修羅道のマイホーム計画とバトルドーム



 おはようございます。

 赤木英雄、早朝起動しました。


 今日も一日頑張って参りましょう。

 

「さて、今日はどんなキチデイリーが待っているのかな。楽しみですねえ」


 こうやって先んじてわかった風にしておけば、逆張りデイリーで楽なのが来るという高度はやりとりです。


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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『名探偵 トイプードル消し炭事件』


 犯人を特定する 0/1


 継続日数:115日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 今日もデイリーは名探偵編ですか。

 デイリーミッション名から判断するにトイプードル消し炭事件が起こるので犯人を特定しろという事ですかね。


 普通に考えてトイプードル消し炭事件が向こうからやってくるとは考えづらいので、こっちから事件に遭遇しようと思う。

 というか、これどうせアレだろ。俺がトイプードル爆殺する側でしょ。マッチポンプ。もうわかってるんだなぁ、どんだけデイリーミッションやってると思ってるんだい。


 財団SNSでトイプードルが出るダンジョンを検索する。

 あった。近場にあるじゃない。いいね。

 埼玉県が浦和市に出現したクラス1ダンジョン。

 3階層からなる、いわゆる普通のダンジョンですね。

 

 いつもの正装に身を包み、キッチンの床下で見つけた麺づくりに熱湯を注ぎ、3分待って完成させ、3分で食して朝ご飯を完了、家を出て向かうのは世界の真ん中を走る東武東上線、改札を抜け、電車に乗り、ガタンゴトン、はい、到着です。


 災害地域みたいなテント群があればそれはダンジョン財団が設置した現地の対策本部です。


 普段はこういうダンジョンにはあんまり興味が湧かない。

 俺はダンジョンこそ好きだが、もしかしたらデカいダンジョン限定で好きなのかもしれない。ちいさいのはあんまりピンと来ないし。


 屋台が並ぶキャンプ外郭を抜けてキャンプ内郭へとやってくると、ひときわ輝きを放つ美少女を発見しました。


「修羅道さん、こんなところにも」

「わあ、赤木さん、こんなちいさなダンジョンでお会いするなんてわたしたちってとっても相性が良いですね!」


 えへへ、そうかなぁ? そうだねえ?


「でも、修羅道さん、以前はチャットでダンジョンに招待してくれたのに今日はしてくれないんですね……」


 なんだかモヤります。

 

「赤木さんは最高クラスの探索者なのでこの規模には不釣り合いです。適材適所というやつですね!」

「はあ」

「ダンジョンは毎年数百件発生してます。JPNには1万2,000人ほど探索者がいますけど、高探索者の数はごく限られていますし、探索者すべてが万全なコンディションではありませんし、1年365日稼働できるわけでもありません!」


 修羅道さんいわく、発生するダンジョンのうち95%くらいはクラス1ダンジョンだと言う。俺が今までに攻略した群馬や千葉のダンジョンに比べたらその規模はずっとちいさい。

 俺やほかの高位探索者が名指しで招待されるのは、そうしたデカいダンジョンだけだという。


「とはいえ、赤木さんがせっかく来てくれたなら、別に拒む理由はありません」

「この地のトイプードルを絶滅させてもらいます」

「頑張ってくださいね、赤木さん」


 修羅道さんのかあいい笑顔からしか摂取出来ない栄養素をチャージして、俺はダンジョンゲートたる不気味な黒い門へと向き直った。

 

「あっそうだ、ちょっと待ってください!」


 言われて足を止めて振りかえる。

 修羅道さんはニコニコしながらスマホを取りだす。


「赤木さんのお家の候補地をこちらでいくつか検討したので、赤木さんの意見を聞かせてくれますか?」

「お家の候補地? 100億円ハウスの?」

「はい。厄災ちゃんたちを個人で飼育するためには財団に納得してもらわなければいけませんから。基準を満たした立地・施設である必要があるんですよ」

 

 シマエナガさんやぎぃさん、ハリネズミさんも増えたし、みんなを収容できる施設をこちらで用意しなければならない。

 以前、修羅道さんがザっと立てた見積もりが100億円であった。

 

「財団は厄災シリーズを処分したがっています。なかには厄災を悪用しようとする輩もいます。なのでわたしは赤木さんに預かっててもらうのが一番だと思うんです」


 俺のチャットにURLが送られてくる。

 ページを開くと、何やら英語でいっぱい書かれたページに飛んだ。

 スパムかな?

 と思ったが、なにやら宇宙の画像がでてきた。


「開発のために土地が必要でなるべく都市部から遠い場所が財団的にはのぞましい収容場所です。候補地はいくつかありますが、わたしのおすすめは月ですね!」

「月……ムーン?」

「月面を100エーカーほど買い取ってそこに施設を立てましょう!」

「100エーカー……スペースぷーさん?(そんな日本語はない)」


 まさかの宇宙規模。

 たしかに都市部からは離れてるけどさ。

 

「どうですかね?」


 どうって訊かれても……でも、宇宙かぁ……。

 そうかぁ、宇宙ならどんなにシマエナガさんがふっくらしても誰も気にしないか。

 宇宙ならふっくらし放題かな?


「ぎぃさん、ハリネズミさん、ちいさくなってるのって辛いですか?」

「ぎぃ(訳:腹筋を固めてる感じですかね。気を抜いたらふっくらしますよ)」

「きゅっ!(訳:我はできれば大きな神殿に住みたいっきゅ! ずっとちいさくなっているのはコルセットで締められてる感じがして窮屈っきゅ!)」


 ナメクジに腹筋はないと思うし、ハリネズミはコルセットを付けない。適当しか言いませんうちのペットたち。まあ、ニュアンスは伝わったけど。

 

「次点で洋上プラントもありますね。無人島とか、南極、北極もありです!」


 ありです! 可愛い。

 でも、洋上プラント、無人島、極点うんぬん。

 厄災の警戒され具合やばい。


 まあ、人類を滅ぼすとか言われたら、そういう場所に隔離するってことになるんだろうけど。


「もしシェルターが完成したらみんなそこに住むことになるんですか?」

「そうですね。財団はそれを望むでしょう」

「そうですかぁ……まあ、そこでみんな安心して暮らせるなら」


 処分されるよりずっといいだろう。

 

 俺は修羅道さんと立地についてすこし議論をかわし、よく考えた結果、無人島をひとつ買うってそこに施設を建設することにした。

 月面はなかなかロックでカッコいいが、流石に夢が先行しすぎており、100億円どころか100兆ドルあっても難しそうだったので断念した。修羅道さんはちょっと落ち込んでいた。これが彼女に好きな物を買ってあげられない低所得彼氏の気持ちだろうか。不甲斐ない気持ちでいっぱいです。買ってあげたい。宇宙基地。


「それじゃあ今日も頑張ってくださいね、赤木さん!」


 修羅道さんに見送られ、俺はダンジョンへ。


 黒い門をくぐり、1階層に入って最初にやるのは我がサングラス『迷宮の攻略家』の3Dマップを財団SNSでシェアすることだ。


「『今日の狩場』っと」


 SNSの更新をし終えると、通路の先にトイプードルを発見した。


 ちいさくて、もこもこした縮れ毛というのかな、あの特徴的な毛並みがなんともキュートで、もう見てるだけで消し炭にしたくなりますねぇ!


「カリバー」


 は~い、消し炭ですよ~♪


 小型犬のくぁいい姿が爆炎のあとに光の粒になるのは、やはり何度見ても狂おしい。

 

 さて、ドクターがコンテナサイズの異常物質も入るムゲンハイールの改修工事中なので、俺の手元にはジュラルミンケースサイズのムゲンハイールがない。

 コートのポケットにクリスタルを回収するという裸銭スタイルゆえ、そんなにたくさんクリスタルを回収するつもりはない。


 せっかくなのでスピード重視で攻略しようか。

 

 ──30分後


 デイリーミッションのためにトイプードルを爆殺☆し、ランニングしてるとすぐに階段を発見してしまった。


 2階層へ降ります。


 ──30分後


 おや、気がついたら3階層。

 クラス1ダンジョンってこんな小さいんだなぁ、っとギャップに困惑。

 なんだか思ったよりはやく終わりそうなので、ちょっと休憩。

 3階層ならまだスマホが使えるのでSNSでもチェックしますかね。


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 拡散:100,215 いいね!:260,853


 レッドツリーkotoha:1時間前

  指男さま、埼玉に来てるんですか!


 エージェントG:1時間前

  逃がさない

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 あ、あれぇ……?

 なんか拡散の勢いやばない?

 まだ1時間しか経ってないよ?


 相変わらずレッドツリーkotohaとエージェントGなる人物は投稿後すぐにコメントくれていた。ふふ、熱心なファンがいると思うと承認欲求が満たされていくのを感じますね。

 しかして、外国人ニキたちのコメントも多いな。

 なんだろう。なに書いてあるかわかりません。

 でも、指男の知名度が増しているようでなんだか嬉しいなぁ。



 ──1時間後



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  ★デイリーミッション★

  毎日コツコツ頑張ろうっ!

 『名探偵 トイプードル消し炭事件』


 犯人を特定する 1/1


 ★本日のデイリーミッション達成っ!★

 報酬 『バトルドーム』


 継続日数:116日目 

 コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍

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 どうも犯人です。

 トイプードル爆殺して、ボス部屋見つけて、地上へ戻ってきました。

 ボスは倒してないです。というのも、財団はダンジョンからクリスタルそのほかの希少資源を採掘しなくちゃいけないので、あんまり早く倒し過ぎても、本来回収できるはずのクリスタルが回収できないとかで、困っちゃうらしいです。


 まだ午前11時くらい。

 やばい。めっちゃはやく終わっちゃった。


「赤木さん、やっぱり、もう帰ってきましたね」


 俺はボス部屋の位置と俺がマッピングした情報を財団SNSで共有。


「査定お願いします」


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 今日の査定

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 小さなクリスタル 2,109円

 小さなクリスタル 2,440円

 小さなクリスタル 2,110円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,601円

 小さなクリスタル 1,986円

 小さなクリスタル 2,101円

 小さなクリスタル 2,007円

 小さなクリスタル 2,242円

 小さなクリスタル 1,536円

 小さなクリスタル 1,972円

 小さなクリスタル 2,106円

 小さなクリスタル 2,175円

 ちいさな宝箱 20,000円

 ちいさな宝箱 20,000円

 ちいさな宝箱 20,000円

 ちいさな宝箱 20,000円

 『バトルドーム』 10,000,000円

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 合計 10,108,296円


 

 ダンジョン銀行口座残高 41,730,932円

 ───────────────────

 修羅道運用       105,853円

 ───────────────────

 総資産         41,836785円

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「こ、これは超エキサイティングな幻の異常物質アノマリー!」


 デイリーミッションの報酬で手に入れたおもちゃみたいな異常物質は、特に俺が使えそうなものではなかったので、査定に出しちゃいました。

 修羅道さんはとっても喜んでいるご様子。


「その異常物質どんな効果があるんですか?」

「これで遊ぶと超エキサイティングできるんです!」


 なんということだ。想像以上に役に立たなそうだ。


「マニアのなかでなかなかに有名なので高値で取引されてるんですよ」


 なるほど。


 ところで、だいぶん修羅道運用の金額が減っているような気がするのですが……。


「無人島を買っておきました。太平洋の真ん中にある日当たりの良い物件です!」


 逆に日当たりの悪い物件はあるのでしょうか。指男、気になります。


「また少し投資用にお金を移しておきます!」

「うちのお金たちをお願いします、修羅道さん」

「はい、しっかり働いてきてもらいます!」


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 ダンジョン銀行口座残高 41,730,932円

 ───────────────────

 修羅道運用       105,853円

 ───────────────────

 総資産         41,836785円

 ───────────────────

         ↓

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 ダンジョン銀行口座残高 30,932円

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 修羅道運用       41,805,853円

 ───────────────────

 総資産         41,836785円

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 預金残高3万円……なんだか、一瞬で庶民に戻って来た気分です。


「そろそろ、お昼時ですね。赤木さん、いっしょにどうですか?」

「もちろん喜んで」

「ステーキのどんに行きましょう!」


 お昼はライスおかわり無料の、お得にお腹いっぱいになれるステーキのどんですか(宣伝) スープもおかわり無料でお腹いっぱいになれる最高のファミレス(宣伝)


 あ。いいこと思いついた。


「修羅道さん、闇のゲームで負けたほうが奢りというのはどうですか?」

「バトルドームで戦いたいと言うことですね。ふっふっふ、わたしは強いですよ?」

「いいですよ。こう見えてもゲームは得意なんです。負けませんよ」


 ということで、超エキサイティングな『バトルドーム』で戦うことになった。


 いつも脱法トレードされてる分、そろそろ俺の反撃の時間でしょう。

 デイリー君もきっと「これなら勝てるで」って意味で『バトルドーム』を託してくれたに違いない。やはり俺は天才だ。メッセージに気づけちゃうんだなぁこれが。

 さてと。小悪魔な修羅道さんをここら辺でわからせちゃいますよ──っと。






















 ──2時間後


 わからせられました。

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