着ただけ、貯蓄ライターver2.0




 あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーッッ!!

 

 

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 赤木英雄

 レベル271

 HP 402,300/437,660

 MP 100,950/106,420


 スキル

 『フィンガースナップ Lv7』

 『恐怖症候群 Lv10』

 『一撃 Lv10』

 『鋼の精神』

 『確率の時間 コイン Lv2』

 『スーパーメタル特攻 Lv8』

 『蒼い胎動 Lv4』

 『黒沼の断絶者』

 『超捕獲家 Lv4』

 『最後まで共に』

 『銀の盾 Lv9』


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 大変お見苦しいものをお見せしました。失敬失敬。

 いや、まったく、危険ですね。

 『黄金の経験値Lv2』金の粉末は控えないといかいけません。


 数日分の貯金をぎぃさんとハリネズミさんとで分割。

 まだレベルの低いハリネズミさんは積極的に強化したいので配分は多めです。

 

「きゅっきゅっきゅっ!(訳:偉大なる竜の血が湧き立つっきゅ!)」


 短い手足をピンっと伸ばしてたいへんに可愛いです。


「よちよちハリネズミさんもちょっとふっくらしてきましたね」

「きゅきゅっ!(訳:ドラゴンっきゅ! そんなマスコットみたいなキャラといっしょにされては困るっきゅ、英雄殿!)」


 その語尾は完全にマスコットです。

 少しはドラゴン感だす努力をして出直してきて欲しい。


 たまっていた『メタルトラップルームLv3』でメタル化したメタルダックスフンドたちもハリネズミさんにあげました。歓迎大サービスです。


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 ハリネズミさん

 レベル37

 HP 400/4,400

 MP 2,140/45,200


 スキル

 『救世の雷鳴』

 『救世の暴風』

 『救世の鱗鎧』

 『救世の疾翼』


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 順調に育ってきております。

 シマエナガさんを思い出すふっくら具合です。

 バランスボールくらいあるかな? 可愛いです。可愛いが足りてるので、もうシマエナガさんは要らない子かもしれませんねぇ……しみじみ。


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 『救世の鱗鎧』 

 嵐に宿る古い神話のひとつ

 古い風の力を纏った竜鱗を着る

 消費MP1,000

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 へえ、これが新しいスキルですか。

 竜鱗。強そう。えーと……ん? 着る? 着るってなんですかね?


「きゅっ!(訳:こういうことっきゅ!)」


 ハリネズミさんがいきなり光り出しただと!


 眩しさに目を細めると、次の瞬間、目の前にぴちっとしたスケイルメイルに身を包んだハリネズミさんが現れました。

 たゆんたゆん、もっちりふっくらした身体を無理やり鎧におさめているようで、かなり柔らかいお肉がはみ出しております。なんですか。それ。わざとやってんですか。可愛いなもう(半ギレ)


「きゅきゅっ!(訳;ご照覧あったっきゅか、英雄殿! これが我が偉大なる大古竜である証、真なる威容っきゅ!)」

「これでドラゴンを名乗るのは無理があるんじゃ……ドラゴンに謝ってください、ハリネズミさん」

「きゅきゅっ?!(訳:わ、脇からはみ出したお肉をつつかないで欲しいっきゅ! むぅ、こうなったら真の姿を見せるしかないっきゅ!)」


 まだなにかあるんですか?


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 『救世の疾翼』 

 嵐に宿る古い神話のひとつ

 古い風を纏った竜翼を着る

 消費MP1,000

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 なるほど。

 スキルがもうひとつ増えてたのね。

 なになに『救世の疾翼』。ほう、翼! 確かにこれはドラゴンだ。

 えーと「古い風纏った竜翼を着る」……うん、”着る”。

 

「きゅきゅっ!(訳:これが大空と嵐を縫う自由の翼っきゅ!)」


 ハリネズミさんの着ぐるみに翼が生えました。現場からは以上です。


「きゅっ!?(訳:もっと興味を持って欲しいっきゅ!!)」


 結局、着るなんよ。着て満足しちゃってるんだよ。


「結論、まだまだ全然ハリネズミです。お疲れさまでした」

「ぎぃ(訳:後輩がドラゴンになれる日はくるのでしょうか。あんまり期待せずに待ってますね)」

「きゅ~っ!!(訳:我は悔しいっきゅ! 今に見てるっきゅ、すぐに我が真なる大古竜だとわからせてしまうっきゅ!)」


 これで大古竜を名乗ってるんだから詐欺もいいところです。

 本当に反省してほしい。


「おう、指男、なにやら楽しそうじゃのう」

「ドクター、お疲れ様です。ちょっとレベルアップをしてまして。これがレベルアップしたハリネズミさんです」

「ほう、着ぐるみを着てますます可愛くなったのう」

「そういえば、例のブツはもう使っていいんですか?」

「ああ、『大ムゲンハイールver6.5』か。完成はしとるんだが、おぬしが帰って来るのが遅いもんだからver7.0にしようと思ってバラシてしもうたんじゃ。じゃから今は使えん」

「なにしてんすか……」

「おぬしがじらすから……」


 ドクターと熱い視線が交差する。

 なんだこの胸の高鳴りはなんだろう。

 Love so sweetが流れ出すのも時間の問題。


「ぎぃ(訳:ドクター頼んでいた例の物はどうなりましたか)」


 ぎぃさんに異色のラブコメ展開を折られました。救われたと言うべきか。


「おう。あれか。あれなら修理できておるぞ。なかなか興味深い異常物質アノマリーじゃった」


 ドクターはそう言って、ブレイクダンサーズに「あれを持ってきておくれ」と言った。

 黒沼の怪物たちは、コンテナの後ろの作業スペースから大きなマシンを持ってきた。

 ジウさんの『オミヌス・オートマタ』だ。

 ネックレス状の異常物質アノマリーから召喚できるモンスターで、多関節の6本腕を持つ不気味な機械人形です。アルコンダンジョンで壊れてしまったのを見てたので、先日、ジウさんから預かってドクターに修理できないか依頼していたのです。

 

「ジウちゃんの『オミヌス・オートマタ』は以前触ったことがあったから、さほど苦労せず直せたわい。あの頃に比べたら、遥かにレベルアップしていて驚いたがう。手を加えたから、性能は幾らか向上したじゃろう。爆発するかもしれんが」


 流石はドクター。よくわからない物を触らせてよくわからない進化をさせる能力でこの人の右に出る者はいない。


「爆発したらジウさんからクレームが入ると思うんで平気です(※平気ではない)」


 というわけで、機械人形をネックレスに収納しました。

 これはあとでジウさんに渡します。


「ぎぃ(訳:ドクター、もうひとつのほうは)」

「もうひとつのほう? ぎぃさんもなんか頼んでたんですか?」

「ライターも修理できておるぞ。仕組みを理解してはおらんが、なんか直った」

「それは直ったと言うんですか……って、ライター? それってもしかして『貯蓄ライター』ですか?」

「ぎぃ(訳:もったいないと思って回収してました)」


 ぎぃさんはこっそりと拾って来たり、こっそりと奪って来たりするのが得意です。

 身体のどこに隠し持ってるのかは定かじゃないですが、ひょこっとどこからともなく取り出したりするからちょっと恐い。


「それは、なにかしら」


 向こうでブラックタンクのモンスター兵器指数を調べていたナーがやってくる。ちなみに指数は”20”だったと、鼻息荒く教えてくれました。に比べて3。うーんこの。


「ちょっと形変わりましたね」

「ただ元通りに直すだけじゃつまらないと思ってのう」

「いや、普通に修理してもらって全然構わないんですけどね」

「ずばり、これは『貯蓄ライター ver2.0』と言ったところじゃろう。どうじゃいいだろう」

「うーん、前のほうが……」

「はは、気に入ったか!」


 このじいさん全然話聞いてねえって。


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 『貯蓄ライターver2.0』

 経験値を貯蓄できる

 0/9,999億9,999万9,999

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 特に性能で変わったところは見受けられませんね。


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 『貯蓄ライターver2.0』

 経験値を貯蓄できる

 1,000,741/9,999億9,999万9,999

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 え?

 いま、ライターを握ってウィンドウを確認しているだけなのに数字が爆速で増え続けてるんですが?

 毎秒、毎秒、もの凄い速さで増えていってますよ、これ。


「ぎぃ(訳:どうやら『恐怖症候群Lv10』によって世界中から経験値が集まってきているようですね。毎秒100万経験値と言ったところでしょうか)」


 経験値経済のハイパーインフレです。

 『恐怖症候群Lv10』のパワーがついに明らかになってしまいました。


「経験値工場の究極は俺自身が経験値生産能力を身に着けることだった……?」

「ぎぃ(訳:流石は経験値工場の工場長です)」

「指男……なにこれ、わかんない……もうどうなってるの……こんなことあり得る訳がない……はずなのに……」


 娜が乾いた笑みを浮かべて、どこか絶望の顔をしてます。

 経験値アマチュアには受け入れられないようですね。


「まあとりあえず、修理ありがとうございました。大事に使わせてもらいます。ああ、娜、離れて。ドクターの御手製だから近寄らない方がいいですよ。爆発するかもしれません」

「科学に失敗はつきものじゃからな」

「ぎぃ(訳:ドクターお疲れさまでした。これでようやく経験値の正当な分配を行えます)」


 ぎぃさんはそう言って、貯蓄ライターをいくつも受け取る。

 あれ? そんないっぱい作ったのかい?


「ドクター? なんかたくさんありますけど」

「ぎぃさんに頼まれたんじゃ。修理と、複製をな」

「さらっと複製しちゃってるんですがそれにいかに」

「なんて科学力……とても現人類とは思えないわ。この変なおじいさんも指男の眷属?」

「これは野生の変なおじいさんです」

「野生……? 何者なの?」

「そういえば何者なんでしょうか。俺もよくわかってないです」

「えぇ……」


 いまだに俺の中じゃ、ただの変な博士だしね。

 娜もだいぶん困惑しているご様子。


「ぎぃ(訳:これで準備は整いました)」


 ぎぃさんがなにが不敵な笑みを浮かべている気がします。

 複製された『貯蓄ライターver2.0』がこんなにたくさん。

 いったい何をはじめる気なんでしょうか。


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