クズエナガ vs 指男
「パチモン……パチエナガさん……?」
「ぎぃ(訳:あれは、まさか……恐ろしいことが起きてしまいました)」
「なんじゃあれは、シマエナガさんがどうしてここにおるんじゃ……!」
「ぎぃ(訳:我が主、ドクター、あれは先輩ではありません。先輩の汚れに汚れた心が生み出した経験値クズの残留思念体──クズエナガ顕現です!)」
「クズエナガさん……?!」
「ぎぃ(訳:おそらく先輩が収容されて経験値断ちをしているせいで、魔女の帽子にこびりついていた負の性質が増幅され、後輩の身体をつかって受肉したのです)」
経験値クズの残留思念だと。
ええい、刑務所に叩きこまれているのに迷惑をかける奴があるか。
てか、うちのハリネズミさんが吸収されとるやんけ。
「性懲りもなくまたみんなに迷惑をかけようとして。もういいです、俺がさっさと吹っ飛ばして終わりにします。エクスカリ──」
「チーチーチー(訳:英雄クン、そうはいかないチー。──スキル発動『魔女の枯指』)」
あ。やべ。指パッチンしても爆発起こらん。
「ぎぃ(訳:『魔女の枯指』は一度喰らったらスキルを封印されてしまう害悪スキル……! 絶対に当たっちゃいけません!)」
「喰らってから言われても……」
想像以上に害悪クズムーブしてくるクズエナガさん。
さてどうおしおきしたものか。
「指男、伏せて」
言われて、はいはい、伏せますよ。
直後、響き渡る射撃音。
ハッピーさんがピゾンを両手でしっかり持ってクズエナガさんを蜂の巣にしてくれようとしてます。
「いいですよ、やってしまってください、ハッピーさん」
「チーチーチー(訳:そんな攻撃当たらないチー)」
クズエナガさん、電光石火のごとき体当たりでハッピーさんを吹っ飛ばしました。
ハッピーさんはぴょーんっと飛ばされ……あっ、ムゲンハイールのなかに。まず。
「チーチーチー(訳:イイコトを思いついたチー。この状態でムゲンハイールを起動させたらこの人間はきっとひどいことになるチー。楽しみチー)」
「ばか、やめ!」
「指男、あのクズエナガさんを止めるんじゃ! 人間をムゲンハイールに入れるなんて危険過ぎる!」
「チーチーチー(訳:もう遅いチー。チーはやると言った時には、すでに行動は終わっているチー。お前たちは所詮はマンモーニチー)」
言ってクズエナガさんはムゲンハイールの扉を足で蹴り閉じてしまった。
なんてことだ。一刻もはやく救い出さねば。
「チーチーチー(訳:おっと、動くんじゃないチー)
俺が駆けだそうとした瞬間、シマエナガさんは、じゃなくてクズエナガさんはパチンっと翼で指パッチン(?)をした。
コンテナの影から『黒い指先達』の隊長がでてきました。
黒槍とマシンガンで武装し、竜の鎧を着こんだ現代最新フォルムです。
隊長は
娜はぐったりしていて意識はないようです。
「チーチーチー(訳:こいつを殺されたくなかったらすべての経験値をよこすチー)」
「なんで隊長は向こうの味方に……」
「なにかに操られているみたいじゃのう」
「ぎぃ(訳:おそらくは先輩のスキル『冒涜の心変 Lv3』です。隊長はクズエナガさんにコントロールされています)」
「それシマエナガさんのスキルじゃないですか」
あれれ?
もしかして……そういうこと?
クズエナガさんさ、もしやシマエナガさんの能力全部コピーしちゃってる?
「ぎぃ(訳:クズの残留思念体ですから)
説明になってますか、それ。指男は説得力に欠けると思います。
────────────────────
クズエナガさん
レベル140
HP 1,443,500/1,443,500
MP 1,301,700/1,421,700
スキル
『冒涜の明星 Lv4』
『冒涜の同盟』
『冒涜の眼力』
『冒涜の再生』
『冒涜の反撃』
『冒涜の剣舞』
『冒涜の閃光 Lv2』
『冒涜の心変 Lv3』
『魔女の枯指』
────────────────────
くっ、恐ろしく厄介な敵が現れたのは間違いないが、やるしかない。
いまも稼働しているムゲンハイールから一刻もはやくハッピーさんを救い、
「チーチーチー(訳:おっと、攻撃しようなんて思わないほうがいいチー。これはあくまでハリネズミの身体を借りているだけチー。攻撃したらハリネズミが傷つくチー)」
クズの悪役オールインワン。
外道ムーヴ全部やりよる。
もう怒りました。絶対許しません。
────
──クズエナガさんの視点
クズエナガは勝利を確信していた。
チーチーチー、これで英雄クンは動けないはずチー。
チーム指男が保有する12体の隊長クラスの竜騎士ブレイクダンサーズも支配下に置いたチー。
チーは虎視眈々とこの時を狙っていたチー。
いまこそ無念を晴らす時チー。
──っと。
「チーチーチー(訳:さあ『黄金の経験値』を袋に詰めろチー。それが終わったら厄災島の経験値のなる木から『力の果実』を回収するチー。全部チーのものチー)」
言って隊長級ブレイクダンサーズたちに詰めさせようとする。
その時だった。クズエナガの視界端から指男が消えたのは。
「チ、チー!?」
指男は一瞬の油断をついて、一足で
そして、娜を抱き寄せながら、乱雑なヤクザキックで隊長を蹴り飛ばしてしまった。その威力は凄まじく、隊長は一撃で壁際まで吹っ飛んでいき、バキバキと放射じょうの陥没をつくって壁に埋まってしまった。
いかに『黒い指先達』の隊長だろうとも、主人である指男ににとってはその辺のチワワと変わらないのだ。
クズエナガは戦慄した。
速かったのだ。
クズエナガが想像している以上に。
チーが思っているより強くなっているチー。
これはどうやらチーも本気をだすしかないチー。
スキル発動──『冒涜の閃光 Lv2』
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『冒涜の閃光 Lv2』
世界への誇示。
閃光のごとき暗躍。
5分間素早さ200%上昇
720時間に一度使用可能。
MP10,000でクールタイムを解決。
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クズエナガさんはブォンッ! と姿を掻き消す高速移動をし、さらにバランスボールサイズにふくらんで指男へくちばしをぶっ刺すゴッドバードアタックをかました。
強力な一撃に突風が舞い起こる。
指男は片手だけで、クズのくちばしを受け止めていた。
「チ、チー……!(訳:お、押しても引いても、動かないチー!?)」
「外でやろう」
指男はクズエナガさんのくちばしを掴んだまま超捕獲家を使用。
バランスボールのような身体が手で圧縮される。
そのまま身動きが取れない状態で、指男は厄災島へとつづく”扉”をぬけて、洋上の孤島でクズエナガさんを浜辺へと放り投げた。
「クトルニアの指輪、開帳」
「っ!(訳:その手があったチー! 忘れてたチー!)
指男は指輪に黄金の炎をともし、自身のスキルを物質化。
手に黄金の炎に燃ゆる両刃の剣を握った。
スキル『スナップフィンガー Lv7』は封印されようと、異常物質『絶剣エクスカリバー Lv7』は使えるのである。
「チーチーチー!(訳:お前たち英雄クンを倒すチー)」
隊長級ブレイクダンサーズたちが槍を巧みにふりまわして襲い掛かる。
その数12体。
さしもの指男をして苦戦を強いられるか。
と、クズエナガさんは期待したが、結果は散々たるものだった。
隊長級ブレイクダンサーズたちの果敢な攻勢を、指男はかわしにかわし、ただ一振り、絶剣を雑に振り回すごとに1体1体が黄金の爆炎に焼かれ、消し炭になっていくのだ。
「
黄金の聖剣の剣身が、輝く焔の粒となって溶けていく。
それらは意志持つ龍のように蠢き、隊長級ブレイクダンサーズをひとりでに攻撃し、5秒の後には誰もいなくなった。
黄金の龍は再び、指男の手のなかに戻っていき、握り手だけとなっていた剣に帰った。輝く焔の粒たちが剣身として再構築された。
「チーチーチー!(訳:剣の振り方は素人チー。いまならまだ倒せるチー!)」
クズエナガさんと指男の戦いは実に数時間に及んだ。
大量のHPと回復手段を持ち、自身をバフで強化するクズエナガさんの厄介さに指男は大変に手こずらされた。
『冒涜の剣舞』と『冒涜の閃光 Lv2』で常にバフを掛け続け、攻撃を受けたら 『冒涜の反撃』で指男の攻撃力が高ければ高いほど手痛い倍返しを行ってくる。
指男は戦いながら「どうやって倒すんだ、この豆大福……」と困惑するほどだった。
そんなこんなで厄災島の森が荒れ果てる頃、ついぞクズエナガさんは持久力で指男に負けた。
指男はMPをほとんど消費せず、HPを回復するだけで戦闘を続けることができる。
MP1:HP1,000回復の最強回復系異常物質『蒼い血 Lv8』をもっていたので、隙を伺って注射をすればHPを切らすことはなかった。
それどころか、スキル『蒼い胎動 Lv4』で毎秒HP2を回復しているのでそれも地味にクズエナガさんとの持久力に差をつけたのだ。
「チー……チー(訳:こ、こんなはずじゃなかったチー……チーの偉大なる野望が……英雄クンなんかに……)」
クズエナガさんはみっともなくヨタヨタした足取りで経験値工場へと戻っていく。
経験値に飲まれたものは経験値の聖地へと還る。
指男はあわれなる残留思念体の末路を見届けてやるべく経験値工場までトボトボと追いかけた。
最初の地点まで戻ってくる。
コンテナは散乱しているが、いつもの静かな美しいウユニ塩湖(パチモン)が広がっていた。
ふと、コンテナのひとつ、その扉が開きだした。
「あれはたしか大ムゲンハイールじゃ……」
呆気に取られていると、なかから人影出て来る。
あどけない足取りで、蒸気に包まれる彼女。
先ほどクズエナガの策略で勝手にマシンに入れられたトリガーハッピーであった。
視線は定まらず、全体的にほんのり光を放っている。
バヂン、バヂンっと身体の周囲でSS2みたいに蒼雷が弾けているのは気のせいか。
「ハッピーさん、無事ですか」
いろいろ気になりはしたが、指男はトリガーハッピーが無事だったことが嬉しくて思わず、駆け寄ろうとした。
が、その時、クズが動いた。
「チーチーチー!(訳:動くなチー!)」
指男に勝てないと悟ったクズエナガさんは再びクズムーヴに走っていた。
最後の力を振り絞り、指男よりも速くトリガーハッピーに取りつくと、その身を人質にしたのだ。
「クズエナガさん、あなたという鳥はいったいどこまで堕ちるつもりですか」
「チーチーチー(訳:経験値のためならどこまでも堕ちてやるチー! さあすべての経験値を袋に詰めるチー。このハッピーちゃんがひどい目にあうチーよ!)」
「……邪魔──」
「チー?」
トリガーハッピーはボソっとつぶやきクズエナガさんを叩いた。
うっとおしいハエに「しっしっ」とやる程度の軽い仕草。
しかし、それだけでクズエナガさんはぽーんっと吹っ飛ばされ「チィィィ──!?」と、黒い霞となって消えてしまった。悪はここに滅んだ。
黒い霞がなくなると、器にされていた厄災の大古竜が解放された。
指男は厄災の大古竜をキャッチしてポケットにしまう。
トリガーハッピーへ向き直る。
あわく白い光につつまれ、蒼雷をまとっている。
表情もどことなくキリっとしている気がした。
「ハッピーさん……なんか雰囲気変わりました……?」
指男は不安から思わずそう問うた。
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