ハッピーデイ



 Aランク第10位探索者にしてブルジョワ探索者、経験値工場工場長にしてプラチナ会員、無人島オーナーにしてギルド長(仮)──どうも赤木英雄です。


 だんだん、肩書が増えてまいりました。

 

 ハッピーさんを経験値工場に招待したら、大ムゲンハイールの最新モデルが出来上がっていたので合成祭りの続きをしたいと思います。

 一応、無人島へ連れて行くと言う話でしたが、ハッピーさんも興味があるようでしたので合成を見せてあげることにしました。

 前回の祭りは魔女エナガとかいう謎のゲストの乱入であえなく閉会という運びになったけど、すでに犯罪者は逮捕されているので今回は乱入の心配はないでしょう。


「でも、どんな異常物質があったかよく覚えてないんですよね」

「だいたいぎぃさんが預かっておるはずじゃが」

「ぎぃ(訳:合成に使えそうな異常物質はこちらです)」


 ぎぃさんの一声でブレイクダンサーズたちが異常物質を運んでくる。

 なんでも鑑定団みたいにトレイに乗せて手に持ち整列してくれた。


 

 『エリクサー』1点

 『エチチ・モテラ』1点

 『ダンジョン・コンテンダー2001』1点

 『魔法剣 フォトンエディション』1点

 『デスペラードの強靭剤 25』1点

 『魔弾の射手』1点

 『魔女エナガさんの帽子』1点


  

 『カターニアの砂塵』シロッコ、『冷原の巨人』ウラジーミル・バザロフからぎぃさんとシマエナガさんが奪取してきたものですね。


 む?

 『エチチ・モテラ』?

 なんですか、このいかがわしい名前の異常物質アノマリーは。


 ────────────────────

 『エチチ・モテラ』

 奇跡的な融合により産まれた秘薬

 服用者に激しい愛情を抱かせる

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「ぎぃ(訳:我が主が修羅道さんに飲ませようとした卑劣な媚薬──)」

「ああ! ぎぃさん説明しなくていいです!」

「指男、なーにそのピンク色の薬」

「お願いです、聞かないでください、俺の罪咎です」


 慌てて『エチチ・モテラ』を掴んでポケットにつっこむ。

 これあれだ。えっちな薬とモテる薬を合成してできた負の遺産。


「あれ、でも、これ使えば修羅道さんに……」

「ぎぃ(訳:繰り返そうとしてますよ、我が主)」


 はっ。危ない危ない。


「とにかく、こんなものがあるから戦争が起こるんです。さっさと合成しちゃいましょう」


 なにと合成すれば有用そうなものが生まれるか。

 もう一度ラインナップを見る。


 『エリクサー』1点

 『エチチ・モテラ』1点

 『ダンジョン・コンテンダー2001』1点

 『魔法剣 フォトンエディション』1点

 『デスペラードの強靭剤 25』1点

 『魔弾の射手』1点

 『魔女エナガさんの帽子』1点


 おや。

 見覚えのないのがある。

 『魔弾の射手』。黒い長銃と言うのだろうか、ちょっと古めかしいライフル銃のようなものがあります。


「こんなのどこで手に入れたんですか?」

「ぎぃ(訳:アルコンダンジョンの底、女を倒した時に落ちてたので拾っておきました)」


 有能。

 そうか。思えば俺この銃に散々撃たれてたな。

 でも、俺、銃とか使わないしな。

 そうだ。ハッピーさんにあげたら喜んでくれるかな。


「ハッピーさん、この銃使います?」

「異常物質なら使いではあるかな。にしても見たことない形状。人類の作った銃じゃないね」


 ────────────────────

 『魔弾の射手』

 暗黒の神官、そのなりそこないの愛した銃

 神喰らいの騎士のちぎれた指が変質した物

 いまだ暗い炎を宿し、魔弾は暗黒の霧に溶ける

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 これ指なのか。


「指男ギルドのメンバーにふさわしい武器じゃないかな。どう似合う?」

「まあ……はい、似合いますよ」

「うん。よかった」


 ハッピーさん、ちょっと嬉しそう。

 なんだか恥ずかしい。こんなこと言う人じゃなかったと思うんだけど。なんか可愛くなってるぞ……妙だな……。


 もっと喜ばせたくなってしまう。


「ハッピーさん、合成していいですよ」

「私が? いいよ。指男の集めたアイテムでしょ」


 いや、ほとんど眷属たちが盗んできたアイテムです。


「俺には正直、必要ないものばかりなので。剣とか銃とか使ってみたい感じはあるんですけど、ほら」


 俺は『クトルニアの指輪』で『フィンガースナップ Lv7』を物質化させるれるでしょう?


 剣をイメージすれば『絶剣エクスカリバー Lv7』という両刃の直剣に。

 銃をイメージすれば『流星エクスカリバー Lv7』という黄金の銃に。


 無形の物にカタチを与えるので、俺の塩梅次第でいくらでも形が変わるんです。

 だから装備を持とうにも、結局は「そこにパワーはあるんか?」と、俺のスキルを越えれるか越えれないかの二択になってしまい、中途半端な装備じゃマジで持つ意味がない。


 なので、使える人に融通したほうがよろしいというわけだ。

 まあ、ブレイクダンサーズに持たせるという使い道はあるけどね。

 とはいえ、ハッピーさんは普通に好ましい人だし、ギルドメンバーになってくれたし、いろいろ悩んでるみたいだし、俺もできることをしてあげたい。


「使えそうな装備はそのままもらうよ。『ダンジョン・コンテンダー2001』とトニ・デスペラードの属性弾はまあ、あんまり趣味じゃないけど、新しいことにも挑戦しないと成長できないし、ありがたく貰っておくよ」

「なんで好きじゃないんですか。そのコンテンダーっていろいろな弾を使い分けられるらしいですよ」

「だって小賢しいじゃん。気取ったイタリア人が使ってそうでウザいし」


 確かに気取ったイタリア人が使ってた気がします。


「どうせならムゲンハイールで進化させていったらどうですか?」

「いいの?」

「もちろん」

「それじゃあ……お言葉に甘えて……。本当にいいの?」


 すっごい慎重です。

 お金なんて取らないのに。

 クリスタルは腐るほどあるし。


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 『ダンジョン・コンテンダー2001 Lv6』

 後装式シングルアクション拳銃

 多様な弾丸を放てるのが特徴

 ATKボーナス3.00倍

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「すごい……市販のダンジョン装備がG5の異常物質に……これ売ったらお金になりそう」


 ハッピーさんがよくないこと思いついちゃってる。

 それがメルカリで売られてるとこみたら泣いちゃうかも。


「私の『無限トカレフ』も進化させていい?」

「無限?」

「無限に撃てる異常物質」

「ハッピーさんの大好物じゃないですか」

「馬鹿にしてるの? いや、そうだけどさ……」


 ────────────────────

 『無限トカレフ Lv8』

 引き金を引くだけ発砲できる

 好きなだけ撃っていいよ タダだから

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「あと私のピゾンたちも」

「ピゾン?」

「うん、メインウェポン」

「トカレフは?」

「サブ。こんなちいさい銃じゃ心もとないよ。メインはフルオートじゃないと」


 言ってハッピーさんはカバンからサブマシンガンを取り出した。

 と思ったら、次から次へと同じモデルの銃が出て来る。

 全部で10丁あまり。戦争でもする気だったのかな。


「なんでおんなじのばっかり……」

「かわいいでしょ?」

「銃のことですか? いや、どうでしょ……ちょっとわかりかねます」

「なにそれ、変なの」


 変なのはハッピーさんだと思います。


「スキルで威力を底上げして撃ってるとバレルがすぐ歪むんだよ。歪んだら集弾性が落ちるから捨てて新しいの使うの」

「可愛い子たちを使い捨て……?」


 恐ろしい人です。


 ────────────────────

 『ダンジョン・ピゾン 2001 Lv8』

 安定感のある機関部を持つタフな短機関銃

 9m×19mm魔法弾64発弾倉

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 結局10丁全部進化させました。

 ハッピーさんに大事に使ってもらえるといいなお前たち。

 

「『魔弾の射手』はG5だから強化できなそう。うーん、あとは合成ね。『エリクサー』と9mm弾合成したらいい感じに魔法の弾できないかな」


 ハッピーさんは創造性をいかんなく発揮し、合成をはじめた。

 まあ、合成はなにができるかわからないギャンブルみたいなもの。

 ハッピーさんの思うように上手くはいかないと思います。


 ハッピーさんは自分のダンジョンバッグからべイオハザードで見たことあるような9mm弾が50発入った箱をひとつ取り出して、大ムゲンハイールのなかへ。

 こんな物を日本で持ち歩いてるのこの人くらいでしょう。

 

 ────────────────────

 『エリクサー弾』

 HPとMPを全回復させる魔法の弾

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「やった。意外と簡単だね」


 馬鹿な……ハッピーさん、さては天才か……っ!


「ハッピーさん、これも使っていいですよ」

「さっきの『エチチ・モテラ』……」


 はやくそれを処理して欲しい。

 

 ────────────────────

 『エチチ・モテラの弾』

 命中した相手をコントロールできる

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「なんか凄いのできちゃったよ、指男」


 やはり天才じゃったか……。


「指男よ、ハッピーちゃん、おぬしよりセンスあるみたいじゃのう」

「そのようですね、ドクター」


 俺たちは温かい目で後方で腕組しつつ、ハッピーさんの合成を見守ることにした。

 

「チーチーチー」


 その時だった。

 おかしな声が聞こえだしたのは。

 

「あれ? いまシマエナガさんの声しませんでした?」

「わしも聞こえたんじゃが……」

「ぎぃ(訳:ありえません。先輩はたしかに収容されているはず……)」


「きゅきゅ(訳:この帽子なんだか不思議な魅力があるっきゅ……なぜかわからならいっきゅが、我はこの帽子を被らないといけないような気がするんだっきゅ)」


 ハリネズミさんがいつの間にかポケットを抜け出して、異常物質『魔女エナガさんの帽子』のもとへ至っていました。

 虚ろな眼差しでぷにぷにしたお腹でよっこいしょをトレイのうえに座り、魔女帽子を被っています。


 なんだか嫌な予感が……。


 黒い光がパチパチっと煌めいた。

 雷が落ちて来ると、目の前で激しい爆発を起こした。

 コンテナがふっとび、水が蒸発し、耳をつんざく音に前も後ろもわからなくなる。


 俺はとっさにドクターとぎぃさんをかばった。

 

 何が起こったのか。

 すべてが収まると、もくもくとした温かい蒸気の向こうに鳥の影が見えた。


「チーチーチー(訳:ようやく解放されたチー。この時を待っていたチー)」


 そんな馬鹿な。


「シマエナガさんがどうしてここに……ん?」


 霧が晴れると、姿を現したのはふっくらした鳥だった。

 ただし全身真っ黒で、紫色のオーラを纏い、魔女の帽子を被った鳥だが。


 なんか違う……なんだこのパチエナガさんは……。


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