俺の名はネコ ダンジョンブレイク
どうも赤木英雄です。
朝起きてデイリーミッションをこなし、ジウさんと待ち合わせして、現場に向かい『黒い指先達』を連れてクラス1ダンジョンをまわり、終われば修羅道さんとジウさんと近くでご飯をたべて実家に帰宅する。そんなことが3週間ほど続きました。
現在、ダンジョン攻略件数は90件です。
驚異的な速度でしょう。ワイトもそう思います。
異次元の座礁地帯と呼ばれるアルコンダンジョン。
以前は不活性状態で攻略しちゃいましたけど、今度のは活性状態らしいです。
今、俺のなかでどうしようもなくアルコンダンジョンに行きたい欲が高まっています。これもダンジョン因子の強さとかが関係してるのかな。ちょっとわかりません。
100件こなしたらアルコンダンジョンへのチケットが手に入る。
来たるべきの日のために鍛錬し積み上げる。
悪くない生き方だと思います。はい。
「デイリーミッション」
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★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『俺の名はネコ』
にゃんにゃんにゃん 0/100
継続日数:138日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
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何事かと慌てることなかれ。
俺はもうこのデイリーミッションの攻略を知っている。
まるは100円ショップで買ったパーティグッズの猫耳をつけます。
川越駅前に行きます。
道端に寝転がって「にゃんにゃんにゃん~!」と道行く人々に構ってちゃんアピールします。
「う、うわ、なんだこいつ……!」
と反応してくる人がいたら
「俺の名はネコ(イケボ)」
と、むくっと起き上がりながら名乗ります。
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『俺の名はネコ』
にゃんにゃんにゃん 1/100
継続日数:138日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
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これで一回です。
あと99回繰り返します。
羞恥心? それでデイリーミッションがクリアできるんですか?
素人は黙っててください。
これは本当のプロフェッショナルの戦いなんです。
「にゃん~!ごろにゃんにゃん~! にゃごーん!」
「うわ……気持ち悪い。って、な、なに、こっち来ないで、なんなのよもう!」
「俺の名はネコ(イケボ)」
「ピピー!!(笛の音) ちょっとそこの君、離れなさい! 昨日もやってたよね!? 本当になんなの君?!」
「俺の名はネコ(イケボ)」
──5時間後
昼過ぎ、豪雨のなか、びしょ濡れになり俺は帰宅する。
人のことを変質者扱いして逮捕しようとするなんて失礼な話だよ。どうなってるんだ、この国の警察は(※正常)
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『俺の名はネコ』
にゃんにゃんにゃん 100/100
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 『ノルウェーの猫又』
継続日数:138日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
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これが苦行の果ての報酬。
異常物質の名は『ノルウェーの猫又』
昨日と今日ので2体がチーム指男のもとにいます。
え? どんな異常物質かって?
報酬受け取りをすればわかりますが、家だとだめなので、とりあえず厄災島へ行きましょう。
はい、到着。
ここならウィンドウから報酬受け取りしても問題ないでしょう。
ポンッとウィンドウから巨大な影が飛びだして来た。
『ノルウェーの猫又』
それは生物型異常物質である。
眷属モンスターとも言えるだろう。
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ノルウェーの猫又
HP2,000,000/2,000,000
ATK1~30,000,000
スキル『自然治癒』
スキル『魂喰い』
スキル『マタ・ネコ』
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体長4mの巨大猫。尻尾が2つに分かれている。
日本の妖怪ネコマタのはずだが、猫種はノルウェージャンフォレストキャット。
珍しいスキル『自然治癒』持ちで、時間経過で勝手にダメージを回復し、さらに『魂喰い』のスキルで範囲内の敵に無条件で継続ダメージを与えながら自分は継続回復するという化け猫ちゃんだ。
スキル『マタ・ネコ』で倒しても倒しても翌日には復活するらしいです。
自分はとことん回復したり、復活したりするのに、相手はじわじわといたぶり殺す。
可愛いので許せます。ただ、勘違いしてはいけない。
猫ぶってますけど、やっていることは悪魔の所業だという事を。
「にゃおん♪」
「よしよしよし。ほら、遊んでおいで」
厄災島にノルウェーの猫又2体目が解き放たれました。
「さてと今日もクラス1ダンジョンしばきに行きますかね」
「ゆ、指男、大変じゃ!」
「どうしたんですか、ドクター、そんなに慌てて」
「とにかくこっちへ来ておくれ! 大事件じゃて!」
経験値工場へ戻り、コンテナのなかに築かれた
そこにはモニターを5つほど設置され、冷蔵庫を置かれ、ティファール、カップ麺に、お菓子の箱買い、ゲーム機、PC、ペンタブ、と完全に娜の城を化していた。引きこもりのエデンかな。
「あ、来た来た、これやばいでしょ」
娜は膝を抱えて高そうなチェアに座りながら、モニターのひとつを指さす。
そこには地上波の放送が映し出され『緊急速報:ダンジョンブレイク発生!』と大きく見出しが打たれていた。
「ダンジョンブレイク、それってあのダンジョンブレイクですか?」
ダンジョンブレイク。
迷宮が人類に繰りだす不可思議かつ予測不能な試練。
その名の通りダンジョンが決壊し、内側からモンスターが外側へ解き放たれた時に使われる災害用語だ。
「場所はどこですか?」
「京都みたいね」
京都か。
確かこの前、奈良の鹿を誘拐するデイリーミッションがあったからその時にあっち方面に”扉”を設置しておいた気がする。
「ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけるのよ、指男」
「文化遺産の町じゃから、気をつけるんじゃぞ」
俺より町の心配してないかな。気のせいでしょうか。
「にゃおん♪」
「あれ、ノルウェーの猫又さんも行きます? 京都」
「にゃん」
────
──ブラッドリーの視点
暗黒の底から抜け出して4週間。
いまだにダンジョンへ挑めずにいるブラッドリーは己の境遇を嘆いた。
なんと不幸なことか。
故郷へ戻り、心身静養しようと思った途端のダンジョンブレイク。
Aランク第6位、通称:殺し屋ブラッドリー
来歴不明のこの中性的なアジア人は、青龍刀を召喚し、手にすると、せまりくるダンジョン・フレンチブルドッグの群れを次々とぶった斬って殺していく。
伏見稲荷大社の千本鳥居の幻想なか、光の粒子が量産されていく。
ブラッドリーはだんだんとサイズの大きくなっていくダンジョン・フレンチブルドッグたちを光の粒子へと変換していき、そして、一息をついた。
朱色の鳥居を誤って掠めていないかをすぐに確認し、次に青龍刀の刃が欠けていないかを呑気にチェック、モンスターをいったん殲滅し終えた。
ブラッドリーは振り返り、背後で怯えていた子供たちへ「さっさと避難指示に従え」と不愛想に追い払った。
(シェルターにたどり着けば、とりあえずは心配はないだろう)
「とはいえ、か」
まだまだ京都市街に解き放たれたダンジョンモンスターが残っている。
この緊急事態において被害を抑えるためには、初期対応が重要。
それができるのは、たまたま現場に居合わせた最高位探索者のブラッドリーだけだ。
ブラッドリーは使命感に駆られ、走りだそうとする。
ふと、キンキンっと甲高い金属音が聞こえて来た。
千本鳥居の奥からだ。
「困るんだよねぇ、せっかくダンジョンブレイクさせてモンスターを解き放ったのに、そう簡単に殺されちゃあ意味がないじゃん」
言いながら血の付いた鉄パイプで朱色の鳥居を叩きながら、不遜な態度の男が近づいてくる。
男は顔に傷をもち、浅黒い肌をしていた。
ブラッドリーは暴力的な人間を嗅ぎ分ける臭覚に優れている。
ゆえに眼前の文化遺産を大事にしない男が、長く裏側の世界に携わっているアウトローのなかのアウトローだとわかった。
「この血、気になる? さっきそこに逃げ遅れた観光客がいたからさ殴り殺してやったってことよ。いや、いいよね。緊急事態のなかにおいては、どんな無秩序なことでも、許される風潮あるじゃん?」
「ねえだろ。普通に」
「Aランク探索者ブラッドリー、思ったよりいい奴じゃん。お前はこっち側だと思ってたけど」
「はあ、もう死ねよ、だるいから」
言ってブラッドリーは腕を振る。
刺青が蠢き、実体化して無数の毒蛇が召喚された。
蛇たちは出現した勢いのままに鉄パイプの男へ飛びかかっていく。
「無駄っしょ」
男がつぶやいた瞬間、ブラッドリーの毒蛇たちが霧のように霧散してしまった。
それは召喚限界時間を迎えた時とは、まったく違う消え方であった。
「おらよッ!」
男は一気に踏み込んでくると、鉄パイプで思い切りブラッドリーを殴りつける。
ブラッドリーは手でバシっと掴むと、巧みにひねり、男の手首を砕いた。
「うがやあ!?」
「雑魚が」
言って斬り捨てようとするブラッドリー。
何かが空から降ってくる。
ブラッドリーはその場を飛び退く。
鳥居を遠慮なくブチ折り、石畳みを割って着地した。
青い肌をした巨漢であった。
むくりとブラッドリーへ向き直る。
ブラッドリーは息を呑む。
おぞましい顔をしていたのだ。
蒼い肌の巨漢。実に身長2m50cmはあろうその男には顔が無かった。
顔面に熱湯をかけ、皮膚が爛れてくっついてしまったかのようだ。
醜悪なのはそれだけにとどまらず、口元は縫われて口が開けないようになっていた。強引に笑顔をつくらせ縫って固定してあるのである。
「へへ、ブラッドリーよぉ、こいつはとんでもねえぜ」
「モンスター兵器……いや、こんな強そうなやつが開発されてるなんて聞いたことないが……」
それよりも気になる事があった。
スキルが先ほどから使えないのである。
男はニヤニヤ笑いながら、砕かれてないほうの手を持ち上げる。
手には不気味な指が握られていた。
根元から千切られ、カピカピに乾いた指だ。
ブラッドリーは知識として知っていた。
「『魔女の枯指』だと……」
「正解。さて、それじゃあ、俺っちの手首ぶっ壊してくれたクソ探索者くんぶっ殺しちゃってくださーい」
男は鉄パイプでガンガンと鳥居を叩いた。
顔のない人型モンスター兵器はずんずんと早歩きでブラッドリーへ迫る。
ブラッドリーは青龍刀で斬りかかる。
恐ろしいことが起きた。
青龍刀は速さと重さを乗せて、たしかにモンスター兵器へ叩きつけられた。
しかし、首筋、その1mmほど斬りこんだあたりで刃が止まってしまったのだ。
「なッ」
怪物の拳がブラッドリーを打った。
胸骨粉砕骨折。
地面に転がり、血反吐を吐く。
服を裂き突きだしたあばら骨を見下ろす。
「がふッ……ごふっ……くそ、が……」
死を悟った。
ダメージが大きすぎた。
スキルも使えなければ、逃走という最終手段も使えない。
(まさか、この俺が、こんなところで……?)
ブラッドリーが最後の意識のなかで思い出したのは、不思議な光景だった。
気に食わない。あの若者だ。
いきなりポンッと現れて、瞬く間に活躍し、いまではAランク第10位まで昇って来たと言う。
花咲くまでに時間がかかったブラッドリーとしては実に不快な若造だ。
しかし、あの暗黒の底で救われて以来、認識は変わった。
スランプに陥り、自分を見つめ直していくなかで、気づいた。
同時それは憧れでもあったのだと。
類まれな才能とカリスマへの、厚い羨望だったのかもしれない、と。
「ゆ、び、おとこ……」
顔のない巨漢の、砲弾のごとき拳骨が叩き下ろされる。
その時だった。
「にゃん♪」
間の抜けた鳴き声とともに、化け猫が現れた。
化け猫はシュタっと参上したかと思うと、猫パンチの一撃で顔のない巨漢を吹っ飛ばしてしまった。
ブラッドリーは呆けた表情で視線を泳がせる。
化け猫の後ろからだれかやってくる。
ジュラルミンケースを片手に携え、焦げ茶色のコートに身を包んだ、サングラスの似合う青年。
「ど、どうして、きさま、が、ここに……」
「? 名前を呼ばれたので」
指男はごく軽い足取りでやってきた。
(ああ、本当になんて……気に食わないやつだ……)
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