

「昨日に引き続き負けに来たか、指男」

「このゲームには必勝法があります。ちょっとわからせちゃいますね」


 ──3時間後


「ダウト」

「このくそほどおもないゲームやめませんか?」


 ダウトとかいうクソゲーで50連敗ほどを重ねたあたりで、大富豪に切り替える。


 ──2時間後

 

「指男、貴様、何度禁止あがりすれば気が済むんだ」

「ふぅん」


 大富豪もクソゲーですね。

 なんでジャックで禁止あがりなんねん。

 

「今度は俺の領域で戦いましょう」

「ほう、それはデュエルか」


 ──1時間後


 だめだ、このブラッドリーとかいうメタビートしか使わん。

 卑劣ここに極まれり。

 

「今日はこの辺で勘弁してあげますよ、ブラッドリーさん。覚悟の準備をしておいてください。次は本気をだしますから」

「それは連戦連敗の貴様がはくセリフじゃないが……」


 俺は花粉ファイターと遊んでもらうことにした。

 

「こんにちは、花粉ファイターさん」

「おや、指男君、今日も来たのかね」

「はい。世界一いっしょに遊んでておもんない男ブラッドリーを連れて来たんで麻雀をしましょう」

「俺がすぐ横にいるのに酷い言われようだな」


 俺は麻雀の必勝法を知っている。

 すなわち国士無双。

 このカッコいい名前の役だけを狙い続ければ勝つる。

 

 ──2時間後


「麻雀はクソゲーですね。いまはっきりと理解しました」

「指男君、もう少し柔軟に待ちを変えて見たらいいと思うのだがね」

「貴様には圧倒的にゲームの才能がないな。神は二物を与えずとはこのことか」


 持ち点がマイナス10万点を越えたあたりでやる気を完全になくした。

 全然、国士無双できん。なにが無双じゃい。


「……。失礼します」


 ジウさんが麻雀ルームに入ってくる。

 

「もしかして、ジウさんも麻雀を?」

「……。楽しそうですが、今回は遠慮しておきます。みなさん、ダンジョンクラスが決定しましたよ」

「ほう、ついにかね」

「ダンジョン攻略が始まるという事か」

「幾つだったんです?」

「……。クラスは”5”。全40階層からなる深淵ダンジョンです」

「ッ、クラス5だと……どうりで溢れて来るモンスターが強い思ったわけだ」

「20階層後半のモンスターが押し寄せて来た時は、花粉のなかで窒息する思いで凌いだが、まだまだあれは序の口だったというのであるかね」


 クラス5。

 途端にスケールが増した。

 この3週間はクラス1ダンジョンばかり相手にしてました。


「……。人手不足の攻略になると思われますが、皆さんならどうにかできると財団は期待しています。よろしくお願いします」


 俺たちはすぐに攻略へ取り掛かるべく、動き出すことになった。

  

「……。指男さん、ちょっと」

「なんですか」

「……。実は『黒い指先達』なのですが──」


 ジウさんに報告されるなり、我が耳を疑った。

 ぎぃさんの眼がキランっと光ったような気もした。


 まさかの全軍派遣許可であった。

 そんなことして大丈夫ですか。

 俺が一番心配なのですが。

 この経験値インテリクズに大義名分を与えていいのですか。


「……。詳しくは地獄道博士から聞いてください」

「地獄道さん、来てるんですか」


 というわけで、近くのスターバックスで地獄道さんと待ち合わせ。

 

「お待たせしました……指男」

「地獄道さん」


 砂糖ましましコーヒーを片手に、全軍派遣許可とかいう狂気の沙汰としか思えない判断についてたずねる。


「ダンジョン財団は指男についてひとつも理解してはいません……というより、理解しても、認知のヴェールが理解を歪ませるのですが……」

「本当に全部派遣していいんですか?」

「より正確に言うならば、無制限の派遣が許可されたということです……財団は『黒い指先達』の活躍に関心していますので、あれをもう2、3部隊ほど寄越せという意味で、無制限派遣を許可したのです……ええ、指男、あなたの言いたいことはわかります……あと2,3部隊どころでは済まないのでしょう……」

「よく俺の言いたいことがわかりましたね」

「見てますからね、あの島の群れを……とにかく、もう一度、軍の、という表現は適切じゃないですが、あなたの眷属──あぁ、なんで厄災を普通に持ち歩かせているのか……いまでも修羅道の判断に苦しみます……そのぎぃさんの戦力を査察させてもらいます……そのうえで私の方で制限を設けさせてもらいます……」


 スタバをあとにし、旅館の”扉”から経験値工場へ移動した。


「ドクター、娜どこにいます?」

「厄災島じゃろう。今日も黒沼の怪物をいじくって楽しそうにしておるわい」


 今日も機械をいじって楽しそうにしているドクターに言われ厄災島へ。


「最後に査察に来てから3週間とちょっと経ちましたが……また軍拡を進めたのですか……?」

「進めたというか勝手に進んじゃったと言いますか」

「勝手には進まないですよ……普通は」


 言って、まずは厄災島の中央にそびえたつ島で一番おおきな世界樹のもとへ。

 『経験値のなる木』はこの3週間で登録者を大幅に伸ばしました。


「これは……なんというサイズなんですか……」

「その木は地上70mまで樹高を伸ばしているわ。根は地中深くまで張り巡らされ、島全体を網羅するのも時間の問題よ」


 言って、娜が登場。

 なにかの作業をしていたのか、白衣を脱いでタンクトップ一枚になってました。

 右腕の有機義肢を隠すつもりはないみたいです。


 娜は俺よりも厄災島で過ごしている時間が長い。

 なんなら彼女にいろいろとメンテナンスを任せている。

 ほかにも黒沼の怪物たちの装備配備、その数の管理そのほか開発計画なども彼女の仕事だ。そのため、チーム指男の全体像に関しては、俺よりも彼女のほうが詳しく地獄道さんへ説明できる。


 というわけで──


「娜、あとはよろしくお願いいます」

「うん、任せて」

「では、娜博士、経験値の生産量についてですが──」


────────────────────

現在の生産

────────────────────

『メタルトラップルーム Lv4』

 4,000万/24h

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値生産設備 ver2.0 Lv2』

 1,400万/24h ★ブースト★

『経験値のなる木』

 600億/24h

『経験値増幅魔法陣』

 3,000万/24h

『経験値強化設備 Lv2』

 700万/24h


────────────────────

合計:601億2,140万経験値

────────────────────

プラチナ会員ボーナス

 601億2,140万 ×10.0 =6,012億1,400万

────────────────────

総生産:6,012億1,400万

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「正気を疑う数字ですね……ん? なんだか設備が増えていませんか……?」


 ドクターの謎の科学力により『経験値生産設備 ver2.0』は量産が可能になった。

 ドクターの手作りなので、まだ2台しか量産できてはいない。

 そして、それらを『大ムゲンハイール ver7.0』に突っ込むことで、設備を進化させた結果、経験値工場の生産能力は飛躍的に向上した。


 とはいえ『経験値のなる木』が強すぎて工場のパワーが霞みつつある。

 経験値市場経済のインフレーションが止まらない。


「ドクター……ダンジョン財団時代は不遇の人でしたが……そうですか、才能を発揮できる場所を見つけられたようでなによりです……」


 それで済ましちゃって大丈夫ですか、地獄道さん。

 俺が言うのもなんですけど、あのドクター一番隔離して捕獲して隅々まで調べた方がいいんじゃないですかね。意味不明の極みみたいな人ですけど。


「現在厄災島にいるモンスター歩兵戦力15万4,451匹。武装配備率0.02%。将来的には20万匹で打ち止めにし、配備率の方へリソースを割く計画になっているわ」

「……世界の安全保障を揺るがしかねない増強っぷりですね……ねえ、指男」


 すごいジトっとした目で見てくる地獄道さん。

 仕方ないもん。経験値のなる木の登録者増やしたかったんだもん。

 俺悪くないもん。トトロいたもん。


「モンスターの内訳を……」

「ブレイクダンサーズ15万のブラックタンク5万になる予定よ。『黒い指先達』の1ギルドが21名で、彼らの比率なの15匹と5匹なの」

「なるほど……ん、21匹? それではあと1匹は……?」

「それはね──ちょうどいいところに来た」

「見たことない個体がいますね……」


 黒沼の怪物たちの兵舎へ向かう途中、地獄道さんは見つけてしまった。

 モンスターズギルド『黒い指先達』の21匹目の正規メンバーを。

 

「あれはぎぃさんの新しく召喚できるようになった、現状の最大戦力です」


 黒く艶やか濡れたマントに身をつつむ黒騎士が数千匹の黒沼の怪物たちの整列する先頭で堂々と立っている。

 ボロボロの重厚な全身鎧に身を包み、片刃の大剣を背負う巨体は3m近い。

 腕が4本あうち一本で大剣を握ると、それを片腕で軽々と構えて見せた。

 

「ぎぃさんいわく黒沼の猛将。ほかの黒沼の兵士たちとは一線を画す上級モンスターよ。名は”ダークナイト”」


 命名はわたくし赤木英雄です。


 ──────────────────────

 ダークナイト

 HP1,200,000/1,200,000

 ATK1~8,500,000(850万)

 DEF20,000

 ──────────────────────


「なんと恐ろしい……指男、どういうつもりですか……?」


 地獄道さん、そんな眼で俺を見ないで。

 気が付いたら勝手にいたんですってば。俺のせいじゃないです。

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