シマエナガさん、逮捕


 

 逃走を計ろうとした悪しき豆大福は無事に退治されました。


「ち、ちー……(訳:こ、このちーが……油断したちー……)」


「ステータス」

 

 ────────────────────

 シマエナガさん

 レベル140

 HP 30,002/1,443,500

 MP 741/1,421,700


 スキル

 『冒涜の明星 Lv4』

 『冒涜の同盟』

 『冒涜の眼力』

 『冒涜の再生』

 『冒涜の反撃』

 『冒涜の剣舞』

 『冒涜の閃光 Lv2』

 『冒涜の心変 Lv3』

 

 装備

 『厄災の禽獣』


────────────────────

 

 とんでもないステータスだ。

 あんなにふっくらして。本当にけしからんシマエナガさんです。


 修羅道さんは「こんな邪悪なもふもふ! 問答無用で逮捕です!」と、白い羽毛を両手を広げてだきしめている。

 俺も便乗してけしからんふっくらを抱きしめる。ああ、これはいけないですねえ。とってもいけない。くんくん。すんすん。もふもふ。

 

「なんて暴力的な羽毛なんですか! 本当にいけない子です! 全部チェックします! 隅々まで!」


 修羅道さんは言うと、シマエナガさんのあちこちに抱き着いては「うーん! ここももふもふです!」と、念入りに記録をとっていきます。


「可愛い尾羽はこうしちゃいます!」


 そう言い、両手を広げてシマエナガさんの尾羽を堪能。

 抜け目ない念入りな調査である。


「さて、そろそろ、ステータスのチェックをしますかね」


 ひと通りふっくら調査が終わったところ、いよいよ検閲が入った。

 修羅道さんはひとつひとつシマエナガさんのスキルを確認していき「まさか蘇生系スキルとは。これはイエス・シマエナガの再誕と言っても過言ではありませんね」とよくわからないつぶやきをして、作業を続けた。


 スキルのなかには俺も知らない子もいました。

 なので詳細を確認しておきましょう。


 ───────────────────

 『冒涜の反撃』

 世界への反骨。

 冒涜者は理に屈しない。

 痛みを倍返しする。

 受けたダメージを2.0倍にして反射する。

 720時間に一度使用可能。

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────

 ───────────────────

 『冒涜の剣舞』

 世界への攻勢。

 冒涜の始まり。

 5分間与えるダメージ量100%上昇

 720時間に一度使用可能。

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────

 ───────────────────

 『冒涜の閃光 Lv2』

 世界への誇示。

 閃光のごとき暗躍。

 5分間素早さ200%上昇

 720時間に一度使用可能。

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────

 ───────────────────

 『冒涜の心変 Lv3』

 世界への誘惑。

 巨大な闇のいざない。

 24時間対象のコントールを得る。

 720時間に一度使用可能。

 MP10,000でクールタイムを解決。

 ───────────────────

 

 相変わらずシマエナガさんの冒涜系スキルは激重です。

 でも、これまで探索者をやってきていろいろ見て来て思うと、冒涜系スキルは大味だけど強力なスキルが多いのかもしれません。


 『冒涜の反撃』はカウンター用のスキル。

 意外と攻撃に直接関係するスキルはこれがはじめてじゃないかな、シマエナガさん。

 

 『冒涜の剣舞』はバフかな。

 攻撃力上昇……というよりかは、最終的なダメージに直接乗算するタイプみたいです。最後の数値を掛け算する分、上昇値が大きく、強力そうです。


 『冒涜の閃光 Lv2』もバフですね。

 素早さをアップさせると。Lv2ということはシマエナガさんがこのスキルにポイントを振ったってことかな。となると、シマエナガさんは素早さにあんまり自身がないのかもしれません。経験値を取る時は光より速く飛びますけど。


 『冒涜の心変 Lv3』は……ん?

 対象のコントロールを得る? しかもLv3まで成長させてるし。

 なんか悪だくみの香りがしますね。


「シマエナガさん、なんですかこの『冒涜の心変 Lv3』って」

「ち、ちー! ちーちーちー!(訳:なにも悪い事はしてないちー! 『冒涜の心変 Lv3』を使えば経験値を奪い合う醜い争いを終わらせることができると思っただけちー! 決して英雄や後輩や、超後輩を操って、経験値をちーだけでひとり占めしようなんて考えてないちー! 信じて欲しいちー!)」


 うーん、この。


「修羅道さん」

「はい、なんですか、赤木さん」


 シマエナガさんから離れ、まじめな相談をすることにした。

 最近のシマエナガさんの所業を密告し、どうしたものかと話し合った。


 しばらく後


「ち、ちー。ちーちー(訳:ま、まあ、そうは言っても英雄はちーを捨てることなんてできないちー。どうせうやむやになって許されるはずちー。だってメインヒロインちー)」

「シマエナガさん、お話があります」

「ちー(訳:英雄が帰って来たちー。それでどうするちー? このふわふわメインヒロインを本当の本当に逮捕するちー?)」

「今までありがとうございました」

「…………ちー?」

「修羅道さん、この豆大福連れてってください」

「うぅ、可哀想に、でも仕方ないですね、シマエナガちゃん、行きますよ。新しいおうちへ」


「ち、ちー!!!!??? ちーちーちー!!!!???」


 シマエナガさんにはちょっと服役して反省してもらう必要がありますね。


 

 

 ────



 ──修羅道の視点



 修羅道は指男と別れ、ひとりで夜の千葉を歩いていた。

 夜の千葉と聞けば、そこは血染めの世界と知る者の多いだろう。

 紅き血染めのチバドリクシルとはつまりそういうことなのだ。

 千葉国では年に3万人程度が落花生に変えられていると言われているが、それは噂などではない。だが、その真実をここで語るのはあまりにも場違いだ。この千葉国が隠しつづけている冒涜的悪夢についてはまた別の機会に語るとしよう。


 とはいえ、いかなる危険が潜んでいようと、修羅道という少女にとってはさしたる脅威とはなりえない。

 バールのような物を握った悪漢が現れようとも、きっと道端にいるアリと変わらぬ対応しかしないだろう。


 修羅道は鳥かごを大事そうに抱えて、夜の千葉、そのもっとも深淵なる路地裏へと足先を向けた。


「ちーちーちー……(訳:どこに連れていかれてしまうちー……英雄のところに帰りたいちー……)」

「赤木さんはシマエナガちゃんのことを思って私に託してくれたんですよ」


 修羅道としては厄災の禽獣に脅威を感じていなかったため、まだ放逐していてもいいと思っていた。

 ただ、指男の強い希望でこうして逮捕の流れとなったのだ。

 指男としては一つの教育のつもりである。

 指男がその決断をしたのは、修羅道と約束をしたあの日に追った責任からであった。


「赤木さんは軽薄を気取るきらいがありますけど義理堅い人ですね」

「ちー……(訳:きっとちーに飽きたんだちー。もうちーのことなんて必要ないと思ってるんだちー……英雄に捨てられてしまったちー……悲しいちー……)」

 

 修羅道は「たはは」っと乾いた笑みを浮かべる。

 

「ここいらでいいでしょう」


 路地裏の十分暗がりまでやってくると、修羅道は”跳んだ”。


 次に彼女が姿を現したのは深い森のなかであった。

 

「ち、ちー?(訳:こ、ここはどこちー?)」


 修羅道は鳥かごを片手に、暗い森を進む。

 やがて施設が見えて来た。森のなかに似つかわしくない超近代的な鋼を電子からなるハイテクノロジーを感じさせる城が。

 厄災の禽獣は思わずちょっとふっくらしてしまう。


「あそこはSCCL異常物質のおうちですよ。とっても恐いところとして知られています」

「ち、ちー(訳:こ、恐いところ……?)」


 厄災の禽獣が困惑していると、施設のうえのほうで警報が鳴りはじめた。

 黒艶の丈夫そうな外壁が内側から破壊される。

 内側からヌメヌメしたイカのごとき海洋生物が出てこようとしている。


 すると、遠くから駆動音が近づいてきて、次第にとてつもない騒音を響かせる戦闘ヘリが到着する。

 イカは光る光線を出して戦闘ヘリを撃ち落とそうとする。

 だが、戦闘ヘリの機動力は凄まじく、ハチドリのように急加速急停止で光線を避けた。人類が有する機体とは思えないオーバーテクノロジーな動きだ。

 戦闘ヘリは攻撃を回避後、情け容赦なくイカのごとき海洋生物へ、50mm機関砲と燃焼ロケット弾を連射してスコールのように漫勉なく浴びせた。


 しかし、まだまだ、イカは元気である。


 と、そこへ。


 戦闘ヘリから金ピカの鎧に身を包んだ謎の人物が飛び降りた。

 怪物の面妖のごとき黄金のマスクをつけ、真っ赤なマントをたなびかせると、その人物は空中に着地、しっかりとした足取りで空を歩きはじめる。


「ち、ちー(訳:あ、あれは何ちー?)」

「黄金卿がいらっしゃったようですね! 彼はSCCL異常物質の脱走を決して見逃さないSランク第4位の現役探索者さんですよ!」

「ち、ちー……」


 夜空を闊歩する黄金卿は手をバサっと大きく広げる。


 宙に金色の光が生まれた。

 黄金卿はそれを掴み取り、怪物へ投げつける。

 着弾。ピカッと輝き、夜が朝になった。

 

 再び夜が戻って来た時、そこには枯れ果てた森とクレーターが広がっていた。

 脱走したSCCL異常物質はバラバラにされ干からびた遺骸をさらしている。

 いったいいかなる論理が怪物を死滅させたのか厄災の禽獣にはわからなかった。


「彼は恐ろしい存在ですよ。彼の持つスキルドレインはHP1,000を払う必要こそありますが、場に存在するあらゆる神秘の作用を無効化することができる極めて強力な能力です。どんなSCCL異常物質であろうと、特殊能力者であろうと、彼の前ではすべてが“無”になります」

「ち、ちー……っ! ちー! ちーちー!(訳:とんでもないことが起こってるちー! 非常事態ちー!!)」

「ここじゃあ日常茶飯事です! さあ行きましょう、シマエナガさん。今日から刺激的な毎日が待ってますよ!」

「ちーちーちー!(訳:嫌だちー! 帰りたいちー! 英雄、助けてほしいちー!)」


 厄災の禽獣にとって未知の生活がはじまろうとしていた。


「(シマエナガちゃんも、この施設に入りたくないと思って今後の行動を改めてくれるはずですね。反省の姿勢に期待しましょう、赤木さん)」


 修羅道は内心を表にださず、ルンルンした足取りで世界の神秘が捕獲される場所──ダンジョン財団特別収容施設ドーハイクラッピアへ入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る