モンスター兵器指数
最近、ダンジョン行ってないのに毎日1レべルくらいの感覚で勝手にレベルアップしている恐怖症候群系探索者・赤木英雄です。
まさか何もしなくてもレベルアップしていた原因がいつぞやの謎スキルだったとは思わんなんだ。
あ、父さん、母さん、リビングに入場して来ました。
「英雄、いつからお前子供を……」
「あんた意外とやることやってたのね」
【悲報】うちの家族アホしかおらん
とりあえず事情を説明した。
大悪党から守るため、悪の秘密結社のアジトから救い出したのだと。
「英雄、おまえやるな」
「うちの兄妹でまともなのはあんただけね」
両親に見直されたあたりで、夜ご飯のお時間になった。
「そういや、兄貴どこ? 借金返済順調?」
「今頃、北大西洋あたりじゃないか」
まだ希望の船でクルーズ楽しんでるのね。
よきかなよきかな。
「李娜ちゃん、お箸はこう使うんだよ~」
「あ、う、うん。お箸難しいなぁ」
中国人に箸の使い方をおしえる愚かな妹を許してあげてほしい。
気を使わせてお箸使えない演技をさせてしまうことを許してほしい。
「それにしてもようやくお嫁さんできたと思ったのにな~」
「彼女という段階が飛ばされてるんですが、それいかに」
「お兄ちゃんって本当にモテないようね。彼女で来たことないでしょ」
「表向きの経歴はそういうことになってますね。まあ実際は……おっと、これ以上は話しちゃいけなんだった」
「はいはい、無意味な匂わせお疲れ様です」
ふと、俺の懐からハリネズミさんが出てきてしまった。
飛びつく愚妹。可愛い物に目がない。
「ふあ~! かあいい! これどうしたの!」
「千葉で拾いました」
「へえ~! 千葉ってハリネズミ落ちてるんだ~!」
「きゅきゅっ!(訳:我は偉大なるドラゴンっきゅ! ハリネズミじゃないっきゅ!)」
「えーと、気持ち悪いナメクジはそこにいて……あれ? シマエナガさんは?」
「いまは禁固刑を受けてます」
「どういうこと???」
ハリネズミさんに晩御飯のすき焼きを分けてあげる。
ふと、まん丸フォルムが災いとなってテーブルから転がり落ちてしまった。
「にゅあ」
「きゅ、きゅきゅっ!?(訳:謎の生き物がいるっきゅ!?)」
ハリネズミさんが驚愕しているのは、うちの猫のにゅあちゃんだ。
妹がお世話している子で長毛種というのかな、とにかく毛玉。最初の頃は猫なのか疑ったけど、まあ、「にゅあ」って鳴いてるので猫ってことになってます。詳しい事は知りません。
「きゅっ! きゅっ!(訳:やめるっきゅ! 我を転がして遊ぶのはやめるっきゅ! 助けてほしいっきゅ、英雄殿~!)」
「にゅあ~!」
ハリネズミさん、にゅあちゃんに気に入られたね。
楽しそうでなによりです。
久しぶりの実家での夜ご飯を終え、娜はを連れて部屋へと戻った。
とりあえず、娜は経験値工場に放り込んでおきました。”扉”は俺の部屋の押し入れに設置しました。実家にも一個”扉”があればいろいろ便利だろう。
あそこは隔絶された次元。”扉”は隠蔽され、偶然見つかる可能性は低いです。
シタ・チチガスキーの下にどれだけの悪党が連なっているか知りませんけど、まあ、見つけられないでしょう。
「ちょ、ちょっと、指男、あれなに?!」
『アドルフェンの聖骸布』をハンガーにかけて、部屋着にメイクアップしてると、
「はわわ、ごめん! 着替えてると知らなくて!」
これが逆だったらラッキースケベ成立なんだけどね。
いや、逆でもロリの着替え見るだけか。それじゃあ仕方ないか。
わたくし、性癖は至って健全ですので、ラッキースケベなら巨乳美少女の着替えでよろしくお願いします。言っておきましたからね『選ばれし者の証』さん。
「別に構いはしませんよ。減るじゃないですし」
ダボっと高校時代の体操ジャージに頭を通して、ぎぃさんとハリネズミさんを回収、ポケットにしまう。
「うあ……体すご……」
「探索者ですから」
「ちょっと触っても?」
「どうぞ」
「……うあ、腹筋ごちごち」
「はじめて聞く表現ですけどね。それで、どうしました。経験値工場は気に入りませんでしたか?」
「あっ、そうだ! 変なおじいさんがいたの!」
「いますね。変なおじいさん。うちの工場は変なおじいさんを飼ってます」
「え、えっと、あとそれからやばいモンスター兵器が歩きまわってた! 20体も! あのおじいさんもしかして世界的なダンジョン生物学者で、モンスター兵器使いだったりするの?」
話が見えない。
はて、うちにモンスター兵器なる物騒なものはあっただろうか。
証言を確かめるべき、娜とともに経験値工場へ。
”扉”をまたげば、そこは薄く水の張った摩訶不思議な秘密基地。
足がめちゃ濡れるので、しっかり長靴を履きましょう。指男との約束だよ。
うーん、香ばしい経験値が焼きあがるいい香りがしてきました。
「きゅっ!(訳:お腹が空く匂いっきゅ~!)」
「ぎぃ(訳:この工場では現在5億7,200万経験値が毎日生産されているんですよ)」
「きゅきゅ!!(訳:それはすごいっきゅ! 革命的っきゅ~!!)」
「指男、あれよ!」
娜は経験値工場を歩く黒沼の怪物Lv1──通称ブレイクダンサーズを指さす。
ブレイクダンサーズは我が経験値工場の主力製品『黄金の経験値』をトレイに乗せて、となりの黒いコンテナへと運んでいる。あのコンテナ『経験値強化設備』のオーブンで『黄金の経験値』をきつね色に焼いて『黄金の経験値Lv2』にしているのだ。
今日もブレイクダンサーズはしっかりと労働に励んでくれている。いつもありがとう。
──ということを、娜に説明した。
「……へ?」
頭のうえに「?」マークが明瞭に見える。
お子供さんにはちょっと難しかったかな。
「経験値つくるってなに……」
「きゅっ(訳:言われていれば訳がわからないっきゅ。どういう意味っきゅ?)」
「ぎぃ(訳:素人は黙っとれい)」
経験値アマチュア諸君にはやはり難しすぎたか。
ぎぃさんはやはりプロ。お互いに認識を共有できていると確信できます。
「あっ! 指男、あっちなんかもっと邪悪で!」
娜が次に指さしたのは、黒沼の怪物Lv2──通称ブラックタンク。命名はわたくし指男です。名前の由来はぎぃさんいわく「向こうでは攻撃を受ける盾用の兵員でした」とのことだったので、見た目の黒さをあわせてブラックタンクにしました。
彼は先日から経験値工場に勤務した新顔で、主に区画整理を担当しています。
というのも、変なおじいさんが今後いろいろ開発したいとのことで、コンテナを配置換えしたとか言い出したので、パワーが必要になったわけです。
そこでせっかくなのでぎぃさんが新しく召喚できるようになった子を採用しました。
──ということを、娜に説明しました。
「意味わかんない! なんで!? どうしてあれほどのモンスター兵器をそんな80歳のパートタイマーでもできる仕事にまわしているの?!」
「80歳のパートタイマーはコンテナ持ち上げられないのでは?」
「物の例えだから! いきなり冷静にならないでよ! いつもイカれてんのに!」
娜はぶわーっとまくし立てるように言って、肩で息をする。
「モンスター兵器ってダンジョン攻略のための生物兵器でしたっけ」
「そうよ。私が専門的に研究してる分野」
娜はそう言って「ちょっと調べさせてもらっていい?」とブレイクダンサーズを指さした。
「いいですよね、ぎぃさん」
「ぎぃ(訳:我が主の意志のままに)」
「お好きにどうぞ、娜」
意気揚々と近づく娜。
ふろ、振り返る。
「一応、近くにいてよ……?」
「ああ、はい。もしかして恐いんですか?」
「そ、そりゃあ……攻撃されるかもしれないし」
「大丈夫ですよ。ブレイクダンサーズはすごく優しくて、なんでも言う事きいてくれます」
そう言って、ブレイクダンスを踊ってもらうと、娜は安心したようだった。
娜はブレイクダンサーズの情報をいろいろと訊いてきた。
攻撃させたり、動いてもらって、その能力を目で確認したり。
「予測値だけど、少なく見積もってもモンスター兵器指数”15”ってところかな……」
「モンスター兵器指数?」
「うん。モンスター兵器指数はモンスター兵器の性能を表した数字なの。モンスター兵器はもともとダンジョン攻略のための生物兵器だから、通用する階層がそのままモンスター兵器の性能を表すことになる。例えば、10階層のモンスターを倒しながら、次の階段を発見できるモンスター兵器があったら、モンスター兵器指数”10”とか」
「なるほど、それじゃあ、ブレイクダンサーズは15階層くらいまでなら攻略できる能力があるってことですね」
「うん……ちょっとヤバすぎる性能なんだけど……」
なんかさっきから娜の顔色が悪い。
青ざめていて、口元を手で覆っている。
「トイレは部屋を出て、右手です」
「案内どうも……でも、吐かないから平気よ」
「どうしたんです。調子が悪いなら、ハリネズミさん抱っこします? すごく癒されますよ」
「……。……ブレイクダンサーズの性能は現代のダンジョン生物学の領域を大きく逸脱してるものだから」
「そうですか? 意外ともろいところあるんですよ」
全裸マン……奈落の底で死んだ銀色の信徒に生首にされて倒されてたしね
15階層じゃあ、まあ、そんなに強い感じじゃないかな。
「現代の最新鋭のモンスター兵器の指数は”3”よ」
「3? えぇ……クソざこじゃん……」
「ぐぬぬ……っ、何も言い返せないのが腹立つ……っ!」
おっとと。
思わず汚い言葉が出てしまいました。
大変に失礼しました。
で、3って言った? クソざこやん。
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