剣牢 龍仙の巫女リンリン
ミサイル攻撃にも耐える財団の地下シェルターを破られた。
襲い掛かるのは伝説上にしか存在しないはずの龍。
「化け猫がでたと思ったら今度はドラゴンか。まるで妖怪大戦争だな」
ブラッドリーはため息をつく。
青龍刀をとりだし、堂々たる威風でもって構える。
背後に抱える数多くの命の為、いま戦えるのは彼しかいない。
ゆえに戦う。
ほかに理由はいらない。
ブラッドリーは息を短く吐き捨て、走りだした。
龍はうねり、竜巻のようにとぐろを巻いた。
ぐるぐるぐるぐる。
十分な勢いがつくろ、広範囲をまとめて尻尾で薙ぎ払いに来る。
加速した尻尾の水平への攻撃。
いともたやすく試みられる市民大虐殺。
龍の攻撃を許せば数千人単位で人が死ぬ。
「『スキル発動──大召喚術、巨大蛇』」
ブラッドリーは虎の子を使うことにした。
HPを半分削って、彼の呼び出せる眷属モンスターの内、最大級を召喚する。
シェルターの地面を突き破って、全長80mにも達する巨大蛇が出現した。
それが3体。同時に現れて、巨大蛇たちは分厚い体で龍の尻尾が薙ぎ払われるまえに攻撃をブロック、シェルターの市民らが物言わぬ肉塊に成り果てるのを防いだ。
ブラッドリーはスキルの反動ダメージに大きく吐血する。
「……『龍雷』」
また稲妻が瞬いた。
大地を裂く天威の一撃。
巨蛇の一匹が黄雷に貫かれ地に伏した。
(休んでる暇はないか……っ)
ブラッドリーは血をぬぐい、重たい体を無理やり動かす。
巨大蛇の背に飛び乗り、駆け上がり、龍に乗る少女へ狙いをつけた。
あと10m、8m、6m、ここだ。
(このでたらめな龍が眷属モンスターなら、あのガキを殺せば止まるはずだ)
巨大蛇から龍の背中に飛び移り、少女へと一気に迫る。
少女はブラッドリーの接近を認めると「だめ」と言った。
呼応して、龍のパッと口を開く。
口の中から、顔のない人造人間が2体出て来た。
ブラッドリーは思わず足を止めた。
人造人間の脅威を知らない彼ではない。
さっき胸に穴を空けられたばかりなのだ。
その恐ろしさは嫌と言うほど知っている。
「こんなところまで登って来てお疲れ様です。さようなら、探索者ブラッドリー」
人造人間たちはブラッドリーへ速歩きでせまっていく。
ブラッドリーは青龍刀に『切れ味 Lv5』『出血属性 Lv4』『劇毒 Lv4』『重症化 Lv4』を付与して強化した。
さらにスキル『召喚術──毒大蛇』で蛇たちを呼びだし、脅威の人造人間に対応しようとする。
人造人間たちは走りだした。巨体がスピードを乗せてせまってくる。
蛇たちへ指令をだし、人造人間たちに絡みつくせる。
蛇は全身が強靭な筋肉の鎧で覆われた天然のハンターだ。
無数により集まり、チカラを合わせれば、どんなに強力な膂力をもっていようと確実に動きを封じることができる。
「そのままだ!」
ブラッドリーは一瞬で人造人間たちへ距離をつめる。
チカラ一杯に青龍刀で首筋を2回斬りつけた。
だが、案の定、刃はほとんど通らない。
ブラッドリーは踊るように跳躍して間合いをとり、経過観察をする。
1秒。2秒。もう十分だ。
(出血しないか。劇毒も効いてない……重症化とのコンビネーションなら大概の生物は即死するが……チッ、めんどうくさい野郎だ)
ブラッドリーはスキルアセットを切り替えて対生身エンチャント──出血&毒──から対無機物エンチャント──粉砕属性&DMG上昇──をつかって抗戦を続ける。
人造人間は強力である。
とはいえ、さっき戦った時とは条件が違う。
ブラッドリーはスキルを使えるし、人造人間の恐さも知っている。
ブラッドリーは人造人間のスペックを前提に間合いをはかり、慎重に踏み込み、さまざまなスキルでかく乱した。
殺そうとしなければ、格上のバケモノ相手でもやりようはあった。
Aランク第6位探索者としてのプライドをかけ、全力で小賢しくたちまわった。
15秒ほど凌いでいると、いよいよ少女のほうが「なに手こずっているの?」と様子を気にしてくる。
「Aランク探索者、存外、面倒くさいですね」
少女は懐から魔女の枯指をとりだした。
(っ、もしかして『剣牢会』全員が魔女の枯指をもってるんじゃないだろうな?)
「冗談キツイぞ……ッ」
ブラッドリーは驚愕しながら、少女から大きく距離をとった。
しかし、魔女の枯指の効果から逃れることができなかった。
30匹ちかく召喚していた毒蛇たちが幻のように霧散してしまう。
スキルの効力を打ち消されたことで眷属モンスターを強制退去させられたのだ。
「流石は殺し屋ブラッドリーというところです。褒めておきます。それでは今度こそ潔く死んでください」
人造人間が迫る──
「にゃん!」
「あっ、お前……っ」
ノルウェーの猫又が参上した。
もふもふの猫尻尾が人造人間を打つ。
人造人間は腕を十字にクロスしてガードする。
ズズズズ──っと龍の鱗のうえを滑っていく。
「生きてたのか」
「にゃん♪」
「あの猫、どうして……『龍雷』をまともに当てたはずなのに……っ」
「よし、いいぞ。あの気にに食わないモンスター兵器どもをやっつけてしまってくれ」
「にゃーん!」
ノルウェーの猫又が尻尾をふりみだして暴れ始めた。
人造人間たちは2体がかりでノルウェーの猫又の高速猫パンチと殴り合う。
流石に2体相手に手数がたりず、猫の手も借りたいと状態に陥ってしまう。
人造人間たちはもふもふをガシっと押さえると、空へと放り投げた。
「にゃー!?」
ノルウェーの猫又はシェルターの外へ。
「あの猫、確実に殺した方がいいですね」
少女が言うと、龍は巨大蛇たちを嚙み殺し、シェルターの外へふわふわと上昇していく。
ブラッドリーは龍の鱗に青龍刀を刺し、振り落とされないようにしがみつく。
外に出ると、ノルウェーの猫又と人造人間たちがふたたび激しい戦闘を繰り広げはじめた。相変わらず猫パンチが足りていないが、時間は稼いでくれるようだ。
ブラッドリーは好機と見て動きだす。
「猫又さえいればあっちは時間を稼げる。お前を守る盾はいなくなったな」
意気揚々として、少女へ斬りかかった。
少女は「よいしょっと」と、何気ないしぐさで着物の袖から長物をとりだす。
取り出したるは、到底、袖にしまえるサイズではない薙刀であった。
少女は薙刀の穂先でブラッドリーをポンっと突いた。
いきなりの攻撃。青龍刀と刃がぶつかる。
ガヂンッ!
激しく散る火花。
重たい金属音。
(ッ、んだ、このパワー!?)
踏ん張れず、ブラッドリーはふっとび、龍の鱗のうえをゴロゴロと転がった。
なんとか滑り落ちずにすむ。
立ち上がろうとする。が、足腰が痙攣してうまく立つことができない。
ブラッドリーは自分で認識している以上のダメージを受けていた。
「こんなガキに……探索者でもない人間に。膂力で負けるなんて……っ、ガほっ」
血を吐き、屈辱に表情を歪ませる。
「逆ですよ。まったくのね。探索者ごときにどうこうできると思われるほうが不愉快です。私は剣牢。あなたたちを殺すために雇われてるんですよ」
(こいつが剣牢……くそが。要注意団体のやつらダンジョンに潜っているわけでもないのに、どこでこんなパワーを付けてやがるんだ……)
「自分で刃を振るうのはあんまり好きじゃありませんが、向こうは手いっぱいなようですので……ブラッドリー、あなたは私が殺してあげますね」
言って、剣牢の少女は着物のすそをまくしあげ、白い太ももを露わにする。
紐を縛り、動きやすい恰好になるや否や、ブラッドリーへ斬りかかった。
ブラッドリーは気合だけで立ちあがり、タダでは死なんと刃をぶつけて一撃しのぐ。
が、腕力が違いすぎた。
ふわっと浮いて吹っ飛ばされてしまう。
(俺じゃあ勝てないのか、また負けるのか……)
そんなこと思いながら死の覚悟する。
ぼすっ。
誰かに受け止められた。
顔をあげると、そこには黒いヌメヌメした異形の顔があった。
まわりにはいつの間にか黒い集団がいる。
「お前たちは指男の……」
ひたすらの沈黙を守りながら、指男の命令を忠実に遂行する。
彼らこその黒沼の誇らしき戦士。
いまは『黒い指先達』と呼ばれる眷属である。
「あなたたちが町で暴れまわってくれている眷属モンスターですね。すこしは戦えそうですが、でも、頭数をそろえるタイプの眷属モンスターでは、性能を出せないのは畢竟の理です」
剣牢の少女は余裕の微笑をうかべ、薙刀を構えなおす。
「あなたたち程度の眷属で、この私がどうにかなると思ったら大間違いで──」
黒い指先達、隊長が動く。
残像を残すいきなりのトップスピード。
ブラッドリーはその速さを目で追えなかった。
彼が次に認識できた光景は、戦士の黒い拳が、少女の綺麗な顔にぐいぐいとめり込んでいる瞬間だけであった。
黒い指先達には美少女だろうと遠慮するという思考はない。
何が起こったのかわからない。
でも、ブラッドリーは胸のすく思いだった。
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こんにちは
ファンタスティックです
ピザ活頑張っております。
サポーター各々方、いつもありがとうございます。
近況ノートを更新したのでどうぞ。
『7つの指輪』『クトルニアの指輪』
https://kakuyomu.jp/users/ytki0920/news/16817139555399515817
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