修羅道検閲
どうも。
総資産11億円を突破した若手探索者、赤木英雄です。
本日は燃えるような緋色のポニーテールが情熱的な美少女に連行されて、人気のないファミレス裏に連行されてしまいました。
いったいどうなってしまうのでしょうか。
「赤木さん、このもちもちの説明をしてくださいっ!」
「こほん。別に俺が悪いんじゃないです。俺はただダンジョンボスを倒しただけでして……。別にやばそうな封印を手間暇かけて解除したとかじゃないんです」
「本当ですかぁ?」
「なんですか、修羅道さん、その訝しむ眼差しは」
「だって赤木さん、シマエナガちゃんの封印を意図的に解除したじゃないですか」
「それはシマエナガさんが悪いです。俺じゃないです」
「ちー!?」
「はあ、まったく本当に仕方のない赤木さんですね。こうもポンポンと厄災を引き寄せてしまうとは。やはりそういう星の下に産まれているのでしょうね」
修羅道さんはスカートのなかに手をいれると「よいしょ」っと孫の手を取り出しました。そのなかどうなっているのか凄く興味があります。
「とりあえず、厄災が増えてしまったのは仕方がありません。キャンプの警報に引っかかっては可哀想なので『解剖学アイデンティティ』を使っておきましょう」
『解剖学アイデンティティ』、千葉ダンジョンに入る前にも使ってくれたやつです。
「この孫の手でかかれた
「そうですよ~。47回掻くとあらゆる物を木っ端みじんに破壊して、47回叩くとあたゆる生物を自我喪失状態にして壊せちゃうすごいSCCL異常物質です!」
修羅道さんは孫の手でハリネズミさんのお腹を掻き掻きして笑顔で言う。
これを使われるたびに事故が起こらないかすごく心配になるのは親心からでしょうか。いいえ、誰でも。
「よし、これでハリネズミちゃんの異常性は抑制されましたね」
修羅道さんは『解剖学アイデンティティ』をスカートのなかに仕舞い、「さて」と改まった態度になった。
「どうやら赤木さんも驚異的なレベルアップをしているようですし、そうなるとこの子たちのことも気になっちゃいますね~」
修羅道さんはシマエナガさん、ぎぃさん、ハリネズミさんをがしがしっと掴み、腕に抱き、不敵な笑みをうかべる。
「ち、ち~!(訳:か、勘弁をしてほしいち~!)」
「ぎぃ……(訳:ステータス隠蔽をかけておきますか……)」
「きゅっ(訳:なにをそんなに怖がっているっきゅ、鳥殿、蟲殿)」
「赤木さん、とりあえずこのハリネズミさんのステータスを表示させてください」
「ハリネズミさん、ちょっと失礼しますよ」
「きゅっ!(訳:ご照覧あれぃっきゅ!)」
指を近づけると、柔らかいお腹のそばに『厄災の大古竜』とウィンドウが表示された。タップしてステータスを閲覧する。
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ハリネズミさん
レベル0
HP 5/5
MP 20/20
スキル
『救世の雷鳴』
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まだレベルは0ですね。
シマエナガさんとぎぃさんにもこんな時代がありました。
スキルは『救世の雷鳴』ですか。
どんなものかな。
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『救世の雷鳴』
嵐に宿る古い神話のひとつ
雷を放ち、敵を破壊する
転換レートMP1:ATK100
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攻撃スキル。
どこかで見たような表記です。
俺の指パッチンは『フィンガースナップ Lv2』でATK5:HP1とかだった気がするんですけどね。妙だな……。
「MPに応じて攻撃力を増すスキルですね。これは非常に危険なタイプのスキルです。赤木さんもよく御存知のとおり」
「ですね」
「ハリネズミさんが暗黒面に堕ちればきっと大地を焦土に変えてしまうことでしょう」
修羅道さんはスマホを眺めながら言う。
「なに見てるんですか」
ひょいっと覗き込む。
するとバッと隠されてしまった。
「だめです! これはトップシークレットです!」
「すみません……」
「いけない赤木さんですね。まったく。これは『世界終末シナリオ』をダウンロードさせてもらったファイルを見てるんです。『厄災の大古竜』は別世界をひとつ滅ぼし、鳴りやむことのない嵐を100万年に渡り響かせたと記されています。赤木さん、同じことが起こらないように頑張ってくださいね」
「大丈夫ですよ。だってこんなに可愛いんですから。ねー」
「きゅっきゅっきゅっ!」
「確かにとても世界を終わらせる獣とは思えない可愛さです。これなら安心です!」
ほっ、よかったよかった。見逃された。
「次はぎぃちゃんです」
修羅道さんはぎぃさんのお腹を持ち上げます。
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ぎぃさん
レベル80
HP 3,021/54,100
MP 6,012/124,400
スキル
『黒沼の呼び声』
『黒沼の惨劇』
『黒沼の武装』
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あれ。
ぎぃさんなんかステータス違くないですか……。
「ぎぃ!(訳:私は無害な厄災です。だから収容所に行く必要はまったくありません!)」
ぎぃさん、なんという狡猾!
ステータスを偽装して無害アピールなんて!
「むむ! これは偽装されてますね! スキル発動──鑑定!」
「ぎ、ぎぃ!」
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ぎぃさん
レベル91
HP 3,021/368,800
MP 6,012/636,400
スキル
『黒沼の呼び声 Lv3』
『黒沼の惨劇 Lv2』
『黒沼の武装 Lv5』
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バレちゃったかぁ。
ぎぃさんでも流石に修羅道さんの眼をごまかすことはできなかったようだ。
「ぎぃ……っ(訳:話をしましょう……っ、修羅道女史!)」
「なんてことですか、こんなに成長してしまうなんて! 全部チェックします! ぎぃちゃん動かないでください!」
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『黒沼の呼び声 Lv3』
黒沼の怪物の一部を召喚し攻撃する。
2時間に1度使用可能。ATK1~300,000
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
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───────────────────
『黒沼の惨劇 Lv2』
黒沼の怪物を召喚する。
2時間に1度使用可能。
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
───────────────────
『黒沼の武装 Lv5』
黒沼の武装を召喚する
MP1~100,000
2時間に1度使用可能。
ストック999
MP200でクールタイムを解決。
───────────────────
ダンジョンボスを倒した経験値でまた一段と強くなってしまったらしいです。
ぎぃさんはレベルアップによって得られるスキルポイントのようなものを既存のスキルを強化する方向に使っているみたいですね。
「どれも驚異的なスキルですね。流石は厄災シリーズです。記録はぜーんぶレポートに録らせてもらいますからね、ぎぃちゃん」
「ぎ、ぎぃ」
「『黒沼の惨劇 Lv2』と『黒沼の武装 Lv5』は召喚系スキルのようですね。実際に召喚してみてください。そちらも記録を取ります」
修羅道さんはスマホのカメラアプリを起動して、資料映像を取る準備をすると「ささ、どうぞどうぞ」とぎぃさんに実践を求める。
ぎぃさんは『黒沼の惨劇 Lv2』を使用。
路地裏の湿った地面が泡立ち、異形が姿を現した。
黒触手を口のまわりに生やした枯れ枝のような翼をもつ人型のモンスターだ。
上半身がかなりガッチリしていて、腕が太い。
代わりに下半身は貧弱である。そのため這いずるようにして動いている。
ただ、這いずっていても俺や修羅道さんの目線より高い上背を誇っている。
かなり迫力があるモンスターだ。
『黒沼の惨劇』では俺とほとんど体格が同じ、標準的な人型サイズの黒沼の怪物、通称ブレイクダンサーズしか召喚できなかったが、『黒沼の惨劇 Lv2』になったことで、これほどに凶悪で強そうなやつも召喚できるようになったらしい。
いや、まあ、ブレイクダンサーズでもぎぃさんが乗りこめばシタ・チチガスキーの側近ウラジーミル・バザロフを圧倒するくらいに強かったんだけどね……ぎぃさんがこの黒沼の怪物Lv2に乗りこんだらどれほどの戦闘力を持つのだろうか。ちょっと恐いですね。
「ふむふむ。凶悪な召喚モンスターです」
修羅道さん、そう言いながら黒沼の怪物Lv2のまわりをぐるっとまわって、翼をつまんで持ち上げたり「腕上げてくれますかー?」と、ポーズを要求したりしている。
「資料映像はこれくらいでいいでしょう。もっと言うなら攻撃方法や、能力そのほかもろもろも記録に収めたいですが、この子にもプライバシーがあるでしょうし」
醜い怪物にプライバシーを尊重してあげるなんて、なんと心優しい受付嬢なのでしょうか。
「『黒沼の武装 Lv5』の威力も知っておきたいところです」
ああ、それは確かに。
俺も知りたかったところ。
「でも、修羅道さん、ぎぃはちょっとMP切れでして。ダンジョンでも頑張ってたので」
「なるほど。それじゃあ、エリクサーを使いましょう!」
「エリクサー?」
修羅道さんはスカートのなかから青色の液体が入った小瓶を取りだした。
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『エリクサー』
いにしえの魔術師が生み出した秘薬
HP・MPを全回復させあらゆる状態異常を治す
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「ふっふっふ、これはとっても値の張る
修羅道さんは青い液体をぎぃさんにぶっかけた。美少女のスカートのなかで温められていた液体。非常に叡智。とても価値があるので、ぜひ俺にもぶっかけて欲しいと思ったが、引かれたら嫌なので我慢した。
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ぎぃさん
レベル91
HP 368,800/368,800
MP 636,400/636,400
スキル
『黒沼の呼び声 Lv3』
『黒沼の惨劇 Lv2』
『黒沼の武装 Lv5』
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おお、すごい。
本当にマックス回復してる。
俺も欲しいな、エリクサー。
「ぎぃ(訳:いけます)」
ぎぃさんが準備オッケーということで、さっそく『黒沼の武装 Lv5』で最大の武装MP100,000を召喚してもらいました。
MP100,000の武器は空間の裂け目から現れました。
噴出する源泉のように、黒い液体がブシャっブシャっと溢れ、同時に真っ黒い槍が出現します。
2本の触手がねじれて一対となった邪悪な見た目をしてます。
槍が完全に裂け目から飛び出すと、裂け目は消失し、その場には黒い液体だけが残りました。
今、気づいたけど武器にもアイテム名がありますね。
『黒ねじれの槍』だそうです。詳細を見てみましょう。
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『黒ねじれの槍』
黒沼の武装のひとつ
真なる戦士だけが持つことを許された
ATK10,000,000(1,000万)
黒い矛先はあらゆる防御力を貫通する
投擲するとATK3,000万相当の破壊力を持つ────────────────────
わあ……厄災だぁ……。
「これは別世界の武装のようですね。ランクにしてG4クラスでしょうか? 研究材料として価値のある異常物質です。ぎぃちゃんはこれをたくさん召喚できるんですか?」
「ぎぃ(訳:向こう側から持ってくるだけなので)」
「そうですか! では、一本いただけますか? 地獄道ちゃんにあげたら喜ぶと思うんです! あ、もちろん、お金は払います!」
「ぎぃ(訳:我が主がすべては決めます。どうしますか?)」
「俺ですか? そうですね……それじゃあ、10,000円くらいで……」
ちょっと高かったかな……別にお金に困ってないからタダでいいんだけど……ケチな男って思われちゃうかなぁ……。
「こほん。やっぱり、1,000円でいいですよ」
「やったー! ありがとうございます、赤木さん、ぎぃちゃん!」
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『黒ねじれの槍』 1,000円
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↓
───────────────────
ダンジョン銀行口座残高 31,622,636円
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修羅道運用 1,070,245,631円
───────────────────
総資産 1,101,868,267円
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修羅道さんが喜んでくれるならなんでも上げちゃいます。
「ちーちーちー(訳:ちーはそんなに欲しがらないヒロインちー。こんな受付嬢なんかほっとおいて、はやく真のメインヒロインに気づくちー)」
「あっ、次はシマエナガちゃんをチェックしますね~」
「ち、ちー!!」
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シマエナガさん
レベル140
HP 30,002/1,443,500
MP 741/1,421,700
スキル
『冒涜の明星 Lv4』
『冒涜の同盟』
『冒涜の眼力』
『冒涜の再生』
『冒涜の反撃』
『冒涜の剣舞』
『冒涜の閃光 Lv2』
『冒涜の心変 Lv3』
装備
『厄災の禽獣』
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レベル140、ほう。
HP1,443,500にMP1,421,700……ですか。
スキルもめっちゃ増えてるし……。
なんかやけにダンジョンボスの経験値が少ないとは思ったんだよなぁ。
だってあのダークナイト・ホーリー・ドラゴン(仮称)って、銀色のダンジョンボスも食べてたんだよね。それに加えて救世ダンジョンのボスや、30階層のモンスターたちも……。
「シマエナガちゃん……これはちょっと特別収容所で詳しく話を聞く必要があるかもしれませんね……」
ああ……逮捕ですか。
でも仕方ないね。
少しは無害アピールをして欲しかった、この害鳥。
「ちーちーちー!(訳:ちーは悪いことしてないちー!)」
あ、シマエナガさん、逃げ出した!
空へ飛びあがって、一気に膨らみます。
いや、デカッ。
もうちょっとした雑居ビルくらいデカいんですけど。
「逃がしませんよっ! とうっ!」
修羅道さんは大きく跳躍すると、どこからともなくスレッジハンマーを取り出し、大きく振りかぶりました。
一閃。振り下ろされた一撃で、ビルエネガさんは地面に叩き落とされ、深々と千葉市街の道路に沈みました。
これは言い逃れの余地なく逮捕ですねぇ……さよなら、シマエナガさん。
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