ひとりフラッシュモブ
修羅道さんにシマエナガさんを預けてから数日後。
すこしダンジョン疲れとも言うべき倦怠感が残っています。
久しぶりに本気だしたせいかな。
「きゅっきゅっ(訳:おはようっきゅ、英雄殿!)」
かけ布団のなか、俺のお腹の上に丸くなっていたハリネズミさんがよちよちと胸元まで駆け上がってくる。かあいい。
「ぎぃ(訳:今朝の気温は摂氏10度、湿度は60%。快晴です)」
ぎぃさんもいつもどおり枕横で丸くなってました。
というわけで起床。
朝のルーティンたる指パッチンとコイントスを済まして、朝シャワーを浴びます。
さっぱりしたらデイリーミッション。
最近ハードだから普通の来てほしいなぁ。
「デイリーミッション」
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『ひとりフラッシュモブ』
ひとりフラッシュモブ 0/20
継続日数:113日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
はい、死でーす。終わりでーす。
でたでた。悪いところ出てるよ、デイリー君。
俺になんの恨みがあるのかな?
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『シマエナガさまを帰せ』
シマエナガさまを返せ
継続日数:113日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
くっデイリーミッションの尊厳はないのか!
誉はどうしたデイリー君!
そんな私情を挟むなんてなんと情けないことか!
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『ひとりフラッシュモブ』
ひとりフラッシュモブ 0/20
継続日数:113日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
結局、これなのね。
はいはい、わかりました。
もういいですよだ。
ていうか、なに。
改めて見ても今日のは訳わからないデイリーミッションだな。
フラッシュモブって、あれだよね。
サプライズ的な企画で、通行人がいきなり踊りだしたり、演奏したりする。
ちょっと古いんよ。もうやってるやついないだろ?
ひとりフラッシュモブってどういうこと?
資料映像を視聴して、デイリー君が俺になにをやらせたいのかを確かめます。
フラッシュモブ、検索、っと。
うん、そうだね、プロポーズをしようと彼女にエンゲージリングを差し出したら、いきなり周囲の通行人たちがパフォーマンスはじめて……うんうん、つまり、どういうこと? 全然ひとりフラッシュモブのヒントにはならなそうです。
「まあ、とりあえず行動あるのみですね」
千葉駅へとやってきました。
100円ショップでカスタネットを買って来たので、これで攻めましょう。
お、道行くカップルを発見。おしゃれしてます。
これからデートかな。へへへ、ちょうどいい。
僕はねぇ。
へへ、えへへ。
君たちみたいなねぇ。
なんでも順調にいってそうなねぇ。
順風満帆な男女を引き裂くのが大好きなんだよぉ?(ニチャア)
カモどもに、さっそくフラッシュモブを仕掛ける。
植込みに隠れて、近づいてきたらワッと躍り出る、
「どうもっ! 指男チャンネルの指男でーすっ!」
「う、うあ! なんだこの人!」
「卓くん、た、助け……!」
俺は満面の笑顔で、逃げようとするカップルの行く手を反復横跳びで妨害しながら、カスタネットを打ち鳴らした。
「は、速い……! 残像ができるほどの反復横跳びだ……!」
「これじゃあ逃げられないよぉ~!」
「うっへへっへへっ!」
「きゅっ、きゅきゅっ!(訳:英雄殿、どうしたっきゅ! なにをしているっきゅ! 目を覚ますっきゅ! 英雄殿~!)」
「ぎぃ……(訳:我が主は覚悟決まるとやりすぎる癖がありますから……)」
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『ひとりフラッシュモブ』
ひとりフラッシュモブ 1/20
継続日数:113日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
なるほど。こんなところか。
余裕だな。
もはやフラッシュモブというか変質者の稀少種だけど、今更よね。
──数時間後
思えば「千葉駅の前で俺、人に迷惑かけすぎじゃね」とちょっと千葉県に申し訳なくなりながらノルマを達成した。
─────────────────
★デイリーミッション★
毎日コツコツ頑張ろうっ!
『ひとりフラッシュモブ』
ひとりフラッシュモブ 20/20
★本日のデイリーミッション達成っ!★
報酬 先人の知恵A×10(3,000,000経験値)
継続日数:114日目
コツコツランク:プラチナ 倍率10.0倍
──────────────────
ふむ。
やはり、メタルの旨味を知ったあとだとちょっと物足りなく感じる報酬だ。
でもまあ、これが普通なのよね。
感覚を戻していかないと。
ありがたく報酬を受け取り、ハリネズミさんに使ってあげる。
この数日はずっとハリネズミさん優先だ。
「きゅっきゅっきゅっ!(訳:経験値の味、たまらないっきゅ!)」
ちょっと不穏な発言。
でも、大丈夫だよね。
ハリネズミさんはきっとずっと良い子なはず。
────────────────────
ハリネズミさん
レベル10
HP 342/400
MP 1,450/2,140
スキル
『救世の雷鳴』
『救世の暴風』
────────────────────
ふむふむ、順調に成長中。
ハリネズミさんはMPが伸びやすい子みたいです。
新しいスキルは『救世の暴風』ですか。
どんな能力かな。
───────────────────
『救世の暴風』
嵐に宿る古い神話のひとつ
雨と風を操り、大嵐を生みだす
消費MPに応じて規模を変動できる
───────────────────
「きゅっ!(訳:好きな時に嵐を呼んで雨を降らせることができるっきゅ!)」
「それは便利ですね。会社に行きたくないときは電車を止めちゃいましょう」
ハリネズミさんがすくすく育ってくれて嬉しい限りです。
「ちょっと君、いいかな。その交番までいっしょに来てくれる?」
「駅前でサングラスをかけてナメクジを肩に乗せた変質者が、ものすごい速さでひとりフラッシュモブしてたって通報を受けてね」
いや、フラッシュモブってわかってくれたんかい。
「指男違いです。それじゃあ失礼」
「はーい、ちょっと一緒に来てねー、逃げないでー」
「ハリネズミさん、やっちゃってください」
「きゅっ!!(訳:嵐よ! 偉大なる大古竜たる我に力を貸すっきゅ!)」
ハリネズミさん、短い前足を天空へと掲げます。
突如としてうねりだす快晴の空。
黒い雲がみるみるうちに大きくなり、やがて雨がポツポツと降りだす。
雨は次第に強くなっていき、暴風を纏いはじめた。
「な、なんだいきなり、この嵐は!」
「あっ、こら逃げるな、変質者!」
風と雨に巻かれ、電柱に捕まりようやっとなおまわりさんたち。
「今です。アディオス、アミーゴ」
「あっ、ちょっ、こら待てええ!」
「逃げるな、ひとりフラッシュモブ!」
指男はクールに去るぜ。
俺は大雨のなかビショビショになりながら帰宅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます