有識者会議


 

 どうも赤木英雄です。

 清水寺まで辿り着いて、ダンジョンブレイクの大元を発見です。

 ダンジョンキャンプがめちゃめちゃ悲惨なことになってて心苦しい。

 とりあれず入り口からダンジョン内へエクスカリバーを10回ほどお見舞いしてダンジョンを黙らせておきました。たぶん中は焼け野原になってます。でも損害賠償はないです。なぜならダンジョンだから。好き放題ぶっ放すの気持ち良すぎだろ!


 あっ、ちなみにテロリストの親玉白夜とか言う男は、一応縛り付けておきました。

 一発殴ったら気絶してたので、修羅道さんにでも引き渡そうと思います。

 消し炭にしてもよかったですけど、目の前で知り合いがのめされてた訳じゃないのでそんなに怒りは湧いてこなかったです。なのでタイーホで許してやりましょう。

 

 モンスターが出て来なくなった現場を占領し続けていたら、黒い指先達も市内のダンジョン・フレンチブルドッグを片付けてゴール地点へやってきました。

 ハリネズミさんも無事に花粉ファイターを送り届けて戻ってきました。

 ちゃんとお使い出来てえらいえらい。


「ぎぃ(訳:お疲れ様です、後輩)」

「きゅきゅっ!(訳:これくらいお茶の子さいさいっきゅ! って、なんだか、すごい死体が散乱しているっきゅ!? どうなっているっきゅ!?)」


 おそらく白夜とかいうクソガキ(年上)が暴れたせいでしょう。

 こんな時にシマエナガさんがいれば被害者を生き返らせることができるんですが。

 いや、流石に数が多いですかね


「ぎぃ(訳:無闇な蘇生スキル使用は控えた方がいいかと)」

「わかってますよ。やりませんよ」


 すべてを救うことができない以上、俺に命を選ぶことはできない。

 俺は神ではないのだ。死に関わるのが恐い。他人の死なら一層恐い。

 俺はあんまり考えるのが好きじゃないが、もし一度他人を生き返らせてしまったら、次からは生き返らせない理由を探すハメになる気がするんだ。

 俺は平等に横たわる死体をどうするかなんて選べない。

 そんなものを背負う事なんて到底できない。


 








 数時間後、ダンジョン財団が清水寺に到着した。

 

「赤木さん! なんてことを……! ついに闇墜ちですか?!」

「いや、俺じゃないですよ、修羅道さん」


 財団らが到着した時、指男は血塗れの惨状のなかで動画を視聴していたので、サイコパスかなにかと盛大に勘違いされ拘束された。

 実際かなりのサイコホラーな光景に財団職人の何人かは嘔吐したり、恐怖に叫び声をあげたりした。


 誤解はすぐに解けて、指男は身柄を解放された。


「赤木さん、お疲れさまでした。このクソガキ(年上)は財団で一番恐い人たちがしばくことでしょう。安心してください!」

「なにを安心しろと……?」


 そんなこんなで『剣牢会』の引き起こしたテロは幕引きを見た。

 しかし、ダンジョンは残ってしまった。

 今度はこのダンジョンをなんとかしなければならない。


 そもダンジョンブレイクとは、ダンジョンと現世を繫ぐ黒門が破壊され、ダンジョンの入り口が拡張され好きなだけモンスターが出て来れる状態のことを示す言葉だ。

 それを修復するのは現在の科学では不可能なので、もしダンジョンブレイクが起きた場合は、一刻も早くダンジョンを攻略することが求められる。


 ダンジョン財団は今回の事件の調査を進めると同時に、此度のダンジョンを京都クラス5ダンジョンと判断し、再度ダンジョンキャンプを設置した。


「まさか、クラス4ダンジョンが出たばかりでクラス5のダンジョンが出現するなんて……」

「これは由々しき事態であるぞ」

「日本では初めての規模のダンジョンですな。最大の戦力を投入せねばなりますまい」


 JPNダンジョン財団本部首脳委員会は広く探索者を招集した。


 とはいえ、いまも日本全国にはちいさなダンジョンから中くらいのダンジョンまでが存在しており、財団はそのすべてを同時に対処しなければならない。

 ひとつでも手薄になれば再びダンジョンブレイクが発生し、もす二度目のダンジョンブレイクを重ねて引き起こしてしまえば、今度こそおしまいだ。

  

 そのため、財団は大きなダンジョンだけに戦力を集中させることはできないのだ。


 招集により集められる探索者の数では、ダンジョンブレイクを起こしたダンジョンを沈黙させるには時間がかかり過ぎると専門家たちは警鐘を鳴らした。


「国外へ本格的な要請をかけるか……しかし、他本部に借りをつくるのは……」

「それはダンジョンブレイク以上にのちのちの負債となるかもしれない……」


 ダンジョン財団は一枚岩ではない。

 本部同士で互いに足をひっぱりあっているのが真実の姿だ。

 JPNの首脳グループはほかの本部に借りをつくることを極度に嫌がった。


 そこで急遽、有識者会議が開かれた。

 ダンジョン学に精通しダンジョン攻略を研究している専門家たちを招いた会議だ。

 専門家たちはこれ幸いにと、各々の研究成果を会議で発表した。


 例えばダンジョン生物学の博士は「モンスター兵器の実戦投入を検討するべきです!」と声を高らかにした。

 もし首脳グループが首を縦に振れば、モンスター兵器は現場に投入され、それにともないモンスター兵器研究の予算が大幅に増額されることになる。


 ある研究者は細菌兵器の使用をうながした。

 「アナログ攻略の時代は終わりです!」

 細菌兵器のモンスターへの効果はいまのところ認められていないが、可能性はゼロではない。


 ある研究者は核兵器の使用をうながした。

 「熱核弾頭をつかってダンジョンをふきとばしましょう!」

 その研究者は政治的に革新派に属している人物であった。核弾頭ではダンジョンボスを倒すことができないため、資源回収の困難などもろもどの合理的な理由の下で、財団は慎重にならざるを得なかった。


 有識者会議なのにそれぞれは私利私欲のためのプレゼンテーションを行うなか、ひとり気力のない小柄な女性がスッと手をあげた。

 白衣に黒いシャツとネクタイでぴちっとした印象を与える彼女。

 ダンジョン装備発明における権威・地獄道博士である。


「おや、地獄道くん、君はプレゼンテーションをしてくれないのかね」

「……そういう場ではないと思っていたのですが……皆さん、本当に張り切っているようで感心します……」


 地獄道は低い声で言い、同僚の博士たちを見やる。

 皆が視線をそらし、なんとも言えない表情になる。

 

「一応、専門家さまのプランを聞くために会議を開かせていただいたのですが」


 首脳グループのひとりは、伺うように地獄道を見やる。

 地獄道というこの女性に細心の注意を払っていることが態度に出ていた。


「考えては来ましたよ……一応、資料も作りました……簡単なものですが……」


 地獄道は言って助手に目配せする、

 有識者会議の参加者に3枚のプリントからなるごく薄い資料が配られた。

 

 資料を見た者たちから「あっ」と声が漏れていく。

 地獄道のプランはごくシンプルなものだった。


「突然のクラス5ダンジョン……先日のクラス4でトップたちのなかでPTSDを発症して復帰できていない者も多い……どう考えても手数が足りていません」


「し、しかし、これは!」

「こんな信憑性に劣る計画を実行しろというのかね、地獄道博士!」


「そうおっしゃっているんですよ、先生方々……──首脳方、指男をつかいましょう……それしかないと思っています……」


「指男を、だと……っ、ひとりの探索者に、それも噂の域をでない都市伝説にすがるとは。科学者の面汚しだ、不愉快だ、退席したたまへ!」

「我々はまだ彼が財団に所属しているという事すら懐疑的なのだがね!」


「君たち静かにしたまへ。地獄道くん、話を聞こう」


 有識者会議議長は地獄道を揶揄する博士たちを黙らせ、さきを続けさせる。


「指男、彼の保有する眷属モンスター部隊『黒い指先達』はご存じですね……以前認可いただいたものです……この3週間でクラス1ダンジョンを90ほど攻略して見せました……SNSにもたくさん画像があがっていますので存在は疑われていないものと思います……」


 地獄道は気だるげにダンジョンSNSアプリを開いてスマホを会議机のうえにおく。


 かねてより財団のなかで地獄道は『黒い指先達』の本格的な派遣に意欲的であった。指男にはああ言ったが、科学者のさがか、彼らが実績を重ねるうちに、未知の可能性たる指先達のさらなる活躍が見たいと思うようになっていたのだ。


「私は反対だ! 得体のしれないモンスターの群れをこれまで以上に派遣するなど!  いまでさえ大きな譲歩のうえに許されているのだ! 慎みたまへよ、地獄道博士!」

「慎むのは君だよ。ちょっと静かに」

「あっ……で、ですが……」


 モンスター兵器を専門とする研究者は悔しげに口を閉じる。


「致し方あるまい。戦力を集められない以上、あるところから持ってこなくては。緊急事態につき、『指男』の眷属モンスター部隊の無制限の派遣を一時的に許可しよう。地獄道くん、彼とコンタクトを取れるのは君だけだ。お願いできるかね」

「はい……秘書を通じて伝えさせます……」

「よろしい。では、これにて会議を終了とする。各々方、ありがとうございました」


 言って議長は有識者会議を締めた。

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