年相応の少女のように困惑する



 ハッピーさんがギルドの仲間になってくれることになりました。


「連絡先とか、交換しておいたほうがいいよ」


 ハッピーさんとラインを交換します。

 なんだか気恥ずかしい。顔が熱くなりよる。

 

「えっと、それじゃあどうする」


 どうすると聞かれましても。

 

「俺はやること済んだので帰りますけど……」

「ギルドなら、ほら、チームメイトってことじゃん。だから、もっといろいろしたほうがいいんじゃないかなって」

「それじゃあ、無人島でも行きます?」

「(なにを言ってるんだろう……もしかして、また発作が……?) 落ち着いて指男。大丈夫だから。手握っててあげよっか?」


 ハッピーさんのちいさな手が包み込んでくる。

 なんだろうこの精神不安定な人に優しく接する感じ。


「ハッピーさん、俺は正気ですよ。付いて来てください」


 言って俺は、適当な茂みを見つけ、ハッピーさんを連れこむ。


「まさか指男……(”無人島”ってなんかえっちなことの隠語?!)」


 『メタルトラップルーム Lv3』で地面をひっかいて”扉”を出現させ、なかへ、ハッピーさんの手を引っ張り連れこむ。


「わあ! な、なにするの指男!」

「ここから無人島に行きます」

「へ? なにここ……」


 ハッピーさんは目を丸くして呆けてしまいました。



 ────

 


 ──トリガーハッピーの視点


 

 指男に手を握られた瞬間、視界が一転した。

 目に映るのはひらすらの蒼穹。

 どこまでも澄み渡った空、それを反射する湖面。

 ウユニ塩湖の画像を調べてまず出て来るようなこの世ならざる幻想世界に、言葉を失ってしまった。


「見た目ほど広くはないですけどね」


 指男は言い「ドクターと娜を紹介します」と歩きだす。

 美しい湖面世界には真っ黒いコンテナが3つほど置いてある。

 その近くは雑然としていて、生活感が溢れていた。

 コンテナとコンテナの間につっぱり棒が設置され、雑巾がいくつも干してある。

 油汚れだろう機械いじりにくたびれるまで使われた形跡があった。

 

「おや、これは有名人を連れて来たな、指男よ」

「また女の子連れて来たの?」


 理系の2人は今日も各々好きなことして過ごしていたらしい。

 ドクターは大ムゲンハイールをいじり、娜はブレイクダンサーズを取ったり付けたり、あんまり12歳の子どもらしからぬことをしている。本人いわく新しいモンスター兵器に関する研究を行っているらしい。


 とはいえ、ハッピーとしてはナーの「また女の子連れて来たの?」という発言がややモヤる。


「またって?(いったいどれだけの女の子を連れ込んでいるの……? そいつら指男のなんなの?)」

「そんな連れてきてないですよ。秘書のジウさんと修羅道さん、あとは査察にきた地獄道さんだけです」

「みんな綺麗な子ばっかりだね」


 ハッピーは警戒感を高めた。

 指男のまわりには仮想敵が多いと。


「指男、私はわかってるから。私だけがわかってあげれるんだよ?」

「(ハッピーさん、慈母のような表情で微笑みで訴えかけてくる……なんだか依存したら甘やかされそうな雰囲気ありますねぇ……)」


「ところで、指男よ、ようやく念願のものが出来上がったのじゃが」

「もしかして『大ムゲンハイール ver7.0』ですか? おお、それはすごい」

「おう。リフレッシュに散歩したら閃きが湧いてきたんじゃよ」

 

 指男は感心したようにうなり「ハッピーさん、こっちこっち。凄い物を見せてあげます」と手を引っ張った。


 3つある黒いコンテナのうちひとつ。

 もっとも大きい物がゆっくり開いていく。

 白い水蒸気のようなものがあふれており、悪の秘密兵器感が満載であった。


「指男、見よ、これが我が集大成『大ムゲンハイール ver7.0』じゃ。

「俺に『ムゲンハイール ver7.5』を渡して来たからそろそろだろうな、とは思いましたけど。あれ、でも、俺にくれたジュラルミンケースサイズの方がバージョン上じゃないですか?」

「おぬしのは普通のカバンとしての機能を搭載したバージョンじゃよ」

「普段使い用と。なるほど。あ、すみません、ハッピーさん、この意☆味☆不☆明の機械はですね、ドクターの素晴らしき発明でして──」


 指男はハッピーへ『大ムゲンハイール ver7.0』がいかなる異常物質アノマリーなのかを教えた。


 異常物質アノマリーを進化させる異常物質アノマリー

 

「そんなオーバーテクノロジー、人の手で造れるわけがないよ」

「へい、ドクター。こちらのハッピーさんにマシンの威力を見せてあげてください」

「うむ。指男よ、さっそく普段使っている装備を出して見るんじゃ」


 指男は注射器をとりだし、コンテナのなかに置いて、次にコンテナの影に山のように積まれたクリスタルをスコップでザクっとひとすくいすると、それをコンテナ内へ放りこんだ。


「つまみを『進化』に設定してっと。はい、ポチ」


 マシンは激しく稼働音を鳴らし、おさまると自動でプシューッとプロセスを終了した。

 重厚な隔壁のような扉が開くと、さきほどよりややイカつくなった注射器が鎮座し、クリスタルの量はいくばくか減っているような気がした。


 ────────────────────

 『蒼い血 Lv8』

 古の魔術師がつかっていた医療器具

 MP1で充填 使用すると体力を回復する

 転換レート MP1:1,000

 ────────────────────


「ぇ、その異常物質、やばくない……!?」


 指男の見せて来た回復アイテムに驚愕を隠せないハッピー。


「これでグレード5までの進化ができるようになったぞい。ただ、まだいくつか相性の悪い異常物質もあるようじゃし、不安定じゃから、G5に進化出来ない物もあるかもしれん」


 とんでもないことを言うドクターにハッピーの戦慄は止まらない。

 どうして異常物質が進化する前提で話をしているのか。

 どうしてそれを平然と指男は受け入れ、次々と自分の装備を怪しげな機械のなかへ投入できるのか。

 まるで意味がわからなかった。

 自分だけ取り残された空間で、ハッピーは茫然とすることしかできない。

 異世界に迷い込んだ年相応の少女のように、戸惑い、困惑していると、やがて指男は一通りの装備の一新を完了するのだった。


 ────────────────────

 赤木英雄

 レベル283

 HP 928,410/945,200

 MP 156,300/185,100


 スキル

 『フィンガースナップ Lv7』

 『恐怖症候群 Lv10』

 『一撃 Lv10』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv4』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』


 装備品

 『クトルニアの指輪』G6

 『ムゲンハイール ver7.5』G5

 『アドルフェンの聖骸布 Lv6』G5

 『蒼い血 Lv8』G5

 『選ばれし者の証 Lv6』G5

 『メタルトラップルーム Lv6』G5

 『夢の跡』G4

 『迷宮の攻略家』G4

 『血塗れの同志』G4


────────────────────

 

 ────────────────────

 『蒼い血 Lv8』

 古の魔術師がつかっていた医療器具

 MP1で充填 使用すると体力を回復する

 転換レート MP1:1,000

 ────────────────────

 ───────────────────

 『選ばれし者の証 Lv6』

 あなたは世界に認められた。

 大事に持っているとイイコトがあるかも。

 幸運値 1,020/10,000

 ───────────────────

 ────────────────────

 『アドルフェンの聖骸布 Lv6』

 偉大なる聖人の遺体をつつんだ布

 あらゆる物理ダメージを60%カットする

 ────────────────────


 指男は年季の入った味のあるコートを翻し「ふむ」とサングラスを指の腹でもちあげる。その仕草がやけに様になっていて、ハッピーは思わず目が離せなかった。


「エクセレント。流石はドクター」


 ハッピーはまるで理解できないし、ついて行くことができない。

 わかるのは、指男がまた新しいチカラを手に入れたということだけだ。

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