スーパーハッピーさん



 ハッピーさんの雰囲気が変わりました。

 クズエナガさんはシマエナガさんと同等のクズさもといスペックを持っていたというのに、弱っていたとはいえトドメを刺してしまうなんて。


「ハッピーさん、身体は大丈夫なんですか?」

「なんか、すごく変な感じ。温かくて、力が溢れて来る」

「もしかして、いろいろ未知の変化が起きてパワーアップされたんじゃ」


「ハッピーちゃん! おぬし大丈夫か!?」


 ドクターが飛んでくる。


「なんともないよ。ちょっとフワフワしてるけど」

「なんともないわけがないじゃろうが。はやく病院に行った方がいいぞ」

「病院はいいよ。注射とか、嫌だし」


 子供か。


「行ったほうがいいですよ、ハッピーさん」

「そうかな。指男がそう言うなら……」

「なんでドクター感100%のわしより指男の言葉を聞くんじゃ……」

 

 というわけでさっそくハッピーさんを連れて財団の病院へ。

 ナーも気絶したままなので診てもらいましょう。

 外は日がすっかり落ちてくらくなってますけど、間に合うはず。

 

 ダンジョン財団JPN本部、その近場にあるダンジョン大学附属病院で精密検査を受けさせてもらいました。

 

「『トリガーハッピー』さん、どこか痛いところはありますか?」

「腕がちょっと」

「意味不明のマシンで改造されたかもしれないとのことなので、とりあえず鎮静剤だしておきますね」

「いや、注射はいいや」

「いいやじゃないです。打たないと帰れませんよ」


 ハッピーさん、注射打たれる前からやんわりソフトに回避しようとしてたけど、注射の瞬間になったら意地汚く部屋を逃げ回りはじめました。みっともないので俺が取り押さえているうちに打ってもらいます。


「嫌ぁぁああー!! 嫌だ、なんで、そんなことするの……!?」

「たはは、すみません、うちのハッピーさんが。今日はアンハッピーさんみたいです」

 

 お医者さんに診てもらい、しばらく病院で待たされ、検査結果を伝えられた。

 

「風邪ですね」


 んなわけないだろ。


「もっとちゃんと調べてくださいよ」

「ふむ、では前置きはこのくらいにして。どうやら『トリガーハッピー』さんのダンジョン因子に予期せぬ変質が起きたようです。まったく前例がないことですので、なんとも言えませんが。少なくとも言えることは、彼女は以前とはまるで違うチカラを手に入れたということです」

「違うチカラ……?」

「厳密に言えば、あなたの細胞が蓄電能力を、心臓が発電能力を備えたようです。デンキウナギが女体化して美少女JKヒロインになったと思っていただいて結構です」


 ふむ、実にわかりやすい。


「いろいろ聞きたいことはあると思いますが、なにぶん私も眠いのでそろそろ家に帰りたいです。今はとても不安定な状態でしょう。とにかく安静にすることをおススメします。今後は定期的な精密検査もあわせて行っていった方がいいでしょう、では」


 ということで、主治医が帰宅するそうなので俺たちも帰ることにした。

 

「変わった先生だったのう」

「財団って変なドクターしかいないんですね」


 厄災島に戻ってくる。

 あっ、今更ですが、あの無人島は厄災島と名付けられました。

 命名は俺です。


 ハッピーさんにもともと見せてあげようと思ってた場所ですね。

 ここに来る途中で、ムゲンハイールが完成してたり、クズが乱流して来たりしたんです。


「ハッピーさんも『経験値のなる木』とリンクします?」


 厄災島の真ん中、巨大樹のもとまで連れて行きリンクさせてあげる。


 ──────────────────

 『経験値のなる木』


 経験値の奔流よりいずる神なる樹

 樹の戦士たちへ恵みをもたらす


 生産量 500億/1d

 

 恵みレベル:7

 次の恵みレベルまで8,541人

 ──────────────────


 ぎぃさんが毎日ブレイクダンサーズを生み出しているので順調に登録者は増えている。それに応じて、ブレイクダンサーズ全体のスペックも上昇している。


「……ッ、ゆ、指男、なんか、タダで7レベル上がったんだけど……?!」

「すごいでしょ?」

「(流石は指男……こんな訳の分からない異常物質を秘密の島で育てているなんて……だめだ、こんなことで動揺してちゃ底が浅い女だと思われちゃう)──まあ、うん、いいんじゃない」


 いきなり冷たくなった。

 難しいですね。最近の女子高生は。

 これが思春期というやつでしょうか。


「ねえ指男、いまならもしかしたらあんたに勝てるかな」


 唐突に調子に乗り始めたハッピーさん。

 

「正直言って、俺も第一宇宙速度を上回る速さで進化しつづけてるんで、ハッピーさんがちょっと覚醒した程度じゃとてもとても……なんならけちょんけちょんに出来ると思いますけど」

「(第一宇宙速度と同じスケールで語るなんて流石は指男)」


 第一宇宙速度。カッコイイから覚えている単語第13位。

 ちなみに速度は知りません。時速100kmくらいかな。


「でも、まずはちゃんと手順を踏んでもらっていいですか」

「手順?」

「まずはブレイクダンサーズくんと戦ってもらいます。実力を示してください。俺はディフェンディングチャンピオンなので、安易に挑戦者のチャレンジを受けないんですよ」

「生意気な後輩……」


 ブレイクダンサーズくん配置。

 波が押しては引く浜辺でハッピーさんは無限トカレフ一丁だけでブレイクダンサーズくんに相対する。


「そんなちいさな銃で大丈──」


 言いかけた瞬間、ハッピーさんは発砲。

 雷の軌跡が空気を焼く。ブレイクダンサーズくんの上半身が爆散。


「『無限トカレフ Lv8』。うん、いい感じにスキルも乗ってる。ステータス参照系のスキルだと目に見えて威力あがるね」


 ハッピーさんってスキルで弾丸を強化するんだっけか……身体能力あがっても銃の威力変わらないんじゃね、とかちょっと思ってたけどそういうわけでもなさそう。


「やりますね。次はブラックタンクくん──」


 雷がビヂっと迸る。

 ブラックタンクくん爆殺。はやいんよ。


 ま、まあ、ここまではほとんどゼロコストの眷属モンスターだからね。


 次に登場するは黒槍をたずさえた急に高級になったブレイクダンサーズくん。

 さあ、調子に乗っているメスガキをわからせ──


 ビヂィッ!


 黒槍のブレイクダンサーズ君くん、☆爆殺☆

 

「ねえ、指男、これ意味ある? 流石に眷属モンスターには負けないよ、私」

「ふふ、まだまだですよ、チーム指男の戦力はこんなものじゃないです。ハリネズミさん!」

「きゅきゅ?」

「防具職人のハリネズミさんの作品を着こんだブレイクダンサーズの威力を見せてあげましょう」

「きゅきゅ!!(訳:防具職人じゃないっきゅ!!)」


 言いながら防具一式を着て、脱がされ、ブレイクダンサーズに着せられる不憫なハリネズミさん。今日も可哀想かぁいいです。


 鎧を着て体がひとまわり大きくなったブレイクダンサーズが、浜辺に突き刺さった前任者の残した『黒ねじれの槍』を手に取る。

 ついでに俺自身がさきほどぶっ殺した、クズエナガさんに操られていた隊長から回収した『救世のマシンガン』も渡してトッピング完了。


──────────────────────

 黒槍機銃の竜騎士セイント・ブレイクダンサーズ

 恵みレベル7

 HP 200,000/200,000


 ATK1~10,000,000(1,000万)

 DEF 20,000


 装備

 『救世のマシンガン』

 『黒ねじれの槍』

 『救世の鱗鎧』

 『救世の疾翼』

──────────────────────

 

 チーム指男最強の傭兵の誕生だ。

 これならさしものハッピーさんも手も足もでまい。


 槍銃の竜騎士がスッと前かがみになる。途端浜辺の砂が爆発。

 物凄い速さで迫り槍で突き殺さんとする。

 

「ッ」


 いいぞ、押してる。押してる。

 やれやれー、ハッピーさんをわからせだー。

 

 ビヂィ


 雷が迸った。

 閃光のような速さ──ハッピーさんの白脚が振り抜かれる。

 隊長ブレイクダンサーズの腕が千切れて、明後日の方向へ吹っ飛んでいく。


 あれー……ちょっとまずいかなー……。

 雲行きが怪しくなってきました。


 ──3分後


 いい勝負だった。 

 え? 隊長? ああ、はい、負けましたよ。なにか?


「はあ~……まあ、私のほうが強くなったってことだね。ふふ、なんか嬉しいかも(これで私がそばにいる意味が生まれた……よかった……)」

「ハッピーさん、まだです。まだ終わってないですよ」

「ん?」

「まだ隊長は残ってます」

「いや、いま倒したじゃん」

「ハッピーさんはまだ最強の隊長を倒してないです。トッピングには先があります」


 言って俺はぎぃさんをフルカスタムした隊長に搭載する。


「ぎぃ(訳:いや、これは標準装備ではないのでは。私が眷属に乗ることなんてあんまりないでしょうに……)」

「ぎぃさん、いいからやってください」

「ぎぃ……(訳:我が主、そんなに負けたくないんですか……)」

「俺が戦って万が一にも負けたらどうするんですか……昔のメスガキハッピーさんに戻られたら『ざぁこ♡ざぁこ♡』されるんですよ。俺は嫌です。負けたくないです」

「ぎぃ(訳:我が主がすごく情けなくなってしまいました……)」


 チャンピオンが挑戦者から逃げるものです。

 俺は真っ当なのです(自己正当化)


「ふん、ぎぃ乗せたくらいで何かが変わる訳ないじゃん。潔く私と戦ったら?」




 ──30秒後




「こ、こんなはずじゃ……強すぎる……(コテッ)」


 波打ち際でハッピーさんが動かなくなった

 意識を失ったようだ。


「よくやりました、ぎぃさん。ボーナスを贈呈します」

「ぎぃ」

「きゅきゅ(訳;英雄殿、大人げないっきゅ……)」


 黒槍機銃の竜騎士セイント・ブレイクダンサーズ(恵みレベル7)

               on ぎぃさん

    >>>>

  スーパーハッピーさん(恵みレベル7)

      >

 黒槍機銃の竜騎士セイント・ブレイクダンサーズ(恵みレベル7)

   >>>>>>>>

  ブラックタンク(ノーカスタム)(恵みレベル7)

     >

 ブレイクダンサーズ(ノーカスタム)(恵みレベル7)


 戦闘能力で言えばこんなところか。

 ふむ、スーパーハッピーさん。

 想像以上にパワーアップしていたな。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る